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教育概論Ⅰ(中高)-5

栄養・環教 5/17
語学・心カ・教福・服美・表現 5/18

前回のおさらい

・リテラシーとは、文字を読んだり書いたりできる能力です。
・日本での近代教育の始まり。江戸時代中期頃から生産力が向上したために子供に対する見方が変化し、寺子屋で読み書きや算盤の勉強をするようになりました。また、長期間にわたる平和のおかげで学問も大きく発展しました。

今回の目標

・「学制」の特徴を理解しよう!
・ヨーロッパが強くなった経緯を、印刷術と「リテラシー」という観点から理解しよう!

日本近代教育制度のはじまり

・1868年、江戸幕府が倒れて明治時代に入り、近代教育が開始されます。

明治時代の基礎知識

*四民平等:身分制度をなくしました。→江戸時代のように身分によって通う学校が異なるということがなくなります。
*廃藩置県:中央集権的な世の中になりました。→江戸時代のように藩によって教育が異なるということがなくなります。
*文明開化:日本の旧来の物や考え方を否定し、西洋の物や考え方を取り入れました。→教育の理念や方法をヨーロッパから学びます。

学制

・明治5(1872)年、「学制」が発布されました。フランスの教育制度を参考にしたり、福沢諭吉に影響を受けたりしていると考えられています。
(1)国民皆学:身分に関わらず同じ内容の教育を受けられます。
(2)立身出世主義:教育は個人の利益のために行なわれます。
(3)実学主義:実際に役に立つ学問を行ないます。
(4)受益者負担:授業料は各家庭の負担となります。
(5)中央集権:文部省の方針が日本全国で貫徹されます。

▼しかしそもそもどうしてヨーロッパの真似をする必要があったのでしょうか?

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎませんでした。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にありました。
・西暦1500年あたりから逆転が始まります。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢を踏まえて、ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

・日本では福沢諭吉が西欧列強の強さの秘密を理解します。
・表面上の物質的繁栄が重要なのではなく、人間に対する根本的な理解や社会制度の仕組みが重要だと気がつきます。
→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたことは何でしょうか?
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
*そして「印刷術」が、これらの共通の土台となっています。
*さらに「欲望の爆発」が、続きます。

印刷術とリテラシー

印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明し、急速にヨーロッパ全体に広がりました。高価で希少であった本というものが、安価で身近なものへと変化します。印刷物を通じて知識や情報の伝達が行われるようになり、それまでと比べて圧倒的に早く広範囲に情報が届けられるようになります。
リテラシー:前回説明済み。ヨーロッパでも、かつてはリテラシーを持っている人はほとんどいませんでしたし、リテラシーが役に立つ技能だとも認識されていませんでした。しかし印刷術の普及を転換点として、リテラシーが極めて重要な技能として理解されるようになります。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのでしょうか?→本に書いてあるから。
・コロンブスも含めて、当時の知識人は地球が丸いことを知っていました。(他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていましたが、コロンブスは地球の大きさを勘違いしていたので冒険に乗り出すことができました。)
・印刷術により科学知識や地理情報が普及します。また、正確な地図や海図も登場します。船乗りに必要な科学的知識も本から知ることができます。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものでした。写本によって知識を伝えるには、コストがかかりすぎました。印刷術は知識の伝達範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高めます。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須です。知識は力となります。情報を得る決定的な手段として、リテラシーの獲得がとても重要になります。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違いは、大雑把には「神父/牧師」や「教会/聖書」の重要性の違いにあります。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提になります。
・ルターとヤン・フスの運命を比べてみると、印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさが分かります。印刷術があると、自分の意見を大量かつ広範囲に伝えることができるようになります。リツイートができることも大きな要素です。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要です。情報発信の決定的な手段として、リテラシーを持っていることがとても重要になります。

ルネサンス(15~16世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための手段となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明されるまでは、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ねることで、人々は「自分自身」について考えるようになります。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

復習

・明治時代全体の特徴を踏まえて「学制」の特徴を説明してみよう。
・印刷術の普及によってリテラシーの有効性が高まり、人々が自発的に勉強を始める動機を持つ経緯を確認しておこう。

予習

市民社会の仕組みと社会契約論の論理について調べておこう。

発展的な学習の参考

宮崎正勝『海図の世界史』
印刷術の普及によってプトレマイオス『地理学』が大量に出回っており、コロンブス以前から地球が丸いことが人々の間で常識となっていたことがわかります。

ジャック・アタリ『1492西欧文明の世界支配』
貧弱な辺境に過ぎなかったヨーロッパが1492年を境にして世界の頂点に立つ過程を描いた本。コロンブスの識字能力や、印刷術と大航海時代の関連について言及しています。また宗教改革における印刷術の重要性も説かれています。

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『1492コロンブス逆転の世界史』
辺境ヨーロッパが1492年をきっかけに逆転して世界を制覇した過程が描かれています。コロンブスが読んでいた本や識字能力の程度について記述されています。

ミシェル・ルケーヌ『コロンブス 聖者か、破壊者か』
印刷術という技術が背景にあったことを考慮しないと、コロンブスの業績を理解できないことが分かります。

徳善義和『マルティン・ルター』
ルターが印刷術を極めて有効に活用しながら宗教改革を成功に導いていったかが分かります。

アンドリュー・ペティグリー『印刷という革命』
印刷術が宗教改革や新大陸発見と密接に絡みながら展開していったことが分かります。また印刷術の普及によって教育が急成長をとげることにも触れられています。

アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ『そのとき、本が生まれた』
印刷術の普及によってルネサンスが加速していく様子がよく分かります。

上尾信也『音楽のヨーロッパ史』
印刷術とルネサンスが、宗教改革にも大きな影響を与えていたことが分かります。

教育概論Ⅰ(中高)-4

栄養・環教 5/10
語学・心カ・教福・服美・表現 5/11

前回のおさらい

・昔は、「教育」とは違う形での人間形成である「形成」が行なわれていました。
・昔は「イニシエーション」を経て、若者組の中で様々な知識や経験を得ていました。

今回の目標

・「リテラシー」という言葉の意味と機能を理解しよう!
・昔の日本の教育機関のことを知ろう!
・寺子屋と藩校の違いを理解しよう!

大昔の日本の学校

・つまり、ほとんどの人は学校に行っていませんでした。なぜなら、生活をする上でリテラシーはまったく必要なかったからです。
・ごくごく一部の人が学校に行って勉強していましたが、それはリテラシーを必要とする専門家(書記・宗教)になるためでした。

リテラシー

リテラシー:文字を読んだり書いたりすることができる能力を指します。そこからさらに、様々な道具を使って情報を得たり発信したりすることができる能力のことを意味するようになります。

書記の教育(儒教)

・律令制の整備とともに、書記の教育が始まります。書記は文字が読めないと務まりません。
大学寮(中央の公立官僚育成機関)・国学(地方の公立役人育成機関)
大学別曹(私立の書記育成機関):藤原氏の勧学院など

仏教の教育

・聖徳太子以降、お坊さんの教育が始まります。お坊さんは文字が読めないと務まりません。
空海(774-835):綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)。828-845年。
最澄(766/767-822):比叡山延暦寺。山家学生式(さんげがくしょうしき)。818年。

武士の教育

・鎌倉幕府の成立によって武士が権力を握りましたが、本当に人の上に立つためには教養が必要です。
金沢文庫:北条実時(鎌倉幕府執権の親戚)。1275年?
足利学校:上杉憲実(室町幕府の関東管領)が再興。1432年。

日本での学校教育の始まり

※江戸時代(1603年~1868年)の基礎知識
(1)平和→生産力の向上→教育への関心向上
(2)身分制→統一的な教育制度がない
(3)幕藩体制→地域によってバラバラな教育

寺子屋

寺子屋:一般庶民が自分たちのために必要とした教育機関です。幕府や藩など支配者層が上から押しつけたのではなく、下からの自発的な要求によって自然発生的に増加していきました。
・庶民の生活と要求に対応して、習字(手習い)やそろばんを教えていました。
※「往来物」と呼ばれる教科書を使っていました。

・江戸時代中期(西暦1750年頃)あたりから子供に対する意識が変わり始めます。
←生産力の向上、遺産相続への関心、家意識の形成
←商品経済の展開、識字能力の有効性の拡大、寺子屋の増加

リテラシーの展開

コンピュータ・リテラシー:コンピュータを使って情報を獲得したり発信したりすることができる能力を意味します。現在はコンピュータ・リテラシーを持っていることが当たり前とされ、学校で習得するようになっています。この能力がないと就職活動すらできません。
・リテラシーと学校:学校に行って勉強する目的の一つは、リテラシーを獲得することです。「話し言葉」は意図的にトレーニングしなくても身につけることができますが、「書き言葉」は意図的・計画的にトレーニングすることで初めて身につけることができます。
・かつてリテラシーを持っていたのはごく一握りの知的エリートだけで、大半の人々は文字の読み書きができませんでした。最初は一部の意欲のある人々だけが学校に行ってリテラシーを獲得していましたが、リテラシーの有用性が広く認識されてくると、次第に全ての人が強制的にリテラシーを持たされるような制度に変わっていきます。

江戸時代の文化

長期間にわたる平和と繁栄によって、学問が独自に発達を遂げていました。
*儒学:中国発祥の学問ですが、徳川家が推奨したのをきっかけとして、江戸時代の日本で独特の発展を遂げます。昌平坂学問所や藩校などで教えられていました。基本的には支配者階級のための学問で、主に武士が学んでいました。
昌平坂学問所:林羅山の私塾(1630年)を起源として、1790年に正式に幕府の直轄学校となりました。1871年に閉鎖された後、現在では建物が湯島聖堂として残っています。
藩校:全国に260あった藩が、それぞれ作っていた教育機関です。水戸藩の弘道館長州藩の明倫館薩摩藩の造士館会津藩の日新館が有名です。
郷校:例外的に武士ではない人々も学ぶことができた教育機関です。岡山藩の閑谷学校が有名です。
私塾:学問サークルが発展して、個性的な塾が運営されていました。伊藤仁斎の古義堂や、広瀬淡窓の咸宜園吉田松陰の松下村塾などが有名です。

*蘭学:日本は外国との交流を避けていましたが、長崎などを通じて入ってくる海外情報を元に、ヨーロッパの学問が研究されていました。シーボルトの鳴滝塾や、緒方洪庵の適塾が有名です。
*国学:中国とは異なる日本独自の文化を特に尊重して研究する姿勢が生まれていました。私塾としては本居宣長の鈴屋が有名です。

▼日本の昔の学校地図へのリンク

復習

小テスト
・「リテラシー」という言葉の意味を、自分なりに説明してみよう。
・日本にあった学校について、創設者や成立年代など、自分なりに整理しておこう。

予習

・「学制」について調べよう。
・16世紀以降のヨーロッパ近代の歴史をおさらいしておこう。

教育概論Ⅰ(中高)-3

栄養・環教 4/26
語学・心カ・教福・服美・表現 4/27

前回のおさらい

・生理的早産:人間は他の高等哺乳類と比べて弱々しい状態で生まれます。しかしだからこそ、人間は他の動物と違って様々な可能性に満ちています。
・しかし、7歳以前の子どもの扱いは現在と比べてたいへん苛酷でした。7歳以降は、大人と一緒に労働をしていました。
・家族は子育てをしていませんでした。社会(ムラ)全体で子育てを担っていました。

今回の目標

・「形成」という言葉を手がかりに昔の子育ての様子を理解し、現在の「家族と学校」中心の子育てと比較しよう!
・「イニシエーション」という言葉の意味を理解し、「大人になること」の意味が現在とどのように違うかを把握しよう!

「形成」とは?

・要するに、私たちが現在当たり前だと思っている教育(学校教育や家族の子育て)は、昔は行われていませんでした。

「形成」と「教育」の違い

・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていました。「教育」と異なる形の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼びます。
・たとえば初めてのアルバイトをするとき、仕事の内容をどうやって覚えていくでしょうか?

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・商人や職人の世界では、「方-弟」の疑似親子関係を結ぶことがあります。徒弟制、丁稚奉公、ギルド等、実の親以外にも「親」がたくさんいました。←先生は「親」ではありません。
*昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではなく、子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できそうです。
*昔の大人は尊敬されていた? →大人が変わったわけでも、子どもが変わったわけでもなく、労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できそうです。
*どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →親と一緒の仕事をするなら「形成」で問題なさそうですが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなりそうです。労働のかたちが変わると、教育のかたちも変わるということです。

イニシエーションとは?

・イニシエーションとは:日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれています。一人前の共同体(ムラ)のメンバーになるために、全ての若者が突破しなければならない試練のことです。日本だけではなく、世界全体に共通して見られます。
・イニシエーションの必要性:肉体的に一人前の条件(自分の子どもが作れる)を揃えつつあるとき、精神的にも一人前になる必要があります。
←昔の人たちが何歳くらいで親になっていたのか考えてみよう。アンケート
・イニシエーションの内容:「死」と「再生」を象徴するものと言えます。一人前の共同体(ムラ)メンバーになるために、家族と分離(親離れ、子離れ)し、ムラ全体の子供として再び生まれなおす必要があるということです。

若者組……学校がない世界での精神的成熟

*若者宿(メンズハウス):一人前になるために、年齢別集団へ加入して、親元を離れて、様々な知識や技術を身につけます。(女性の場合は「娘宿」など)←参考:「學」の漢字の元の形。
・家族でも学校ではない場所(若者宿)で、親や先生ではない人(同年齢集団)を通じて、経験を積みます。
・若者組の役割:集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理など。
・近代の学校教育と決定的に異なるのは、「死」と「生=性」の重要性かもしれません。

復習

・「形成」という人間形成について、現在の教育と比較しながら理解しておこう。
・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の「成人式」の在り方と比較しながら理解しておこう。

予習

・江戸時代の日本の教育について調べておこう。特に「寺子屋」と「藩校」と「郷校」という言葉を調べよう。
次回の範囲で、教員採用試験に実際に出た問題5問です。予習がすんだ人はチャレンジしてみてください。

参考文献

ファン・ヘネップ『通過儀礼』
文化人類学の観点からイニシエーション(通過儀礼)を捉え、人生の節目で危機を乗り越えるための儀礼と理解し、越境の過程を「分離→過渡→統合」という図式で理解する。古典的名著。

佐野賢治『ヒトから人へ』
「大人になる」ために昔の人々が行っていた伝統的な習俗を、「一人前」という視点から描き出すエッセイ集。高度経済成長後に失われた伝統的な人間形成の在り方について考えさせられる。

教育概論Ⅰ(中高)-2

栄養・環教 4/19
語学・心カ・教福・服美・表現 4/20

前回のおさらい

・教育基本法の概要:教育の目的は「人格の完成」です。知識を外からたくさん付け加えることではありません。
・東洋古代の教育:「教」と「育」の漢字の源。外部(神)から強制される規範と、出産を出発点にした人間関係。
・西洋古代の教育:ソクラテスの思想。外部から知識をつけ加えるのではなく、自分の内部から本物の知を出産する手助け。
※教育を「外部から知識を与える」ものと考えるようになったのは、いつでしょうか?

今回の目標

・大人と子供の境界線の存在と理由を意識しよう!
・子供に関する学説のあらましを理解しよう!
・「家族」の形について、常識を捉え直そう!

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということになります。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできます。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

▼自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。

子供と大人の境界線アンケート

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれています。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つ、精神的な成熟などという基準が考えられます。

【思考実験】「子供」とはどういう存在か?

▼あなたは「子供」をイメージすると、どういう言葉を思い浮かべますか?

子供に対するイメージアンケート

・子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫、あるいは自立していない・弱い・未熟。
・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではありません。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線はありませんでした。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていました。
労働:7歳以後、人々は働いていました。つまり大人たちの仲間として世界と関わっていました。子供の仕事としては、日本では柴刈りや馬引、水汲み、子守などに従事している姿が絵の中に残されています。
遊び:同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものでした。日常生活のなかに、定期的に「遊び」が組み込まれていました。
→昔は、労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はありませんでした。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類(犬や馬や象や鯨)は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができます。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてきます。他の高等哺乳類と同じくらいできるためには、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要があります。←頭が大きくなりすぎるので、無理です。
・この一年早く生まれてくる現象を「生理的早産」と呼びます。この特徴こそが、人間を人間たらしめているのかもしれません。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まります(たとえば、箸を使うのか、フォークを使うのか)。ここに人間らしい「個性」が生まれるわけです。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・かつては「7歳」に境界線がありました。7歳未満の存在が「人間」として扱われていなかったのではないかという疑惑は、埋葬、捨て子、マビキなどの在り方に見ることができます。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わりません。単に「どこから人間か」という境界線が移動しているだけなのかもしれません。

昔の「家族」の生活を考えてみよう

・「家族」は子育てしていたでしょうか?
*生産力:生産力の低い世界では、子供も労働しなければ家族が生きていけません。父親も母親も、生きるための労働で精一杯であって、子育ての優先順位は下がっていきます。
*社会(ムラ)と家族との関係:現在は家族が独立した島宇宙のようになって社会から隔絶していますが、かつては家族と社会(ムラ)の間の境界線は曖昧でした。家族が子育てをできなければ、社会全体でそれを担います。

復習

・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。
・アリエスやポルトマンの学説を踏まえながら、昔の人の「子供」に対するイメージが現在とまるで違っていることを、自分なりにまとめておこう。
・「家族と社会」の関係によって「子育て」に対する考え方がまるで変わってくる理屈を、自分なりにまとめておこう。

予習

・「イニシエーション」や「若者宿(メンズハウス)」という言葉の意味を調べておこう。
・イニシエーションの具体例をいくつか調べてみよう。
・昔の人(平安時代や鎌倉時代)が、何歳で父親や母親になっていたのか調べよう。
調査結果はこちらに記入

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。

教育概論Ⅰ(中高)-課題について

課題の概要

・課題は評価に含まれます。
・授業ごとにいつでもひとつ提出できます。
・最低2回は提出することをお勧めします。
・800字程度にまとめてください。
・扱った対象と内容を精査して点数を決めます。

書き方の例

・ただの要約や感想ではなく、主張を裏付ける理由や根拠が示されていることが決定的に重要です。主張の中身というよりも、理由や根拠に説得力があるかどうかを評価します。
・説得力を上げるには、統計や具体例を用いながら、論理性と客観性を高める必要があります。
・引用の作法に則ってください。誰が、いつ、どこで言ったことかを明記することで、客観性が高まります。
※以下は、あくまでも一例です。他にも説得力ある文章を構成する作法はたくさんあります。
(1)起:本の著者の主張内容をまとめる。「著者は学校など必要ないと言っている。」
(2)承:著者の主張の根拠を示す。「その理由として、お金がかかりすぎることを挙げている。」
(3)転:著者が提示する根拠を吟味した上で、自分の主張内容を示す。「たしかにお金がかかるかもしれないが、しかし私は学校が必要だと考える。」「お金はかけるべきだが、しかし私も学校は必要ないと考える。」
(4)結:自分の主張の根拠を示す。「なぜなら学校でしか学べないことがあるからだ。」「なぜなら学校以外でも学べるからだ。」

ルーブリック

得点理解表現論理
0%本の内容とまるで関係ないことを言っている。日本語になっていない。支離滅裂である。
50%著者の主張の一部をおおまかには捉えている。言いたいことは分からなくもない。主観的には理由を示している。
80%著者の主張の全体を捉えている。的確な用語と言い回しを用いて表現できている。部分的に客観的な根拠を示している。
100%著者の主張の要点を判然明瞭に捉えている。主張内容を過不足なく表現できている。客観的な根拠を十分に示している。

課題の内容

・本を一冊読んで、レポートにまとめてください。
・ランクをつけてあります。あくまでも主観的な難易度であって、本のおもしろさや有意義さとは関係ありません。
C:予備知識なしでも分かる。10点満点。
B:多少の予備知識が必要。20点満点。
A:専門知識がないと理解しにくい。分量が多い。40点満点。
S:分量が多く、読み通すのに時間がかかる。80点満点。
※以下のリストは例にすぎないので、ここに載っていないものでも教育に関連する本であれば大丈夫です。

【教育理論に関わる本】
【C】田中美知太郎『ソクラテス』岩波新書、1957年
【B】アドルフ・ポルトマン/高木正孝訳『人間はどこまで動物か―新しい人間像のために』岩波新書、1961年
【B】苫野一徳『どのような教育が「よい」教育か』講談社選書メチエ、2011年
【B】林竹二著作集 1『知識による救い-ソクラテス論考』筑摩書房、1986年
【B】村井実『ソクラテスの思想と教育』玉川大学出版部、1972年
【B】プラトン/久保勉訳『ソクラテスの弁明・クリトン』岩波文庫
【B】村井実『道徳は教えられるか』国土社、1990年<1967年
【A】ファン・ヘネップ/綾部恒雄・綾部裕子訳『通過儀礼』岩波文庫、2012年<1909年
【A】エレン・ケイ『児童の世紀』小野寺信・小野寺百合子訳、冨山房百科文庫 24、1979年
【A】J.S.ブルーナー『教育の過程』鈴木祥蔵・佐藤三郎訳、岩波書店、1963年
【A】イヴァン・イリッチ『脱学校の社会』東洋・小澤周三訳、東京創元社、1977年
【A】ペスタロッチー/長田新訳『隠者の夕暮・シュタンツだより』岩波書店、1993年<1779,1799
【A】ジョン・ロック/服部知文訳『教育に関する考察』岩波書店、1967年<1693年
【A】フレーベル/長田新訳『フレーベル自伝』岩波書店、1949年
【A】ジョン・デューイ『学校と社会』宮原誠一訳、岩波書店、1957年
【S】プラトン/藤沢令夫訳『国家』〈上〉〈下〉、岩波文庫
【S】ジャン・ジャック・ルソー/今野一雄訳『エミール』上・中・下、岩波書店、1962年<1762年

【現代の教育に関わる本】
【C】横湯園子・世取山洋介・鈴木大裕編集『「ゼロトレランス」で学校はどうなる』花伝社、2017年
【C】苫野一徳『勉強するのは何のため?―僕らの「答え」のつくり方』日本評論社、2013年
【C】リヒテルズ直子×苫野一徳『公教育をイチから考えよう』日本評論社、2016年
【C】木村元『学校の戦後史』岩波新書、2015年
【C】今津孝次郎『教師が育つ条件』岩波新書、2012年
【C】新藤宗幸『教育委員会-何が問題か』岩波新書、2013年
【C】今井むつみ『学びとは何か―〈探究人〉になるために』岩波新書、2016年
【C】長尾真『「わかる」とは何か』岩波新書、2001年
【C】池上彰編『先生!』岩波新書、2013年
【C】志水宏吉『学力を育てる』岩波新書、2005年
【C】橘木俊詔『日本の教育格差』岩波新書、2010年
【C】泉谷閑示『反教育論―猿の思考から超猿の思考へ』講談社現代新書、2013年
【C】高橋哲哉『教育と国家』講談社現代新書、2004年
【C】諏訪哲二『学力とは何か』洋泉社、2008年
【C】落合陽一『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる―学ぶ人と育てる人のための教科書』小学館、2018年
【C】中村一彰『AI時代に輝く子ども―STEM教育を実践してわかったこと』CCCメディアハウス、2018年
【C】竹内薫『知識ゼロのパパ・ママでも大丈夫!「プログラミングができる子」の育て方』日本実業出版社、2018年
【C】松村太郎、山脇智志、小野哲生、大森康正著『プログラミング教育が変える子どもの未来―AIの時代を生きるために親が知っておきたい4つのこと』翔泳社、2018年
【C】石嶋洋平著・安藤昇監修『子どもの才能を引き出す最高の学びプログラミング教育』あさ出版、2018年
【C】増田ユリヤ『新しい「教育格差」』講談社現代新書、2009年
【C】芹沢俊介『「いじめ」が終わるとき-根本的解決への提言』彩流社、2007年
【C】加野芳正『なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか?―透明な暴力と向き合うために』日本図書センター、2011年
【C】林竹二『教育の根底にあるもの―決定版』径書房、1991年
【B】苫野一徳『教育の力』講談社現代新書、2014年
【B】小玉重夫『学力幻想』ちくま新書、2013年
【B】小針誠『アクティブラーニング―学校教育の理想と現実』講談社現代新書、2018年
【A】岩波講座教育_変革への展望1『教育の再定義』岩波書店、2016年

【近代とリテラシーに関わる本】
【C】徳善義和『マルティン・ルター―ことばに生きた改革者』岩波新書、2012年
【C】アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ/清水由貴子訳『そのとき、本が生まれた』柏書房、2013年
【C】ラウラ・レプリ/柱本元彦訳『書物の夢、印刷の旅 -ルネサンス期出版文化の富と虚栄』青土社、2014年
【B】ジャック・アタリ/斎藤広信訳『1492 西欧文明の世界支配』ちくま学芸文庫、2009年<1992年
【B】宮崎正勝『海図の世界史―「海上の道」が歴史を変えた』新潮選書、2012年
【A】アンドリュー・ペティグリー/桑木野幸司訳『印刷という革命-ルネサンスの本と日常生活』白水社、2015年<2010年

【子どもに関わる本】
【C】榊原富士子・池田清貴『親権と子ども』岩波新書、2017年
【C】河原和枝『子ども観の近代 『赤い鳥』と「童心」の理想』中公新書、1998年
【C】服藤早苗『平安朝の母と子―貴族と庶民の家族生活史』中公新書、1991年
【B】柴田純『日本幼児史―子どもへのまなざし』吉川弘文館、2013年
【B】斉藤研一『子どもの中世史 (歴史文化セレクション)』吉川弘文館、2012年<2002年
【S】フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生―アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』みすず書房、1980年
【S】ヒュー・カニンガム著、北本正章訳『概説 子ども観の社会史: ヨーロッパとアメリカからみた教育・福祉・国家』新曜社、2013年