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教育概論Ⅰ(中高)-9

栄養・環教 6/13
語学・心カ・教福・服美・表現 6/15

前回のおさらい

・人格とは何か? 代わりがない=個性 変わらない=アイデンティティ

今回の目標

・近代の代表的な教育思想家の考え方を理解しよう!
・「義務教育」の思想を理解しよう!
・「自由権」とは異なる「社会権」の思想を理解しよう!

人格の完成に向けて

・人格:かけがえのない一人の人間。属性に拠らない。
・個性:一人の人間として相対する。名前を大切にする。主語を否定するのではなく、述語を叱る。たとえば叱る時は「行動」を叱る。「嫌い」と「愛してる」は両立する。
・アイデンティティ:自主自律の精神を重んじる。述語ではなく主語をほめる。
・自己実現:夢を大事にする。チャレンジ精神を応援する。矛盾や葛藤を成長の過程と捉える。
・自由:できることを増やす。自分たちでルールを作る。

ペスタロッチー Johann Heinrich Pestalozzi

・1746年~1827年。スイス出身。
・主著『隠者の夕暮』『シュタンツだより』『ゲルトルートはいかにその子を教えたか』『白鳥の歌』
・キャッチフレーズ:実物教授。直感教授。労作教育。3つのH(Hand、Heart、Head)=知徳体。
名言:「玉座の上にあっても、木の葉の屋根の蔭に住まっても同じ人間だ」=身分に関係なく、普遍的な人間を教育するということです。
・孤児や貧民の子供の教育を通じて、身分や階級に関わらない人間一般の教育原理を打ち立てました。ルソーが理論だけだったのに対して、ペスタロッチーは実践を通じて教育原理を明らかにしました。
・アメリカを経由したペスタロッチー主義(開発主義教育)は、明治初期に日本でも流行しました。

ヘルバルト Johann Friedrich Herbart

・1776年~1841年。ドイツ出身。
・主著『一般教育学』『ペスタロッチー直感教授のABC』
・キャッチフレーズ:教育学の父。目的としての倫理学、方法としての心理学。
・名言:「教授のない教育などというものの存在を認めないし、逆に、教育のないいかなる教授も認めない
・四段階教授法。明瞭→連合→系統→方法。
・ペスタロッチーの実物教授を引き継ぎながら、教育学を体系化された学問へと鍛えました。家庭教師による教育ではなく、学校における教師の教授法を理論化しました。

ヘルバルト主義教育学

・ヘルバルトを引き継いで、科学的な教育学を発展させました。
・チラー、ライン。
五段階教授法。予備→提示→比較→総合→応用。
・中心統合法。宗教(道徳)を中心としたカリキュラム(スコープ)構成の原理。
・開化史的段階。カリキュラム配列(シークエンス)の原理。

フレーベル Friedrich Wilhelm August Fröbel

・1782年~1852年。ドイツ出身。
・キーワード:幼稚園の創始者。恩物
・主著:『人間の教育
・ペスタロッチーの影響を受け、幼児教育に人生を捧げました。

義務教育の思想

・近代の教育思想で、教育は本当にすべてうまくいくのでしょうか?
・学校を否定し、個人主義を貫くような、「自由権としての教育」の実態。→現実には貧民の子供が「児童労働」を行っていました。

・「義務教育」とは、誰の誰に対するどのような義務でしょうか?
・「子供が教育を受ける権利」はどのように生まれたのでしょうか?

思考実験:自由の落とし穴

・自由を拡大したとき、得をするのはどういう人たちでしょうか?
・自由を拡大すると、実際には強者と弱者の間の格差が拡大します。
・自由を<実質的に>使いこなすことができるのは金持ちだけです。貧乏人はそもそも自由に<実質的に>手が届きません。形式的に自由が与えられても、まったく意味がありません。
・「自由権としての教育」だけでは、金持ちは十分な教育を受けることができたとしても、貧乏人は教育を受けることができません。教育によって、ますます貧富の格差が広がります。
・貧富の格差=資本家と労働者の階層分化が進行し、児童労働が自然発生します。

社会権としての教育

社会権:<形式的>に自由が与えられるだけでなく、全ての人が<実質的>に自由を使いこなすことができるように、強者に対してハンデを設け、弱者に対して様々なアドバンテージが与えられます。具体的には、生存権、労働基本権、教育を受ける権利があります。
・たとえば、最低賃金や労働時間の設定、労働組合の結成等により、成人の労働環境が守られ、児童労働の自然発生を抑制することができます。
・工場法制定など、児童労働の撤廃に向けての具体的な動きも必要です。
・誰が責任を持つのでしょうか?←「国家」の積極的な関与が期待されます。

コンドルセ marquis de Condorcet

・1743年~1794年、フランス出身。
・愛称:公教育の父。
・著書:『フランス革命期の公教育理論』
(1)子供の学習権。
(2)教育費無償。
(3)ライシテ:政治的中立や宗教的中立。

ロバート・オーエン Robert Owen

・1771年~1858年、イギリス出身。
・キーワード:性格形成学院。
・工場法の展開

1802年徒弟の健康と道徳に関する法律制定。
1819年繊維工場では9歳以下の労働禁止。16歳以下は1日12時間以内に制限。
1833年12時間労働。9歳未満の労働禁止。13歳未満は週48時間。
1844年女性労働者の労働時間制限。
1847年若年労働者の労働時間を1日10時間に制限。
1870年教育法制定。公費による学校設立。

復習

小テスト

・代表的な教育思想家の考え方を確認しておこう。
・「社会権」の意義について押さえておこう。
・「義務教育」が成立する過程について、理論と実践の両面から押さえておこう。

予習

・「産業革命」について、おさらいしておこう。

教育概論Ⅰ(中高)-8

栄養・環教 6/7
語学・心カ・教福・服美・表現 6/8

前回のおさらい

・ニセモノの自由からホンモノの自由へ。カントの教育論。
・憲法の意義。教育基本法の性格。

今回の目標

・「人格」について深めよう!

人格の完成

・教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」であると書いてありました。
人格とは何でしょうか? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることもできません。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみましょう。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、代わりがなく(個性)、変わらない(アイデンティティ)ような何かのようです。

個性

・個性=Individualityの翻訳語です。
・長所とか特徴とか持ち味などという言葉とはニュアンスが異なります。
・「個々の性質」ではなく「個であることの性質」と考えます。
・たとえば眼鏡はどうして眼鏡なのでしょうか?←「はたらき」でまとまりがあります。
・「人間のはたらき」とは何でしょうか?
・「私のはたらき」とは何でしょうか?

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳されることがあります。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられます。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」「わたし は わたし」
・この世に変化しないものなどあるでしょうか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのでしょうか?
・わたしの属性について考えてみましょう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何でしょうか? 主語と述語の関係に注目してみましょう。
・常に主語である何かにはアイデンティティが成立していそうです。
・述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、同じ文章でも世界の見え方や関わり方が異なってきます。
・たとえばソクラテスは、本当の幸せとは「わたしが常にわたしであること」と言っています。

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。本物の幸せ。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続によって、人格が完成へと向かいます。

復習

・「人格」や「個性」、「アイデンティティ」、「自己実現」という言葉について考えを深めよう。

予習

・「義務教育」について調べておこう。

発展的な学習の参考

人格とは何か?
個性とは何か?
アイデンティティとは何か?

教育概論Ⅰ(中高)-7

栄養・環教 5/31
語学・心カ・教福・服美・表現 6/1

前回のおさらい

・コメニウスの教育思想。
・市民革命の経緯と理屈。人格の完成を目指す教育。

今回の目標

・自由とルールの関係について理解し、モラトリアムという言葉の意味を理解しよう!
・カントの教育思想を知ろう!
・憲法の役割と存在意義を再確認しよう!

自由とルール

・個人主義(ワガママで自分勝手=みせかけの自由:自然権)から個人主義(自主・自律=ほんものの自由:自然法)へ。資本主義(経済原理)に民主主義(政治原理)を追加します。
・教育とは、自由でないようなもの(子ども)を、自由にする(大人)ための営みです。
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ませんが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っています。
・モノは物理法則(生理現象)に従わざるを得ませんが、人格を持つ者は自分でルールを作ってそれに従うことができます。
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力のことです。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のことです。

カント Immanuel Kant

・1724年~1804年。ドイツ出身。
・著書『教育学講義』『純粋理性批判』『実践理性批判』
・名言「人間は教育によってのみ人間となる。」「人間は教育されなければならない唯一の被造物である。

理性

*理性:人間だけが持っている(つまり他の動植物は持っていない)であろう、ルール(法則)を発見する力です。カントによれば、モノについてのルールを発見する力(純粋理性)と、人格についてのルールを発見する力(実践理性)は、別のものです。
*科学(純粋理性):モノに関するルール(法則)を発見し、利用する手続きのことです。個物の観察から普遍的ルールの洞察に至ります。
*法と道徳(実践理性):人格に関するルールを発見し、従います。
→人間に固有の「理性」を育むことが、「人格の完成」への第一歩です。

モラトリアム

モラトリアム:執行猶予。労働や義務や責任から免除されている期間を意味します。責任を追及されず、失敗が許される代わりに、自分でルールを作ることは許されず、大人から管理・拘束され、理性を獲得するために、指導・教化を受けなければなりません。
現代では、思春期・青年期が拡張して、大人と子供の距離が広ががり、モラトリアム期間が延びたといわれています。

小テスト

憲法と教育の自由

・人間の権利と自由を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:法律を破ったことはありますか?

・市民は、リーダーが作った法律は従う義務があります。法律を破ったときには、ペナルティが課されます。
・法律は、それぞれの市民が平和かつ幸福に暮らすことができるよう、選ばれたリーダーによって定められます。
・市民は、法律を破ることはできますが、憲法を破ることはできません。法律と憲法は、どこがどう違っているのでしょうか?
・そもそも憲法を守る義務があるのは誰でしょうか?→日本国憲法第99条。
・憲法は市民に何を期待しているのでしょうか?→日本国憲法第97条と第98条。

『日本国憲法』第十章 最高法規
〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や身分や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。*確認:多数の専制の怖さ。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。
教育の自由:自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由:どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。

教育基本法と日本国憲法

・教育基本法は、1947年に日本国憲法と一体のものとして制定され、準憲法的性格を持つと考えられています。→つまり、教育基本法を守らなければいけないのはリーダーの側であって、一般国民は守らせる側ということになります。

近代西洋(17~18世紀)の教育思想

・神に与えられた人間固有の理性を育もうという姿勢や、私教育を重視して学校を軽視する態度が共通しています。

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・身分制を反映した古い教育を否定して、新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。自発性を重視して詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張しました。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢を指します。また、思春期や青年期の持つ独特の意義について意識を向けたのも大きな特徴です。

復習

・「自由」とは何か、自分なりに深めておこう。
・「憲法」の役割と意義について、しっかり理解しよう。

予習

・「人格」「個性」「アイデンティティ」「自己実現」という言葉について調べよう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育に関する考察』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。
ジャン・ジャック・ルソー『エミール』:普遍的な「人間」をつくるという、まったく新しい教育の姿が描かれています。

教育概論Ⅰ(中高)-6

栄養・環教 5/24
語学・心カ・教福・服美・表現 5/25

前回のおさらい

・「学制」の特徴=ヨーロッパの真似。
・ヨーロッパが強くなった経緯=大航海時代・宗教改革・ルネサンス←印刷術

今回の目標

・コメニウスの教育思想を知ろう!
・市民革命の経緯と理屈を踏まえて、「人格の完成」を目指すようになった理由を理解しよう!

ヨーロッパはどうして強くなったのか?(15~16世紀)

ルネサンス(15~16世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための「商品」となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明される以前は、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ね、人々は「自分自身」を作り上げていきます。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

リテラシーと学校の広がり

・印刷術の発明によって進んだのは、「知識の民主化」でした。それまで「知識」は王様や貴族や僧侶が独占するものでしたが、書物によって一般民衆がアクセス可能なものに変わりました。
・それまでは「身分」によって人生が固定していましたが、これからは「知識」によって人生が変わるようになります。
・人々は書物を通じて知識にアクセスするため、リテラシーを獲得しようとします。学校が自然に増加していきます。

*現代の知識の民主化:インターネットの普及によって「知識」を簡単に入手できるようになり、それまで「知識」を一方的に独占・発信していた学校や報道機関に対する不信感が高まります。
→もちろん16世紀ヨーロッパでも、新しい知識を獲得した人々は、それまで知識(そして権威)を独占していた王様・貴族や僧侶に対する不信感を高めていきました。
→不登校の増加やテレビ離れ、学校へのスマホ持ち込み等をどう考えるか。
*格差の拡大:新しい知識を持っているか持っていないかで、格差が拡大していきます。デジタル・ディバイド。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・1592年~1670年。モラヴィア(チェコ)出身。プロテスタント(ヤン・フスのボヘミア兄弟団)。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・キャッチフレーズ:近代教授学の父
・名言:全ての人に全ての事柄を教授する

小テスト

市民革命と社会契約論(17~18世紀)

市民社会:欲望の解放と制御

市民社会:身分社会を否定し、個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させることを優先して組み立てられた世の中のことです。
・経済的発展は「欲望の解放」によって促進されます。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞してしまいます。
・しかし人間の欲望には際限というものがありません。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまいます。実際に、ヨーロッパの16世紀と17世紀は宗教戦争や侵略戦争が続いて荒れ狂った時代となりました。
・人間の欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるでしょうか? →民主主義

市民革命と社会契約論

・ヨーロッパの政治体制を決定的に変えた事件をまとめて市民革命と呼びます。王様や貴族などが倒され、僧侶の権威が低くなり、身分制がなくなりました。
*市民:農村の生産者ではなく、都市に暮らし、市場でお金を使う人々を指します。基本的にお金持ちです。
*革命:「一揆」と勘違いする日本人が多いですが、いわゆる一揆は支配者の交代を伴いません。支配階級が覆る事態を革命と呼びます。
*市民革命:ヨーロッパでは様々な地域と時期に革命が発生しましたが、全て共通して「市民」が支配者になる革命だったので、「市民革命」と呼びます。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命には、それぞれ理論的指導者と代表的な政治思想書が関わっています。市民革命の理論的根拠となったのが、社会契約論と呼ばれる考え方です。ホッブズ『リヴァイアサン』→ロック『市民政府論』→ルソー『社会契約論』というように展開します。

社会契約の「社会」とは?

社会:もともと日本語には存在せず、sociaeyやassociationの翻訳語として普及しました。ヨーロッパで成熟した「個人」を土台として組み立てられた世の中を指します。
・伝統的な「共同体」と新しい「社会」では、集団優先か個人優先かで世の中の形が決定的に違ってきます。共同体では身分が固定して人々の役割が決まっていましたが、社会では個人の力によって役割や組み合わせを変えることができます。
*たとえば「日本は集団主義」と言う人がいますが、本当でしょうか? 「集団」の質の違いを押さえずに言って大丈夫でしょうか?

社会契約の「契約」とは?

・自由で平等な個人同士が合理的な判断を下した結果として成立する合意と約束のことです。自由や平等が損なわれ、合理的な意志と判断が存在しない場合には、契約は成立しません。
・身分や性別などの「属性」によって条件が変わるものは契約と呼べません。契約とは、属性に関係なく、自立した個人の意志と判断によって成立します。←「属性」とは関係ない、「自立した個人」を作らなければいけません。

新しい社会にふさわしい新しい教育

・個人を作る:「個人」とは、身分や性別等の特殊性にはまったく関係がなく、何の特殊な属性も持たない、普遍的な人間のことです。伝統的共同体の様々なしがらみから切り離された、剥き出しの人間のことです。
・人間はわがままで自分勝手な本性(自然権)を持っているからこそ、その本性を外部から押さえ込まずに最後まで貫き通すことによって、自由で平等で平和な世の中を作り上げることができます。
・しかしそう判断できる(自然法を導き出す)ためには、合理的に物事を考える「理性」がなければなりません。
・新しい社会を作ることは、必然的に、新しい社会にふさわしい新しい「個人」を作ることを意味します。だから新しい社会について考えた思想家は、それにふさわしい新しい「個人」についても考えるし、それにふさわしい教育の形についても構想することになります。

人格の完成をめざす教育

・人格の完成:普遍的な教育とは、人間を作る=人格の完成を目的とする教育です。
・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。知識を注入したり偏差値を上げるような教育でもなければ、または特定の職業を目指すような教育でもありません。
*Instruction=専門教育(特殊性)とEducation=普通教育(普遍性)の違いを考えてみましょう。

復習

・コメニウスの思想を時代背景とともに押さえよう。
・市民社会に必要な教育が、リテラシーの教育と決定的に異なることを押さえておこう。

予習

・「憲法」とは何かについて、「法律」との違いを中心に調べておこう。

教育概論Ⅰ(中高)―特別課題

日本教育史の学習ツールを開発しよう

教員採用試験では、日本教育史に関する問題が頻繁に出題されます。そこで、よく出題される学校名や学者名を理解定着させるのに便利なツールを開発してみましょう。

相性判断ツールの活用

質問に対する回答によって分岐し、最終的に「相性」を表示するようなツールがあります。これを使用して、学習に興味・関心を持ってもらうように工夫してみましょう。下が実際の例です。

Q1
犬派ですか、猫派ですか。

 

ただし、これだけでは論理性も何もないし、学習にもなりません。そこで、論理構造を構想する必要があります。
(1)適切な設問による分岐:それぞれの学校や学者の特徴を明らかにするような設問であれば、記憶しやすいでしょう。
(2)適切な結果表示:いくつかの分岐を経て最終的に表示される結果が、興味・関心を持てるような内容であれば、理解を助けてくれるでしょう。

素材例

(1)近世の学校と設置者
・伊藤仁斎の古義堂
・広瀬淡窓の咸宜園
・吉田松陰の松下村塾
・シーボルトの鳴滝塾
・緒方洪庵の適塾
・本居宣長の鈴屋
・荻生徂徠の蘐園塾
・中井竹山の懐徳堂

(2)中世と近世の学校
・鎌倉時代の金沢文庫
・室町時代の足利学校
・幕府直轄の昌平坂学問所
・会津藩の日新館
・水戸藩の弘道館
・長州藩の明倫館
・薩摩藩の造士館
・岡山藩の閑谷学校

レポートの書き方

分岐のための設問と最終的に表示する結果、および全体の構造を示して下さい。

評価

(1)設問と結果の設定が適切かどうか、(2)学習者に対して興味・関心を持たせられるか、(3)論理的な構成になっているか、を判断します。基本点は25点です。
※必須課題ではありません。

コピーライト

優秀作は、制作者に相談の上、一部改変して来年以降の講義で実際の学習に使用したいと考えています。コピーライトを主張したい方は、その旨申し出て下さい。