【要約と感想】村井実『道徳は教えられるか』

【要約】道徳は教えられるし、教えるべきです。ただしその場合の「教える」とは、もちろん戦前の修身教育のように単純に徳目を教え込むことではありません。諸々の徳目が引き出される根拠となる普遍的な道徳的大原則を理性的に探求するところに、目指すべき道徳教育の姿があります。あくまでも理性に訴えることが重要なのであって、日本人が陥りがちな情緒主義や鍛錬主義では、子どもたちの道徳性が育つ見込みはありません。

【感想】原著はちょうど50年前に出ているわけだけれども。「道徳の三重構造」と「目標像と過程像の峻別」という観点は、現在の道徳教育を判断する際にもかなり有効だと思う。まあ、未だに50年前の本が有効であるという情けなさは、感じざるをえない。学習指導要領改訂によって道徳は教科化され、文科省は一応は「考える道徳」というテーマを打ち出してはいるけれども。果たして道徳教育は善くなっているのか。本書の理性的な分析を踏まえて現在の道徳教育を眺めてみると、はなはだ心許ない。教育に携わる者として、己の力不足を恥じ入るのみである。

村井実『道徳は教えられるか』国土社、1990年<1967年