【要約と感想】加野芳正『なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか?』

【要約】日本型いじめの根本的な原因は、集団主義的な社会構造が壊れたにもかかわらず、それに替わる道徳モデルとなるべき個人主義が未成熟な点にあります。「いじめをゼロ」にとか「みんな仲良く」のような思考停止したスローガンでは現実は変わりません。子ども同士の人間関係を本質的に考えることで、いじめを克服する根本的な力を育てることが大事です。

【感想】マスコミが流すいじめ報道には、しばしば「学校や教師や教育委員会を槍玉に挙げておけ」というような、視聴者が喜ぶだけのストーリーに構成するという、いい加減なところがある。で、学生たちの理解を見ていると、ほとんどがマスコミ報道を鵜呑みにしている。そしてそういう誤解を自分の都合のいい教育制度を作るために利用する人たちがいるという。

いじめを受けて苦しんでいる子供を全力で守るのが教師の重要な役割であることはいいとして。でもそれは、いじめをなくすこととは違う。いじめを受けている子も、いじめをしている子も、どうしたら人間的に成長できるかという、もっと本質的な教育学的問題が忘れられてはいけない。そういうことを改めて考えさせてくれるし、読みやすい。「友達なんかいなくていい」と言い切ってくれる教育本は、なかなか少ないような気がする。教師や学生向けには、良い本じゃないかな。

加野芳正『なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか?―透明な暴力と向き合うために』日本図書センター、2011年