教育概論Ⅰ(中高)-3

栄養・環教 4/26
語学・心カ・教福・服美・表現 4/27

前回のおさらい

・生理的早産:人間は他の高等哺乳類と比べて弱々しい状態で生まれます。しかしだからこそ、人間は他の動物と違って様々な可能性に満ちています。
・しかし、7歳以前の子どもの扱いは現在と比べてたいへん苛酷でした。7歳以降は、大人と一緒に労働をしていました。
・家族は子育てをしていませんでした。社会(ムラ)全体で子育てを担っていました。

今回の目標

・「形成」という言葉を手がかりに昔の子育ての様子を理解し、現在の「家族と学校」中心の子育てと比較しよう!
・「イニシエーション」という言葉の意味を理解し、「大人になること」の意味が現在とどのように違うかを把握しよう!

「形成」とは?

・要するに、私たちが現在当たり前だと思っている教育(学校教育や家族の子育て)は、昔は行われていませんでした。

「形成」と「教育」の違い

・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていました。「教育」と異なる形の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼びます。
・たとえば初めてのアルバイトをするとき、仕事の内容をどうやって覚えていくでしょうか?

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・商人や職人の世界では、「方-弟」の疑似親子関係を結ぶことがあります。徒弟制、丁稚奉公、ギルド等、実の親以外にも「親」がたくさんいました。←先生は「親」ではありません。
*昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではなく、子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できそうです。
*昔の大人は尊敬されていた? →大人が変わったわけでも、子どもが変わったわけでもなく、労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できそうです。
*どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →親と一緒の仕事をするなら「形成」で問題なさそうですが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなりそうです。労働のかたちが変わると、教育のかたちも変わるということです。

イニシエーションとは?

・イニシエーションとは:日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれています。一人前の共同体(ムラ)のメンバーになるために、全ての若者が突破しなければならない試練のことです。日本だけではなく、世界全体に共通して見られます。
・イニシエーションの必要性:肉体的に一人前の条件(自分の子どもが作れる)を揃えつつあるとき、精神的にも一人前になる必要があります。
←昔の人たちが何歳くらいで親になっていたのか考えてみよう。アンケート
・イニシエーションの内容:「死」と「再生」を象徴するものと言えます。一人前の共同体(ムラ)メンバーになるために、家族と分離(親離れ、子離れ)し、ムラ全体の子供として再び生まれなおす必要があるということです。

若者組……学校がない世界での精神的成熟

*若者宿(メンズハウス):一人前になるために、年齢別集団へ加入して、親元を離れて、様々な知識や技術を身につけます。(女性の場合は「娘宿」など)←参考:「學」の漢字の元の形。
・家族でも学校ではない場所(若者宿)で、親や先生ではない人(同年齢集団)を通じて、経験を積みます。
・若者組の役割:集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理など。
・近代の学校教育と決定的に異なるのは、「死」と「生=性」の重要性かもしれません。

復習

・「形成」という人間形成について、現在の教育と比較しながら理解しておこう。
・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の「成人式」の在り方と比較しながら理解しておこう。

予習

・江戸時代の日本の教育について調べておこう。特に「寺子屋」と「藩校」と「郷校」という言葉を調べよう。
次回の範囲で、教員採用試験に実際に出た問題5問です。予習がすんだ人はチャレンジしてみてください。

参考文献

ファン・ヘネップ『通過儀礼』
文化人類学の観点からイニシエーション(通過儀礼)を捉え、人生の節目で危機を乗り越えるための儀礼と理解し、越境の過程を「分離→過渡→統合」という図式で理解する。古典的名著。

佐野賢治『ヒトから人へ』
「大人になる」ために昔の人々が行っていた伝統的な習俗を、「一人前」という視点から描き出すエッセイ集。高度経済成長後に失われた伝統的な人間形成の在り方について考えさせられる。