【要約と感想】佐野賢治『ヒトから人へ』

【要約】人間が「大人になる」までの成長過程に関わるトピックを連ねた、民俗学のエッセイ集。高度経済成長の過程で急激に失われていった様々な日本の習俗を、柔らかい筆致で蘇らせ、読んでいて温かな気持ちになる本だ。

思ったこと=現在、「大人になる」ということの条件がとてもわかりにくくなっている。かつては「労働」や「結婚」という見えやすい物差しがあった。本書は、「一人前」という尺度で、かつての日本の習俗を描き出す。ひるがえって、現在において「大人になる」とはどういうことか、考えるきっかけを与えてくれる。

とはいえ、解決法は、失われたものを単に取り戻すということではないだろう。急激に変化した世界に対応した新しい「大人の条件」というものがあるはずで、かつての「大人」を復元すれば解決するという単純な話ではない。本書も単なるノスタルジーに陥っている記述が散見されて、少し気にはかかった。まあ、掲載紙とテーマと対象読者を考慮すれば、本書はそれでかまわないのだけれども。

佐野賢治『ヒトから人へ―“一人前”への民俗学』春風社、2011年