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教育課程の意義と編成-9

▼第9回=11/19

前回のおさらい

・教育課程編成:育成すべき資質・能力を土台に、総合的な学習の時間を中心に構成する。
・教科等横断的な編成をする。

学習指導要領総則:主体的、対話的で深い学び

学校の教育活動を進めるに当たっては、各学校において、第3の1に示す主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して、創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で、次の(1)から(3)までに掲げる事項の実現を図り、生徒に生きる力を育むことを目指すものとする。(『学習指導要領』3頁)

主体的・対話的で深い学び

第3 教育課程の実施と学習評価
1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
各教科等の指導に当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(1) 第1の3の(1)から(3)までに示すことが偏りなく実現されるよう、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと。
特に、各教科等において身に付けた知識及び技能を活用したり、思考力、判断力、表現力等学びに向かう力人間性等を発揮させたりして、学習の対象となる物事を捉え思考することにより、各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方(以下「見方・考え方」という。)が鍛えられていくことに留意し、生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実を図ること。(『学習指導要領』7~8頁)

*主体的・対話的・深い学びとは、それぞれどういうことか?→「学び方を学ぶ」=単に正しい答えを出すのではなく、答えに至るための「過程」を重視する。
(1) 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているかという視点。
(2)子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているかという視点。
(3) 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているかという視点。
(『学習指導要領解説 総則編』77頁)

・主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を考えることは単元や題材など内容や時間のまとまりをどのように構成するかというデザインを考えることに他ならない。(『学習指導要領解説 総則編』77頁)
→毎回毎回アクティブラーニングを行なう必要はないということ。長い単元の中で、知識を与える部分とアクティブな部分にメリハリをつける。

・主体的・対話的で深い学びの実現を目指して授業改善を進めるに当たり、特に「深い学び」の視点に関して、各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」は、新しい知識及び技能を既にもっている知識及び技能と結び付けながら社会の中で生きて働くものとして習得したり、思考力、判断力、表現力等を豊かなものとしたり、社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりするために重要なものであり、習得・活用・探究という学びの過程の中で働かせることを通じて、より質の高い深い学びにつなげることが重要である。 (『学習指導要領解説 総則編』77~78頁)

「理科」に特有の「見方・考え方」とは何だろうか?
(1)単元など内容や時間のまとまりを見通して、その中で育む資質・能力の育成に向けて、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。その際、理科の学習過程の特質を踏まえ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどの科学的に探究する学習活動の充実を図ること。
(2) 各学年においては、年間を通じて、各分野におよそ同程度の授業時数を配当すること。その際、各分野間及び各項目間の関連を十分考慮して、各分野の特徴的な見方・考え方を総合的に働かせ、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を養うことができるようにすること。 (『学習指導要領』82頁)

・「理科の学習過程の特質」とは何か?
・「各分野の特徴的な見方・考え方を総合的に働かせ」とはどういうことか?

言語環境の整備と言語活動の充実

(2) 第2の2の(1)に示す言語能力の育成を図るため、各学校において必要な言語環境を整えるとともに、国語科を要としつつ各教科等の特質に応じて、生徒の言語活動を充実すること。あわせて、(7)に示すとおり読書活動を充実すること。

(1)教師は正しい言葉で話し、黒板などに正確で丁寧な文字を書くこと。
(2)校内の掲示板やポスター、生徒に配布する印刷物において用語や文字を適正に使用すること。
(3)校内放送において、適切な言葉を使って簡潔に分かりやすく話すこと。
(4)より適切な話し言葉や文字が用いられている教材を使用すること。
(5)教師と生徒、生徒相互の話し言葉が適切に行われるような状況をつくること。
(6)生徒が集団の中で安心して話ができるような教師と生徒、生徒相互の好ましい人間関係を築くこと。
(『学習指導要領解説 総則編』81頁)

理科で「言語活動」を重視するとは?
2の(3) 1の(3)の学習活動を通して、言語活動が充実するようにすること。
→1の(3) 学校や生徒の実態に応じ、十分な観察や実験の時間、課題解決のために探究する時間などを設けるようにすること。その際、問題を見いだし観察、実験を計画する学習活動、観察、実験の結果を分析し解釈する学習活動、科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動などが充実するようにすること。(『学習指導要領』82頁)

コンピュータ等や教材・教具の活用

(3) 第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また、各種の統計資料や新聞、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。

・IT化への対応と、情報の正確な読みとり。
・情報モラル。

2の(4) 各分野の指導に当たっては、観察、実験の過程での情報の検索、実験、データの処理、実験の計測などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用するようにすること。(『学習指導要領』82頁)

見通しを立てたり、振り返ったりする学習活動

(4) 生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を、計画的に取り入れるように工夫すること。

・予習と復習の重要性。
・キャリア形成の方向性と学ぶ意欲。

体験活動

(5) 生徒が生命の有限性や自然の大切さ、主体的に挑戦してみることや多様な他者と協働することの重要性などを実感しながら理解することができるよう、各教科等の特質に応じた体験活動を重視し、家庭や地域社会と連携しつつ体系的・継続的に実施できるよう工夫すること。

集団の中で体系的・継続的な活動を行うことのできる学校の場を生かして、地域・家庭と連携・協働して、体験活動の機会を確保していくこと。(『学習指導要領解説 総則編』87頁)

理科での「体験活動」とは?
(8) 観察、実験、野外観察などの体験的な学習活動の充実に配慮すること。また、環境整備に十分配慮すること。
(10) 科学技術が日常生活や社会を豊かにしていることや安全性の向上に役立っていることに触れること。また、理科で学習することが様々な職業などと関係していることにも触れること。(『学習指導要領』83頁)

課題選択及び自主的、自発的な学習の促進

(6) 生徒が自ら学習課題や学習活動を選択する機会を設けるなど、生徒の興味・関心を生かした自主的、自発的な学習が促されるよう工夫すること。

学校図書館、地域の公共施設の利活用

(7) 学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、生徒の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かすとともに、生徒の自主的、自発的な学習活動や読書活動を充実すること。また、地域の図書館や博物館、美術館、劇場、音楽堂等の施設の活用を積極的に図り、資料を活用した情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実すること。

各教科等を横断的に捉え、学校図書館の利活用を基にした情報活用能力を学校全体として計画的かつ体系的に指導するよう努めることが望まれる。(『学習指導要領解説 総則編』89頁)

(9) 博物館や科学学習センターなどと積極的に連携、協力を図るようにすること。(『学習指導要領』83頁)

復習

・「主体的、対話的で深い学び」について、自分の言葉で説明できるようにしておこう。

予習

・『学習指導要領』8~11頁を読んでおこう。
・「評価」について自分なりに調べておこう。

道徳教育指導論-8

道徳の模擬授業について

テーマの選び方

・『学習指導要領』「特別の教科 道徳」の内容に目を通し、22の徳目のうち、どのテーマを子どもたちに重点的に教えたいかを考える。
・選んだ徳目について、『学習指導要領解説編 特別の教科 道徳』の該当部分に目を通し、その徳目の本質について考えを深める。
・徳目の本質を考えるのに適した教材を選ぶ。

教材の選び方

・本来は「教科書」から教材を選ぶ。道徳の教科書には、掲載されているそれぞれの教材が22の徳目のうちのどれに対応しているのか明示してあるので、選びやすい。
・教科書はまだ発行されたばかりで手に入りにくいので、それ以外の教材から選ぶのも暫定的に可とする。

指導案の書き方

・主題名には、22の徳目のうちの何を扱うかを明記する。【 】の中には、学習指導要領の何に対応しているかを記号で明記する。(A-3とかC-14など)
・資料名には、授業で扱う資料のタイトルを明記する。
・主題設定の理由には、(1)教育内容(2)教育対象(3)教材(4)他教科・他領域との関連について記入する。
(1)教育内容には、この単元でどのような道徳的価値を伸ばすかを記入する。学習指導要領で説明されている道徳科の本質を踏まえて考えること。
(2)教育対象には、どのような生徒に教えるのか、個性を踏まえて記述をする。模擬授業の場合は仮想で書くしかないが、いちおうイメージを膨らませて想像で書いておく。
(3)教材には、その教材の特徴や個性を踏まえた上で、道徳教育の本質とどのように関わっているかを書く。道徳教育の本質を踏まえた上で、着実に教材を読み解き研究する姿勢が要求される。
・本時のねらいには、単元全体の中、この授業で特に何を狙いとするかを記入する。
・指導過程には、具体的にどのように展開するかを書く。「発問」の内容をしっかり決め、それに対する生徒たちの反応を想像しながら、想定される事態について細かく記入しておく。
・評価は、学習指導要領の観点に従うこと。

資料やワークシートのコピー

・水曜日までにpdfファイル等を電子メールに添付して送ってくれば、授業にかかる費用内で対応しておく。それを超えたら、基本的には自腹とする。
・印刷部数は30部程度。

教育学Ⅱ-9

■新松戸キャンパス 11/16(金)
■龍ケ崎キャンパス 11/26(月)

前回のおさらい

・1958年版学習指導要領:高度経済成長。
・1977年版学習指導要領:オイルショック。
・臨時教育審議会。民営化、規制緩和の論理。

学習指導要領の変遷(3)

1998年の学習指導要領改訂

・「生きる力」の育成。教育内容の厳選、「総合的な学習の時間」の新設。
・世間一般が言ういわゆる「ゆとり教育」は、この時期の教育を指します。学校週五日制=1995年から月2回。2002年から完全実施。
学校週5日制のめざすものは…

学校週5日制は、学校、家庭、地域社会の役割を明確にし、それぞれが協力して豊かな社会体験や自然体験などの様々な活動の機会を子どもたちに提供し、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」をはぐくむことをねらいとしています。
子どもたちの「生きる力」をはぐくむためには、豊かな体験が不可欠です。自然体験などが豊富な子どもほど、道徳観や正義感が身についているという調査結果も出ています。

・授業時間削減=公的部門の割合を減らし、市場に委ねる割合を増やすことです。公的な学校の時間を削減した分、私的に自由に使える時間が増えました。
・ゆとり教育の本質とは、「公・官/私・民」の配分の問題です。

自由化、民営化、規制緩和、構造改革のデメリット

(1)本当に「個性」の育成につながるのでしょうか? 単に「序列化」が進行し格差が拡大するだけではないでしょうか?
(2)本当に質が向上するのでしょうか? 競争に際して不正を行う者が多いとどうなるでしょうか。
(3)教育は「サービス」なのでしょうか?

学力格差の拡大

・いわゆる「学力低下」の実態。
・授業時間削減:教育の市場化によって格差が拡大しました。十分な教育資金で子供を塾にやれる家庭と、アルバイトをしてしまう子供がいる家庭との格差が広がります。
・学校選択制:文化資本の差によって格差が拡大しました。十分な教育情報を集める文化資本(金・時間・情報・人脈)がある家庭とない家庭の格差が広がります。
*春学期に扱った「自由のワナ」を参照のこと。

競争の底抜け

・賞味期限詐欺、耐震偽造詐欺←規制緩和によって未熟なプレイヤーが競争に参加してしまったのが問題です。
・競争の質。真っ当に努力した者が報われているのでしょうか?
・たとえば2011年の大津市いじめ問題。大津市には学校選択制が導入されていましたが、いじめは隠蔽されてしまいました。理屈通りなら学校選択制によっていじめがなくなってもいいのに、現実にそうならなかったのはなぜでしょうか?

教育とサービス消費

・教育は本質的に「サービスの消費」ではなく、生徒との共同的な「価値の生産」の過程です。
・サービスとしての教育は、単に利己主義的な人間を育てる結果に終わらないでしょうか?
・学生に人気のある先生は、本当に良い先生でしょうか?

復習

・「ゆとり教育」という見かけの教育問題の下で、本当に進行していた自由化・民営化・規制緩和・構造改革について把握しよう。
・市場化のメリットとデメリットについて押さえよう。

予習

・2017年の学習指導要領改訂について調べよう。

【要約と感想】『イソップ寓話集』

【要約】イソップ寓話と呼ばれるものの中には様々な成立過程を経てきた話が混在していますが、本書は基本的な史料批判を加えた上で11部に分類し、訳出しています。巻末付録にはイソップ寓話を引用した古典一覧の表も付いており、辞典的に使用する際にも極めて有用です。この労力には頭が下がります。逆に言えば、子供に童話を読み聞かせる目的で買うような本ではありません。

【感想】まあ、まず思ったのは、玉石混淆というか、よくできた話と、まるで意味をなさない話とのギャップが凄いということだ。子供向けにアレンジされて人口に膾炙している話は、さすがに出来が良いものばかりであるように思うけれども、半分くらいは読む価値のない話のように思ってしまう。そう感じてしまうのは、話者と読者を隔てる二千年以上の時のせいなのかもしれないけれど。
あと、一般的に広まっている話とイソップの原典が異なっている話が多いことにも気がつく。たとえば一般的に「アリとキリギリス」として知られている話は原典では「蟻と蝉」となっていたり、「金の斧」として知られている話で登場するのは泉の精ではなくヘルメス神だったりする。「ウサギとカメ」の競争の話も、一般的に知られているものとはニュアンスが微妙に違っていたり。まあ、ちょっとしたトリビアにしか使えない知識かもしれないけれども。
それから、生まれ持った分を守るべきことを強調するあまり、後天的な努力を揶揄し非難するような話が極めて多いことにも気がつく。羊や驢馬や狼や烏やライオンが、もともと持っていた性質を超えて高望みすることで、次々と悲惨な目に遭う。こういった話には、身分制原理が社会を支配していた名残を見出さざるを得ない。持って生まれた性質はどんなに努力しても変わらないという「諦めの境地」を強調するライトモチーフは、現代的には「努力に何の意味もない、勝負は生まれた時に決まっている」というメッセージとして流通してしまう。まあ、21世紀の教育的な観点から見て不適切なのは、あくまでも時代の問題であって、イソップ寓話固有の問題ではないけれども。
いろいろ思うところはあるけれども、こういう洒脱な知恵が2500年前に共通教養となっているギリシア文化の奥深さには、率直に驚かざるを得ない。ホメロスの叙事詩、アイスキュロスの悲劇、ソクラテスの教育、プラトンの哲学等々と並んで、ギリシア文化の底なしの深さの一端を味わえる一冊であることには間違いがない。

中務哲郎訳『イソップ寓話集』岩波文庫、1999年

【紹介と感想】荒木紀幸『新モラルジレンマ教材と授業展開 考える道徳を創る(中学校)』

【紹介】新学習指導要領は「考え、議論する道徳」というキーワードを打ち出していますが、道徳の教科書は相変わらず特定の徳目を一方的に上から注入するような旧態依然のクローズエンド型教材に終始していて、これでは子供の道徳的判断力が育つわけがありません。本当に「考える道徳」を創るためには、教師や教科書が一方的にあらかじめ決まった答えを教えるのではなく、オープンエンド型の教材を使用し、子供たちが主体的に道徳的判断力を鍛えるような授業を行なうべきです。
本書は実際に中学校の道徳の授業で使用できるオープンエンド型の教材を多数用意し、授業の狙いや展開、板書の仕方、教材の特徴や注意点等を添え、「考える道徳」を創るためのヒントを提供しています。

【感想】これまで時間をかけて着実に積み重ねてきた実践経験を土台にしている上に、コールバーグの道徳性発達理論を背景にして議論を組み立てているため、論理的にも実践的にも説得力が高い。昨今の「道徳の教科化」によって、こういった説得力のある道徳的判断力養成のモラルジレンマ実践が増えるのか、それとも旧態依然の徳目注入主義が跋扈するのか、あるいは面倒臭い道徳教育を忌避する傾向が続くのか、実態を注目していかなくてはならない。

荒木紀幸編著『考える道徳を創る 中学校 新モラルジレンマ教材と授業展開』明治図書、2017年