「読書感想」カテゴリーアーカイブ

【要約と感想】近藤卓『子どもの自尊感情をどう育てるか』

【要約】自己肯定感を育むことの重要性は広く知れ渡っているようですが、ただ単に褒めればいいと勘違いしている向きもあるようです。「自尊感情」と「自己肯定感」は厳密には異なるものであり、良かれと思った働きかけが逆効果を生むこともあります。「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」をしっかり区別して、基本的自尊感情を育む働きかけを行ないましょう。
基本的自尊感情と社会的自尊感情を測定する尺度を開発し、「そばセット」と名付けました。広く活用されることを期待します。
自尊感情を育てる授業の実践例も提示しました。ポイントは「共有体験」です。

【感想】「自尊感情の4つのタイプ」という分類は、なかなか分かりやすい。これが頭に入っていると、確かに生徒指導等にも大いに役に立ちそうな気がする。以前に研修で聞いた「子どもの4つのタイプ=働きかけ方の4類型」も、おそらくモトネタはここだろう。実践的にも広く使える類型であるように思う。
尺度開発にもしっかり時間をかけていて、妥当性・信頼性ともに説得力があるように思った。短い本ではあるが、なかなか得るものが大きかったように思う。

近藤卓『子どもの自尊感情をどう育てるか そばセット(SOBA-SET)で自尊感情を測る』ほんの森出版、2013年

【要約と感想】藤野京子『困っている子を支援する6つのステップ』

【要約】意地悪をしたり暴れたりする困った子に対して、頭ごなしに叱っても、問題は解決しないどころか、むしろ悪化します。問題行動のパターンを見極め、適切な支援を行なえば、確実に問題は解決し、子どもは成長していきます。

【感想】心理学の知見を応用しながら、現実的な問題対処のパターンを確立しようと試みている本だ。理論的背景はLSCI(Life Space Crisis Intervention)というものらしい。
6つのステップとは、(1)落ちつかせよう(2)整理させよう(3)見極めよう(4)気づかせよう(5)訓練しよう(6)準備させよう、ということらしい。そして問題のパターンにも6つあり、(1)現実誤認(2)問題の発生源(3)攻撃行動の正当化(4)自己価値(5)スキル(6)他者との不適切な関係、とのことだ。

本書はいろいろ具体的な対処を示しているわけだが、一言で言えば「メタ認知」とか「セルフ・モニタリング」という概念に集約されるように思った。子どもが意地悪や暴力など不適切な行動を起こしてしまうのは、要するに自分を客観視できておらず、その行動がどのような帰結を招くのか予測ができていないからだ。自分の行動や感情を第三者視点から分析できるようになれば、功利主義的に考える限り、不適切な行動は減るに決まっているのだった。いかにメタ認知の視点に気づかせるかが、具体的な対処のスキルとなってくる。

とはいえ、メタ認知ができる上で問題行動を起こす人間も、世の中には存在するわけだ。こういう人間に対しては、本書の対処法は役に立たないような気がする。
まあ、本書は素直な年齢の子どもを対象にしているので、あまり心配することもないのだろうけれども。

藤野京子『困っている子を支援する6つのステップ―問題行動解決のためのLSCI(生活空間危機介入)プログラム―』明石書房、2010年

【要約と感想】岡田祥吾『英語学習2.0』

【要約】英語ができるようになるために決定的に重要なのは、自分に最適な学習方法を見つけることです。メタ認知とセルフモニタリングが大切です。学習法を効率化し、永続きする方法を選び、学習効果を実感しながら英語を身につけましょう。

【感想】著者本人はコンサル時代に身につけた「問題解決アプローチ」だと言っているけれども、私が専攻する教育学の文脈では、それを「メタ認知」あるいは「セルフモニタリング」という概念で説明する。目標を定め、自分の性向を分析し、方法を意識的に選択し、その効果を客観的に測定して、方法を微調整する。いわゆるPDCAサイクルを適切に回すためには、自分自身の適性を見極め、方法が最適化されているかを確認する視点が必要となる。それが「メタ認知」であり「セルフモニタリング」だ。それができる人間は、英語に限らず、目標さえ定まれば、自然と伸びていくに決まっているのだった。逆に言えば、力がつかないのは、目標が適切に定まっていないか、メタ認知ができていない可能性が極めて高いことになる。
そんなわけで、本書は本気で英語を身につけたい自発的な大人のための本であって、むりやり学習させられる受け身な学生向けの本ではない。

岡田祥吾『英語学習2.0』角川書店、2019年

【要約と感想】共同通信大阪社会部『大津中2いじめ自殺―学校はなぜ目を背けたのか』

【要約】2011年に発生した中学生の自殺は、どうして防ぐことができなかったのか、学校や遺族への綿密な取材を通して明らかにしようとした本です。
あわせて、いじめの実態を把握することがいかに難しいか、いくつかの実例を元に記します。また近年注目されるようになった第三者調査会の意義についても触れています。
いま、学校と教師は競争と管理に圧迫され、ゆとりを急速に失っています。教師がゆとりをもって同僚性を取り戻さない限り、解決は難しそうです。

【感想】いじめを扱った本、特に実例を丁寧に取材して再構成した本は、読んでいて暗澹たる気分になる。自殺した子どもの気持ちを想像すると、やりきれない気持ちになる。本書も、読んでいるうちに辛くなって、なかなか先に進まない。が、読まねばならぬ。最後の、生徒たちのアンケートが、重い。

意を強くしたのは、やはりいじめを解決するためには「同僚性」がキーワードになるということだ。教員同士のコミュニケーション量を増やし、情報を共有し、風通しを良くすることがいちばん大事なのだ。ひとりで問題を抱えても、ロクなことにはならない。個性的な教員がチームを組んで、一体となって解決に向かうのべきなのだ。一人の教員が単独で力をつけるだけでは、根本的な解決には至らない。
しかし、昨今の教育行政は、新自由主義の悪いところばかり強調して、競争と管理を強め、むしろ同僚性の破壊を推し進めてきた。子どものいじめを解決するどころか、教員同士でいじめが発生する始末だ。
本気でいじめを解決しようとするなら、教員一人一人の資質のせいにして責任を押しつけるだけでなく、教育行政が根本的に欠陥を抱えていることを疑った方がいい。

共同通信大阪社会部『大津中2いじめ自殺―学校はなぜ目を背けたのか』PHP新書、2013年

【要約と感想】荻上チキ『いじめを生む教室―子どもを守るために知っておきたいデータと知識』

【要約】いじめを解決するために必要なデータと知識は、かなり集まっています。しかし愚かで勉強不足の芸能人など、マスコミはそれらの知見をまったく利用せず、トンチンカンでいい加減でデタラメな感情論を垂れ流しています。道徳教科論者も同様に愚かです。それではいじめは解決しません。
いじめを解決するために、まず日本特有の現象を把握しましょう。それは、いじめが「教室」で起こっていることです。また、9月に深刻化し、その芽は6月にあることです。先生が解決できるということです。体罰がいじめを助長することです。
データを踏まえて、「不機嫌な教室」から「ご機嫌な教室」へと転換しましょう。「良い/悪い」ではなく「アウト/セーフ」で指導しましょう。ハイリスク層へのケアを厚くしましょう。教員のゆとりを増やしましょう。

【感想】いじめに関する総合的な知見として、2019年時点ではもっともコンパクトに良くまとまっている本かもしれない。理論、実態、予防法、解決策など、総合的な理解が得られる好著のように思う。
おとなたちが力を合わせて、いじめを解決していきたいものだ。(しかしその前に、おとな同士のいじめをなくさなければな…)

【言質】道徳教科化といじめの関連に関する言及をメモしておく。

「そもそも道徳教科化の推進論者は、その政策がいじめ対策に効くという論拠を示せていません。もともと道徳を教科化したいと考えていた人たちが、大津の事件を政治利用したにすぎないのです。」79頁

【リンク】
ストップいじめ!ナビ いますぐ役立つ脱出策

荻上チキ『いじめを生む教室―子どもを守るために知っておきたいデータと知識』PHP新書、2018年