【教育課程編成の基礎】教科等横断的な視点とは何か?

わかりやすく言えば

 それぞれの教科がバラバラに授業をしていては、これからの時代に必要な能力が育たないので、各教科が足並みを揃えて授業をしていきましょう、ということ。
 なのですが、雑誌やネットの記事を見ると、中には勘違いしているものもあります。

ありがちな勘違い

 よーし、各教科が足並みを揃えればいいんだな、ということで、「一学期は音楽で海の歌をやるから、社会では海産物を扱って、数学では海の面積を求めて、理科では海水の塩分濃度を計って、体育では水泳をして、国語では『スイミー』でも読むか……」というのは、ありがちな勘違いです。
 こうやって足並みを揃えることは、必ずしも悪いというわけではないのですが、文部科学省が求めている「教科等横断的な視点」の本命とはズレています。どこがズレているかというと、コンテンツによって足並みを揃えようとしているところです。

コンテンツからコンピテンシーへの転換を意識する

 今回の学習指導要領の土台にある考えは、「コンテンツからコンピテンシーへの転換」です。コンテンツとは日本語では「内容」という意味で、つまり「知識重視の教育」を表わしています。一方のコンピテンシーとは日本語では「能力」という意味で、つまり「資質・能力を育成する教育」を表わしています。これまでの知識重視の教育を反省し、ホンモノの能力を育成する教育へと転換するのが、文部科学省の狙いです。
 だとしたら、「教科等横断的な視点」を実現する上でも、もちろんコンテンツからコンピテンシーへの転換を意識しなければいけません。先ほどの勘違いは、コンテンツの共有ばかりに目を奪われて、コンピテンシーのことを何も考えていないことが本質的な問題です。(いちおう、コンテンツの横断も必要ではあります。)

育成すべき資質・能力を明確にする

 コンピテンシーを重視して「教科等横断的な視点」を実現するためには、まずそもそも「どういうコンピテンシーを育成するか」が明らかになっていなければなりません。教科等を横断する作業を始める前に、まずはしっかりと「育成すべき資質・能力」を明確にしましょう。
 これについては、別のページにまとめておきましたので、ご参照ください。→「育成を目指す資質・能力とは―知識から21世紀型能力へ―

 以上、大雑把に「教科等横断的な視点」を理解したところで、具体的に学習指導要領の記述を確認していきましょう。

「教科等横断的な視点」の具体的なかたち

 学習指導要領には、以下のように「教科等横断的な視点」が定義されています。(下は小学校学習指導要領からの引用ですが、中学校学習指導要領も「児童」が「生徒」に変わっている以外は同じ内容です。)

2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1) 各学校においては、児童の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
(2) 各学校においては、児童や学校、地域の実態及び児童の発達の段階を考慮し、豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくことができるよう、各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする。(19頁)

 まず分かることは、どうやら「教科等横断的な視点」も、(1)と(2)で種類が分かれているということです。結論から言うと、(1)はコンピテンシーによる教科等横断、(2)はコンテンツによる教科等横断です。この(1)と(2)の違いさえ分かれば、教科等横断的な視点についてはほぼ理解したも同然です。逆に言えば、ここを理解していないと、本質的なことを何も理解していないことになります。
 ちなみに(2)で言っている「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力」の具体的な項目については、『学習指導要領解説総則編』の付録6で内容が詳しく示されています。
 学習指導要領が要求していることを整理して一覧すると、

(1)-1=言語能力
(1)-2=情報活用能力(情報モラル含む)
(1)-3=問題発見・解決能力

(2)-1=伝統や文化に関する教育
(2)-2=主権者に関する教育
(2)-3=消費者に関する教育
(2)-4=法に関する教育
(2)-5=知的財産に関する教育
(2)-6=郷土や地域に関する教育
(2)-7=海洋に関する教育
(2)-8=環境に関する教育
(2)-9=放射線に関する教育
(2)-10=生命の尊重に関する教育
(2)-11=心身の健康の保持増進に関する教育
(2)-12=食に関する教育
(2)-13=防災を含む安全に関する教育

 というふうに教科等横断的な視点の全体像が見えてきます。

コンテンツによる横断とコンピテンシーによる横断

 比較的分かりやすいのは(2)です。というのは、前の学習指導要領と同じところが多いからです。たとえば(2)-12「食に関する教育」は、前の学習指導要領から既に教科等横断的に行うとされていました。具体的にはこれまでも「理科では栄養素の化学成分について学び、社会では食糧自給率や輸出入の問題を扱い…」というふうに、考えてきたはずです。(2)の他の内容についても、基本的に同じように考えていけばいいでしょう。
 しかしだからこそ、新学習指導要領が言っている(1)の具体的な姿が分かりにくくなるかもしれません。というのは、(2)が目指す「教科等横断」がコンテンツの共有による横断なのに対し、(1)のほうはコンピテンシーによる横断を考えているからです。そして現行学習指導要領の狙いが「コンテンツからコンピテンシーへの転換」だったことを考え合わせれば、文部科学省の本命は(1)のコンピテンシーによる教科等横断です。

教科の本質を踏まえる

 では、コンピテンシーによる横断を実現するには、どうすればいいでしょうか。決定的に重要なポイントは、教科の本質にあります。
 たとえば「教科横断的に論理的な力を育てる」ことを目指すとしましょう。そして、国語科を通じて論理的な力を育てることができますし、数学科を通じても論理的な力を育てることができます。家庭科や保健体育でも、また同じです。ただし、それぞれ言葉では同じように「論理的な力を育てる」と言っても、実際に子どもたちが伸ばす「論理的な力」は、教科ごとに違っているはずです。国語科で伸びる論理的な力と、数学科で伸びる論理的な力は、違っているはずです。国語科では言語を使った論理的な力が育ち、数学科では数や図形を使った論理的な力が育っているはずです。家庭科や保健体育でも、また同じはずです。そしてそれぞれの教科で育てた「論理的な力」は、全部が重なり合って、一人の子供の全体的で総合的な「論理的な力」となるでしょう。こうして子どもたちが各教科を通じて総合的に育んだ力を「教科等横断的に育成された論理的な力」というわけです。
 このように各教科が全体的・総合的に子供の能力を育んでいくためには、まずは、それぞれの教科がどのような力を育むのか、教科の本質をしっかり把握していなければなりません。国語科が育む能力はどのようなもので、数学科が育む能力はどういうものか。それぞれの教科が育む力を教師がしっかり掴んでいて、各教科の中で子供の力を伸ばしていけば、「教科等横断的な視点」の基本が実現していると言えるでしょう。

教科の本質とは何か?

 それでは、そもそも「教科の本質」とは何でしょうか。この決定的に重要なポイントについては、それぞれの教員が自覚を深めていくしかありません。
 ヒントは、「教科の本質」というものが、小学校低学年だろうが、中学だろうが高校だろうが、変わらないところにあります。もちろん、小学校低学年と高校では、コンテンツはまったく異なります。しかし、どれだけコンテンツが変わろうとも教科の本質は同じはずです。このような、「コンテンツが変わっても、コンピテンシーは変わらない」ような何かを掴めたとき、「教科の本質」が分かったと言えるでしょう。

総合的な学習の時間と各教科の連動

 さて、「教科等横断的な視点」の総仕上げが、総合的な学習の時間です。総合的な学習の時間も、ぜひ「コンテンツからコンピテンシーへの転換」を踏まえて構想したいものです。
 従来の総合的な学習の時間は、コンテンツありきの構成が多かったように思います。もちろんそれで問題があったというわけではありません。が、新しい学習指導要領の土台にあるのが「コンテンツからコンピテンシーへの転換」という思想にあることを踏まえると、総合的な学習の時間も、従来のコンテンツ型だけでなく、コンピテンシー型を構想してもいいでしょう。まず「育成したい資質・能力」が最初にあって、そこから総合的な学習の時間のあり方を構想すると、コンピテンシー型になります。すると、各教科も「育成したい資質・能力」から構想されているわけですから、なにも特別なことをしなくても、自然と総合的な学習の時間と各教科が連動していることになります。むりやり各教科と総合的な学習の時間のコンテンツを共通させる必要など、ありません。

まとめ

 コンテンツでつなぐのではなく、コンピテンシーで貫く。これを意識するだけで、ずいぶん教育課程編成が楽になると思います。コンテンツでつなげようと頑張っても、必ずどこかで破綻してしまうでしょう。

 また、「教科等横断的な視点」は単独で実現できるものではありません。カリキュラム・マネジメントの一部分として期待されているものです。各学校には「カリキュラム・マネジメント」として行なうべきことが3つ設定されていますが、「教科等横断的な視点」はそのうちの1つです。教科等横断的な視点を真剣に実現しようとするなら、カリキュラム・マネジメントの概念についてしっかり理解しておく必要があります。
【参考】カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―

教員採用試験に出る問題

教職教養

 教科等横断的な視点に関する問題は、一次試験のペーパーテストで、学習指導要領の記述を中心に、穴埋めや間違い探しで出題されます。

【北海道・札幌市 2020年】
次の文は小学校学習指導要領(平成29年告示 文部科学省)の第1章「総則」の第1の4である。これを読んで、問1、問2に答えなさい。
各学校においては,児童や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の( 1 )を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な( 2 )を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努めるものとする。

問2 小学校学習指導要領解説 総則編(平成29年 文部科学省)において、下線部に関する説明として、適切なものの組合せを選びなさい。
①学習や生活の基盤として、教師と児童との信頼関係及び児童相互のよりよい人間関係を育てるため、日頃から学級経営の充実を図る。
②各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養う。
③各学校において具体的な目標及び内容を定めることとなる総合的な学習の時間において、教科等間のつながりを意識して教育課程を編成する。
④グループなどで対話する場面をどこに設定するか、児童生徒が考える場面と教師が教える場面をどのように組み立てるかを考え、実現を図っていく。
⑤児童の生活時間と教育の内容との効果的な組み合せを考えたりしながら、年間や学期、月、週ごとの授業時数を適切に定めていく。
ア.①②
イ.①④
ウ.②③
エ.③⑤
オ.④⑤

 答えは「エ」ですね。「総合的な学習の時間」が教科等横断的な視点にとって重要な役割を果たしていることを理解していれば間違えないでしょう。

【千葉県・千葉市 2020年】
次の文は、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善及び必要な方策について(答申)」(平成28年12月 中央教育審議会)の「第1部 第4章 1.『社会に開かれた教育課程』の実現」に関するものである。文章中の( a )、( b )にあてはまる語句の組合せとして、最も適当なものを選びなさい。

新しい学習指導要領においては、教育課程を通じて、子供たちが変化の激しい社会を生きるために必要な資質・能力とは何かを明確にし、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、( a )な視点も持って育成を目指していくこと、( b )を重視しながら学校の特色づくりを図っていくこと、現実の社会との関わりの中で子供たち一人一人の豊かな学びを実現していくことが課題となっている。
(1)a.教科等横断的 b.社会とのつながり
(2)a.主体的・対話的  b.社会とのつながり
(3)a.主体的・対話的 b.キャリア教育
(4)a.教科等横断的  b.学校段階間の接続
(5)a.基礎的・基本的  b.キャリア教育

 答えは「1」ですね。「教科等横断的な視点」というキーワードを知っているだけで解けそうな問題です。

参考文献

■澤井陽介編著・横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校著『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』東洋館出版社、2018年

 新学習指導要領の理念を実際の教育活動に落とし込んだ小学校の実践が報告された本です。カリキュラムをデザインする際に「育成したい資質・能力」を意識すれば、特別に工夫するまでもなく自然と教科等横断的な構成になる上に、管理職だけでなく全教員が参加するカリキュラム・マネジメントに辿り着くことがよく分かります。