育成を目指す資質・能力とは―知識から21世紀型能力へ―

簡単にまとめれば

受験競争に特化した表面的な「知識・内容=コンテンツ」を身につけても、社会に出てからまったく役に立たないので、ホンモノの「資質・能力=コンピテンシー」を持った人材を育てましょう。「知識から能力へ」と教育の重点が変わります。ということ。

まあ「知識から能力へ」という合い言葉だけ見ればそんなに難しく感じませんが、しかし「じゃあ能力って具体的に何?」と考えたときに難しくなり始めるんですね。というわけで、学習指導要領の記述を確認しながら、文部科学省が何を考えているか吟味していきましょう。

コンピテンシー(能力)を伸ばす

ただコンテンツ(知識)を身につけるのではなく、コンピテンシー(能力)を伸ばすためには、具体的に何をどうすればいいのでしょうか?

学習指導要領の記述

学習指導要領の前文は、以下のように述べています。

教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実現していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。(2頁)

学習指導要領の今時改訂の土台にある思想は、コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換です。それは「何を教えるか」から「何ができるようになるか」という転換ですし、さらに言えば主語の転換です。「何を教えるか」の主語は「教師」ですが、「何ができるようになるか」の主語は「児童生徒」です。要するに、教師から子供へと、主役を転換しようということです。子供を主人公として捉えようということです。児童中心主義です。「育成を目指す資質・能力」と言ったとき、まず踏まえておかなければならないのは、子供が中心であるということです。
さて、子供を中心にしたとして。次に「何ができるようになるか」を明らかにするには、「育成を目指す資質・能力」の具体的な中身を明確にしなければなりません。そのために具体的にどう教育課程を編成すべきかは「カリキュラム・マネジメント」に関わる仕事です。学習指導要領は、以下のように方針を示しています。

1 各学校の教育目標と教育課程の編成
教育課程の編成に当たっては、学校教育全体や各教科等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ、各学校の教育目標を明確にするとともに、教育課程の編成についての基本的な方針が家庭や地域とも共有されるよう努めるものとする。その際、第4章総合的な学習の時間の第2の1に基づき定められる目標との関連を図るものとする。(4-5頁)

各学校が具体的に最初に行うことは、(1)教育目標を明確にし、(2)教育課程編成の方針を家庭や地域と共有することですね。カリキュラム・マネジメントの基本です。そしてその際に「関連を図るもの」として、特に「総合的な学習の時間」が上げられていることに要注目です。

総合的な学習の時間を中心にする

さて、「総合的な学習の時間」についての「第4章第2の1」は、以下のように書かれています。

各学校においては、第1の目標を踏まえ、各学校の総合的な学習の時間の目標を定める。(144頁)

おっと、またたらい回しですが、「第1の目標」とはどういうことか、確認すれば以下のように書かれています。

探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1) 探究的な学習の過程において、課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け、課題に関わる概念を形成し、探究的な学習のよさを理解するようにする。
(2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かしながら、積極的に社会に参画しようとする態度を養う。(144頁)

要するに、各学校が学校目標を定め教育課程編成を行う際には、総合的な学習の時間を中核に位置づけるように構成する必要があるということが説かれているのだと理解すればよさそうですね。

教科等横断的な視点

そして『学習指導要領』は続けて具体的な教育課程編成について以下のように注意を促しています。カリキュラム・マネジメントの指針でも強調されていた「教科等横断的な視点」についての記述です。

2 教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1) 各学校においては、生徒の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
(2) 各学校においては、生徒や学校、地域の実態及び生徒の発達の段階を考慮し、豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくことができるよう、各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする。(5頁)

ここでは、教科等横断的な視点から「資質・能力」を育成するべく教育課程を編成することが求められています。そして教科等を横断しながら育成するべき資質・能力が具体的に列挙されています。確認しますと、
(1)-1:言語能力
(1)-2:情報活用能力(情報モラル含む)
(1)-3:問題発見・解決能力
(2):現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力
となっています。

そして極めて重要なことは、これら資質・能力が、各教科固有の「見方・考え方」を深める「深い学び」を通じて育成されていくことが期待されているということです。注意したいのは、「教科等横断」に関してしばしば見られる、「コンテンツで横断する」という勘違いです。
「コンテンツで横断する」とは、例えば、「音楽で海を扱う単元があるから、理科でも海を扱って、社会でも海を扱おう」という考え方です。これを実践すること自体は別に悪くはないのですが、まったく「教科等横断的な視点」になっていないことも事実です。というのは、「教科等横断的な視点」が求めているのは「コンテンツによる横断」ではなく「コンピテンシーによる横断」だからです。「海というコンテンツ」で教科等を横断することは、「言語能力というコンピテンシー」で横断することとは、まったく別のことです。

では「コンピテンシーで横断する」とはどういうことでしょうか? ここに「教科の本質」が深く関わってきます。
たとえば「言語能力というコンピテンシー」を育成しようとするとき。国語科は国語科の本質を通じて子供たちの言語能力を育てます。数学科は数学科の本質を通じて子供たちの言語能力を育てます。音楽や家庭科等も、また同じです。各教科が、それぞれの教科の本質を通じながら言語能力を育成していきます。そして国語科には国語科の特性があり、数学科には数学科の特性がある以上、各々の教科が育成する言語能力はそれぞれ違っているはずです。各教科で異なる観点から言語能力を育成していきますが、最終的にはそれらが一体となって子供の言語能力が全体的に成長していきます。それを最終的に完成させるのが「総合的な学習の時間」ということになります。これが「コンピテンシーで横断する」ということです。

教科等横断的な視点については別のページに詳しくまとめてありますので、ご参照下さい。→【参考】教科等横断的な視点とは何か?

「教科を教える」から「教科で学ぶ」へ

「コンピテンシーで教科等を横断する」ことを実現するためには、各教科が子供たちにどのような能力を育てるのか、「教科の本質」をしっかり認識する必要があります。単に「コンテンツ」を教えるのではなく、コンテンツを通じてコンピテンシーを伸ばすことを意識しなければいけないわけです。
これを私はスローガン的に【「教科教える」から「教科学ぶ」へ】の転換というふうに呼びます。従来のコンテンツ重視の教育では、各教科ごとに特有の知識を与えることが教科の中心的役割と思われていました。しかしこれからは、教科特有の知識を与えることも重要ではありますが、それを通じて「能力を育てる」こともさらに重要であることを意識しなければなりません。そのためには、どうしても各教員が「教科の本質」をしっかり捕まえておく必要があるわけです。そしてこの「教科の本質」を踏まえた授業が、要するに「深い学び」を実現します。だから「主体的・対話的で深い学び」というものに対する洞察が必要になってくるわけですね。→【参考】主体的・対話的で深い学びとは

どうしてコンピテンシー?

以上、各学校や各教員に何が求められているかは確認できました。しかし考えてみれば、そもそも、どうして「コンテンツからコンピテンシーへ」と転換する必要があるのでしょうか。従来の知識中心の教育では本当にダメなのでしょうか?
そんなわけで、さらに突っ込んで、教育原理的に学習指導要領の思想背景を確認していきましょう。

学習指導要領解説 総則編の記述

『学習指導要領解説 総則編』では、今時改訂の狙いが以下のように示されています。

② 育成を目指す資質・能力の明確化
中央教育審議会答申においては、予測困難な社会の変化に主体的に関わり、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え、自らの可能性を発揮し、よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要であること、こうした力は全く新しい力ということではなく学校教育が長年その育成を目指してきた「生きる力」であることを改めて捉え直し、学校教育がしっかりとその強みを発揮できるようにしていくことが必要とされた。また、汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮流を踏まえつつ、知識及び技能と思考力、判断力、表現力等をバランスよく育成してきた我が国の学校教育の蓄積を生かしていくことが重要とされた。
このため「生きる力」をより具体化し、教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力を、ア「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」、イ「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」、ウ「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」の三つの柱に整理するとともに、各教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づく再整理を図るよう提言がなされた。(3頁)

ここで言われている「汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮流」とは、具体的にはOECDで議論されているキー・コンピテンシーを指しています。そして文部科学省は、この「世界的な潮流」を参考にした上で、学校教育法第30条に定められた「学力の三要素」に対応して「資質・能力の三要素」を設定したようですね。「資質・能力」を設定するに当たって、いったいどのような「世界的な潮流」をどのように参考にしたかは、平成26年3月31日「論点整理」に見ることができます。

論点整理(平成26年3月31日)の記述

学習指導要領改訂に向け、教育課程に関する学識経験者を集めて開催された「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」では、以下のような提言が行われました。

今後、学習指導要領の構造を、
① 「児童生徒に育成すべき資質・能力」を明確化した上で、
② そのために各教科等でどのような教育目標・内容を扱うべきか、
③ また、資質・能力の育成の状況を適切に把握し、指導の改善を図るための学習評価はどうあるべきか、
といった視点から見直すことが必要。
← 従来の学習指導要領は、児童生徒にどのような資質・能力を身に付けさせるかという視点よりも、各教科等においてどのような内容を教えるかを中心とした構造。そのために、学習を通じて「何ができるようになったか」よりも、「知識として何を知ったか」が重視されがちとなり、また、各教科等を横断する汎用的な能力の育成を意識した取組も不十分と指摘されている。
世界的潮流として、OECDの「キー・コンピテンシー」をはじめ、育成すべき資質・能力を明確化した上で、その育成に必要な教育の在り方を考える方向。(アメリカを中心とした「21世紀型スキル」、英国の「キー・スキルと思考スキル」、オーストラリアの「汎用的能力」など。)
日本でも比較的早い時期から「生きる力」の理念を提唱しており、その考え方はOECDのキー・コンピテンシーとも重なるものであるが、「生きる力」を構成する具体的な資質・能力の具体化や、それらと各教科等の教育目標・内容の関係についての分析がこれまで十分でなく、学習指導要領全体としては教育内容中心のものとなっている。
← より効果的な教育課程への改善を目指すためには、学習指導要領の構造を、育成すべき資質・能力を起点として改めて見直し、改善を図ることが必要。

以上の記述から、『学習指導要領解説 総則編』にあった「汎用的な能力の育成を目指す世界的潮流」が、OECDの言う「キー・コンピテンシー」をイメージしていることが明らかとなります。そしてOECDの「キー・コンピテンシー」については、以下のように言及していることを確認できます。

特に、OECDの「キー・コンピテンシー」の概念については、グローバル化と近代化により、多様化し、相互につながった世界において、人生の成功と正常に機能する社会のために必要な能力として定義されており、OECD生徒の学習到達度調査(PISA)にも取り入れられ、大きな影響を与えている。
この「キー・コンピテンシー」の概念については、具体的には、次のような内容で構成されている。
・ 言語や知識、技術を相互作用的に活用する能力
・ 多様な集団による人間関係形成能力
・ 自律的に行動する能力
・ これらの核となる「思慮深く考える力」(9頁)

かなり具体的な記述となっていますね。注目は、ここで育成される資質・能力が「人生の成功と正常に機能する社会のために必要な能力」と定義されていることです。この文章が言う「成功」とは具体的にどのような状況を指すのか、あるいは「正常に機能する社会」とはどのような社会なのか、十分に吟味する必要があるでしょう。検討会でも、「キー・コンピテンシー」をどのように捉えるのかに対して、たとえば経済色が強いのかそうでないのかについてなど、委員の間で見解の相違が見られます(17頁)。経済発展を最優先に考えた能力育成なのか、そうでないのかで、ずいぶん結論は変わってきそうです。
もちろん検討会は無批判にOECDの見解を取り入れたのではなく、他の様々な能力観と比較対照しながら「生きる力」概念の分析に取り組んで、最終的に以下のように整理されることとなりました。

そのための一つの方策として、育成すべき資質・能力を踏まえつつ、教育目標・内容を、例えば、以下の三つの視点を候補として捉え、構造的に整理していくことも考えられる。
ア)教科等を横断する、認知的・社会的・情意的な汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの
① 認知的・社会的・情意的な汎用的なスキル等としては、例えば、問題解決、論理的思考、コミュニケーション、チームワークなどの主に認知や社会性に関わる能力や、意欲や情動制御などの主に情意に関わる能力などが考えられる。
② メタ認知(自己調整や内省・批判的思考等を可能にするもの)
イ)教科等の本質に関わるもの
具体的には、その教科等ならではのものの見方・考え方、処理や表現の方法など。例えば、各教科等における包括的な「本質的な問い」と、それに答える上で重要となる転移可能な概念やスキル、処理に関わる複雑なプロセス等の形で明確化することなどが考えられる。
ウ)教科等に固有の知識・個別スキルに関わるもの(21頁)

ここに見られる見解が、『学習指導要領』本文には「教科等横断的な視点」および「深い学び」という形で落とし込まれています。逆に言えば、「教科等横断的な視点」や「深い学び」とは何かを本質的に理解しようと思ったら、この記述まで遡る必要があるわけですね。

様々な21世紀型学力

以上、学習指導要領の背景にある能力観について見てきました。「論点整理」等では、PISAだけでなく、様々な21世紀型学力も検討されていますので、代表的なものをざっと見ておきましょう。

年月主体提言内容
1996文部科学省生きる力確かな学力、豊かな心、健やかな体
1998大学審議会答申課題探求能力
1999日本経営者団体連盟エンプロイヤビリティ(雇用されうる能力)
2001OECD-PISAリテラシー
2003内閣府-人間力戦略研究会人間力知的能力要素、社会・対人関係的要素、自己制御的要素
2004厚生労働省就職基礎能力
2006経済産業省社会人基礎力前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力
2006OECD-DeSeCoキー・コンピテンシー
2008「学士課程教育」に関する中教審答申学士力教養を身に付けた市民として行動できる能力として、知識・理解、相同的な学習経験と創造的志向、汎用的技能、態度・志向性
2011「キャリア教育・職業教育」に関する中教審答申基礎的・汎用的能力人間関係形成・社会形成能力、自己理解・自己管理能力、課題対応能力、キャリアプランニング能力

共通しているのは、従来型の能力ではこれからの新しい社会(知識基盤社会、高度情報化社会)には対応できないという認識でしょう。産業界が教育に要求しているのは、従来のハードスキル(目に見える知識・技能)だけでなく、ソフトスキル(目に見えない人格特性)も含めた総合的な能力の開発です。受動的な順応性ではなく、能動的な創造性や個性が求められているわけです。「生きる力」も、同じ特徴を持っていますね。

批判的な吟味

以上、文部科学省の見解を確認してきました。以下、私の個人的な見解を記しておきます。

「人格の完成」との関係

個人的に特に気になるのは、教育の目的である「人格の完成」と、ここで議論されている「資質・能力」の関係性です。注目したいのは、検討会自身が以下のように言明した点です。

今後、育成すべき資質・能力の検討に当たり、まず留意すべきことは、教育基本法に定める教育の目的を踏まえれば、育成すべき資質・能力の上位には、常に個人一人一人の「人格の完成」が位置付けられなければならないということである。
あわせて、教育基本法に定める教育の目的の一つとして、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」の育成があることを踏まえ、自立した民主主義社会の担い手として求められる資質・能力の育成は、公教育の普遍的な使命であることに留意しつつ検討を行うことが必要である。(10頁)

他、「人格の完成」という理念に対して、委員個人の意見としては大きな関心が払われていることがわかります(15頁)。私が勝手に推測するに、これはおそらく安彦忠彦氏の発言でしょう。しかし、この見解が『学習指導要領』本文にしっかり反映しているかどうかについては、個人的には心許ないところです。いちおう前文には教育基本法の目的と目標には触れられているものの、単にアリバイ的にお題目として掲載されているように見えてしまいます。というのは、「人格の完成」と「育成を目指す資質・能力」との内的連関、あるいは教育原理的な結びつきが、まったく見えてこないからです。そしてそれは、「人間形成とは何か?」を統一的に記述する教育哲学が『学習指導要領』に欠けているせいでしょう。「育成を目指す資質・能力」を把握する限りでは、AIにも対抗可能な高機能な自律型有機生命体を計画的に作ろうとする意図は見えるものの、それを無条件に「人間」と呼んでいいかどうかは判然としません。まあ、『学習指導要領』はあくまでも教育課程編成のための大綱的な基準に過ぎないから、教育哲学が欠けていることそのものに罪はないかもしれませんし、高度な教育的配慮から意図的に記述を避けている可能性もあるでしょう。ただその教育哲学の欠如の原因が、経済原理による教育の乗っ取りにあるとしたら、大問題です。

コンピテンシー・ベースへの転換と言うが

文科省は、今回の学習指導要領の主要論点を、コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換だと言います。しかし振り返ってみれば、同じ事は明治時代の注入主義(コンテンツ・ベース)から開発主義(アビリティ・ベース)への転換に既に見られます。あるいは、100年以上前にジョン・デューイが遙かに体系的な哲学を背景に主張しているところです。しかも文科省がデューイの教育理論をどう捉え、かつて自分自身が放棄したことをどのように反省しているかは、まったく明らかにしていません。かつてコンピテンシー・ベースの教育を放棄した理由、あるいはうまく機能しなかった原因を顧みずに、本当に学習指導要領が目指すコンピテンシー・ベースの教育など実現できるのか、なかなか不安なところではあります。過去の総括が欠けているところに、未来への展望は開けないように思うからです。

参考文献

学習指導要領の方向性に親和的な本。引用・参照文献も多く、論理構成もスッキリわかりやすく、具体的な実践に対する配慮もあって、この種の本としては最良の部類。教育は、コンテンツ・ベース(知識・内容)からコンピテンシー・ベース(資質・能力)重視に変わらなければならないこと、そして具体的な実践では、知識か能力かどちらか一方が重要と決め込む必要はなく、上質な知識を身につけながら資質・能力を伸ばすというふうに、両方を調和的・総合的に育成することが成功の秘訣と説く。
国立教育政策研究所編『資質・能力[理論編]』東洋館出版社、2016年

新学習指導要領が何を目指しているのか、ものすごくよく分かる。現役の教師だけでなく、学生にとっても読みやすそうだ。教員採用試験対策にもいいんじゃないか。
特に良いのは、文科省が立場的に書けないようなことが、本書ではしっかり書かれているところだ。具体的には、これまでの教育が産業社会に従属してきたことの明瞭な指摘と、背景にブルーナーの復権があるという記述が腑に落ちた。

奈須正裕『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社、2017年

著者は、学習指導要領改訂のために「資質・能力」を検討した文部科学省の有識者会議で座長を務めた。が、その主張は、必ずしも学習指導要領の内容と親和的ではない。むしろ批判的とすら言える。特に「資質・能力」と「人格」との関係に対する理解については、決定的な隔たりがある。「資質・能力」の何がどのように問題なのかを考える上で、極めて重要な示唆を与えてくれる本。
安彦忠彦『「コンピテンシー・ベース」を超える授業づくり-人格形成を見すえた能力育成をめざして』図書文化、2014年

学習指導要領の方向性に懐疑的な本。「資質・能力」の育成は、単に産業界の要請に応える人材育成に過ぎないという懸念を随所に見ることができる。たとえば安彦忠彦は「筆者はこれに対して、「人格性」や「学問的な力」は育つのかと役人に質問し、大丈夫だという答えを得たことがあるが、その面への配慮が欠けることが心配である。」(p.19)と言う。また中野和光は、「次期学習指導要領は、2006年の教育基本法改正、教育関連三法の改正を土台として、OECDとの連携をもとに、グローバル経済競争という「総力戦」に必要な人材資源の育成のために教育制度を使おうとしている。」(p.32)と言う。あるいは福田敦志は、「新しい社会に適応するように「陶冶」される必要があるということは、適応を要請する社会のあり様それ自体は疑わせないということを意味することも合わせて押さえておきたい。」(p.116)と言う。
日本教育方法学会編『学習指導要領の改訂に関する教育方法学的検討 「資質・能力」と「教科の本質」をめぐって』図書文化、2017年

新学習指導要領が育成を目指すという「資質・能力」というものが、どのような思想的背景から生まれてきたのか、歴史的な経緯をふまえた上で分かりやすく論点を整理しており、読書案内も充実していて、勉強になる。「知識=実質的陶冶」と「能力=形式的陶冶」の関係について、多面的多角的に考察するヒントがたくさん含まれているように思う。
松下佳代編著『<新しい能力>は教育を変えるか 学力・リテラシー・コンピテンシー』ミネルヴァ書房、2010年

■佐藤学「21世紀型の学校カリキュラムの構造 イノベーションの様相」東京大学教育学部カリキュラム・イノベーション研究会編『カリキュラム・イノベーション-新しい学びの創造へ向けて』東京大学出版会、2015年 13-25頁。
・冷戦体制の崩壊とグローバル化という世界情勢の変化に伴って世界の教育がどのように変化したか、コンパクトに概観できる。変化の方向は4つ。(1)知識基盤社会への対応(2)多文化共生社会への対応(3)格差リスク社会への対応(4)成熟した市民社会への対応。なんとなく大雑把には、政府の「教育振興基本計画」の内容と対応しているように見える。が、日本の教育改革は世界水準から見て15年遅れという「ガラパゴス的状況」にあるという指摘は、なかなか重い。