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【要約と感想】JDiCE編『はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業』

【要約】デジタル・シティズンシップの実践は、従来行われてきた情報モラル教育とはまったく異なります。一方的に禁止することではなく、善きデジタル市民として前向きに行動できるためのマインドセットを身につけるための教育を目指します。
 小学校低学年から中高生、特別支援教育で行われた先進事例の指導案が13例掲載されています。

【感想】「デジタル・シティズンシップ」は、GIGAスクール構想の前倒し導入に伴って、教育界で急速に注目された概念だ。昨年度から大学の教職課程でもICT教育の必修事項が拡張された。担当教員が私となってしまったために、ご多分に漏れず慌てて勉強している次第である。
 本書の基本方針は、従来の「寝た子を起こすな」的な隔離や禁止はもう意味がないし逆効果だということだ。そしてこれまで不可能だった実践を可能にするテクノロジーはどんどん導入したほうがいいわけだが、自他共生を図るためには自立した民主主義的マインドを育成していく必要がある。だから単なるメディア教育ではなく、民主主義的精神・シティズンシップの育成を全面的に志向することになる。授業実践も、昭和的な一斉教授ではなく、必然的に主体的・対話的な学びとなる。単に知識を脳みそに詰め込むのではなく、具体的な行動にまで落とし込まないと意味がないからだ。紹介されている実践事例は、なるほど、数他の試練を経て洗練されているように見えるのであった。
 とはいえ、実践は始まったばかりだし、テクノロジーはみるみる進化する。常にアップデートする姿勢がないと、あっという間に置いて行かれてしまう領域なのであった。私も教育界(そしてICT教育)の末席に引っかかっている立場として、責任をもってアップデートに励む所存なのであった。

日本デジタル・シティズンシップ教育研究会編『はじめよう!デジタル・シティズンシップの授業』日本標準、2023年

【要約と感想】工藤勇一・植松努『社会を変える学校、学校を変える社会』

【要約】教育が変われば社会が変わります。人口増加時代の成功体験を引きずった賞味期限切れの教育(暗記中心・前例主義・集団主義・学歴主義)をおしまいにし、人口減少時代に対応した新しい形の教育(主体性・好奇心・チャレンジ精神・失敗上等・個別最適化)に取り組みましょう。

【感想】工藤先生はいつも通りの工藤節で安心するわけだが、対談相手の植松氏のキャラが立っていて、時折工藤先生を圧倒しているように見えるところがすごい。面白く読んだ。ロケットを飛ばす実践の話には、感動した。実は似たような経験は私にもあるが、こういう奇跡的な瞬間に立ち会うことができる(かもしれない)のが教育という仕事の醍醐味だ。
 個人的には、ときどき学生指導に対して自信を喪失するようなタイミングもなくはないのだが、そういうときに思い返したい本だ。もう一度子どもたちが本来的に持っている力を思い出すことができる。

【個人的な研究のための備忘録】人格の完成
 工藤先生が他の本でも主張しているところで、だから単なる思い付きなどではなく確固とした持論であるところの教育基本法一条批判をサンプリングしておく。

「教育基本法の第1条も僕から見ると問題で、教育の目標として「人格の完成を目指し」から入るのですが、そもそも、「人格の完成」って何でしょうか(中略)。しかも、「人格の完成」と条文にあるから、「人格」とは何かという解説書を作る人が出てくるんですよ。解説しないと分からないようなことを法律にするのかって話ですよね。」127-129頁

 まあ仰る通りで、教育基本法が誕生した1947年の時点ではある程度解説なしでも理解できたことのはず(とはいっても旧制高等学校の教養主義の文脈において)だが、おそらく1960年代の天野貞祐や高坂正顕など京都学派あたりの策動を最後に、もはや理解するための文脈が途絶えている。現在、主に道徳教育関連の研究者や実践者が「人格の完成」について分かったかのような解説をすることもあるが、法制当初の精神のかけらも残っていない、頓珍漢なタワゴトになってしまっている。工藤先生が時代に合わせて法律をアップデートさせるべきだと主張する気持ちも分からなくもない。

工藤勇一・植松努『社会を変える学校、学校を変える社会』時事通信社、2024年

【教育学でポン!?】2024年3月30日

いい天気だったので久しぶりに街に出ました。
【本日の歩数】9740歩■渋谷をぐるぐる。

働き方改革

■奨学金を全額代理返済 千葉市教委、教員確保で(チバテレ+)
そこそこの額なので、対象者にとってはありがたい話です。どんどん利用していきましょう。

ICT

■『桃太郎電鉄』「春休みの宿題として10年以上プレイ」コナミ担当者が語る“教育版”の存在、全国7000校以上が導入するスーパー学校教材に(週刊女性PRIME)
大学の教職課程でも導入したいのですけどね。

■スマホ・PC利用3時間超える児童、不健康な生活習慣に 富山大グループが研究成果(北日本新聞)
相関関係が示されているだけ、ということには注意しましょう。

■学習用端末の個人情報保護に不備、文科省が全教育委員会を調査へ…個人情報の管理徹底を促す(讀賣新聞オンライン)
外堀を埋めていこうという感じですか。

ジェンダー

■県立高「共学化」アンケート、4月実施で検討…中高生、保護者対象 「なるべく幅広く」も実施学年は明言せず(埼玉新聞)
単なるアリバイ作りでなければいいのですが。

不登校

■増える「不登校」――“もう1つの居場所”が中学校に3年女子「ポジティブな感情に」無事に卒業…校長のエールは『every.特集』(日テレ)
いわゆる「校内フリースクール」です。各地で実践が積み重ねられて、顕著な効果があるような印象です。

学校間接続

■「日本はキャンパスに足を運ばず、偏差値順に受ける」 大学受験は“結婚”? アメリカ型入試を日本に持ち込むのは難しい?(ABEMA PRIME)
まあ、そういうことですね。アメリカの高大接続の仕組みも世界的に見てかなり特殊ですが、日本は日本でガラパゴスです。

■減少する一般入試枠…「入試制度」のあり方について、現役東大生ライターと激論(TOKYO MX+)
いろいろ議論しているようですが、大学の「アドミッションポリシー」の存在を考慮した形跡は全くありませんでしたね。

学校

■奈良教育大は附属小の創造的な教育実践を「不適切」と切り捨てた。教育大として「不適切」なのでは?(Yahoo!JAPANニュース)
焦点が見えずにもやもやする事案ですね。ところで記事内に奈良県教育委員会の話が出てきていますが、そもそも「国立」の小学校は私立と同じく教育委員会の権力が届かないところだと理解していたのですが、そのあたりの権力配分闘争が背景にあるということですか?

■授業の理解度に所得格差、学習時間少なく自己肯定感も低い傾向…岐阜県子ども調査(讀賣新聞オンライン)
というエビデンス。これを踏まえてどうするかは大人たちの責任です。

■乱暴な言葉遣いをする子に効果的だった!学校の先生が実践する3つの方法!(Yahoo!JAPANニュース)
一言でまとめると「共感からスタート」ということです。

■新設!「おいしい給食サポート課」 さいたま市、4月から学校給食費を公会計化 学校、保護者の負担軽減へ(埼玉新聞)
■給食の無償化求め署名活動 田辺市の市民団体「県の補助を好機に」、和歌山(紀伊民報AGARA)
長年の懸案にようやく手が付きつつあるのはいいのですが、文科省の調査結果はまだ出ませんか?

高等教育

■斎藤幸平氏「大学で『古典』を読むべき理由」新入学生に贈る令和版「大学で何を学ぶか」(東洋経済オンライン)
なるほど、テレビで見ても面白い人だったけど、文章を通じてもおもしろい人だなあ。

教育全般(国内)

■居たい理由は「再非行とか絶対しないから…」医療少年院で暮らす知的障害等ある少年達 社会に“生きづらさ”(東海テレビ)
応援することしかできない。

【教育学でポン!?】2024年3月29日

お世話になった先生が退職ということで、ささやかな送別会を行いました。
【本日の歩数】6526歩■自宅と学校を往復。

働き方改革

■「時間奪われ負担に」部活動顧問の強制やめて…教員が“選択制”導入求める 県教委「顧問は校長の職務命令の対象」(長野放送)
現状維持しようとする限り誰かにしわ寄せが行かざるを得ないということです。

■部活指導者を“探す人”と“やりたい人”をマッチング!「指導者マップ」のサイトを協会が公開…開設の狙いを聞いた(プライムオンライン編集部)
地域限定のマッチングシステムが立ち上がりつつありますが、全国的なシステムもできたようです。そして資格認定とセットになっているところが大きな特徴でしょう。

ジェンダー

■県立高校の共学化めぐり、高校同窓会と市民団体が知事に要望(朝日新聞DIGITAL)
別学化を維持したところでどっちみちこの先何回も蒸し返されて最終的に共学化せざるをえないことは目に見えているのだから、未来の人たちからの不見識の誹りを逃れるためにも今のうちにさっさとやってしまったほうがいいと思いますよ。

いじめ

■いじめ「重大事態」の調査指針改定へ、文科省が骨子案…第三者委の選び方など明示(讀賣新聞オンライン)
どう制度をいじろうと、根本的な隠ぺい体質を払拭しない限り、必ず抜け道を探し出す努力をする人たちが現れるのです。だから「どうして隠ぺいするのか」のメカニズムを踏まえた上で制度設計しなければいけません。

不登校

■《不登校のリアル》全国で29万人以上、その原因は「無気力、不安」子ども食堂運営者とサポート事業者が語る手探りの現実「学校に行くことがゴールではない」(週刊女性PRIME)
ですか。まあ、今正しいとされるメソッドも、数年後には間違っていることにされたりしますわな。

■不登校の中学生の自立支援 学びの多様化教室「にじ色」完成式 岐阜県高山市(ぎふチャン)
一条校「学びの多様化学校」ではありませんが、教育機会確保法に基づく公的機関でしょう。

学校

■元校長らへの人事案「内覧」会合費にも支出 名古屋市教委の金品授受(朝日新聞DIGITAL)
金品の授受だけでも大問題なのに、だんだん権力構造そのもの(学閥支配)の問題になってまいりました。

幼児教育

■保育士の配置基準についての基本情報(Yahoo!JAPANニュース)
今年度の教科書にも間に合っていない情報が簡潔にまとまっていて、ありがたい。

■子どもを『残す』か『転園』か 認定こども園でパワハラを理由に保育士が“一斉退職” 選択を迫られる保護者「新しい環境に馴染めるのか不安」(毎日放送)
大人の都合で子どもたちが振り回されるのは、やりきれないですね。

教育全般(国内)

■全面無償化!年間を通じて給食費を 小中学生、幼稚園や保育園に通う3~5歳児が対象 越生町が発表 保育所は認可、認可外を問わず 私立など町外の学校に通う子も補助へ(埼玉新聞)
給食費無償化の自治体がどんどん増えていますが、文科省の動きはどうなっていますか?

【教育学でポン!?】2024年3月28日

在学生ガイダンスがありました。いよいよ新学期が始まりそうです。
【本日の歩数】12996歩■自宅と学校を往復。

働き方改革

■実習で「教員にならない」決断をする学生も… 教員採用試験の倍率は過去最低 長時間労働で“なり手不足”深刻化(中京テレビ)
原因は複合的ですが、教員自身がブラックを良しとしている風潮もあって、なんとかならんもんかと思います。

■「先生はスーパーマン、保護者はお客様」じゃない。疲弊する教育現場を救う学校との関わり方のヒント(All About)
ですね。さらに保護者だけでなく、地域社会全体で子育てを担っていく風土ができれば理想的ではあります。

不登校

■「不登校→生徒会長」と大変身…都会から島の県立高校に移った僕が自分らしさを取り戻せた理由(PRESIDENT Online)
教育が地域の資源となる時代なのです。

学校間接続

■スポーツ推薦、27年度で廃止 高校入試「特色化選抜」拡充へ、和歌山県教委(紀伊民報AGARA)
試行錯誤が続きますが、本質的な解決には向かっていない印象ではあります。

学校

■北海道平取高校が独自科目「アイヌ文化」を開始、真の「多様性と共生」とは アイヌ文化の伝承者に言語、工芸、歴史を学ぶ(education×ICT)
自分たちの個性を見極め、地に足をつけてやれることを堅実に続けていけば、道は開けるように思います。

■全国初の「私立夜間中学」沖縄に4月開校 県が正式認可、公的な学歴に 珊瑚舎スコーレ「やっと始まる」(琉球新報)
■全国初の私立夜間中学 4月1日に沖縄・南城市に開校 授業料は無料 学び直したい人もOK 沖縄県、珊瑚舎スコーレに認可(沖縄タイムス)
夜間中学については、教育機会確保法という制度の下で各自治体が設置を進めつつありますが、私立の夜間中学が誕生したことでたらしいステージに入ったような印象です。

■「思い出の校舎がなくなる」 少子化で“閉校”相次ぐ小中学校…学び舎との別れを惜しみながら“最後の校歌斉唱”(サガテレビ)
おつかれさまでした。

高等教育

■博士号取得者3倍、世界トップレベルの数へ文科省が講じる44の施策(ニュースイッチ)
教育界がどれだけテコ入れをしても、民間のほうに反知性主義が蔓延していては博士豪取得者は増えません。

■オンライン大学「ZEN大学」と三豊市が協定「若者の定住につなげたい」【香川】(RSK山陽放送)
さて、「定住」という狙いが教育のテコいれだけでうまくいくか、注目しましょう。