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流通経済大学「教育学Ⅰ」補講2

■新松戸キャンパス 7/18(水)

近代教育思想

ルソー Jean-Jacques Rousseau

・市民革命、ロマン主義。
・1712年~1778年。ジュネーヴ出身。
・主著『社会契約論』(政治思想)、『人間不平等起源論』(政治思想)、『新エロイーズ』(恋愛小説)、『エミール』(教育思想)
・キャッチフレーズ:子どもの発見消極教育
・名言:万物を創る者の手を離れるときはすべてよいものであるが、人間の手に移るとすべてが悪くなる
・子供期の独自性を初めて主張した。消極教育とは、書物による早期教育をいましめ、まず自然による教育(たとえば感覚の訓練など)を重視する姿勢を指す。また、思春期や青年期の持つ独特の意義について意識を向けたのも大きな特徴である。
▼参考:ルソー『エミール』

ペスタロッチー Johann Heinrich Pestalozzi

・1746年~1827年。スイス出身。
・主著『隠者の夕暮』『シュタンツだより』『ゲルトルートはいかにその子を教えたか』『白鳥の歌』
・キャッチフレーズ:実物教授。直感教授。労作教育。3つのH(Hand、Heart、Head)=知徳体。
名言:「王座の上にあっても、木の葉の屋根の蔭に住まっても同じ人間だ」=身分に関係なく、普遍的な人間を教育するということです。「生活が陶冶する」
・孤児や貧民の子供の教育を通じて、身分や階級に関わらない人間一般の教育原理を打ち立てた。ルソーが理論だけだったのに対して、ペスタロッチーは実践を通じて教育原理を明らかにした。
・アメリカを経由したペスタロッチー主義(開発主義教育)は、明治初期に日本でも流行した。
▼参考:ペスタロッチー『隠者の夕暮れ・シュタンツ便り』

ヘルバルト Johann Friedrich Herbart

・1776年~1841年。ドイツ出身。
・主著『一般教育学』『ペスタロッチー直感教授のABC』
・キャッチフレーズ:教育学の父。目的としての倫理学、方法としての心理学。段階教授法。
・名言:「教授のない教育などというものの存在を認めないし、逆に、教育のないいかなる教授も認めない
・ペスタロッチーの実物教授を引き継ぎながら、教育学を体系化された学問へと鍛えた。家庭教師による教育ではなく、学校における教師の教授法を理論化した。

ヘルバルト主義教育学

・ヘルバルトを引き継いで、科学的な教育学を発展させた。
・チラー、ライン。
五段階教授法。予備→提示→比較→総合→応用。
・中心統合法。宗教(道徳)を中心としたカリキュラム(スコープ)構成の原理。
・開化史的段階。カリキュラム配列(シークエンス)の原理。

流通経済大学「教育学Ⅰ」(11)

■新松戸キャンパス 7/13(金)
■龍ケ崎キャンパス 7/9(月)

前回のおさらい

・人格の完成。個性。アイデンティティ。
・人格とは、代わりがない(個性)、変わらない(アイデンティティ)ような何か。

人格の完成(つづき)

自由とルール

・モノは自由ではないが、人格は自由。
・教育とは、自由でないようなものを、自由にするための営みである。→カント「人間は教育によって初めて人間となることができる。」
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ないが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っている。
・モノは物理法則に従わざるを得ないが、人格を持つ者は自分でルールを作ってそれに従うことができる。
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のこと。

【小学校学習指導要領解説 総則編】
自立心自律性は、児童がよりよい生き方を目指し、人格を形成していく上で核となるものであり、自己の生き方や人間関係を広げ、社会に参画をしていく上でも基盤となる重要な要素である。」(138頁)
【中学校学習指導要領】
「[自主、自律、自由と責任]
自律の精神を重んじ、自主的に考え、判断し、誠実に実行してその結果に責任をもつこと。」(特別の教科道徳、154頁)
【中学校学習指導要領解説 総則編】
自立心自律性を高め、規律ある生活をすること
中学生の時期は、自我に目覚め、自ら考え主体的に判断し行動することができるようになり、人間としての生き方についての関心が高まってくる。(中略)。また、教師や保護者など大人への依存から脱却して、自分なりの考えをもって精神的に自立していく時期でもある。しかし、周囲の思わくを気にして、他人の言動から影響を受けることも少なくない。そうした中で、現実の世界から逃避したり、今の自分さえよければよいと考えたりするのではなく、これまでの自分の言動を振り返るとともに、自分の将来を考え、他者や集団・社会との関わりの中で自制し生きていくことができる自己を確立し、道徳的に成長を遂げることが望まれる。そうした観点から、道徳科の授業で生徒が自己を振り返り、自己を深く見つめ、人間としての生き方について考えを深め、生徒の自立心自律性を高め、規律ある生活が送れるようにする取組が求められる。」(142頁)

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がない。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かう。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続が、人格を完成へと向かわせる。

【中学校学習指導要領】
「生徒が、自己の存在感を実感しながら、よりよい人間関係を形成し、有意義で充実した学校生活を送る中で、現在及び将来における自己実現を図っていくことができるよう、生徒理解を深め、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。」(総則、25頁)
「自主的、実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして、集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに、人間としての生き方についての考えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う。」(特別活動の目標、162頁)
「近代教育」まとめ:人格の完成とは・・

・個性の尊重:かけがえのないわたし。
・アイデンティティの確立:自(分が)主(語)。わたしはわたし。
・自由の獲得:自律。わたしがわたしをコントロールする。
・自己実現:夢。ほんとうのわたし。

復習

・「自由と責任」の論理や、「自己実現」の意味を確認しておこう。

予習

・半年間の授業をおさらいしておこう。

流通経済大学「教育学Ⅰ」(10)

■新松戸キャンパス 7/6(金)
■龍ケ崎キャンパス 7/2(月)

【補講のお知らせ】
■新松戸キャンパス=7/18(水)6限 302教室
■龍ケ崎キャンパス=7/11(水)5限

前回のおさらい

・イニシエーション、若者組。

人格の完成

・「近代」になって、現在の教育が始まる。身分制を乗り越え、すべての人が「人間」になるために同じ教育を受ける。自分がなりたい自分になるための教育。
・現在の日本の教育でも、教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」だと書いてある。教育とは、偏差値を上げるためにするものでもないし、知識をたくさん得るためにやるものでもない。
人格とは何か? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることができない。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみる。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、比較できず、束ねられず、代わりがなく、変わらないようなもの。
・モノと人格は決定的に違います≒好きと愛してるの違い。
・「人格を尊重する」とは、どういうことか。→モノとして扱わないこと。

個性

・個性=Individualityの翻訳語。
・「個」性と見るか、個「性」と見るかで、意味が異なってくる。もともとは「個」性で、長所とか特徴とか持ち味などという言葉とはニュアンスが異なる。
・他のものと交換することができない、かけがえのない、なにか。それが取り去られたら、私が私でなくなってしまう、なにかのこと。それは究極的には「自由」とか「意志」とか「自律」という概念に関わってくる。
・「個性を尊重する」とはどういうことか?
・教育者が言ってはならない、個性を否定するような言葉に気をつける。
・一人一人の個性を大事にするとはどういうことか?

【児童の権利条約第7条-1】
「児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」
*児童の権利条約:1989年に国連総会で採択し、日本は1994年に批准しました。

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳される。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられる。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」「わたし は わたし」
・この世に変化しないものなどあるのか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのか?
・わたしの属性について考えてみよう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何か? 主語と述語の関係に注目してみる。
・常に主語であるものにはアイデンティティが成立している。
・述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、同じ文章でも世界の見え方や関わり方が異なってくる。
・「主体性」や「自主性」とは何か?

復習

・「個性」や「アイデンティティ」という言葉について考えを深めよう。

予習

・「自由」や「自己実現」という言葉について調べておこう。

発展的な学習の参考

稲垣良典『人格《ペルソナ》の哲学』
「人格」という概念をどのように理解するべきかをキリスト教神学の立場から根本的に考察した本で、歴史的考察としても哲学的思索の参考としてもたいへん読み応えがある。

大澤真幸『恋愛の不可能性について』
好きであることの理由を具体的にいくつ積み重ねていっても、その人だけを好きであることは絶対に証明できないということが、分析哲学の立場から明らかにされている。

プラトン『パイドロス』
プラトン哲学のなかで、恋愛について最も深く語っている著作。恋愛というものが人間の言葉で合理的に説明できるものではなく、存在の深淵に関わることが明らかにされている。

流通経済大学「教育学Ⅰ」(9)

■新松戸キャンパス 6/29(金)
■龍ケ崎キャンパス 6/18(月)

前回のおさらい

・モラトリアム。
・大人と子供の境界線。生理的早産。
・むかし、子供はいなかった。

イニシエーション

・イニシエーションとは:日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれる。一人前の共同体(ムラ)のメンバーになるために、全ての若者が突破しなければならない試練。日本だけではなく、世界全体に共通して見られる。
・イニシエーションの必要性:肉体的に一人前の条件を揃えつつある(第二次性徴、14歳~15歳くらい)とき、精神的にも一人前になる必要がある。
・イニシエーションの内容:「死」と「再生」を象徴する。一人前の共同体(ムラ)メンバーになるために、家族と分離(親離れ、子離れ)し、ムラ全体の子供として再び生まれなおす必要がある。

若者組……学校がない世界での人間形成

・一人前になるために、年齢別集団へ加入して、様々な知識や技術を身につける。(女性の場合は「娘宿」など)
・「家族」でも「学校」ではない場所で、親や先生ではない人から、知識が伝達される。
・若者組の役割:集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理など。
・近代の学校と決定的に異なるのは、「死」と「生=性」。

今と昔の子供の違い

・昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではなく、子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できる。
・昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもなく、労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できる。
・少年犯罪は増加した? →増えてもいないし、凶悪化もしていない。しかしどうして増えているように思ってしまうのか?
・どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →親と一緒の仕事をするなら「形成」で問題ないが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がない。

復習

・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の教育の在り方と比較しながら理解しておこう。

予習

・江戸時代の日本の教育について調べておこう。
・ヨーロッパ近代の歴史をおさらいしておこう。

参考文献

ファン・ヘネップ『通過儀礼』
文化人類学の観点からイニシエーション(通過儀礼)を捉え、人生の節目で危機を乗り越えるための儀礼と理解し、越境の過程を「分離→過渡→統合」という図式で理解する。古典的名著。

佐野賢治『ヒトから人へ』
「大人になる」ために昔の人々が行っていた伝統的な習俗を、「一人前」という視点から描き出すエッセイ集。高度経済成長後に失われた伝統的な人間形成の在り方について考えさせられる。

流通経済大学「教育学Ⅰ」(8)

体調不良のため、6/8(金)2限 新松戸キャンパス「教育学Ⅰ」は休講にします。
予告していた6/22(金)は、代わりに通常授業とします。

■新松戸キャンパス 6/8(金) 6/22(金)
■龍ケ崎キャンパス 6/11(月)

前回のおさらい

・産業革命によって、カネ・ヒト・モノが、すごいスピードで大量に動くようになった。
・工場でモノを作るように人間を教育する仕組みができあがった(モニトリアル・システム)。
・「教育」と「形成」では、一人前になる道筋がまったく異なっている。

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということ。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできる。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。
・「大人」の条件とは何か、考えてみよう。

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれている。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つなどという基準が考えられる。

【思考実験】「子供」とはどういう存在か?

・子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫

・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではない。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線はなかった。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていた。
*労働:7歳以後、人々は働いていた。つまり大人たちの仲間として世界と関わっていた。子供の仕事としては、日本では柴刈りや馬引、水汲みなどに従事している姿が絵の中に残されている。
*遊び:同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものだった。日常生活のなかに、定期的に「遊び」が組み込まれていた。
→昔は、労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はなかった。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。他の高等哺乳類と同じだったとしたら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説と言える。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・かつては「7歳」に境界線があった。7歳未満の存在が「人間」として扱われていなかったのではないかという疑惑は、埋葬、捨て子、マビキなどの在り方に見ることができる。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動しているだけなのかもしれない。

復習

・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。

予習

・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の教育の在り方と比較しながら考えてみよう。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。