流通経済大学「教育学Ⅰ」(8)

体調不良のため、6/8(金)2限 新松戸キャンパス「教育学Ⅰ」は休講にします。
予告していた6/22(金)は、代わりに通常授業とします。

■新松戸キャンパス 6/8(金) 6/22(金)
■龍ケ崎キャンパス 6/11(月)

前回のおさらい

・産業革命によって、カネ・ヒト・モノが、すごいスピードで大量に動くようになった。
・工場でモノを作るように人間を教育する仕組みができあがった(モニトリアル・システム)。
・「教育」と「形成」では、一人前になる道筋がまったく異なっている。

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということ。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできる。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。
・「大人」の条件とは何か、考えてみよう。

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれている。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つなどという基準が考えられる。

【思考実験】「子供」とはどういう存在か?

・子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫

・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではない。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線はなかった。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていた。
*労働:7歳以後、人々は働いていた。つまり大人たちの仲間として世界と関わっていた。子供の仕事としては、日本では柴刈りや馬引、水汲みなどに従事している姿が絵の中に残されている。
*遊び:同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものだった。日常生活のなかに、定期的に「遊び」が組み込まれていた。
→昔は、労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はなかった。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。他の高等哺乳類と同じだったとしたら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説と言える。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・かつては「7歳」に境界線があった。7歳未満の存在が「人間」として扱われていなかったのではないかという疑惑は、埋葬、捨て子、マビキなどの在り方に見ることができる。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動しているだけなのかもしれない。

復習

・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。

予習

・「イニシエーション」の理念と実際の在り方について、現在の教育の在り方と比較しながら考えてみよう。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。