教育概論Ⅱ(中高)-14

ナショナリズムと教育

(1)国民国家と教育の原理(1~3)

伝統的な身分制秩序を基にした封建国家を破壊して、バラバラだった地域を一つにまとめ、市民が中心となる新しい国家体制を作り上げようとするとき、「全ての国民が平等」であると考えるナショナリズムが大きな力を持ちました。全ての国民が平等になるためには、身分や地域によって様々な自己認識を持っては都合が悪いので、皆が等しく「私は○○人である」という自覚を持たなければなりません。
近代の国家は、nationとstateが一致するような国民国家を目指します。国民国家を形成するために、教育に大きな期待がかけられます。具体的には、国旗や国歌、国語というアイテムによって、均一な国民を作り出すための工夫が行われます。しかし様々な国の国歌に見られるように、ナショナリズムは一方では確かに国民を一つにまとめていく働きがありますが、もう一方では異質なものを排除して対立を煽るという働きも見られます。

□「国家」というものに対する考え方が、前近代(身分制)と近代(国民国家)では大きく異なっていることを、説明できる。
□「国民国家」が、前近代の国家とは違って、どのような特徴を持った国家なのか、説明できる。
□「国歌」の働きについて、国民を積極的に統合する側面と異質なものを排除する側面があることが説明できる。
□「国語」と「方言」の違いを踏まえて、「国語」が国民を統合して国家のアイデンティティを作り上げる働きをすることを説明できる。

(2)日本のナショナリズム(4~5)

日本においても、明治維新(1868年)の後、近代的な国民国家を作り上げることとなりました。しかし国民国家形成のためには日本人のアイデンティティの中核に座る理念が必要となります。その役割を果たしたのが、国民統合の象徴としての「天皇」です。天皇を中心とした国づくりを進めるために、教育においても天皇中心の教育が構想され、「教育勅語」が制定されることとなりました。それは一方で富国強兵にも寄与しましたが、最終的には悲惨な戦争を推進するものともなりました。

□他の国とは異なる日本独特のナショナリズムの在り方について説明できる。
□教育勅語が実際の教育に与えた影響や、日本の歴史の中で果たした役割について説明できる。
□教育勅語の限界がどこにあったか、説明することができる。

学習指導要領

(3)学習指導要領の変遷(6~8)

(1945年~1958年)戦争が終わり、新しい日本の国作りが始まりました。日本国憲法が目指す理想の国作りのために、教育に大きな期待がかけられ、教育基本法が制定されました。教育基本法を具体化するため、学校教育法や学習指導要領(試案)が作られました。学習指導要領(試案)の特徴は、形式的には法的拘束力がなく、内容的には道徳をなくして社会科を新設したところ等にありました。
(1958年~1977年)しかし冷戦体制に巻き込まれる中で、日本に対するアメリカの姿勢が変化し、戦後教育は大きく修正されます。また高度経済成長の進展により、人々の教育に対する期待も決定的に転換し、学習指導要領は詰め込み教育へと方針を変えました。1958年の改訂で学習指導要領には法的拘束力があるとされ、道徳が復活しました。
(1977年~2003年)しかし、オイルショックを契機とする世界的な不況の下、産業構造の転換に対応し、個性的な人材を作るために、詰め込み教育を否定し、「ゆとり教育」が開始されました。臨時教育審議会が、教育の自由化・民営化・規制緩和・構造改革の方針を示し、この方針は2018年現在まで教育改革の基本的な柱となっています。
(2003年~2017年)自由化・民営化・規制緩和・構造改革という大きな流れ自体に変化はないものの、PISAショックなど学力低下が起きているという認識の下、学習指導要領は「学力重視」を打ち出すこととなりました。

□教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法の意義を説明することができる。
□1947年度版の学習指導要領(試案)の特徴について説明することができる。
□1958年の学習指導要領が「詰め込み教育」に転換したことについて、その政治的・社会的背景を説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」への転換が、どのような社会的背景の下で行われたか、説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」は個性的な人材育成を目指すが、臨時教育審議会が示した自由化・民営化・規制緩和・構造改革がどうして個性的な人材育成につながるのか、その理屈を説明できる。
□ゆとり教育のデメリットについて、説明できる。
□PISAショックと、それに刺激された学習指導要領改訂について説明できる。

(4)最新版の学習指導要領(9~13)

最新版の学習指導要領(2017年3月公示)では、「生きる力」の育成という従来の「ゆとり教育」の方針を引き継ぎながら、さらに現代社会に対応した「資質・能力」を身につけさせるために、大規模な改訂が行われました。
大きなキーワードは3つあります。一つは「社会に開かれた教育課程」です。ただ受験にだけ役に立つ知識ではなく、社会に出て実際に活用できる本物の力を育成することが求められています。そのためには学校自体が変わらなければならず、「チーム学校」や「コミュニティ・スクール」という新しい学校の姿が示されました。
2つ目は「カリキュラム・マネジメント」です。変化の激しい社会で生き抜くためには、これまでの教科別の教育では対応できず、教科を横断する普遍的な能力(キー・コンピテンシー)を身につけなければなりません。そのために教科横断的なカリキュラム編成を行う必要があります。さらにPDCAサイクルを構築し、限りある資源(人・物・金・時間)を有効活用するなど、学校運営自体を効率化することによって、よりよい教育を実現していくことが学校に求められます。
3つ目は「主体的・対話的で深い学び」です。知識基盤社会で必要となる資質・能力を身につけるためには、新しい学びの形を工夫することが求められます。そのためには、単に知識を与えるのではなく、教科の本質を踏まえた「見方・考え方」を身につけさせる必要があります。
これらを実現するためにも、「評価」に対する理解や、「生徒指導」に対する理解が求められます。

□「育成を目指す資質・能力」について説明できる。
□「学力の三要素」について説明できる。
□「社会に開かれた教育課程」について説明できる。
□「カリキュラム・マネジメント」について説明できる。
□「主体的・対話的で深い学び」について説明できる。
□教育課程編成を行なう上でのルールについて理解している。
□「評価」の機能と、様々な評価の在り方について説明できる。
□「生徒指導」について、説明できる。

発展的に学習したい学生向け

教員採用試験にも関わるので、今期の授業だけに関わらず、学習を発展的に進めたい人は参照して下さい。一次試験のペーパーテストでは、学習指導要領本文や解説編から穴埋め問題や間違い探しが出題されると予想されます。二次試験の面接や論文では、それぞれの概念を理解しているかどうかが聞かれると予想されます。あるいは、教員になってから、何度も研修で聞かされるはずです。

学力とは何か
育成を目指す資質・能力
社会に開かれた教育課程
カリキュラム・マネジメント
主体的・対話的で深い学び
教科等横断的な視点