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【要約と感想】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

【要約】人間は他の動物に比べて圧倒的に能なしで生まれるけれど、だからこそ自由で個性的で、尊い。

【感想】「生理的早産」という概念とともに、しばしば教育学の教科書に登場する動物学の本。しかし現在、実際に読まれることは滅多にない本のような気もする。原著発行が70年前、翻訳も55年前の出版だ。本書に示された科学的知識は、特に遺伝子やサル学などの領域で、現代では遙かに凌駕されている。とはいえ、本書の持つ意義は衰えていないと思う。というのも、これは自然科学の本である以上に人間に関する思想の本であり、そして人間を扱う「学」の方法論に対する誠実な姿勢が時代を超えて意味を持っているからだ。

まず「生理的早産」とは、人間の「出産」に関する知見である。ポルトマンは他の動物(特に専門の鳥類)との「出産」を比較しながら、人間の人間としての特殊性を明らかにする。それによれば、本来なら人間はもう一年余分に胎内に留まってから生まれることが望ましいにもかかわらず、実際には一年早く「能なし」のままで生まれてきてしまう。他の高等哺乳類(ウマやクジラなど)であれば、子供はほとんど成体と同じようなプロポーションで誕生し、生まれてすぐに成体と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は、周囲の人間のサポートを期待できなければ、生きることさえできない。サルと比較しても、人間の赤ん坊の弱々しさは際立っている。

この一年早められた「子宮外の生活」が、まさに他の動物とは異なる人間の人間としての特殊性を形成する。もしも母の胎内にいれば、子供の成熟過程は「自然法則」に全面的に依存するので、個体同士の違いが生じる余地はあまりない。しかし子宮外での生活は、自然法則とは無関係な、「一回起性」の「出来事」の連続となる。それは「文化」の違いによってまったく異なる独特な経験を生じさせるだろう。これが人間がそれぞれの「個性」を形成する「歴史的」な環境となる。

そしてポルトマンは、人間に「個性」があり、「人格の尊厳」を持つことこそ、人間が他の動物と異なる決定的な人間の条件であるという信念を持っている。だからこそ、彼は自分自身が生物学者であるにもかかわらず、あるいはそれ故に、生物学=自然科学が踏み込むべきでない限界を厳しく設定しようとする。特に彼は、進化論の無節操な推論の拡張に、繰り返し警戒心と不信感を示している。生物学の成果を土台にすることは必要だとしても、しかし生物学の成果からの推論の積み重ねだけでは、人間というものの存在様式は決して理解できない。人間に特有の精神活動に関する知見が関わってくる必要がある。

個別的な研究の成果もさることながら、「人間学」に関する「方法論」に大きな感銘を受ける本だ。教科書的に「生理的早産」というキーワードだけで語られるのは、もったいない本である。

アドルフ・ポルトマン/高木正孝訳『人間はどこまで動物か―新しい人間像のために』岩波新書、1961年

教職基礎論(栄養)-1

短大栄養科 4/15

半年間の予定

・本講義は教員免許(栄養教諭・中学家庭科)取得に関わる授業であり、特に「教職の意義」に関わる領域を扱う。
・「教育基本法」や「地方公務員法」および「教育公務員特例法」、「地教行法」など、法令に規定された教職の地位や身分、義務について理解する。
・「教員に求められる資質・能力」について、背景となる教育課題とともに理解を深め、「教職の専門性」に対する自覚を持つ。
・「学校」という組織と職務分掌について理解する。

今回の内容(予定)

教育基本法の核心を押さえる

・「教育基本法」には、日本の教育が目指す根本的な理念が示されている。
・日本の教育の目的は「人格の完成」である。
・「人格の完成」とはどういう状態か?
・そもそも「人格」とは何か?
・「教育基本法」における教師の位置づけ。
・修養と研修。

「教師」に必要な資質・能力を把握する

・社会の変化=グローバル化・情報化・少子高齢化
・高度化、複雑化する課題への対応。
・「不易」と「流行」。
・不易=時代や地域によって変わらないもの。熱意や使命感、教育的愛情。
・流行=時代によって変わるもの。情報通信技術への対応、グローバル化への対応等。
・学び続ける教師像。

復習

・「教育基本法」を熟読吟味しよう。
・「教師」に必要な資質・能力を確認しよう。

予習

・「立憲主義」や「法治主義」という言葉の意味を調べて、「公務員」の立場について予備知識を持とう。

【要約と感想】服藤早苗『平安朝の母と子』

【要約】平安時代中期、母親は子供を育てていなかったし、子供は大事にされていなかった。子供を捨てる母親が大量に存在していたのもさることながら、衝撃的な事例では、病気になった子供が道ばたに放逐されて犬に食われてしまうことすらあった。かわいそう。

というふうにまとめると身もふたもないけれども。「家族」というものの形や「子供」に対する意識が普遍的なものではなく、時代によって大きく変化するということを端的に示している。特に本書が扱う平安時代中期は、「家族」が根本的な変化を被った時代のようだ。

現在、「俺が考えた最強の家族のかたち」をデカい声で無責任に叫んでいる人たちが、いろんな立場でいるけれども。どの立場に立つにせよ、まずは日本にかつて存在した「家族」の形を客観的な事実として知ることから始めた方がいいのではないかな。我々が伝統的と思い込んでいる「家族」の形は、実はさほど伝統的でも日本的でもないかもしれない。

服藤早苗『平安朝の母と子―貴族と庶民の家族生活史』中公新書、1991年

教育概論Ⅰ(中高)-1

栄養・環教 4/14
語学・心カ・教服・服美・表現 4/15

半年間の予定

・本講義は教員免許(中学・高校)取得に関わる授業であり、特に「教育」の原理・哲学・思想・歴史に関わる領域を扱う。
・中でも「教育基本法」の精神を理解することに重点を置く。
・「教育基本法」を本質的に理解するために、教育の思想と歴史を学ぶことが必要となる。

今回の内容

教育基本法の概要を知る

・「教育基本法」には、日本の教育が目指す根本的な理念が示されている。
・日本の教育の目的は「人格の完成」である。
・「人格の完成」とはどういう状態か?
・そもそも「人格」とは何か?

教育の現在について考える

・文部科学省と内閣の教育への姿勢。
・グローバル化、情報化、少子高齢化。
・「教育振興基本計画(第2期)」の内容。

「教師」に必要な資質・能力を把握する

・「不易」と「流行」。
・不易=時代や地域によって変わらないもの。熱意や使命感、教育的愛情。
・流行=時代によって変わるもの。情報通信技術への対応、グローバル化への対応等。

復習

・「教育基本法」を熟読吟味しよう。
・「教育振興基本計画(第2期)」が示していることについて考えよう。
・「教師」に必要な資質・能力を確認しよう。

予習

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、考えておくこと。
・どうしてそう考えたのか、判断の根拠や理由についてもまとめておくことが望ましい。

教育概論Ⅰ(保育)-1

東京家政大学 短大保育科 4/13

半年間の予定

・本講義は幼稚園教諭および保育士の資格に関わる授業であり、特に「教育」の原理・哲学・思想・歴史に関わる領域を扱う。
・中でも「教育基本法」の精神を理解することに重点を置く。
・「教育基本法」を本質的に理解するために、教育の思想と歴史を学ぶことが必要となる。

今回の内容

「学校」って何?

・「幼稚園」とは、学校教育法第1条に定められた「学校」の一種である。
・「幼稚園」と「保育園」の違い。
・「文部科学省」と「厚生労働省」の管轄。
・「教育委員会」と国家資格。

「教育」って何?

・「保育」と「教育」。
・「育」とは何か。
・「保」とは何か。
・「教」とは何か。

「教育基本法」って何?

・「教育基本法」には、日本の教育が目指す根本的な理念が示されている。日本の教育が目指しているものは何か。
・特に「教育基本法第11条」は、「幼児期教育」に関する根本規定である。
・「幼稚園」は、教育行政の全体的な体系の中に位置付いている。

復習

・「教育基本法」を熟読吟味しよう。
・「幼稚園」と「保育園」の違いについて、事実を確認しておこう。
・「学校」や「教育」の定義について、整理しておこう。

予習

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、考えておくこと。
・どうしてそう考えたのか、判断の根拠や理由についてもまとめておくことが望ましい。