【要約と感想】藤田英典『義務教育を問いなおす』

【要約】小泉政権が進めた新自由主義的な教育改革のせいで、日本の義務教育は滅びつつあります。なんのビジョンもなく学校や教師をやり玉に挙げるマスコミも、最悪です。義務教育を立て直すための特効薬はありません。地道で漸進的な改善を粘り強く続けるのが一番です。

【感想】著者の他の本と同じところは、新自由主義的な競争至上主義による改革(特に学校選択制)への批判と、日本の教育の優秀性を根拠とした「ゆとり教育」に対する疑義、日本の地政学的位置に即した系統的な教科学力の重要性の主張、展望としての共生的原理の称揚といったあたり。

この本独自の特徴は、義務教育に対してかなり踏み込んだ法的・原理的な論理を展開しているところだ。教育社会学が手を突っ込まないような領域、たとえば教育行財政理論とか、教育権論とか、内的事項外的事項区分論とか、子どもの権利条約とか、親の教育要求などに踏み込みつつ、「教育の公共性」について持論を述べていく。教育社会学者というより、教育学者のようだ。その意味で、タイトルに偽りない。

最終章の「未完のプロジェクト」という言葉には、少し目頭が熱くなってしまった。多くの学者が近代の終焉を宣言する中、まだまだ近代で頑張ろうという人は、ちゃんといるのだった。我慢して踏みとどまるべきか、軽やかに一歩前に出るのか、方針に迷ったときには思いだしていい本なのかもしれない。

藤田英典『義務教育を問いなおす』ちくま新書、2005年