【要約と感想】苅谷剛彦『教育再生の迷走』

【要約】第一次安倍内閣が行った「教育再生」は、まったくワケがわからないものに終わりました。迷走としか言いようがありません。

【感想】本書の元になる記事が連載されていたのは、第一次安倍内閣が教育再生を謳って改革に取り組んでいたときで。単行本になったのが、安倍政権が倒れた後で。著者は、めまぐるしく移り変わる教育改革があまりにも根拠を欠いていることに呆れ果てているわけだが、まさか10年後にこんなことになっているとは、予想できなかっただろう。予想できなかったのは、まったく著者のせいではなく、お釈迦さんでも気づくめえ、ってところだけど。

とはいえ、本書はまだ古くなっていない。まず勉強になるのは、文部科学省が行っている「全国学力調査」に対する批判だ。悉皆調査になんの合理性もないにも関わらず、なぜ文科省は悉皆調査を強行するのか。しかもそうまでして行った調査をどうして実際の政策に反映させないのか、などの問題がよく分かる。

それから、学習指導要領の「履修」と「修得」の違いについては、いやあ、目から鱗だった。落第させた学生から「ちゃんと授業に出ていたのにどうして単位くれないんですか?」とクレームを頂戴する理由が、よく分かった。「修得」しなくても「履修」さえしていれば単位がもらえるという学校文化に浸かっていたんだから、仕方ないかもね。

そして、「ポジティヴ・リスト」と「ネガティヴ・リスト」という概念について。教育がなんでもかんでも抱えてしまうのは、あれもやれこれもやれという内容を、資源配分や効果や合理性についての配慮を欠いたまま、すべてリストに載せてしまうポジティヴ・リストの発想が原因だ。教育はむしろ、「なにをやってはいけないか」というネガティヴ・リストの発想で組み立てないと、おかしなことになる。このあたりの思考様式や考える枠組みは、とても参考になる。

苅谷剛彦『教育再生の迷走』筑摩書房、2008年