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女性の近代的自我の芽生えと少女マンガの物語構造―眼鏡を再びかけ直すことの弁証法的意味

熊本大学で2019年6/22に開催された「日本マンガ学会」第19回大会で行なった口頭発表の記録です。

動画は23分あります。

▼パワーポイントのデータはこちらに置いてあります(※クリックするとダウンロードします)。

▼めがねっこキャラクターリストはこちらです(※スプレッドシートで開きます)
▼リストの凡例については「マンガに登場した眼鏡っ娘リスト」を参照ください。

ご質問へのリプライ

会場では時間の都合等で十分にお答えできていないような気もしますので、こちらの場で改めてリプライできればと思います。

眼鏡をかけていると本を読むなど「女性が勉強できる」ということで、それがおもしろくないという男性社会の価値観の問題もあるのではないか。

会場ではリストについて詳しくお話しできなかったのですが、やはり「眼鏡による内面的な特徴(委員長だったり優等生だったり)」と「眼鏡による外見的な特徴(美容的に劣る)」は、区別して分類しています。その上で、内面的な特徴と外面的な特徴の両方を併せ持つキャラクターもたくさん存在しています。「勉強できる」という性格的な特徴が、外面とリンクしている様子はデータから明らかに見えます。
そして、女性が勉強できるようになるのがおもしろくないという男性は、おそらく一定数いるでしょう。「女性が眼鏡をかけているのは良くない」という偏った価値観は、男性の僻みや妬みから生じている可能性は十分に考えていいと思います。
またたとえばアメリカではSF作家のアイザック・アシモフが、眼鏡を外して美人になるなどということは物理的にあり得ないと主張し、そんな愚かなことを主張する人々は精神水準が低いと訴えています。(アシモフ『生命と非生命のあいだ』)。アメリカでも、「女性は勉強できなくてもいい」という意見が、眼鏡っ娘に対する価値観に何らかの影響を与えていると見ていいのかもしれません。
それを私は、「見る/見られる」の非対称性の問題として考察してきました。眼鏡とは「見る」ための道具です。しかしかつての女性は一方的に「見られる」ための存在でした。眼鏡をかけるということは、一方的に「見られる」ための存在だった女性が、「見る」という主体的な立場を獲得することの象徴になります。女性の主体性を認めたくない人々は、おそらく女性から眼鏡を奪おうとするでしょう。「女は眼鏡を外した方がいい」などと言う男は、女性を単に「見られるだけの対象」としてしか見ていないのです。

眼鏡を外して美人にならないパーセンテージはどのくらいか。

会場ではデータが操作できなかったので正確にお答えできませんでした。
リストでは、眼鏡を外したまま恋愛成就するキャラが254人いるのですが、そのうち美人になるのは139人です。なぜか、眼鏡を外して美人になるわけでもないのに、最終的に眼鏡をはずして彼氏をゲットするキャラが115人いるんですね。
ちなみに眼鏡を外すことで変顔になるキャラは、いまのところ4例ほど確認しています。

「通俗的価値」と「個人的価値」のアウフヘーベンというところまで抽象度を上げると、少年マンガにもたくさんあるのではないか。

仰るとおり、どこまで抽象度を上げて一般化していいかは、理論的な見極めが必要なところだと思います。
ポイントは、主人公の内面の葛藤と統合過程が描かれているかどうかだと考えています。それが描かれているのであれば、その少年マンガ作品にも「近代的自我」を認めてもいいのではないかと思います。ラブコメ系の作品には、そういうものが多いと思います。たとえば田丸浩史『ラブやん』や、井上和郎『あいこら!』は、主人公の葛藤と成長を描いたいい例だと思っています。
しかし一方、『ドラゴンボール』や『魁!男塾』という作品には、弁証法的構造は見られないと考えています。最初からかなり人格が完成していて、仮に肉体や技は成長したとしても、自我にはたいして影響がないからです。(もちろん、だからといってそれが悪いということではありません)。『ドラゴンボール』や『男塾』に見られる物語構造は、もともと敵であった別の人格(ヤムチャ・ピッコロ・ベジータ等)を、矛盾と葛藤を経て味方の集団に統合して強くなっていくという「共同体的なアウフヘーベン」です。

ご協力のお願い

個人の力が及ぶ範囲のみで資料収集と確認を行なっているので、時間的・経済的に限界があります。
特に1970年以前の貸本や、21世紀以降の作品に大きな欠落があると思われます。
ほか、記録ミスやデータ形成時の混乱などにより、データが誤っていることもあるかと思います。
なにかお気づきの点がありましたら、ご連絡いただければ、私の研究が進みます。

また、これまで可処分所得の大半をこの研究に費やしてきて、そろそろ経済的な限界を感じつつあるので、たいへん恐れ入りますが、Amazonくれくれリストを載せておきます。

マンガに登場した眼鏡っ娘リスト

リスト

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凡例

・私が実際に目を通して、キャラクター特性と物語構造を確認した作品のみを掲載しています。

物語類型

・めがねっこ名の右の「語」欄に記されたアルファベット(A~E、a~e、Z)は「物語類型」の分類です。
▼物語類型は以下の通りです。
A:ヒロインで、最終的に眼鏡を外して恋愛成就する。
B:ヒロインで、最終的に眼鏡をかけて恋愛成就する。
C:ヒロインで、恋愛と関係ない。
D:脇役。
E:ヒロイン級キャラが複数いて、そのうち一人が眼鏡。
Z:パートタイムめがね。
▼物語類型の大文字は少女マンガ、小文字は少女マンガ以外です。

キャラクター類型

物語類型の右の「キ」欄の数字は、キャラクター類型を表わしています。
1:優等生だったり委員長だったりオタクだったりと、性格的に特化している。
2:1と3の両方の要素(性格と外見)をもつ。
3:外見的に容姿が劣るという描写がある。
4:眼鏡の着脱によって性格が変わるなど、眼鏡のon/offがトリガーとして機能する。
5:何も特徴がない。

眼鏡を外して美人になるのか

・リストいちばん右の「美」項目に「XX」の印が付いているキャラは、眼鏡を外して美人になるものです。

具体例

▼たとえば「A-3XX」だったら、眼鏡でブスだった主人公が眼鏡を外して美人になってそのまま恋愛成就するという作品です。
▼たとえば「B-2XX」だったら、優等生で地味な主人公が眼鏡を外して美人になるものの、最後には再び眼鏡をかけ直して恋愛成就するという作品です。
▼たとえば「D-4」だったら、眼鏡っ娘が脇役で、眼鏡の着脱によって性格が変わるということです。

ご協力のお願い

個人の力が及ぶ範囲のみで資料収集と確認を行なっているので、時間的・経済的に限界があります。
特に1970年以前の貸本や、21世紀以降の作品に大きな欠落があると思われます。
ほか、記録ミスやデータ形成時の混乱などにより、データが誤っていることもあるかと思います。
なにかお気づきの点がありましたら、ご連絡いただければ、私の研究が進みます。

また、これまで可処分所得の大半をこの研究に費やしてきて、そろそろ経済的な限界を感じつつあるので、たいへん恐れ入りますが、Amazonくれくれリストを載せておきます。

【資料と分析】コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の傾向分析

調査全体の前提について

このページでは、コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の経年変化の傾向について分析する。調査全体の目的や方法、全体傾向の分析については、以下のページをご参照頂きたい。
参照:コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査

眼鏡っ娘サークルカットの個別分析

眼鏡っ娘の経年変化でまず気づくことは、大きく3つの時期に分けられるということである。以下、分かりやすくグラフを3期に分けて示した。

上のグラフは、サークルカットに現われた眼鏡っ娘の総数を棒グラフで、サークルカット総数に対する比率を折れ線グラフで表わしたものである。総数と比率の推移を見ると、大きく3つの時期に分けられるように見える。
第1期:C21(1982年夏)~C34(1989年夏)までの衰退傾向。
第2期:C35(1989年冬)~C61(2001年冬)までの拡大傾向。
第3期:C62(2002年夏)以降の頭打ち傾向。
以下、それぞれの時期の内実について詳しく見ていく。

第1期:衰退傾向(1982年~1989年)

第1期はC21(1982年夏)からC34(1989年夏)までである。1989年夏に開催されたC34では、眼鏡っ娘比率は0.15%と史上最低を記録している。一貫して眼鏡っ娘比率が下がり続け、最低を記録するという、忍耐の時期である。
表面的な原因は、実は明らかである。この昭和後期のコミケでは、男性向けサークルの多くが高橋留美子作品のパロディを扱っていた。この高橋留美子作品に眼鏡っ娘が皆無であったことが致命的だったことは、ほぼ間違いない。しかしなぜ高橋留美子作品に眼鏡っ娘が登場しないかは、解明すべき大きな課題として我々の前に残されている。(いちおう作家御本人の眼鏡自画像の他、ラムちゃんが伊達眼鏡をかけるエピソードがあるにはあるのだが。)

しかしこの眼鏡っ娘受難の最後期に、燦然と「メガネの娘でなきゃやだ」という眼鏡っ娘専門サークルが登場したことは特記しておきたい。このサークルの誕生を契機として眼鏡っ娘勢が拡大傾向に転ずるのはおそらく偶然ではないと思うのだが、その相関関係あるいは因果関係に関する考察は他日を期したい。
またC25(1983年冬)には、『超時空世紀オーガス』の眼鏡っ娘リーアのカットがあり、脇に「めがねっ娘だいすき」と記されていたことも記憶されてよい。またC26(1984年夏)には「めがねっ娘編集部」という名前のサークルも見られる。冬の時期にも健闘を続けていた勇士がいることは、忘れてはならない。

第2期:拡大傾向(1989年~2001年)

第2期はC35(1989年冬)からC61(2001年冬)までである。この時期には一貫して眼鏡っ娘が拡大傾向を示していることが分かる。

90年代前半の眼鏡っ娘界を牽引したのは、オリジナル同人である。この時期、二次創作では『美少女戦士セーラームーン』や『ストリートファイターⅡ』などが一世を風靡していたが、それら作品中では眼鏡キャラが描かれることはほとんどなく(例外的に水野亜美の眼鏡がかろうじて散見される程度)、眼鏡勢力の拡大はオリジナルの健闘に頼る状況だった。
具体的には、少女創作系「東風の吹く国」、CGの「WAX-G2」、男性向け創作の山本夜羽「ANARCOMIX」、みやもと留美「深漆黒雑居工房」などのサークルがカタログを毎回コンスタントに眼鏡で彩った。尊い。
このオリジナル傾向が着実に成長し、00年代にはついに「眼鏡島」が形成されるに至る。すなわち、オリジナルで眼鏡っ娘を描くサークルが一個所に固まって集中的に配置されるようになったのである。具体的には、C58(00年夏)には眼鏡っ娘サークルが23、C59(00年冬)には眼鏡っ娘サークルが22、一個所に集中して配置されている。
眼鏡躍進の理由の一つとして、この時期には「属性の掛け合わせ」によってキャラを構成するという考え方が成熟し、それに伴って「属性としての眼鏡」に対する興味関心が高まった可能性を考慮できる。たとえばその証拠の一つとしては、ネコミミの眼鏡(略称メガネコ)や眼鏡をかけたメイドさんなど、他属性との融合が著しいことが挙げられよう。
この傾向はさらに大きく展開し、ついに2001年には4月から6月にかけて三ヶ月連続で眼鏡キャラONLY同人誌即売会が開催されるなど、「属性としての眼鏡」は名実ともに市民権を得たとも言える状況へと成熟する。

拡大期後半

そしてさらに、この拡大期後半に見られる顕著な傾向として、アニメやゲームのメジャータイトルに代表的な眼鏡っ娘が登場し、二次創作において大躍進が起こったことが挙げられる。すなわち、C48(1995年夏)には鳳凰寺風、C53(1997年冬)には姫宮アンシー・李香蘭・保科智子、C57(1999年冬)には藤原はづき・猪名川由宇・牧村南といった錚々たるメンバーが次々と登場し、現在に至る眼鏡同人文化の基礎が築かれたのである。以下、二次創作で各キャラがカットに描かれた数を表にまとめた。括弧内は眼鏡っ娘総数に占める割合である。

 鳳凰寺
如月
未緒
姫宮
アンシー

香蘭
保科
智子
藤原
はづき
猪名川
由宇
牧村
シエル
先輩
95夏47
(21.0%)
96夏6
(3.17%)
4
(2.11%)
96冬1
(0.44%)
15
(6.44%)
97冬3
(1.34%)
42
(18.7%)
17
(7.59%)
8
(3.57%)
98冬5
(2.11%)
3
(1.27%)
6
(2.53%)
11
(4.64%)
99冬3
(1.21%)
5
(2.01%)
15
(6.03%)
34
(13.7%)
15
(6.03%)
15
(6.03%)
00冬2
(0.86%)
4
(1.72%)
23
(9.91%)
12
(5.17%)
16
(6.89%)
12
(5.17%)
01夏4
(1.14%)
8
(2.29%)
22
(6.29%)
14
(4.00%)
23
(6.58%)
20
(5.72%)
01冬1
(0.43%)
1
(0.43%)
2
(0.86%)
16
(6.91%)
7
(3.02%)
24
(10.4%)
14
(6.04%)
7
(3.02%)

この表から分かることは2点ある。一つは、アニメの眼鏡っ娘とゲームの眼鏡っ娘での傾向の違いである。アニメの眼鏡っ娘はテレビ放映に合わせて数が急増するが、放映終了に伴って激減する。一方でゲームの眼鏡っ娘は数自体は爆発的に増えないものの、息が長い人気を保つ。如月未緒の人気の息の長さは特筆に値する。この時期の眼鏡っ娘拡大は、アニメでの爆発的なブーム(垂直的拡大)とゲームでの息の長い人気(水平的拡大)が相乗的に掛け合わさった結果ではないかと推察できる。
もう一つの理由として、多数ヒロインの中に一人眼鏡っ娘が混ざるというキャラ配置様式が極めて強い説得力を持ったという仮説が立てられるかもしれない。表に挙げた他にもこの時期に目立った眼鏡っ娘として、成瀬真奈美、リアン、田辺真紀、ロベリア等が挙げられる。いずれも多数のヒロインの中に眼鏡っ娘が一人という様式で人気を博したキャラクターである。この様式が実際に強い説得力を持ったかどうか、あるいはその理由についての解釈は、他日を期したい。

以上見たように、この拡大期には着実なオリジナル同人躍進に伴う属性確立と二次創作での人気キャラの台頭が重なって、眼鏡っ娘の絶え間ない増進傾向が続いた。その躍進を阻むものはいないかに見えた。

第3期:停滞傾向(2002年以降)

しかし、続く第3期では、残念なことに頭打ち傾向が見られるようになってしまう。2002年夏から2011年冬にかけて、眼鏡っ娘比率は1.55%~2.05%の間で、増えもせず減りもせずに推移することとなる。前時期と比較したときには決して低い水準ではないのだが、ガラスの天井に突破を阻まれているようで、歯がゆい。

この時期の停滞傾向の理由は定かではなく、論理的な解明については他日を期したいが、さしあたって躍進期の2つの理由に対応して仮説を立ててみたい。まず前時期の躍進の理由の一つが「属性としての眼鏡」の確立であったとすれば、停滞期には逆にネコミミやメイドといった「属性」すべてが全体的に背後に退き、「ツンデレ」や「素直クール」といった内面的な性格を前面に打ち出したキャラ造形が目立ち始めたことが気にかかる。属性全体の後退に伴って、眼鏡勢力の進撃に冷や水が浴びせられた可能性はあるかもしれない。
また前時期にはアニメやゲームなどメジャータイトルでの眼鏡っ娘の活躍が目立ったのに対し、この時期のコミケで最も人気を集めたタイトル『東方』で眼鏡の印象が薄かったことは、問題になるだろう。たとえば「spring efemeral」の調査では、東方Project関連のサークルカットはC65(2003年冬)の7サークルからC77(2009年冬)には2451へと激増している。そしてこの中に眼鏡っ娘がほとんどいない(いちおう皆無ではない)ことが全体的な情勢に大きな影響を与えているだろうことは想像に難くない。
C73(2007年冬)には『電脳コイル』が62カットを叩き出したおかげで眼鏡っ娘は史上初の2%超えを果たしたものの、残念なことに翌C74には勢いが続かなかった。こうした長期的な頭打ち傾向の中でも眼鏡っ娘が勢力を保っているのは、『アイドルマスター』が長期間にわたって頑張っているのが大きい。ありがたい。

小括と今後の課題

以上、眼鏡っ娘の傾向について、簡単ながら分析を試みた。今後の課題としては、まず2011年で終わっている調査を現在まで伸ばすことにより、新たな傾向を見出すことが挙げられる。
そして、頭打ち傾向がいつまでも続くとは思えないし、思いたくない。今一度の躍進に向けて、眼鏡勢力の結集を望みたい。

参照■「コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査」
参照■「コミケサークルカットに描かれた眼鏡男子の傾向分析」

【資料と分析】コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査

論旨の要約

コミケカタログのサークルカット全部に目を通した結果、描かれる眼鏡キャラがどんどん増えていることが分かった。特に平成に入ってからの躍進は目覚ましい。平成とは、間違いなく眼鏡大躍進の時代であった。

以下、調査の目的、方法、傾向分析の詳細を記す。
※学術的な手続きに則った無味乾燥な記述なので、方法論に関心のない人は調査結果に直接飛んで下さい。
特に眼鏡っ娘に興味がある方は「眼鏡っ娘の傾向分析」へ、
特に眼鏡男子に興味がある方は「眼鏡男子の傾向分析」へどうぞ。

調査の目的と意義

本調査の主目的は、眼鏡勢力の盛衰に関する諸般の議論に対して客観的な指標となり得る基本資料を提出することにある。

一般的には、21世紀に入ってから眼鏡に対する意識が大きく向上したと言われている。たとえば、かつてはテレビ番組に眼鏡をかけて出演する芸能人は稀にしかいなかったが、現在では日常的に見かけるようになっている。また眼鏡自体のデザインも大きく進化し、現在ではファッションの一部として広く認知されるようになった。ファッション誌等で特集を組まれることも珍しくない。確かにこれらの傾向は、眼鏡勢力の拡大を意味しているように思われる。
しかしこれらの諸事象は、あくまでも主観的で経験的な印象の束に過ぎない。眼鏡に対する意識変化に関する議論は、客観的な指標に基づき、確かな土台の上に構築される必要がある。客観的な指標として本調査の結果が広く活用され、眼鏡に関する議論がさらに深まるとすれば、本調査にも固有の意義があったと言えるだろう。

調査の方法

使用する資料の性格

調査資料には「コミケカタログ」の「サークルカット」を使用する。以下、使用する資料の性格を批判的に明らかにする。
コミケとは「コミックマーケット」の略称であり、同人誌即売会の中でも最大規模のイベントの固有名称である。「同人誌」とは、利潤を目的とした資本投資や営利組織による企画や編集を経ずに、表現発信者が表現受容者へ直接的に表現内容を届ける媒体全般のことであり、現在では紙ベースの本の他、電子メディアや玩具等を含めた多様な表現媒体として、多様な流通経路を通じて取引されている。「即売会」とは、流通や小売販売を経ずに表現発信者と表現受容者が直接的に売買契約を交わすことができる市場のことであり、多くは屋内会場を使用するイベントとして企画される。調査対象とするコミックマーケットは、現在は基本的に夏と冬に東京国際展示場(1996年夏以降)で開催されている、世界最大規模のイベントである。
「カタログ」とは、コミックマーケット参加者の便宜を図るために事前に用意された参考資料の集合体である。具体的には、注意事項や会場の地図の他、情報発信者として参加する表現者の技量や個性を事前に推量するために利用できる様々な参考資料が掲載されている。
「サークルカット」とは、情報受容者が情報発信者の技量や個性を事前に推量するためにカタログに掲載された参考資料のうち、大部分を占めるものである。コミケに参加する情報発信者は、参加一団体(以後サークルと呼ぶ)につき、横26.88mm×縦38.23mm(印刷時)の表現スペースを一つ与えられ、ここに持てる技量と個性を凝縮して示し、情報受容者に対してアピールを行なう。カタログには参加サークル全てのサークルカットが漏れなく掲載される。大部分のサークルはサークルカットを主にイラストで表現するが、文字だけでアピールするサークルも多い。サークルカットは、1982年夏のC21(第21回目のコミケ)以降、C22以外、現在まで提示され続けている。

このサークルカットが本調査の目的を達成するための資料として優れた素材である理由を以下に示す。
サークルカットで充分な技量と個性を示したサークルは市場的に優位に立つ可能性が高い上、表現を通じて自分の個性や世界観を情報受容者に示す絶好の機会でもあるため、通常であればサークルカットには可能な限り最大限の技量と個性が投入される。サークルカットに示される内容は、ただの思いつきや一時的な気の迷い等で選択されることは想定しにくい。つまり、サークルカットに示された表現は、偶然に左右されたものではなく、その時点での表現発信者の意識や見解や世界観が意図的かつ誠実に反映されたものとして、極めて信頼度の高い素材として考えてよい。具体的には、たとえばサークルカットに眼鏡キャラが描かれていたとすれば、それは単に思いつきや偶然で描かれたのではなく、表現発信者の技量と個性と世界観を意図的かつ誠実に反映したものとして描かれただろうと信頼できる。しかもコミケという長年にわたって持続しているイベントの性質上、経年変化による極端な偏りは考えにくい上に、多種多様な傾向を持つ表現者が無差別的に集合しているという特徴をも併せ持つ。多様性と一貫性を同時に担保するという観点から、一般的な傾向を判断する上では他に類を見ない素材と言える。
この信頼度の高い素材であるサークルカットを対象とした調査を行なうことで、客観的な指標を示すことが期待できる。

調査方法

歴代コミケカタログに掲載されたサークルカット全てに目を通し、描かれた眼鏡キャラ(眼鏡っ娘と眼鏡男子)の数をすべて数え上げる。1カット内に2キャラ描かれている場合(例えば内海課長と黒崎)は、2とカウントする。コミケへの参加サークル数は開催回によって大きく異なるので、サークルカット総数に対する眼鏡キャラ総数の比率を算出した上で、経年変化を明らかにする。

資料の限界

以下、本調査の限界も明らかにし、調査結果の適用範囲の射程距離も定めておきたい。
まず眼鏡勢力の盛衰を客観的に明らかにするという目的に対して、コミケカタログという資料の性格そのものからいくつかの制約が発生すると思われる。コミケカタログには確かに表現発信者の技量と個性が誠実に現われているが、しかし一方でコミケに参加する表現発信者の傾向にある種の偏りがあることも否めない。その偏りは主に3点考えられる。
(1)表現発信者の動向は反映するが、受容者の動向は必ずしも反映しない点。
(2)落選サークルの動向が分からない点。
(3)マンガ・アニメ・ゲームなどに嗜好を持つ者の傾向は反映するが、それ以外の人々の傾向を反映しているかどうかは定かではない点。

一点目については、表現受容者よりも表現発信者のほうが眼鏡が好きではないかという仮説が問題となる。もしもこの仮説が正しいとしたならば、表現発信者の技量と個性が誠実に表れた資料であるコミケカタログを調査したとしても、受容者の傾向は正しく反映されないことになる。本調査はあくまでも表現発信者の傾向を明らかにするものであって、必ずしも表現受容者の傾向が反映していないことについては自覚的であらねばならない。受容者の傾向を正しく捉えようと思ったら、他の調査手段を考案する必要がある。

二点目については、落選サークルのサークルカットが参照できない以上、コミケ全体の趨勢を反映しているかどうかが確証できないところが問題となる。コミケに参加を希望するサークルは極めて多く、会場の容量を遙かに超えており、毎回抽選によって参加できるサークルが選別されている。カタログに掲載されるのは抽選によって選別された一部のサークルカットのみであり、落選したサークルのカットを調査する手段はない。この落選サークルの傾向を加味した場合、本調査の結果が覆る可能性もある。

三点目については、マンガ・アニメ・ゲームを嗜好する者のほうがそうでない者よりも眼鏡が好きではないかという仮説が問題となる。もしもこの仮説が正しいのであれば、コミケカタログの調査で明らかになるのはあくまでもマンガ・アニメ・ゲームを嗜好する者の傾向だけであり、一般的な傾向を明らかにするためには別の指標を立てなければならない。

以上示したような資料の性格そのものに内在する制約を認識した上で、やはりなおコミケカタログは極めて優秀な資料であることに変わりないと判断したい。なぜなら、仮に如上の制約を認めたとしても、コミケカタログのように同時代の表現発信者たちの意識や世界観を広範囲かつ集約的に反映し、かつ誰でも平等に参照できる資料は他に存在しないからである。仮に時代の全般的傾向を代表し得ないとしても、ある種の集団における傾向を如実に反映し、しかも経年変化を長期にわたって追跡することが可能な、代替不可能な資料である。如上の制約の範囲内に限れば、他に類を見ない信頼できる基礎資料と考えて差支えないだろう。
本調査では眼鏡勢力の経年変化を明らかにするための資料としたが、他にも様々な調査(絵柄の推移・属性萌えの具体的動向・右向きの顔と左向きの顔の比率等)の対象として活用することが可能な、ポテンシャルの高い資料であることは間違いないだろう。

調査方法の問題点

また調査方法に係る問題点も明らかにしておく。
原理的な問題は「何を眼鏡っ娘とし、何を眼鏡男子とするか」という定義の問題であり、それに関わって「これは眼鏡っ娘(眼鏡男子)なのか」という具体的な個別判断の妥当性の問題も生じる。
「何を眼鏡っ娘とし、何を眼鏡男子とするか」という定義の問題は、個人的な価値観と離れがたく関係し、論理的には極めて錯綜としている。たとえば年齢の問題がある。「波平さん」が描かれたサークルカットを眼鏡男子と判断して大丈夫なのか。またサングラスや片眼鏡の問題がある。たとえば「熱気バサラ」や「バーナビー・ブルックスJr.」は眼鏡男子なのか。『最遊記』の八戒は眼鏡男子か。さらにジェンダーの問題がある。たとえばサークルカットに「女性化ティエリア」と書かれていたら、それは眼鏡っ娘なのか、眼鏡男子なのか。これは単なる技術的な問題ではなく、「眼鏡とは何か」という信念そのものに深く関わる哲学的な問題と言える。

この妥当性に対する原理的な問題に対して、本調査においては、現象学を方法原理として対応している。「意味論的に眼鏡っ娘だと思ったら眼鏡っ娘で、眼鏡男子だと思ったら眼鏡男子だ」というふうに、現象学が言う本質観取によって判断を下した。本質観取に従えば、「波平さん」は眼鏡男子であり、「熱気バサラ」は眼鏡男子ではなく、バニーも八戒も眼鏡男子で、「女性化ティエリア」は敢えて眼鏡男子とする。

この判断を貫く本質的な基準は2つある。一つは「視力矯正器具としての眼鏡」という直感である。眼鏡っ娘や眼鏡男子の眼鏡は「視力矯正器具としての眼鏡」であることが本質を構成する。熱気バサラのサングラスは、現象学的には「眼鏡性」を帯びていない。逆にバニーの眼鏡は視力矯正器具とも判断できないわけだが、もう一方で物語内在的に情報を受容する過程から虎徹との関係を観取すれば、現象学的には「眼鏡性」を帯びていると判断できる。表面的に眼鏡をかけているかいないかだけでなく、物語やキャラクターに内在する本質として「眼鏡性」を観取するしかない。つまり本調査の結果自体は、「調査者自身(筆者)のおたく力」がダイレクトに反映したものであるとも言える。
しかしそれは即座に本調査が単に主観的であることは意味しない。私という調査主体が現象学的手続きを経て判断している以上、最終的な結論は首尾一貫した基準に拠っていることは妥当性の担保となる。そしてもちろん「眼鏡性」に対する本質観取が私と異なる人物が同じ手続きで調査を行なった場合、本調査とは異なる結果が出ることが容易に想像できるが、妥当性の問題を考える上で重要なのは個々人の「調査方法の制約と問題」がそれぞれ明らかにされているかどうかである。本調査を諸般の議論に活用する場合は、資料の性格そのものと調査方法に内在的に存する制約についてはくれぐれも前提としてお含みおき頂きたい。

調査結果

以下に調査結果を表にして示す。

開催年眼鏡っ娘
比率(A/S)
眼鏡男子
比率(B/S)
眼鏡っ娘
総数(A)
眼鏡男子
総数(B)
サークルカット
総数(S)
2182夏0.73%1.35%713964
2383春0.63%1.65%8211270
2483夏0.69%2.07%10301452
2583冬0.26%1.17%4181533
2684夏0.75%0.79%18192413
2784冬0.51%1.06%11232166
2885夏0.41%1.11%14383409
2985冬0.40%1.35%16544000
3086夏0.28%1.53%11613993
3186冬0.24%1.13%11514502
3287夏0.33%1.29%15584510
3387冬0.34%1.08%15484458
3488夏0.24%1.22%221109020
3589冬0.18%1.15%161018772
3689夏0.15%1.25%1512610114
3789冬0.24%1.31%2714611121
3890夏0.24%1.22%3116013094
3990冬0.32%1.47%4119112964
4091夏0.28%1.54%3217411266
4191冬0.42%1.69%6726615776
4292夏0.28%1.88%3322311857
4392冬0.32%2.21%4933615220
4493夏0.42%2.56%6640215724
4593冬0.43%2.25%6735315683
4694夏0.42%2.35%6838016161
4794冬0.59%2.71%9242115507
4895夏0.92%2.69%20660122343
4995冬0.88%2.61%13941215771
5096夏0.71%2.58%13548918959
5196冬0.73%2.69%16560722597
5297夏0.98%2.40%33081233802
5397冬1.00%2.43%22354422409
5498夏0.96%2.65%32689733849
5598冬1.04%2.59%24761423717
5699夏0.92%2.47%32486535069
5799冬1.21%2.58%30064224868
5800夏1.23%2.42%43384935065
5900冬1.53%2.70%35662723210
6001夏1.31%2.43%45985134961
6101冬1.65%2.74%38263423167
6202夏1.76%3.29%616114934956
6302冬1.76%3.58%615125334977
6403夏1.55%3.61%544126835083
6503冬1.81%3.92%634137134975
6604夏1.56%3.53%547123534978
6704冬1.56%3.62%40582622804
6805夏1.60%3.28%561114634992
6905冬1.83%3.22%42474723188
7006夏1.63%3.39%572118534991
7106冬1.79%3.54%625123834967
7207夏1.82%3.40%634118834918
7307冬2.05%3.64%717127134915
7408夏1.91%3.72%665129434829
7508冬1.94%4.52%679157834927
7609夏1.65%4.11%577143634931
7709冬1.80%4.12%630143934927
7810夏1.73%4.07%605142134932
7910冬1.74%4.11%610144035016
8011夏1.77%3.80%619132634932
8111冬1.95%4.96%681173434928

割合の経年変化が分かりやすいよう、以下、調査結果をグラフにして示す。

傾向の分析

以下、内容について若干の考察を試みる。調査の結果をどのように理解するか、他にも様々な観点から幅広い考察が加えられることを期待したい。

全体的な傾向について

全体的には3つの傾向が明らかに示された。
(1)全期間にわたって眼鏡っ娘より眼鏡男子のほうが多い。
(2)眼鏡っ娘・眼鏡男子ともに多少の紆余曲折はあるものの全体を通じて増加傾向を示している。
(3)総体的に見た場合、まだまだ数は少なく、発展の余地が残されている。
以下、少し立ち入って検討する。

一つ目の傾向、眼鏡っ娘より眼鏡男子のほうが多いことについては、そもそもコミケへの参加サークル自体が男性向けより女性向けのほうが多いことが根本的な理由であるように思われる。もちろん例外はあるにしても、眼鏡男子は女性向けサークルのカットに現われ、眼鏡っ娘は男性向けサークルのカットに現われることが多い。女性向けサークルが多ければ、必然的に眼鏡男子のほうが多く現われることになる。
この傾向を考慮した場合、本来なら男性向けサークルと女性向けサークルの総数を割り出した上で、眼鏡っ娘・眼鏡男子の比率を算出する手法を採ることが望ましい。ただし、残念ながら男性向けサークルと女性向けサークルの総数を割り出す作業が困難を極めることは容易に予想され、現状の技術では断念せざるを得ない。他日、技術力の強化をまって取り組む課題としたい。

二つ目の傾向、眼鏡っ娘・眼鏡男子ともに増加傾向にあることは、グラフを一瞥するだけで瞭然である。当初水準と比較したとき、眼鏡っ娘は10倍、眼鏡男子は5倍へと大躍進している。細かい傾向の検討を経ずとも、眼鏡勢力の拡大については本調査によって数字的な裏付けが得られたものと判断して差し支えないだろう。特に平成に入ってからの躍進は、数字的に見ても明らかである。平成が眼鏡大躍進の時代であったことが客観的に確認できたことは、本調査が示す確実な成果である。

しかし、三つ目の傾向、総体的に見た時にまだまだ数が少ないことには留意しておく必要がある。最高水準でも、眼鏡っ娘比率は約2.0%、眼鏡男子比率は約5.0%にしかならない。これは1クラス40人の学級を考えたとき、眼鏡っ娘は1人いるかいないか、眼鏡男子は2人程度しかいないという計算になる。これは現実の学級構成を考えた場合、あまりにも少ない人数だろう。
ただしこの比較をする場合、本来なら評論系サークルなど文字だけのカットを除くなどの作業を経る必要がある。資料整序の作業を経ていない以上、正確な判断は難しいところではある。とはいえ、全体的に見て発展の余地が十分に于残されているだろうことは考慮してよいだろうと思われる。

眼鏡っ娘の傾向について

個別に検討を加えたので、以下のページをご参照頂きたい。
参照:コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の傾向分析

眼鏡男子の傾向について

個別に検討を加えたので、以下のページをご参照頂きたい。
参照:コミケサークルカットに描かれた眼鏡男子の傾向分析

小括と今後の課題

以上、調査結果に基づいて、若干の解釈を試みた。本調査の結果を踏まえて一つ確かに言えることは、平成が眼鏡大躍進の時代だったということである。その大躍進の理由についての解釈は、様々あるだろう。多様で幅広い解釈が現われることを期待したい。
今後の課題は2点ある。一つは、本調査が2011年時点で終了している点である。調査対象を現在まで伸ばせば、平成という時代の特徴がさらに明らかになることが期待できる。もう一つは、他の指標の開発である。本調査の本質的制約については既に明らかにしてある。一般的な眼鏡躍進の動向を理解するためには、他の指標が必要となる。判断の基準となる適切な指標を得るべく、さらに工夫を加えていきたい。
眼鏡を愛する全ての者に、幸あれかし。