【資料と分析】コミケサークルカットに描かれた眼鏡男子の傾向分析

調査全体の前提について

 このページでは、コミケサークルカットに描かれた眼鏡男子の経年変化の傾向について分析する。調査全体の目的や方法、全体傾向については、以下のページをご参照頂きたい。
参照:コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査

眼鏡男子サークルカットの個別分析

 眼鏡男子の経年変化で気づくことは、断続的に大躍進を続けており、大躍進期を契機として4つの時期に分けられるように見えるということである。以下、分かりやすくグラフを4期に分けて示した。

第1期:停滞期(1982年~1990年)

 最初はC21(1982年夏)からC38(1990年夏)の時期だが、この時期の眼鏡男子は明らかな停滞傾向にある。
 80年代前半の比率が比較的高いのはコミケ全体でオリジナル作品が多いためだ。しかし80年代半ば以降は、『キャプテン翼』や『聖闘士星矢』あるいは『鎧伝サムライトルーパー』や『天空戦記シュラト』など、眼鏡キャラがまるで登場しない作品が二次創作界で圧倒的な猛威を振い、眼鏡キャラの存在感が無に等しい状態となる。極めて例外的に眼鏡をかけた若島津や水滸のシンが描かれることもあったが、多勢に無勢の絶望的な状況は如何ともしがたかった。
 そんな中でもかろうじて芸能ジャンル(具体的にはアルフィーや大江千里、CCBのリュウくん)で眼鏡イラストを散見することができる。たとえばC32(1987年夏)では、描かれた眼鏡男子総数58人のうちアルフィーだけで23人(40%)を占める。芸能ジャンルでの眼鏡描写は、現在に至るまで確認することができる。

第2期:拡大期(1990年~2001年)

 1990年から4年間で、眼鏡男子は大躍進を遂げる。実数で約3倍、率でも約2倍の急成長である。この躍進を支えたのは、段階的に投入された優秀な眼鏡男子たちである。

 まず最初に目立ったのは、C39(1990年冬)に登場した『機動警察パトレイバー』のシャフトの二人、内海課長と黒崎である。この二人は揃って一つのサークルカット内に描かれることも多く、作品自体が終わった後も根強い人気を保ち、眼鏡勢力拡大の火付け役となっている。

 続いて目立ったのはC41(1991年冬)の『ファイバード』火鳥さんだが、この時点でたった1カットしか存在しなかった『サイバーフォーミュラ』ハイネルが、C42(1992年夏)には21カット、C43(1992年冬)には103カットまで伸び、一気に一大勢力となる。
さらにC44(1993年夏)でもハイネルに衰えが見えない(109カット)中、さらなる燃料「三×暮」が投下される。よしながふみ等も「三×暮」に参入したことから『スラムダンク』の木暮は一大眼鏡勢力となった上、さらにカットの中に「メガネくん」という単語も登場するようになる。ここに至り、眼鏡男子は確乎たるジャンルとして認知されるに至ったと言える。4年前(1989年)の零落ぶりがまるで信じられない眼鏡大躍進である。この大躍進現象を「G×H・三×暮 二段階革命」と名付けたい。

 ただしC46(1994年)以降はC61(2001年冬)まで、ほぼ2.5%前後で足踏みをする。興味深いのは、眼鏡男子の比率自体は大きく変動しないにもかかわらず、描かれるキャラクターがゆっくり交替していくことである。目立ったところでは、『め組の大吾』の甘粕、『富士見二丁目交響楽団』、『名探偵コナン』、『金田一少年の事件簿』の明智、『ジャスティス学園』等が次々と現われた。このように8年もの間、眼鏡男子の中身が交替しつつも全体として勢力が均衡している状態を「神の見えざる手」と名付けたい。

第3期:躍進期(2002年~2008年)

 しかし眼鏡男子は2002年に長期の停滞傾向を抜け、再度の大躍進を遂げる。
 大躍進に圧倒的に貢献したのは『テニスの王子様』である。手塚部長を始め、乾や忍足といった「眼鏡’s」の面々が何ページにもわたってカタログ紙面を埋め、見渡す限りどこまでも眼鏡という様は、まことに一大壮観であった。それに加えて同時期に『ハリーポッター』も威力を振い、C62(2002年夏)には長年超えられなかった3%の大台を一気に突破することとなった。『テニスの王子様』と『ハリーポッター』は長期間に渡って大きな影響力を振い、眼鏡男子勢力は常に3%以上をキープすることとなる。この躍進現象を「ハリ・プリ革命」と名付けたい。

 また華々しい二次創作の展開に目を奪われがちだが、忘れてならないのはオリジナル創作での眼鏡男子勢力である。この時期には眼鏡男子萌えがほぼ定着し、様々な女性向けジャンルで眼鏡男子が描かれているのを確認することができる。カップリングで片方が眼鏡という様式が定着していく様子も見える。ちなみに『鬼畜眼鏡』リリースは2007年である。
 興味深いのは、眼鏡っ娘のほうは「眼鏡島」が形成される傾向があったのに対し、数では優る眼鏡男子のほうでは「眼鏡島」の形成が遅れたことである。男性向けと女性向けのメンタリティの差が表れた事象なのかもしれないが、詳しい考察は他日を待ちたい。

第4期:飛躍期(2009年以降)

 眼鏡男子の勢いは止まらない。2009年には『ヘタリア』で加速度を増すと、2011年冬には『タイガー&バニー』で一気に5%台を伺うところまで一気に躍進する。頼もしい限りである。

小括と今後の課題

 眼鏡男子についても、やはり平成に入ってから断続的に大躍進を遂げていることが、数字的に明らかにできた。この頼もしい躍進をさらに推し進めていって頂きたいと切に願う。
 眼鏡っ娘との違いは、やはり女性向け同人特有の「カップリング」という文化にあるように推測できる。眼鏡躍進のきっかけを作った「内海×黒崎」にしろ、「G×H」にしろ「三×暮」にしろ「兎虎」にしろ「虎兎」にしろ、カップリングという文化の中で眼鏡の果たす役割が進化し続けていることが、サークルカットでの眼鏡露出増加に結びついているように思われる。そしてカップリングの妥当性に関する議論と対話が深まる過程に伴い、「眼鏡性とは何か?」という哲学的課題に対する探求も急速に深まっている。この現象に対する本質的な考察は、今後の課題である。

参照■「コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査」
参照■「コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の傾向分析」