教育概論Ⅰ(栄養)-6

▼短大栄養科 5/22(火)

前回のおさらい

・ヨーロッパが強くなったのは、(1)大航海時代(2)宗教改革(3)ルネサンスをきっかけとしていました。
・それらはすべて印刷術を前提として実現していました。
・リテラシーを獲得するために、人々は自ら進んで勉強を始めるようになりました。

欲望の解放と制御

市民社会:欲望の体系とも呼ばれます(ヘーゲル『法の哲学』)。個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させるために組み立てられた世の中のことです。
・経済的発展は「欲望の解放」によって促進されます。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞してしまいます。
・しかし人間の欲望には際限というものがありません。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまいます。
・人間の欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるでしょうか? →民主主義

社会契約論

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・現実に世の中を変えたのは市民革命です。市民革命の理論的根拠となったのが、社会契約論と呼ばれる考え方になります。
*社会契約論:人間の欲望が解放されてしまって、従来の世の中の仕組み(たとえば身分制)を前提にして世の中を動かしていくことが不可能となったとき、純粋な「個人」という理想状態を仮説的に考察の土台として、人間の本質から合理的に結論を導き出した、欲望をむき出しにした「個人主義」であっても壊れないような世の中、むしろ人々が欲望を持っているからこそ上手く運営されるような世の中のありかたを考える政治思想です。
・ホッブズ『リヴァイアサン』→ロック『市民政府論』→ルソー『社会契約論』というように展開します。

「社会」とは何でしょうか?

社会:もともと日本語には存在せず、sociaeyやassociationの翻訳語として普及しました。ヨーロッパで成熟した個人主義(人間の欲望を積極的に肯定する考え)を土台として組み立てられた世の中を指します。
・「社会」と伝統的な「共同体」の違いとは何でしょうか→個人優先か、集団優先かの違い。
・そもそも、伝統的な共同体理論においては、共同体から独立した純粋な「個人」なるものは想像すらできませんでした。アリストテレスによれば「人間はポリス的な動物」であり、ポリス(=政治的共同体)から独立した人間本性は考えられませんでした。しかし人間の欲望が解放された結果として、どうしても利己的で自分勝手な人間の姿を人間の本質として想定せざるを得なくなっていきます。
・逆に言えば、人間の欲望が解放されず、「人間はポリス的な動物」と言って皆が納得するような状況においては、民主主義はそもそも必要とされないのかもしれません。

「契約」とは何でしょうか?

・自由で平等な個人同士が合理的な判断を下した結果として成立する合意と約束のことです。自由や平等が損なわれているところでは成立しません。
・西洋社会には「契約」の伝統がありました。
・神と人との契約から、人間同士の契約へと理論が展開します。

ホッブズ『リヴァイアサン』

自然状態においては、人間は自由で平等でした。→自然権
・しかし人間の欲望には制限がなく、放置していたら人々は他人の自然権の根幹(いちばん大事な生命)を侵害してしまいます。→万人の万人に対する闘争
・そこで人々は理性的に考えて、一番大事な自分の生命を守るためにこそ、自らの自然権を放棄し、契約を結んで、共通権力を作り上げることが必要だと考えます。→自然法
・もしも自分の生命を脅かすものがいたら、この共通の巨大権力に懲らしめてもらえばいいわけです。
・自分の生命を保護してもらう代わりに、人々は共通権力が決めたルールには従わなくてはなりません。

ロック『市民政府論』

・共通権力(政府)は、単に人々の生命を守るというだけの必要悪に留まるものではなく、積極的に人々の私有財産を保護する義務を持ちます。
・所有権の理論的根拠を、身体の所有権と労働に求めます。(ただしここでロックの言う労働が、本当に彼自身が働くことかどうかについては注意が必要です。実際に肉体労働に従事したのは、彼が私有財産として所有している奴隷たちかもしれません。)
・もしも政府が個々人の生命・自由・財産を侵害するのであれば、もはや政府としての役割を果たしていないのであって、人民には契約を破棄する権利があります。→抵抗権

ルソー『社会契約論』

一般意志:単なる生命の保障や、私有財産の保障は、社会契約の基礎的な理由にはなりません。自由な討論の過程を通じて、個々の利害には関係がないような、全ての人々に共通する人間性に照らして妥当する普遍的な法則を土台にするべきです。社会契約は、この一般意志を社会の根本的なルール(公共の福祉)として、普遍的な人間性を最大限に保障することを目指します。
・この一般意志が、単なる多数決とはまったく異なることに注意する必要があります。多数決で得られる利害調整は、全ての人々に共通する人間性から引き出されているわけではありません。そもそも、全ての人間に共通するようなものは、当然一つしかありえないのであって、最初から多数決に諮れるはずがないものです。
・人間が身分制や地域性によってバラバラに分断されていては、全ての人々に共通する普遍的な人間性を抽出することはできません。全ての人間は、自由で平等で独立した「個人」でなければなりません。
・単なる欲望の単位としての人間から、共通する人間性を持つ自由で平等な主体としての人間=市民へと展開します。

新しい社会にふさわしい新しい個人

・「個人」とは、身分や地域の特殊性にはまったく関係がなく、何の特殊な属性も持たない、普遍的な人間のことです。伝統的共同体の様々なしがらみから切り離された、剥き出しの人間のことです。
・新しい社会を作ることは、必然的に、新しい社会にふさわしい新しい「個人」を作ることを意味します。だから新しい社会について考えた思想家は、それにふさわしい新しい「個人」についても考えるし、それにふさわしい教育の形についても構想することになります。
・普遍的な人間のための教育とは、人格の完成を目的とする教育です。

復習

・「社会契約論」の理屈を、おさらいしておこう。

予習

・ロックとルソーの教育論のあらましを押さえておこう。