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【要約と感想】佐々木潤『個別最適な学び×協働的な学び×ICT入門』

【要約】主に小学校高学年の実践を踏まえながら、令和に相応しい学びのあり方を示します。教師主体の一斉教授は終わりにして、子どもたちを主役にした学びを展開しましょう。ICTを活用すると、簡単に実現できます。特別なスキルはいりません。子どもの力を信頼し委ねる勇気があればできるはずです。

【感想】机上の空論ではなく、著者の実践を土台にしているので、説得力がある。特別なアプリや環境なども必要なく、Google Workspaceさえあれば実現できるような取組みばかりで、ハードルも低い。実践で気をつけるべきポイントも分かりやすい。小学校で新たな取組みをはじめる際の入門書としてお勧めできる本だと思う。

佐々木潤『個別最適な学び×協働的な学び×ICT入門』明治図書、2022年

【要約と感想】苫野一徳×工藤勇一『子どもたちに民主主義を教えよう―対立から合意を導く力を育む』

【要約】異なる意見を論破して喜んだり、安易に多数決でものごとを決めるのは、民主主義ではありません。対立する立場が対話を重ね、双方が納得できるような合意を導き出す知恵こそが民主主義を成り立たせます。
 学校とは、立場の異なる人々が存在することを認識し、それぞれの立場を尊重する態度を身につけ、対話の知恵を育み、主体性を伸ばす場所です。学校を民主主義を育む場とするために、最上位の目標を見極めて、着実に前進していきましょう。

【感想】目まぐるしく変化する社会の中で従来の教育システムの賞味期限が切れて有効性を失い、学校と教師が自信を失ってどうしていいか迷う中、本書はこれからの教育の方針を力強く示し、未来への見通しと展望を提供する。現状に満足している人にはピンと来ないだろうが、迷ったり悩んだりしている人には刺さる本だろうと思う。総花的にテーマを網羅していて一つ一つの話題を深掘りしているわけではないが、深めようと思ったら著者の別の本を読めばいいだけなので、まずは本書を通読して自分の問題関心を見極めるのがいいかもしれない。教職志望の学生にも分かりやすい本だと思うので、参考文献リストに載せて勧めることにする。

【個人的な研究のための備忘録】「人格の完成」について
 私がライフワークとしている「人格の完成」概念について言及があったので、本書の全体構成とはまったく関係がないが、サンプリングしておく。

「工藤「だって僕からすれば日本は教育基本法からして民主主義の思想をもとにつくられていないですよ。たとえば第1条にこうありますね。(中略)
人格の完成」とありますけど、完成した人格ってなんですかね、一般人には曖昧ですし、もう出だしから「心の教育」がはじまっているようにも感じるんですね。」137頁

 教育史の専門家から見れば、あっけにとられるような勉強不足が露呈している部分だ。草葉の陰で田中耕太郎も泣いていることだろう。しかしまあ、工藤校長をしてこの見解であれば、世間一般の理解は推して知るべきというところなのだろう。
 この見解に対して、教育学専門家の苫野先生はさすがにツッコミを入れている。

「苫野「ちなみに、「人格の完成」はおっしゃる通り曖昧な言葉で、まるで聖人君子を育てることが教育の目的であるかのようにも聞こえてしまいます。でも哲学的には、これは「他者の自由を尊重・承認できる自由な市民」を育むことに尽きると私は考えています。それ以上でも、それ以下でもありません。」139頁

 まさにまさに。草葉の陰で田中耕太郎もほっとしていることだろう。苫野先生の的確なフォローがあって、私もほっとした。(とはいえ、田中耕太郎の立法意図に踏み込むと、もっといろいろ出てくるところではある。が、まあ、そんなことは苫野先生も承知で言っているだろう。)
 しかし問題の本質は、工藤校長の無知ではなく、工藤校長のような最高峰の実践者ですら「人格の完成」という概念の正確な理解が困難になっている環境のほうにある。「人格の完成」の中身について、教員養成課程どころか教員になってからも学ぶ機会がなかったという環境に問題がある。というか、「人格の完成」の本質が理解されないように誰かが意図的に仕組んでいるという可能性も考慮してよい。
 私の個人的な調査では、問題の要点は高度経済成長期にある。高度経済成長期以前には、ほぼ田中耕太郎が意図したように「人格の完成」が理解されていた。しかし高度経済成長以後は、確かに工藤校長が主張するように「心の教育」に変質(あるいは堕落)したように見える。高度経済成長期を経た日本社会の変質によって、「人格の完成」という概念は本来の意味を失い、その空隙に儒教的な観念が滑り込んできたように見える。そのあたりの事情は私個人の研究で深めればいいところだが、ともかく現代日本では「人格の完成」の意味が見失われている証拠として、工藤校長から言質をとれたことは個人的にありがたかったりする。(ちなみに、もちろんこんな些細なことで工藤校長の考えや実践全体が否定されるわけではないし、本書の論旨に影響することもまったくない。)

【個人的な研究のための備忘録】多数決
 「多数決」について工藤校長はこう言っている。

「教育学者で多数決は問題だと主張している人も知りません。」34頁

 教育学者である私は、25年前の非常勤講師時代から一貫して「多数決」の問題を教育学の講義で取り上げ続けてきて、今現在もルソーの「一般意志」を鍵概念として「民主主義」の本質を説明する回で丁寧に取り上げている、という事実は書き残しておこうと思う。(たとえば2018年の講義記録がWEB上の「教育概論Ⅰ(中高)-6」に残っているし、ここではさらに「人格の完成」と「民主主義」の関係について触れている)。工藤校長が知らないのは、単に私の知名度が低いだけの話だ。自分自身の知名度が低いこと自体は気にならないのだが、教育学の名誉のためにはもっと頑張ったほうがいいな、と思ったのであった。

苫野一徳×工藤勇一『子どもたちに民主主義を教えよう―対立から合意を導く力を育む』あさま社、2022年

【要約と感想】妹尾昌俊・工藤祥子『先生を、死なせない。』

【要約】教員が幸せでないところで、子どもが幸せになれるわけがありません。教員の過労死には客観的な共通点がありますので、まずは現実を直視しましょう。問題の所在と本質を明らかにし、具体的な改善策も示しました。悲しい出来事を繰り返してはいけません。

【感想】全体的に落ち着いた筆致に終始しているのに、ものすごい迫力がある本だった。怒りと悲しみが伝わってくる。胸が塞がり、ときどき本を投げ出しては目を覆ったり頭を抱えたりして、一気に読み通すことができなかった。教育委員会や管理職には耳が痛い話だろうが、直視しておいた方がいいのだろう。というか、実はいちばんkaroshiに近いのが教育委員会や管理職だったりするのではあるが。
 しかしこのkaroshiというやつは、学校や教員だけに限られた特有の現象ではなく、残念ながら日本社会(あるいはアジア的風土)全体の特徴だ。おそらく学校や教員の世界だけの努力で本質的なところを改善できるものでもないのだろう。日本人全体(教育に関しては保護者や地域の人々)がちょっとずつユルくなって、集団ではなく個人を大切にする風土を醸成していかないと、抜本的な解決は見込めないような気もしてしまうのだった。

妹尾昌俊・工藤祥子『先生を、死なせない。』教育開発研究所、2022年

【紹介と感想】井上嘉名芽他『GoogleアプリのICT”超かんたん”スキルーハッピーな学級経営が今スグできる!』

【紹介】無料のGoogleアプリ(クラウド・サービス)を利用して、学級経営にすぐに使える方法を25個紹介しています。操作の手順も写真つきで親切丁寧に解説しており、ICT初心者でも簡単に使えます。(ちなみに、授業ではなく、学級経営の場面に特化した本です。)

【感想】ICT初心者向けの、分かりやすい指南書。何からICTを始めていいか途方に暮れている人には、かなりありがたい本だと思う。いくつか実際にやってみれば、おそらくかなり便利なことを実感し、ICTを使う意味も分かってくるのではないかと思う。
 逆に、普段からパソコンに触れているような人にとっては、まあ中には「ナルホド」と思うような使い方があって勉強になったが、全体的には大きな驚きはないとは思う。

■井上嘉名芽・今田英樹・尻江重幸・遠島充・鳥生浩樹・古川俊・祐源愛・和田誠『GoogleアプリのICT”超かんたん”スキルーハッピーな学級経営が今スグできる!』時事通信社、2022年

【要約と感想】蓑手章吾『個別最適な学びを実現するICTの使い方』

【要約】単にICTを使うことを目的にするのではなく、これまでの教育の形(チョーク&トーク)が根本から変わることを実感しましょう。これまではやりたくてもできなかったようなことが、ICTを活用することでどんどん実現できます。具体的な実践例多数。

【感想】東洋経済オンライン「education×ICT」でも安定した記事を配信している蓑手氏の著書で、非常に明快で分かりやすい。特に良いのは、単にICTを活用する方法だけ紹介しているのではなく、一貫した「子ども観」を土台として、実現したいことを実現するための手段としてテクノロジーを利用しているところだ。子どもの主体性や学びに向かう力を全面的に信じるところから、様々な実践が成立する。フレーベルが現代に甦ったとしたら、たぶん同じようにICTを使いこなしまくるだろう。だから逆に言えば、本書を読んで、表面だけマネしようと思ってもなかなかうまくいかないだろうと思う。一番のポイントは、子どもの力を信じることだ。

蓑手章吾『個別最適な学びを実現するICTの使い方』学陽書房、2022年