「講義」カテゴリーアーカイブ

教育原論(栄養)-6

栄養科 5/28

前回のおさらい

・義務教育の思想:コンドルセとオーエン。
・教育権の構造。

今回の目標

・「人格」について深めよう!

人格の完成

・教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」であると書いてありました。
人格とは何でしょうか? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることができません。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみましょう。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、比較できず、束ねられず、代わりがなく、変わらないようなものです。
・モノと人格は決定的に違います≒好きと愛してるの違い。
・「人格を尊重する」とは、どういうことでしょうか。→モノとして扱わないことです。

個性

・個性=Individualityの翻訳語です。
・長所とか特徴とか持ち味などという言葉とはニュアンスが異なります。
・他のものと交換することができない、かけがえのない、なにか。それが取り去られたら、私が私でなくなってしまう、なにかのことです。それは究極的には「自由」とか「意志」とか「自律」という概念に関わってきそうです。
・「個性を尊重する」とはどういうことでしょうか?
・教育者が言ってはならない、個性を否定するような言葉に気をつけましょう。
・一人一人の個性を大事にするとはどういうことでしょうか?

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳されることがあります。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられます。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」「わたし は わたし」
・この世に変化しないものなどあるでしょうか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのでしょうか?
・わたしの属性について考えてみましょう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何でしょうか? 主語と述語の関係に注目してみましょう。
・常に主語であるものにはアイデンティティが成立していそうです。
・述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、同じ文章でも世界の見え方や関わり方が異なってきます。
・「主体性」や「自主性」とは何でしょうか?

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。本物の幸せ。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続が、人格を完成へと向かわせます。

【中学校学習指導要領】
「生徒が、自己の存在感を実感しながら、よりよい人間関係を形成し、有意義で充実した学校生活を送る中で、現在及び将来における自己実現を図っていくことができるよう、生徒理解を深め、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。」(総則、25頁)
「自主的、実践的な集団活動を通して身に付けたことを生かして、集団や社会における生活及び人間関係をよりよく形成するとともに、人間としての生き方についての考えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う。」(特別活動の目標、162頁)

「近代教育」まとめ:人格の完成とは・・

・個性の尊重:かけがえのないわたし。
・アイデンティティの確立:自(分が)主(語)。わたしはわたし。
・自己実現:夢と現実。ほんとうのわたし。

復習

・「人格」や「個性」、「アイデンティティ」、「自己実現」という言葉について考えを深めよう。

予習

・「新教育運動」と「児童中心主義」について調べておこう。

発展的な学習の参考

人格とは何か?
個性とは何か?
アイデンティティとは何か?

教育概論Ⅰ(中高)-6

栄養・環教 5/24
語学・心カ・教福・服美・表現 5/25

前回のおさらい

・「学制」の特徴=ヨーロッパの真似。
・ヨーロッパが強くなった経緯=大航海時代・宗教改革・ルネサンス←印刷術

今回の目標

・コメニウスの教育思想を知ろう!
・市民革命の経緯と理屈を踏まえて、「人格の完成」を目指すようになった理由を理解しよう!

ヨーロッパはどうして強くなったのか?(15~16世紀)

ルネサンス(15~16世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための「商品」となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明される以前は、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ね、人々は「自分自身」を作り上げていきます。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

リテラシーと学校の広がり

・印刷術の発明によって進んだのは、「知識の民主化」でした。それまで「知識」は王様や貴族や僧侶が独占するものでしたが、書物によって一般民衆がアクセス可能なものに変わりました。
・それまでは「身分」によって人生が固定していましたが、これからは「知識」によって人生が変わるようになります。
・人々は書物を通じて知識にアクセスするため、リテラシーを獲得しようとします。学校が自然に増加していきます。

*現代の知識の民主化:インターネットの普及によって「知識」を簡単に入手できるようになり、それまで「知識」を一方的に独占・発信していた学校や報道機関に対する不信感が高まります。
→もちろん16世紀ヨーロッパでも、新しい知識を獲得した人々は、それまで知識(そして権威)を独占していた王様・貴族や僧侶に対する不信感を高めていきました。
→不登校の増加やテレビ離れ、学校へのスマホ持ち込み等をどう考えるか。
*格差の拡大:新しい知識を持っているか持っていないかで、格差が拡大していきます。デジタル・ディバイド。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・1592年~1670年。モラヴィア(チェコ)出身。プロテスタント(ヤン・フスのボヘミア兄弟団)。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・キャッチフレーズ:近代教授学の父
・名言:全ての人に全ての事柄を教授する

小テスト

市民革命と社会契約論(17~18世紀)

市民社会:欲望の解放と制御

市民社会:身分社会を否定し、個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させることを優先して組み立てられた世の中のことです。
・経済的発展は「欲望の解放」によって促進されます。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞してしまいます。
・しかし人間の欲望には際限というものがありません。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまいます。実際に、ヨーロッパの16世紀と17世紀は宗教戦争や侵略戦争が続いて荒れ狂った時代となりました。
・人間の欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるでしょうか? →民主主義

市民革命と社会契約論

・ヨーロッパの政治体制を決定的に変えた事件をまとめて市民革命と呼びます。王様や貴族などが倒され、僧侶の権威が低くなり、身分制がなくなりました。
*市民:農村の生産者ではなく、都市に暮らし、市場でお金を使う人々を指します。基本的にお金持ちです。
*革命:「一揆」と勘違いする日本人が多いですが、いわゆる一揆は支配者の交代を伴いません。支配階級が覆る事態を革命と呼びます。
*市民革命:ヨーロッパでは様々な地域と時期に革命が発生しましたが、全て共通して「市民」が支配者になる革命だったので、「市民革命」と呼びます。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命には、それぞれ理論的指導者と代表的な政治思想書が関わっています。市民革命の理論的根拠となったのが、社会契約論と呼ばれる考え方です。ホッブズ『リヴァイアサン』→ロック『市民政府論』→ルソー『社会契約論』というように展開します。

社会契約の「社会」とは?

社会:もともと日本語には存在せず、sociaeyやassociationの翻訳語として普及しました。ヨーロッパで成熟した「個人」を土台として組み立てられた世の中を指します。
・伝統的な「共同体」と新しい「社会」では、集団優先か個人優先かで世の中の形が決定的に違ってきます。共同体では身分が固定して人々の役割が決まっていましたが、社会では個人の力によって役割や組み合わせを変えることができます。
*たとえば「日本は集団主義」と言う人がいますが、本当でしょうか? 「集団」の質の違いを押さえずに言って大丈夫でしょうか?

社会契約の「契約」とは?

・自由で平等な個人同士が合理的な判断を下した結果として成立する合意と約束のことです。自由や平等が損なわれ、合理的な意志と判断が存在しない場合には、契約は成立しません。
・身分や性別などの「属性」によって条件が変わるものは契約と呼べません。契約とは、属性に関係なく、自立した個人の意志と判断によって成立します。←「属性」とは関係ない、「自立した個人」を作らなければいけません。

新しい社会にふさわしい新しい教育

・個人を作る:「個人」とは、身分や性別等の特殊性にはまったく関係がなく、何の特殊な属性も持たない、普遍的な人間のことです。伝統的共同体の様々なしがらみから切り離された、剥き出しの人間のことです。
・人間はわがままで自分勝手な本性(自然権)を持っているからこそ、その本性を外部から押さえ込まずに最後まで貫き通すことによって、自由で平等で平和な世の中を作り上げることができます。
・しかしそう判断できる(自然法を導き出す)ためには、合理的に物事を考える「理性」がなければなりません。
・新しい社会を作ることは、必然的に、新しい社会にふさわしい新しい「個人」を作ることを意味します。だから新しい社会について考えた思想家は、それにふさわしい新しい「個人」についても考えるし、それにふさわしい教育の形についても構想することになります。

人格の完成をめざす教育

・人格の完成:普遍的な教育とは、人間を作る=人格の完成を目的とする教育です。
・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。知識を注入したり偏差値を上げるような教育でもなければ、または特定の職業を目指すような教育でもありません。
*Instruction=専門教育(特殊性)とEducation=普通教育(普遍性)の違いを考えてみましょう。

復習

・コメニウスの思想を時代背景とともに押さえよう。
・市民社会に必要な教育が、リテラシーの教育と決定的に異なることを押さえておこう。

予習

・「憲法」とは何かについて、「法律」との違いを中心に調べておこう。

教育原論(保育)-6

短大保育科 5/23・5/25

前回のおさらい

・日本での近代教育の始まり。江戸時代中期頃から生産力が向上したために子供に対する見方が変化し、寺子屋で読み書きや算盤の勉強をするようになりました。また、長期間にわたる平和のおかげで学問も大きく発展しました。
・明治時代に入って、現在のような学校教育が始まりました。

今回の目標

・「学制」の特徴を理解しよう!
・ヨーロッパが強くなった経緯を、印刷術と「リテラシー」という観点から理解しよう!

近代教育制度のはじまり(つづき)

学制

・明治5(1872)年、「学制」が発布されました。フランスの教育制度を参考にしたり、福沢諭吉(学問のすすめ)に影響を受けたりしていると考えられています。
(1)国民皆学:身分に関わらず同じ内容の教育を受けられます。
(2)立身出世主義:教育は個人の利益のために行なわれます。
(3)実学主義:実際に役に立つ学問を行ないます。
(4)受益者負担:授業料は各家庭の負担となります。
(5)中央集権:文部省の方針が日本全国で貫徹されます。

▼しかしそもそもどうしてヨーロッパの真似をする必要があったのでしょうか?

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎませんでした。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にありました。
・西暦1500年あたりから逆転が始まります。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢を踏まえて、ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

・日本では福沢諭吉が西欧列強の強さの秘密を理解します。
・表面上の物質的繁栄が重要なのではなく、人間に対する根本的な理解や社会制度の仕組みが重要だと気がつきます。
→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたことは何でしょうか?
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
*そして「印刷術」が、これらの共通の土台となっています。
*さらに「欲望の爆発」が、続きます。

印刷術とリテラシー

印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明し、急速にヨーロッパ全体に広がりました。高価で希少であった本というものが、安価で身近なものへと変化します。印刷物を通じて知識や情報の伝達が行われるようになり、それまでと比べて圧倒的に早く広範囲に情報が届けられるようになります。
リテラシー:前回説明済み。ヨーロッパでも、かつてはリテラシーを持っている人はほとんどいませんでしたし、リテラシーが役に立つ技能だとも認識されていませんでした。しかし印刷術の普及を転換点として、リテラシーが極めて重要な技能として理解されるようになります。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのでしょうか?→本に書いてあるから。
・コロンブスも含めて、当時の知識人は地球が丸いことを知っていました。(他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていましたが、コロンブスは地球の大きさを勘違いしていたので冒険に乗り出すことができました。)
・印刷術により科学知識や地理情報が普及します。また、正確な地図や海図も登場します。船乗りに必要な科学的知識も本から知ることができます。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものでした。写本によって知識を伝えるには、コストがかかりすぎました。印刷術は知識の伝達範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高めます。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須です。知識は力となります。情報を得る決定的な手段として、リテラシーの獲得がとても重要になります。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違いは、大雑把には「神父/牧師」や「教会/聖書」の重要性の違いにあります。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提になります。
・ルターとヤン・フスの運命を比べてみると、印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさが分かります。印刷術があると、自分の意見を大量かつ広範囲に伝えることができるようになります。リツイートができることも大きな要素です。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要です。情報発信の決定的な手段として、リテラシーを持っていることがとても重要になります。

ルネサンス(15~16世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための手段となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明されるまでは、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ねることで、人々は「自分自身」について考えるようになります。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

復習

・明治時代全体の特徴を踏まえて「学制」の特徴を説明してみよう。
・印刷術の普及によってリテラシーの有効性が高まり、人々が自発的に勉強を始める動機を持つ経緯を確認しておこう。

予習

市民社会の仕組みと社会契約論の論理について調べておこう。

発展的な学習の参考

宮崎正勝『海図の世界史』
印刷術の普及によってプトレマイオス『地理学』が大量に出回っており、コロンブス以前から地球が丸いことが人々の間で常識となっていたことがわかります。

ジャック・アタリ『1492西欧文明の世界支配』
貧弱な辺境に過ぎなかったヨーロッパが1492年を境にして世界の頂点に立つ過程を描いた本。コロンブスの識字能力や、印刷術と大航海時代の関連について言及しています。また宗教改革における印刷術の重要性も説かれています。

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『1492コロンブス逆転の世界史』
辺境ヨーロッパが1492年をきっかけに逆転して世界を制覇した過程が描かれています。コロンブスが読んでいた本や識字能力の程度について記述されています。

ミシェル・ルケーヌ『コロンブス 聖者か、破壊者か』
印刷術という技術が背景にあったことを考慮しないと、コロンブスの業績を理解できないことが分かります。

徳善義和『マルティン・ルター』
ルターが印刷術を極めて有効に活用しながら宗教改革を成功に導いていったかが分かります。

アンドリュー・ペティグリー『印刷という革命』
印刷術が宗教改革や新大陸発見と密接に絡みながら展開していったことが分かります。また印刷術の普及によって教育が急成長をとげることにも触れられています。

アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ『そのとき、本が生まれた』
印刷術の普及によってルネサンスが加速していく様子がよく分かります。

上尾信也『音楽のヨーロッパ史』
印刷術とルネサンスが、宗教改革にも大きな影響を与えていたことが分かります。

教育原論(栄養)-5

栄養科 5/21

前回のおさらい

・ヘルバルト、ヘルバルト主義、フレーベル。
・働いたら負け?

今回の目標

・「義務教育」や「教育を受ける権利」の思想を理解しよう!(つづき)

義務教育の思想(つづき)

社会権としての教育

社会権:形式的に自由が与えられるだけでなく、全ての人が実質的に自由を使いこなすことができるように、強者に対してハンデを設け、弱者に対して様々なアドバンテージが与えられます。具体的には、生存権、労働基本権、教育を受ける権利があります。
・たとえば、最低賃金や労働時間の設定、労働組合の結成等により、成人の労働環境が守られ、児童労働の自然発生を抑制することができます。
・工場法制定など、児童労働の撤廃に向けての具体的な動きも必要です。
・誰が責任を持つのでしょうか?←「国家」の積極的な関与が期待されます。

コンドルセ marquis de Condorcet

・1743年~1794年、フランス出身。
・愛称:公教育の父。
(1)子供の学習権。
(2)教育費無償。
(3)ライシテ:政治的中立や宗教的中立。

ロバート・オーエン Robert Owen

・1771年~1858年、イギリス出身。
・キーワード:性格形成学院。
・工場法の展開

1802年徒弟の健康と道徳に関する法律制定。
1819年繊維工場では9歳以下の労働禁止。16歳以下は1日12時間以内に制限。
1833年12時間労働。9歳未満の労働禁止。13歳未満は週48時間。
1844年女性労働者の労働時間制限。
1847年若年労働者の労働時間を1日10時間に制限。
1870年教育法制定。公費による学校設立。

教育権の構造

・教育に関わる4つの立場「子供/親(保護者)/教師/国家」が、それぞれどのような「権利/義務」を持っているかを明らかにするのが「教育権の構造」です。それぞれが教育で果たすべき役割が明確になります。

子供の学習権

・子供は学習権を持っています。教育を受ける権利があります。
・学習する権利が保障されなければ、自分にどのような自由や権利があるかすら分からなくなってしまいます。
・この場合の教育とは、普遍的(身分や性別等に関係ない)な「普通教育」であり、人格の完成を目指す教育です。特定の知識や技術を身につける職業訓練ではなく、「人間」になるための教育です。

日本国憲法第26条-1
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

親の教育義務

・親には、子供を教育する義務=子どもの権利を保障する義務があります。

日本国憲法第26条-2(前半)
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
教育基本法第5条-1
国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

親の教育権

・子供を教育する第一の権利は、親にあります。
・しかしその自由は無限に認められるのではなく、あくまでも「子供の学習権」を保障するために与えられているという責任が伴っています。
→親には「監護権」が与えられますが、それはあくまでも「子の利益」のためです。

民法第820条、822条
*民法第820条:親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
*民法第822条:親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
教育基本法第10条-1
父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。

国家による親への支援

・どんな貧乏な親でも義務を果たすことができるよう、国家が支援する必要があります。社会権としての教育を保障します。

日本国憲法第26条-2(後半)
義務教育は、これを無償とする。
教育基本法第5条3・4
3  国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4  国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
教育基本法第16条-4
国及び地方公共団体は、教育が円滑かつ継続的に実施されるよう、必要な財政上の措置を講じなければならない。

国家による教育介入の制限

・国家はあくまでも親に対する支援者であって、積極的に教育の内容へ介入することは期待されていません。自由権としての教育を保障します。
*教育基本法が「準憲法的性格」を持っていることを再確認してください。

教育基本法第14条-2、第15条-2
*14条-2:法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。
*15条-2:国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
教育基本法第16条-1
教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。
外的事項と内的事項

・国家は外的事項には積極的に関与すべきですが、内的事項に関与することには抑制的であるべきです。
*外的事項:財政的措置=学校設立費・水光熱費・授業料・教科書代、法的措置=就学義務・学校制度・教員資格・機会均等、教育環境整備=教員配置・補助員配置・衛生的配慮
*内的事項:教育内容、教育課程、教育方法。

教師の教育権

・教師は、親でもないのに、どうして権力を持ち、どういう根拠で子供を指導することができるのでしょうか。
→医師は、親でもないのに、どうして権力を持つのでしょうか?
・営造物理論、特別権力関係論:学校は刑務所等と同じなのでしょうか?
・親の教育権が信託されるから、教師は力を持つと考えることができそうです。

教職の専門性

・安心して権利を信託してもらうためには、教師は教育のプロフェッショナルでなければなりません。教師が教育のプロである根拠を「教職の専門性」と呼びます。
・教師はどのような点で教育のプロなのでしょうか?
(1)教える内容:教科、教育課程、学習指導要領
(2)教え方:教授法、教育理論
(3)子供の個性:心理学、教育相談
(4)集団:学級経営、特別活動、いじめ防止
(5)プロとしての自覚:教職基礎論

復習

・義務教育の思想について確認しておこう。
・教育権の構造を確認して、教師の立場を自覚しよう。

予習

・「人格」や「個性」という言葉について考えてみよう。

教育概論Ⅰ(中高)―特別課題

日本教育史の学習ツールを開発しよう

教員採用試験では、日本教育史に関する問題が頻繁に出題されます。そこで、よく出題される学校名や学者名を理解定着させるのに便利なツールを開発してみましょう。

相性判断ツールの活用

質問に対する回答によって分岐し、最終的に「相性」を表示するようなツールがあります。これを使用して、学習に興味・関心を持ってもらうように工夫してみましょう。下が実際の例です。

Q1
犬派ですか、猫派ですか。

 

ただし、これだけでは論理性も何もないし、学習にもなりません。そこで、論理構造を構想する必要があります。
(1)適切な設問による分岐:それぞれの学校や学者の特徴を明らかにするような設問であれば、記憶しやすいでしょう。
(2)適切な結果表示:いくつかの分岐を経て最終的に表示される結果が、興味・関心を持てるような内容であれば、理解を助けてくれるでしょう。

素材例

(1)近世の学校と設置者
・伊藤仁斎の古義堂
・広瀬淡窓の咸宜園
・吉田松陰の松下村塾
・シーボルトの鳴滝塾
・緒方洪庵の適塾
・本居宣長の鈴屋
・荻生徂徠の蘐園塾
・中井竹山の懐徳堂

(2)中世と近世の学校
・鎌倉時代の金沢文庫
・室町時代の足利学校
・幕府直轄の昌平坂学問所
・会津藩の日新館
・水戸藩の弘道館
・長州藩の明倫館
・薩摩藩の造士館
・岡山藩の閑谷学校

レポートの書き方

分岐のための設問と最終的に表示する結果、および全体の構造を示して下さい。

評価

(1)設問と結果の設定が適切かどうか、(2)学習者に対して興味・関心を持たせられるか、(3)論理的な構成になっているか、を判断します。基本点は25点です。
※必須課題ではありません。

コピーライト

優秀作は、制作者に相談の上、一部改変して来年以降の講義で実際の学習に使用したいと考えています。コピーライトを主張したい方は、その旨申し出て下さい。