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【要約と感想】ジャック・ル=ゴフ『時代区分は本当に必要か?』

【要約】ルネサンスは大したことがありません。中世のほうが凄いです。

■確認したかったことで、期待通り書いてあったこと=「ルネサンス」という言葉は19世紀以降に知識人の間で広がったもので、当時は使用されていなかった。ルネサンスを近代の始まりとするには、具体的な根拠が乏しすぎる。ルネサンスの特徴に属するとされてきた様々な要素は、実は中世から具体例を見ることができる。近代化に向かう決定的な変化は18世紀半ばに起こっている。

【感想】ルネサンスの意義を強調するような見解を相対化するのはいいとして。碩学に対して私が言うのもなんだけど、ヨーロッパ中心史観、もっと言えばフランス=パリ中心史観に由来して、イタリアへの対抗心というか嫉妬というか蔑視というかが透けて見えてしまう感じにさせる。ルネサンスの意義を低く見積もったときに損をするのはイタリアだけで、フランスにとっては痛くも痒くもないし。逆に18世紀半ばの意義を高く見積もったとき、クローズアップされるのはディドロとかダランベールとかが活躍したフランス=パリだし。近代化のメルクマールを中央集権国家への上昇としたら、そりゃイタリアはゴミで、フランス最高ってなっちゃう、ってだけだよなあ、と。

あと、ヨーロッパを実体化しすぎている感じも気になる。そもそも私個人としては、ルネサンスという概念自体がヨーロッパを実体化するための虚構の一種だと思っているわけだが。それを相対化するためにルネサンス概念を疑うのならわかるんだけど、本書はむしろヨーロッパの実体化を促進しようとしている印象。

前から気になっていたのは、ルネサンスと言ったときにダンテとかペトラルカが出てくること。印刷術発明以前に活躍した著作家がルネサンスの代表者として挙げられるのには、多少の違和感があった。本書は、ルネサンスを明確に大航海時代や宗教改革と結びついた概念として示していて、ダンテなりペトラルカなりはルネサンスではなく中世のほうに寄せている。こういう話なら、納得できる。

「時代区分」という歴史学の方法論に関する話は、専門家としては身につまされる。自分自身の問題として受け止めて、しっかり考えなくちゃいけない。

ジャック・ル=ゴフ/菅沼潤訳『時代区分は本当に必要か? 〔連続性と不連続性を再考する〕』藤原書店、2016年

【要約と感想】宮崎正勝『海図の世界史』

【要約】海を中心に視点を据えると、世界の見え方がまったく違ってくる。

■確認したかったことで、期待通り本書に書いてあったこと=コロンブス以前から、地球が丸いことは人々の間で常識になっていた。印刷術の発明によってプトレマイオスの『地理学』がブームとなって世間に大量に出回り、地球球体説は知識人の常識となった。しかし地球の大きさに関しては、大西洋の大きさを極めて小さく見積もる楽観的な態度が広く見られた。コロンブスが新大陸発見を認めずにアジア到達にこだわったのは、馬鹿だったというよりは、コロンブスがスペイン宮廷と交わした契約に関わって都合が悪くなってしまうため。

アメリカ大陸西海岸と東南アジアの連絡は、16世紀半ばにスペインが太平洋航路を開発することで可能となった。アメリカ大陸で産出された銀の多くは、太平洋を経由して東南アジアの香辛料市場に持ち込まれた。

イベリア半島優位で進められていたはずの海外航路開発は、17世紀にはオランダが主導権を握るようになった。その逆転の大きな理由は、イベリア半島国家が採用した国家主導の海外戦略が硬直していたのに対し、オランダの半官半民的な自由競争政策が勝っていたから。そして自由競争の優位性は、18世紀にイギリスが主導する公海の自由への主張によってさらに増大する。これは、港町が大量消費地を後背地に持つかどうかを重要視するようなアタリ等の見解とは大きく異なる。個人的には地政学的な見解よりは、本書のように自由主義の展開に即して説明するほうが納得しやすい。

■図らずも得た知識=マゼランは特に地球一周を志していたわけではなく、コロンブスと同じように西回りで香辛料市場にアクセスすることを目論んでいた。ヨーロッパから北米大陸を西に抜けてアジアの香辛料市場に到達しようとするチャレンジが数多く行われていた。ほか、地政学的な知識をたくさん得た。

■要確認事項=資本主義の成立は、カリブ海域におけるサトウキビ栽培のプランテーション化が契機となっているという見解。ヨーロッパの資本+アフリカの奴隷労働力+アメリカの広大な土地によって資本主義経済が成立したという。本当か? 新大陸への資本投下が市場規模を著しく拡大させたこと自体は間違いないだろうけれど。ただ、奴隷労働という非効率的な生産様式が残存しているところに本当に「資本主義の成立」の契機はあり得るか。資本主義の成立を語る上では、「労働力の自由売買」を不可欠な構成要素とする生産様式の組織化はしっかり議論されるべきではないか。「市場規模の量的拡大」と「資本主義の質的成立」を同じ事態と見なしてよいのか。

【感想】アメリカが関わった2つの太平洋戦争の意味。一度目は1898年にスペインを相手とした太平洋戦争で、このときフィリピンを獲得。二度目は1941年に日本を相手とした太平洋戦争で、このとき沖縄を獲得。この両者とも、中国という巨大市場の獲得を目指した長期的戦略の一環とすれば。2017年の北朝鮮に対しても、アメリカの基本的スタンスをこのマハン的な太平洋戦略の視点から考えていいのか、どうか。

宮崎正勝『海図の世界史―「海上の道」が歴史を変えた』新潮選書、2012年

【要約と感想】ジャック・アタリ『1492西欧文明の世界支配』

【要約】ヨーロッパとは、都合が悪い東洋的出自を忘却して1492年に捏造された、世界征服のための人工的概念です。

■確認したかったことで、期待通り本書に書いてあったこと=かつては中華帝国が世界の中心であって、ヨーロッパは貧弱で貧乏な辺境に過ぎなかった。1492年が逆転のタイミングとなった。

コロンブスの識字能力と、実際に読んだ本のタイトル(プトレマイオス「地理学」、マルコ・ポーロ「東方見聞録」など)。コロンブス以外の当時の人々も、すでに地球が丸いことを知っており、大西洋航路の可能性を理解していた。コロンブス以外の人々のほうがより正確に地球の大きさを把握しており、大西洋航路は現実的な問題として考慮された上で難しいと判断されていた。当時の航海による発見成果(たとえば喜望峰に至るまでのアフリカ大陸西海岸)の情報は、印刷術によって迅速かつ広範囲に周知されていた。

新大陸におけるスペイン人の蛮行、原住民の大量虐殺の具体的な過程。それに対するキリスト教聖職者たちの反応。

宗教改革における印刷術の重要性。ルター登場以前から印刷術の活用によって聖書が大量に出回っており、一般民衆が自ら聖書を読むという行為が可能になっていた。教会の権威が失われていく過程で、印刷術による大量の聖書の流布が大きな意味を持った。

■図らずも得た知識=1492年に世界初の地球儀を作成したマルティン・ベーハイムの具体的な履歴。ポルトガルによるアフリカ西海岸探検の具体的過程。1492年にスペインで実行されたユダヤ人追放の具体的過程と、その歴史的な影響。15世紀末の領邦君主たちの外交戦略の実相。

■要検討事項=ユダヤ人が迫害された結果、二枚舌的で曖昧な性格を帯びた「近代的知識人」が生まれたという見解。本当か? コロンブス=ユダヤ人説にも共感を示していたり、コロンブスの大西洋横断とスペインからのユダヤ人追放がリンクしていることを仄めかしたり、恣意性は感じる。
とはいえ、1492年のグラナダ陥落が、単にヨーロッパ圏からのイスラム追放だけを意味するのではなく、ヨーロッパの知識人にとってはユダヤ人問題も絡んできて、私が想像する以上に重要な事態として認識されていることは理解した。

【感想】「ヨーロッパの捏造」という観点は、様々な事象を考える上で、重要かつ有効。イスラムやユダヤ人を追放し、キリスト教が東方に由来するという事実を意図的に忘却することによって、純粋なヨーロッパという表象が可能となる。出自を意図的に隠蔽し、新世界で未来を簒奪することによって、自分自身の純潔な自画像を捏造する。今のアメリカもやっていることは同じ。あるいは中国も。日本も。つまりそれが「国家」というものが持つ現実の力であり、ナショナリズムのリアリティということ。

【眼鏡学のためのメモ】
「案外見逃されてきたことだが、もうひとつの大きな発明が読書と知識の進展をかなり促進する。<眼鏡>である。誰でもかなりの高齢まで書物を読める眼鏡のおかげで、知識のより大きな蓄積が可能になる。(…)他のいかなる行為よりも、これからは読書が時代の思想を激しく揺り動かすであろう。」(p.72)。

ジャック・アタリ/斎藤広信訳『1492 西欧文明の世界支配』ちくま学芸文庫、2009年<1992年

教育概論Ⅰ(栄養)-3

■短大栄養科 5/2(火)

前回のおさらい

・かつて「教育」は行われていなかった。「教育」とは異なる形による発達や成長への働きかけを「形成」と呼ぶ。
・「成人式」の形は、いまと昔はまったく異なっていた。「死」と「再生」を象徴する儀式を突破して共同体の正式メンバーに加入することを「イニシエーション」と呼ぶ。
・人々は、学校や教育がなくとも、知恵と経験を後の世代に継承し、生活を続けていた。

日本での近代教育の始まり

・西暦1750年あたり、江戸時代中期頃から子供に対する意識は変わり始めていた。←生産力の向上、遺産相続への関心、家意識の形成、商品経済の展開、識字能力の有効性の拡大、寺子屋の増加、往来物。

寺子屋

・庶民のための教育機関。
・庶民の生活に密着して、そろばんや習字を教えた。
・一般民衆が自分たちのために必要とした教育機関。幕府や藩など支配者層が上から押しつけたのではなく、下からの自発的な要求によって自然発生的に増加していった。

・学問水準も向上していた。儒学、蘭学、国学の展開。←長期間にわたる平和と繁栄。
・日本は独自に近代化への準備を始めていた。が、決定的な転換点はヨーロッパとの接触に刺激を受けた明治維新(1868年)。
文明開化=日本を文明化から遅れた後進国であると自覚し、多くの日本の伝統的な習慣や仕来りを野蛮な習俗として否定し、西洋由来のモノや制度や考え方を崇拝した。
・明治維新≒西欧列強に由来する国民国家システムと市民社会の学習と模倣。教育制度に関しては、明治5年(西暦1872年)の学制

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎなかった。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にあった。
・西暦1500年あたりから逆転が始まる。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢。ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

>1828年:オーストラリア全土植民地化
>1840年:アヘン戦争(中華帝国)
>1853年:クリミア戦争(イスラム帝国)
>1857年:インド大反乱(インド亜大陸)
>1882年:エジプト保護国化(アフリカ大陸)
>1890年:フロンティアの消滅(アメリカ大陸)
>19世紀末:東南アジア、タイ以外植民地化

福沢諭吉の見た西欧列強の強さの秘密。『学問ノススメ』『文明論之概略』。表面上の物質的繁栄が重要なのか?

→科学技術?
→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたこと。
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
・これらを共通に可能にする技術としての印刷術。

印刷術とリテラシー

リテラシー:文字を読んだり書いたりすることができる能力。文字を使って情報を得たり発信したりすることができる能力。
*印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのか? →本に書いてあるから。
・実際は、コロンブス以外の知識人も地球が丸いことを知っていた。他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていたが、コロンブスは無知で無謀だったために冒険に乗り出した。
・印刷術による科学知識の普及。地理情報の伝播。正確な地図や海図。船乗りに必要な科学的知識。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものだった。これによって知識が伝播するには、コストがかかりすぎた。印刷術は知識の伝播範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高める。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須。知識は力。情報を得る決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を達成するための技術。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違い。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提。
・印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさ。ルターとヤン・フスの比較。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要。情報発信の決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を実現するための手段。

復習

・日本の教育が近代化する前提を押さえておこう。
・1492年以降、ヨーロッパが世界の中心に躍り出る世界史的な過程を押さえておこう。
・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持つ意義を押さえよう。

予習

・「ルネサンス」という言葉の意味について調べておこう。
・民主主義とは何か、自分なりに調べておこう。

流通経済大学「教育学Ⅰ」(4)

■龍ケ崎キャンパス 5/1(月)
■新松戸キャンパス 5/5(金)

前回のおさらい

・かつて「教育」は行われていなかった。「教育」とは異なる形による発達や成長への働きかけを「形成」と呼ぶ。
・「成人式」の形は、いまと昔はまったく異なっていた。「死」と「再生」を象徴する儀式を突破して共同体の正式メンバーに加入することを「イニシエーション」と呼ぶ。
・人々は、学校や教育がなくとも、知恵と経験を後の世代に継承し、生活を続けていた。

日本での近代教育の始まり

・西暦1750年あたり、江戸時代中期頃から子供に対する意識は変わり始めていた。←生産力の向上、遺産相続への関心、家意識の形成、商品経済の展開、識字能力の有効性の拡大、寺子屋の増加、往来物。

寺子屋

・庶民のための教育機関。
・庶民の生活に密着して、そろばんや習字を教えた。
・一般民衆が自分たちのために必要とした教育機関。幕府や藩など支配者層が上から押しつけたのではなく、下からの自発的な要求によって自然発生的に増加していった。

・学問水準も向上していた。儒学、蘭学、国学の展開。←長期間にわたる平和と繁栄。
・日本は独自に近代化への準備を始めていた。が、決定的な転換点はヨーロッパとの接触に刺激を受けた明治維新(1868年)。
文明開化=多くの日本の伝統的な習慣や仕来りは野蛮な習俗として否定され、西洋由来のモノや制度を崇拝した。
・明治維新≒西欧列強の国家システムの学習と模倣。教育制度に関しては、明治5年(西暦1872年)の学制

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎなかった。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にあった。
・西暦1500年あたりから逆転が始まる。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢。ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

>1828年:オーストラリア全土植民地化
>1840年:アヘン戦争(中華帝国)
>1853年:クリミア戦争(イスラム帝国)
>1857年:インド大反乱(インド亜大陸)
>1882年:エジプト保護国化(アフリカ大陸)
>1890年:フロンティアの消滅(アメリカ大陸)
>19世紀末:東南アジア、タイ以外植民地化

福沢諭吉の見た西欧列強の強さの秘密。『学問ノススメ』『文明論之概略』

→科学技術?
→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたこと。
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
・これらを共通に可能にする技術としての印刷術。

印刷術とリテラシー

リテラシー:文字を読んだり書いたりすることができる能力。文字を使って情報を得たり発信したりすることができる能力。
*印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのか? →本に書いてあるから。
・実際は、コロンブス以外の知識人も地球が丸いことを知っていた。他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていたが、コロンブスは無知で無謀だったために冒険に乗り出した。
・印刷術による科学知識の普及。地理情報の伝播。正確な地図や海図。船乗りに必要な科学的知識。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものだった。これによって知識が伝播するには、コストがかかりすぎた。印刷術は知識の伝播範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高める。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須。知識は力。情報を得る決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を達成するための技術。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違い。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提。
・印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさ。ルターとヤン・フスの比較。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要。情報発信の決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を実現するための手段。

ルネサンス(15世紀)

・芸術家の誕生。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術への転回。
・孤独な読書体験。音読から黙読へ。
・自己実現の決定的な条件としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を醸成する経験。

復習

・日本の教育が近代化する前提を押さえておこう。
・1492年以降、ヨーロッパが世界の中心に躍り出る世界史的な過程を押さえておこう。
・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持つ意義を押さえよう。

予習

・民主主義とは何か、自分なりに調べておこう。