【要約と感想】ダナ・サスキンド『ペアレント・ネイション―親と保育者だけに子育てを押しつけない社会のつくり方』

【要約】乳児の脳の発達は後の成功と幸福に決定的な影響を与えます。周囲の大人が子どもに関心を持ち、たくさん話しかけ、対話を重ねることで乳児の脳が著しく発達します。
 が、アメリカでは、保護者の労働条件や保育環境が劣悪なため、子どもと関わりたくても不可能です。自己責任の原則が元凶です。保護者の努力だけではどうにもなりません。子育てを保護者だけに押しつけず、労働条件(産休や育休の整備、給与上昇、医療保険等)を改善し、チャイルドケアの環境を整え、専門家間の連携を強めるなど、社会全体で責任を負っていきましょう。保護者の利益は、子どもの脳の健やかな成長を通じて、必ず社会全体に帰ってきます。

【感想】翻訳が良いのか、とても読みやすい文章で、内容がするする頭の中に入ってくる。理論的な枠組み(脳科学の知見)が固められている上に、個別具体的な事例もバリエーションが豊富で、主張にも説得力を感じる。アメリカの保育(本書では「米国のチャイルドケア」)の現状や抱える問題がよく分かった。スターバックスや米軍の事例はまったく知らなかった。勉強になった。
 「自己責任の原則」がいかにインチキで胡散臭いかということを改めて認識した。書中ではニクソンとフリードマンが槍玉に挙がっていた。竹中平蔵が読んで反省すべき本だ。

ダナ・サスキンド/掛札逸美訳『ペアレント・ネイション―親と保育者だけに子育てを押しつけない社会のつくり方』明石書店、2022年