【紹介と感想】『日本の保育の歴史―子ども観と保育の歴史150年』

【紹介】タイトルどおり明治維新から平成までの保育150年の歴史をコンパクトにまとめた本ですが、ヨーロッパ近代や日本近世の状況にも言及していて目配りが効いています。制度史だけでなく民間保育運動の展開にも気を遣ってページを割いています。幼稚園と保育所を両方扱いながら幼保一体化に向けた動きとそれを阻む要因について触れているのも特徴です。保育という領域が、教育の論理と福祉の論理が交錯するところで展開してきた様子がよく分かります。

【感想】勉強になった。個人的には、この領域(保育の歴史)のスタンダードだと見なして、折に触れて眺め返そうと思った。
 保育の歴史が学校を中心とした教育史と大きく異なるのは、「家族」の形態変化と表裏一体となっているところなのだろう。それと絡んで、学校教育史では「国家」との絡みが決定的に重要な問題になるが、保育史では「家族」が問題になる代わりに「国家」の占める比重が大きく下がる。もちろん「家族」の形には「国家」が大きな影響を与えているので両者を簡単に切り分けることはできないとしても、それでも「国家」の意向で「家族」の形をコントロールできないことは現今の少子化の進展を見るだけで分かる。乱暴に言えば、教育行政にかかる幼稚園はある程度「国家」のコントロール下に置くことができる一方で、福祉行政にかかる保育所の方は家族の在り方を「国家」が後追いして辻褄を合わせるしかないものだ(まあ、辻褄すら合わせようとしないのが昨今の教条主義的な政府ではあるが)。明治の当初から150年の間ずっと懸案であり続けた幼保の分離という問題は、こういう「国家」と「家族」の間の矛盾を反映したものだったのだろう。

汐見稔幸・松本園子・高田文子・矢治夕起・森川敬子『日本の保育の歴史―子ども観と保育の歴史150年』萌文書林、2017年