【紹介と感想】長田徹監修『カリキュラム・マネジメントに挑む』

【紹介】カリキュラム・マネジメントの具体的な実践例が紹介されています。他の類書にない本書の特徴は、一人一人の生徒の現状を的確につかんで全教員で情報を共有する「アセスメント」のツール開発とシステム化が前面に打ち出されている点です。この的確なアセスメントを出発点として、初めて「エビデンス」に基づいた改善が可能となるわけです。PDCAサイクルのうち「Check」と「Action」を可視化したことにより、学級経営を土台として全教員が一丸となって学力向上を実現する取り組みが実現しました。

【感想】カリキュラム・マネジメントのPDCAサイクルを実効化するためには「Check」と「Action」の質が決定的に重要であることは、私が指摘するまでもなくすぐに分かることではある。が、実際には「Plan」と「Do」ばかりに熱中して、「C」と「A」は後回しになっている例を散見する。まあ、「P」は机上の空論でも形になってしまうので、とりあえず口を出しやすいという事情はあるだろう。しかし現実の子供を目の前にした「C」は、机上の空論では如何ともしがたい。現実を適切に切り取って可視化する実効的なツールが必要となる。この「C」には文部科学省が行なう「全国学力・学習状況調査」を活用することが期待されていたわけだが、しかしこの調査に関して静岡とか大阪の愚かな政治家たちが間抜けな発言をしているのを見ると、PDCAの初歩すら分かっていないシロウトが教育に安易に口を差し挟むための口実にしかならないんだなと、暗澹たる気分になる。
本書で紹介された取り組みは、民間で開発された検査をそのまま用いているものの、「全国学力・学習状況調査」などに頼らずに、独自に目の前の子どもたちの状況をつかみ取ろうとする「アセスメント」への努力が印象に残る。検査をやりっぱなしで放置するのではなく、現われた結果を校内研修で検討の素材とし、全教員が議論に参加する過程で情報を共有しているところが肝要なのだと思う。的確に現状を把握することが、効果的な介入の前提となる。当たり前のことだが、この当たり前の「Check」→「Action」のサイクルを具体的に実現するためには、組織を組織として機能させるための不断のメンテナンスが必要となり、これが難しいのであった。これを可能にするのはやはり校長先生のリーダーシップと人間性なのだなと、本書を読んで改めて感じた。

まあ、しかし、大前提の大前提として、こうやって人間の能力のみならず性格をも数値化・可視化することで実効的な管理実績が挙がることに対しては、ある種の気味悪さも感じざるを得ない。パラメーターを操作してキャラクターを成長させる一種の「ゲーム」と似たような世界になっているような感じも受ける。が、これは大前提の大前提の問題なのであって、本書で紹介されたような頑張っている学校や先生たちの問題ではない。学校が学校として機能するためにPDCAサイクルが役に立つことは間違いない。「学校が学校として機能する」ことの本質的な意味を問いなおすのが私の仕事というだけのことだ。

長田徹監修『カリキュラム・マネジメントに挑む―教科を横断するキャリア教育、教科と往還する特別活動を柱にPDCAを!』図書文化、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―