【要約と感想】ミシェル・ルケーヌ『コロンブス 聖者か、破壊者か』

【要約】結局のところ、コロンブスが何者かは未だによくわかってないけど、航海の腕前が高かったのは間違いないんじゃないかな。

思ったこと=コロンブスそのものというよりも、コロンブスを可能にした条件とか背景というものに教育学的関心があるわけだけど。個人的な関心として把握したいのは、
(1)コロンブスの読み書き能力の程度。
(2)コロンブスが読み書き能力を習得した手段。
(3)コロンブスが読んだ本。特に印刷術によって流布していた本。
(4)コロンブスの宇宙論の程度。
(5)コロンブス以外の一般知識人が持っていた宇宙論の程度。
(6)コロンブスの業績と印刷術の関係。

個人的な印象として、コロンブスを可能にするための決定的な前提条件の一つは「印刷術の発明」だ。実際、印刷術はコロンブスが大西洋横断を思いつく約30年前に発明されている。タイミングが合いすぎる。コロンブスが「地球は丸い」と確信したのは、印刷術によって一般的に流布した書物から科学的な知識を得たからではないか。

そして、だとしたら、コロンブス以外の読書家も、必ず「地球が丸い」ことを知っていたはずだ。それにも関わらずコロンブスだけが西回り航路に出帆することを決意できたのは、実はコロンブスだけが正確な知識を持っていなかったからではないか。実際、コロンブスは地球の実際の大きさを完全に見誤っていて、自分が到達した土地をアジアへの入り口だと思い込んでいた。コロンブスよりも頭が良かった人々は、地球の大きさを正確に理解していて、西回りでアジアに到達するには自らの航海技術が未熟すぎることをも理解していただろう。コロンブスが幸運だったのは、遠すぎるヨーロッパとアジアの中間に、彼が想定していなかった地面が存在していたことだ。

この個人的な関心を確実な土台から考慮するために、上記(1)~(6)に関する基本的な情報が欲しいわけだが。本書はそれに完全に応えてくれたわけではないが、コロンブスを可能にした背景として印刷術が欠かせないという認識が識者の間で共通認識になっているらしいことは書かれていて、かなり安心感を与えてくれる。

いまのところの一番のミッシング・リンクは、コロンブスがどういう手段で以てラテン語も含むリテラシーを習得したかだなあ。

ミシェル・ルケーヌ/大貫良夫監修『コロンブス―聖者か、破壊者か』創元社、1992年