【要約と感想】内田良・山本宏樹編『だれが校則を決めるのか―民主主義と学校』

【要約】8人の著者が、「子どもの権利」を尊重して「民主主義」の発展に寄与するという価値観を共有しながら、校則の問題に多様な専門性からアプローチしています。
 アプローチの仕方や強調点は個々の論者によって異なりますが、教師の労働環境を改善した上で考え方をアップデートし、子どもを信頼してルール作りに参加させることが大切であるという認識と、校則改定への熱を一過性のブームに終わらせてはならないという危機感は共通しています。

【感想】どちらかというと実践的というよりは理論的な本だ。すぐさま校則をどうにかしていやりたいという関心を持つ人よりは、じっくりと地に足を着けて原理的に学校教育について考えたい人に有益な本だろう。
 個人的な感想では、教育実践的にはともかく、教育原理的には「校則」は周辺的なテーマであって、なかなか教育の原理・原則から研究の俎上に載せられることはないような印象だ。おそらく教育の本質から考えても校則は「必要悪」に過ぎず、原則的には見たくない対象ということなのだろう。さすがに科学的教育学の元祖であるヘルバルトは教育の三領域の一つとして「管理」を挙げているが、その記述は「教授」や「訓練」と比較してそっけないものだ。
 しかし逆に、校則が単に「管理」のための必要悪だとしたら、話はそんなにややこしくならないのかもしれない。教育の本質と関係ないのであれば、時代の変化に合わせて必要に応じて改廃すればいいだけの話になる。話がややこしくなるのは、校則に「教育的効果」があると信じられている場合なのだろう。あるいは現状を維持したいだけの人が校則の存在理由と根拠として「教育的効果」を持ち出した時に、話は混乱するのだろう。そんなわけで、校則について考えたり発言したりする際、「管理のためのルール」と「教育のための手段」は理論的なレベルで厳密に分けることが大切だと思ったのであった。

内田良・山本宏樹編『だれが校則を決めるのか―民主主義と学校』岩波書店、2022年