【要約】公立中学校校長として活気ある集団づくりをしてきた経験を伝える本です。子ども、教師、保護者への関わり方や、学級経営の考え方を具体的なエピソードを元に記しています。子どもたちは、集団の中で一人一人が個性を発揮し、お互いが認め合えることで、大きく成長します。
いま学校や教育を巡る環境は大きく変わってきていますが、学校が果すべき役割は変わっていません。集団主義の教育は、まだまだ必要です。
【感想】エピソードそれぞれの繋がりが分かりにくくて散漫な印象もありつつ、よくよく考えると集団の中で一人一人が活躍できる環境を整えることの重要性を一貫して訴えており、しばらくするといい本だったなあと思えるようになってくる、という感じだ。ところどころ昭和テイストな感じも受け、これからの令和時代にどれだけ対応できるかどうかは分からないものの、学校や教育の一つのモデルを提示しているという点では、教師を目指す学生が読んでも損はしないのかもしれない。
【言質】学校目標に関するエピソードで、学習指導要領に言及したところはなかなか興味深い。
人間は自分で決めたことには責任を取るが、他人に決められたことは責任転嫁する傾向がある。仮に学校が隠蔽体質だったり無責任体制にあるとしたら、その原因の一端は確かに学習指導要領の法的拘束性にある可能性を疑ってよい気がする。(とはいえ、現状の新自由主義的な責任の取らせ方が効果的かどうかも、また疑問ではあるのだが)
上記引用部は、体制に反対しがちな立場の人が言ったのではなく、現場を経験した人が実体験から言っていることに意味があるように思う。
あるいは「近代の終わり」についての言及は、一つの教育的知見を代表するものであるように思う。
しかし今、その仕組みを一変させるかもしれない高度な情報化社会を迎えています。その急速な発展と知識の多様さと質の変化に、平均的で個性を活かせない集団主義思考の公教育制度は対応しきれていないと考える人も増えてきました。そして、むしろ制度化されない自由な教育機関に期待する意見も聞かれます。
そこには一理ありますが、私は賛成ではありません。もったいないからです。少なくとも日本には、本書で述べてきた高い倫理観を持つ集団主義の教育を可能にする地盤があると思うからです。」227-228頁
「近代の終わり」に対する一定の説得力を感じつつも、それでも従来の学校が推進してきた「集団主義」を維持する姿勢が、はてしてこれからの時代に受け容れられるかどうか。20年後、30年後の学校や教育の姿や如何に、というところだ。注目していきたい。
■小林成樹『学校はパラダイス―認め合える「歓び」が活気ある集団をつくる』幻冬舎、2018年