【要約と感想】山下美紀『子どもの「生きづらさ」―子ども主体の生活システム論的アプローチ』

【要約】子どもの「生きづらさ」を客観的に解析するために、子どもの生活に焦点を当て、家族・学校・友人関係を軸にシステムとして把握し、アンケートをとり、統計的な手法を駆使しました。社会学的な手法によって、子どもの「生きづらさ」はおおまかに5つのクラスタに分類でき、3割ほどの子どもが課題を抱えていることが分かりました。「いきづらさ」とは要するに、自分の問題を解決するためにシステムを変更する見通しが立たないことであるという仮説を立てて検証したところ、その一部は実証的に明らかになりました。

【感想】客観的に分析しにくい課題に果敢に取り組んで、粘り強く頑張って対象化したなあという。アンケートを企画するだけで大苦労だったはず。たいへんな労作という印象だ。
結論自体はおそらく既存の常識を画期的に覆すようなものではなく、「あっ」と驚くような知見はない。が、もちろん筆者も様々な限界には自覚的だ。様々な限界がありつつも、この研究のような着実な知見が積み重なっていくことで、きっと教育全体がより善いものになっていくに違いないし、そうしなければならない。我々研究者は、それを信じて日々の仕事を続けるしかないのだ。

山下美紀『子どもの「生きづらさ」―子ども主体の生活システム論的アプローチ』学文社、2012年