【感想】青年劇場「キネマの神様」

青年劇場の「キネマの神様」という演劇を観てきました。原作は原田マハの小説です。

*以下、ネタバレを含みますので、劇を見たり本を読んだりする予定がある方は、見ないようにしてください。

 

 

見たあと、とても幸せな気分になれる作品でした。それぞれ問題を抱える登場人物たちが、協力して一つのプロジェクトを成功に導いていく過程で、自分自身の問題を解決していくという筋書きです。登場人物たちの問題が複雑に絡み合うため、筋書きそのものは単純ではないのですが、一つのプロジェクトが成功に向かって行く柱が分かりやすく、最後まで作品世界に入りこんで楽しむことができました。

登場人物たちが抱える課題とは、
(1)アラフォーのヒロイン:思い込みが激しい性格が災いして、長く勤めた会社を退職。
(2)ヒロインの父親、ゴウちゃん:ギャンブル依存症で多額の借金を抱えている上に、心筋梗塞で倒れる。
(3)名画座の主:時勢の流れに逆らえず、名画座を畳まなければならないと思い詰める。
(4)映画雑誌の編集長:夫が自殺し、ひきこもりの息子を抱えている。
(5)ひきこもりの息子:ひきこもっている。
という具合なわけですが。

こういう問題を抱えた登場人物たちが、協力して「キネマの神様」という映画評論サイトを立ち上げ、自分の持ち味を存分に発揮していきます。それぞれの持ち味がチームの中でがっちり噛み合って、奇跡的な成功に向かって行きます。きっと誰か一人が欠けただけでも、この成功はもたらされなかっただろうなと思います。一つのプロジェクトを成功させようと全員が真剣に取り組むからこそ、お互いの持ち味を尊重し合い、自分の能力を最大限に発揮して、チームが一つに固まっていくのだなと思いました。

ゴウとローズ・バッドが論争のやりとりの中から友情を紡いでいく過程も、とても刺激的でした。最初はゴウを見下していたローズ・バッドが次第に相手の人格を尊重し始め、最終的にかけがえのない友情を築き上げていく展開には、ついホロリとしてしまいました。
お互いの人格を認め合えないまま相手を罵って一方的に勝利宣言して終わる昨今の不毛なtwitter的論争と比較した時に、なんと奇跡的な「論争」でしょう。こういった論争を成立させるためには、どうしても「映画を愛している」という共通項が存在しなければならないのでしょうけれども。愛している映画の前では、自分のプライドなんて、ちっぽけでつまらないものなわけですから。
ローズ・バッドは、ゴウの映画批評に対して「人間性が表れている」というような意味のことを言いました(正確な表現は忘却)。私も本の感想などいろいろなことを書き散らかしている身ではありますが、ちゃんと私の文章に私の人間性が表れているかどうか。まずは「自分自身に嘘をつかない」という意識を徹底しなければいけないなと、劇を見ながら思った次第です。

要所要所で織り交ぜられる細かいギャグも効果的で、最初から最後まで集中して見られる舞台でした。とてもおもしろかったです。

■青年劇場「キネマの神様