【要約と感想】日本教育方法学会編『学習指導要領の改訂に関する教育方法学的検討』

【要約】教育方法学の観点から見て、今時学習指導要領には本質的な欠陥がたくさんあります。

【感想】読み取った限りでは、学習指導要領の問題は、おおまかには2通り。一つは「教育目的」に関して、「人格の完成」を目指す教育ではなく、単に産業界の要請に応える人材育成に堕しているという懸念である。たとえば安彦忠彦は「筆者はこれに対して、「人格性」や「学問的な力」は育つのかと役人に質問し、大丈夫だという答えを得たことがあるが、その面への配慮が欠けることが心配である。」(p.19)と言う。また中野和光は、「次期学習指導要領は、2006年の教育基本法改正、教育関連三法の改正を土台として、OECDとの連携をもとに、グローバル経済競争という「総力戦」に必要な人材資源の育成のために教育制度を使おうとしている。」(p.32)と言う。あるいは福田敦志は、「新しい社会に適応するように「陶冶」される必要があるということは、適応を要請する社会のあり様それ自体は疑わせないということを意味することも合わせて押さえておきたい。」(p.116)と言う。まったくだと思う。

もう一つは、さすが教育方法学会だけあって「教育方法」に関して、「主体的・対話的で深い学び」というような「教授方法」のスタンダード化が一方的に押しつけられることへの懸念である。教え方の制度化・形式化の傾向が強まると、様々な個性的な取組みが一様な官製用語で塗り固められ、実践を語る語彙が貧困化し、教師の自律性が奪われると同時に、授業から子供たちの生活の文脈が失われ、学校のリアリティが無視される。果たして学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」というふうに「教え方」まで規定すべきなのだろうか、あるいは規定できるのだろうか。あるいは仮に規定できるにしても、法的拘束力を持ったままで問題ないのだろうか?

この問題は、教員養成改革の方向にも絡んで「教職の専門性とは何か?」という価値観と密接に絡んでおり、しっかり教育原理的に考察すべき課題のはずだ。本書は、学習指導要領を単なる技術論としてではなく、原理的に吟味したいときに参考になる。

日本教育方法学会編『学習指導要領の改訂に関する教育方法学的検討 「資質・能力」と「教科の本質」をめぐって』図書文化、2017年