【資料と分析】コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の傾向分析

調査全体の前提について

 このページでは、コミケサークルカットに描かれた眼鏡っ娘の経年変化の傾向について分析する。調査全体の目的や方法、全体傾向の分析については、以下のページをご参照頂きたい。
参照:コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査

眼鏡っ娘サークルカットの個別分析

 眼鏡っ娘の経年変化でまず気づくことは、大きく3つの時期に分けられるということである。以下、分かりやすくグラフを3期に分けて示した。

 上のグラフは、サークルカットに現われた眼鏡っ娘の総数を棒グラフで、サークルカット総数に対する比率を折れ線グラフで表わしたものである。総数と比率の推移を見ると、大きく3つの時期に分けられるように見える。
第1期:C21(1982年夏)~C34(1989年夏)までの衰退傾向。
第2期:C35(1989年冬)~C61(2001年冬)までの拡大傾向。
第3期:C62(2002年夏)以降の頭打ち傾向。
 以下、それぞれの時期の内実について詳しく見ていく。

第1期:衰退傾向(1982年~1989年)

 第1期はC21(1982年夏)からC34(1989年夏)までである。1989年夏に開催されたC34では、眼鏡っ娘比率は0.15%と史上最低を記録している。一貫して眼鏡っ娘比率が下がり続け、最低を記録するという、忍耐の時期である。
 表面的な原因は、実は明らかである。この昭和後期のコミケでは、男性向けサークルの多くが高橋留美子作品のパロディを扱っていた。この高橋留美子作品に眼鏡っ娘が皆無であったことが致命的だったことは、ほぼ間違いない。しかしなぜ高橋留美子作品に眼鏡っ娘が登場しないかは、解明すべき大きな課題として我々の前に残されている。(いちおう作家御本人の眼鏡自画像の他、ラムちゃんが伊達眼鏡をかけるエピソードがあるにはあるのだが。)

 しかしこの眼鏡っ娘受難の最後期に、燦然と「メガネの娘でなきゃやだ」という眼鏡っ娘専門サークルが登場したことは特記しておきたい。このサークルの誕生を契機として眼鏡っ娘勢が拡大傾向に転ずるのはおそらく偶然ではないと思うのだが、その相関関係あるいは因果関係に関する考察は他日を期したい。
 またC25(1983年冬)には、『超時空世紀オーガス』の眼鏡っ娘リーアのカットがあり、脇に「めがねっ娘だいすき」と記されていたことも記憶されてよい。またC26(1984年夏)には「めがねっ娘編集部」という名前のサークルも見られる。冬の時期にも健闘を続けていた勇士がいることは、忘れてはならない。

第2期:拡大傾向(1989年~2001年)

 第2期はC35(1989年冬)からC61(2001年冬)までである。この時期には一貫して眼鏡っ娘が拡大傾向を示していることが分かる。

 90年代前半の眼鏡っ娘界を牽引したのは、オリジナル同人である。この時期、二次創作では『美少女戦士セーラームーン』や『ストリートファイターⅡ』などが一世を風靡していたが、それら作品中では眼鏡キャラが描かれることはほとんどなく(例外的に水野亜美の眼鏡がかろうじて散見される程度)、眼鏡勢力の拡大はオリジナルの健闘に頼る状況だった。
 具体的には、少女創作系「東風の吹く国」、CGの「WAX-G2」、男性向け創作の山本夜羽「ANARCOMIX」、みやもと留美「深漆黒雑居工房」などのサークルがカタログを毎回コンスタントに眼鏡で彩った。尊い。
 このオリジナル傾向が着実に成長し、00年代にはついに「眼鏡島」が形成されるに至る。すなわち、オリジナルで眼鏡っ娘を描くサークルが一個所に固まって集中的に配置されるようになったのである。具体的には、C58(00年夏)には眼鏡っ娘サークルが23、C59(00年冬)には眼鏡っ娘サークルが22、一個所に集中して配置されている。
 眼鏡躍進の理由の一つとして、この時期には「属性の掛け合わせ」によってキャラを構成するという考え方が成熟し、それに伴って「属性としての眼鏡」に対する興味関心が高まった可能性を考慮できる。たとえばその証拠の一つとしては、ネコミミの眼鏡(略称メガネコ)や眼鏡をかけたメイドさんなど、他属性との融合が著しいことが挙げられよう。
 この傾向はさらに大きく展開し、ついに2001年には4月から6月にかけて三ヶ月連続で眼鏡キャラONLY同人誌即売会が開催されるなど、「属性としての眼鏡」は名実ともに市民権を得たとも言える状況へと成熟する。

拡大期後半

 そしてさらに、この拡大期後半に見られる顕著な傾向として、アニメやゲームのメジャータイトルに代表的な眼鏡っ娘が登場し、二次創作において大躍進が起こったことが挙げられる。すなわち、C48(1995年夏)には鳳凰寺風、C53(1997年冬)には姫宮アンシー・李香蘭・保科智子、C57(1999年冬)には藤原はづき・猪名川由宇・牧村南といった錚々たるメンバーが次々と登場し、現在に至る眼鏡同人文化の基礎が築かれたのである。以下、二次創作で各キャラがカットに描かれた数を表にまとめた。括弧内は眼鏡っ娘総数に占める割合である。

 鳳凰寺
如月
未緒
姫宮
アンシー

香蘭
保科
智子
藤原
はづき
猪名川
由宇
牧村
シエル
先輩
95夏47
(21.0%)
96夏6
(3.17%)
4
(2.11%)
96冬1
(0.44%)
15
(6.44%)
97冬3
(1.34%)
42
(18.7%)
17
(7.59%)
8
(3.57%)
98冬5
(2.11%)
3
(1.27%)
6
(2.53%)
11
(4.64%)
99冬3
(1.21%)
5
(2.01%)
15
(6.03%)
34
(13.7%)
15
(6.03%)
15
(6.03%)
00冬2
(0.86%)
4
(1.72%)
23
(9.91%)
12
(5.17%)
16
(6.89%)
12
(5.17%)
01夏4
(1.14%)
8
(2.29%)
22
(6.29%)
14
(4.00%)
23
(6.58%)
20
(5.72%)
01冬1
(0.43%)
1
(0.43%)
2
(0.86%)
16
(6.91%)
7
(3.02%)
24
(10.4%)
14
(6.04%)
7
(3.02%)

 この表から分かることは2点ある。一つは、アニメの眼鏡っ娘とゲームの眼鏡っ娘での傾向の違いである。アニメの眼鏡っ娘はテレビ放映に合わせて数が急増するが、放映終了に伴って激減する。一方でゲームの眼鏡っ娘は数自体は爆発的に増えないものの、息が長い人気を保つ。如月未緒の人気の息の長さは特筆に値する。この時期の眼鏡っ娘拡大は、アニメでの爆発的なブーム(垂直的拡大)とゲームでの息の長い人気(水平的拡大)が相乗的に掛け合わさった結果ではないかと推察できる。
 もう一つの理由として、多数ヒロインの中に一人眼鏡っ娘が混ざるというキャラ配置様式が極めて強い説得力を持ったという仮説が立てられるかもしれない。表に挙げた他にもこの時期に目立った眼鏡っ娘として、成瀬真奈美、リアン、田辺真紀、ロベリア等が挙げられる。いずれも多数のヒロインの中に眼鏡っ娘が一人という様式で人気を博したキャラクターである。この様式が実際に強い説得力を持ったかどうか、あるいはその理由についての解釈は、他日を期したい。

 以上見たように、この拡大期には着実なオリジナル同人躍進に伴う属性確立と二次創作での人気キャラの台頭が重なって、眼鏡っ娘の絶え間ない増進傾向が続いた。その躍進を阻むものはいないかに見えた。

第3期:停滞傾向(2002年以降)

 しかし、続く第3期では、残念なことに頭打ち傾向が見られるようになってしまう。2002年夏から2011年冬にかけて、眼鏡っ娘比率は1.55%~2.05%の間で、増えもせず減りもせずに推移することとなる。前時期と比較したときには決して低い水準ではないのだが、ガラスの天井に突破を阻まれているようで、歯がゆい。

 この時期の停滞傾向の理由は定かではなく、論理的な解明については他日を期したいが、さしあたって躍進期の2つの理由に対応して仮説を立ててみたい。まず前時期の躍進の理由の一つが「属性としての眼鏡」の確立であったとすれば、停滞期には逆にネコミミやメイドといった「属性」すべてが全体的に背後に退き、「ツンデレ」や「素直クール」といった内面的な性格を前面に打ち出したキャラ造形が目立ち始めたことが気にかかる。属性全体の後退に伴って、眼鏡勢力の進撃に冷や水が浴びせられた可能性はあるかもしれない。
 また前時期にはアニメやゲームなどメジャータイトルでの眼鏡っ娘の活躍が目立ったのに対し、この時期のコミケで最も人気を集めたタイトル『東方』で眼鏡の印象が薄かったことは、問題になるだろう。たとえば「spring efemeral」の調査では、東方Project関連のサークルカットはC65(2003年冬)の7サークルからC77(2009年冬)には2451へと激増している。そしてこの中に眼鏡っ娘がほとんどいない(いちおう皆無ではない)ことが全体的な情勢に大きな影響を与えているだろうことは想像に難くない。
 C73(2007年冬)には『電脳コイル』が62カットを叩き出したおかげで眼鏡っ娘は史上初の2%超えを果たしたものの、残念なことに翌C74には勢いが続かなかった。こうした長期的な頭打ち傾向の中でも眼鏡っ娘が勢力を保っているのは、『アイドルマスター』が長期間にわたって頑張っているのが大きい。ありがたい。

小括と今後の課題

 以上、眼鏡っ娘の傾向について、簡単ながら分析を試みた。今後の課題としては、まず2011年で終わっている調査を現在まで伸ばすことにより、新たな傾向を見出すことが挙げられる。
そして、頭打ち傾向がいつまでも続くとは思えないし、思いたくない。今一度の躍進に向けて、眼鏡勢力の結集を望みたい。

参照■「コミケカタログに掲載されたサークルカットに眼鏡キャラが描かれた割合に関する調査」
参照■「コミケサークルカットに描かれた眼鏡男子の傾向分析」