【要約と感想】近藤幹生『保育の自由』

【要約】2015年に「子ども・子育て支援新制度」が開始され、2017年には保育所保育指針が改訂され、2019年からは保育費無償化が始まるなど、保育制度が急速に変化しています。
制度改革は待機児童問題に対処するために行なわれるとのことですが、保育の現実を見ると、不安が大きくなります。というのは、安易に規制緩和に頼った小手先の改革に過ぎないので、単に保育の質が低下する上に、保護者の要求にも合致していないからです。
本当に保育を良くしていこうと思ったら、「子どもの権利条約」の精神を踏まえた上で、「保育の自由」の下で個々の保育者が真剣に保育の理念や目標を考え直すことが大事になります。それを実現するためにも、安易な規制緩和で小手先の改革を行なうのではなく、保護者のニーズなど現実をしっかりと把握し、保育者の労働環境を整えていくことが望まれます。
「新指針」に記された「幼児期の終りにまで育ってほしい姿」も、規定の目標として受け取るのではなく、各保育者が自主的に判断していくべきです。

【感想】いよいよ今年(2019年)から保育費無償化が始まるのだが、個人的な経験だけから言えば、保育現場では不安の声しか聞かれない。察するに、保育士の労働条件など環境整備が伴っていない状況で、無償化という人気とり政策だけが先走っているようにしか見えないからだ。さらに保育士の労働条件が悪化する未来しか見えないというところなのだろう。著者も、無償化に対して危惧を抱いている(82頁)。まあ、蓋を開けてみて実際にどうなるのか、注視しなくてはならないところではある。
企業主導型保育事業の展開の実像など、規制緩和後の展開についてはそろそろ事実を踏まえて総括しておくべき時期に入ってきている。幼児教育の領域そのものの問題だけでなく、高等教育や生涯教育までも含めた総合的な教育政策の一環(特に規制緩和が引き起す総合的な影響)という観点からも、保育政策の動向と現実には注目したい。

近藤幹生『保育の自由』岩波新書、2018年