【要約と感想】菊池良生『傭兵の二千年史』

【要約】傭兵は、古代ギリシアやローマの時代からフランス革命まで、2000年にわたって軍制の基本要素でした。しかし絶対王政下での常備軍設置など様々な軍制改革が行われる過程で傭兵制度の持つ意味が徐々に変化し、最終的にはフランス革命戦争において王家の欲望に奉仕するためではなく「国家のため」に戦う軍隊「国民軍」が誕生し、さらにはフランス以外の諸国家においては反ナポレオンのためにナショナリズムが勃興し、傭兵制度は無用のものとなりました。現代の傭兵は国家的枠組を逃れるロマンティシズムに満ちたものですが、それは食い扶持を求めて已む無く陥る従来の傭兵人生とは関係のないものです。

【感想】スイスの傭兵については様々な本から摘み食いして知っていたつもりだったけれども、マキアベッリのころのイタリア傭兵事情とかドイツ南部のランツクネヒトに関する知識はとても新鮮だったし、傭兵部隊の雇用体制とか実際の部隊運用とか兵站とか輜重とか経済基盤に関して基礎的な知見を得ることができたように思う。またオランダやスウェーデン、さらにプロイセンの軍制改革について、図らずもコンパクトな知見を得た。勉強になった。
封建体制から近代中央集権国家に移行する際、経済史では絶対王政を経由するステップが必要不可欠だという議論がある(それは日本近代史では徳川政権を封建制と見るか絶対政と見るかの議論として白熱する)わけだが、軍制という観点からも絶対王政を経由することが実際問題として必要なステップと分かったことが最大の収穫かな。とすると、日本近代史に関しても、長州奇兵隊や幕府歩兵隊、あるいは赤報隊等新政府軍に参加した草莽軍隊の位置づけや性格が個別具体的には大問題となるわけだ・・・

菊池良生『傭兵の二千年史』講談社現代新書、2002年