教育の基礎理論-5

▼短大栄養科 10/16

前回のおさらい

・日本での近代教育の始まり。江戸時代中期頃から生産力が向上したために子供に対する見方が変化し、寺子屋で読み書きや算盤の勉強をするようになりました=リテラシーの獲得。また、長期間にわたる平和のおかげで学問も大きく発展しました。
・明治維新と文明開化。しかし現在の教育制度に発展する直接のきっかけになったのは、ヨーロッパ文明との接触でした。

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたことは何でしょうか?
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
*そして「印刷術」が、これらの共通の土台となっています。

印刷術とリテラシー

印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明し、急速にヨーロッパ全体に広がりました。高価で希少であった本というものが、安価で身近なものへと変化します。印刷物を通じて知識や情報の伝達が行われるようになり、それまでと比べて圧倒的に早く広範囲に情報が届けられるようになります。
リテラシー:前回説明済み。ヨーロッパでも、かつてはリテラシーを持っている人はほとんどいませんでしたし、リテラシーが役に立つ技能だとも認識されていませんでした。しかし印刷術の普及を転換点として、リテラシーが極めて重要な技能として理解されるようになります。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのでしょうか?→本に書いてあるから。
・コロンブスも含めて、当時の知識人は地球が丸いことを知っていました。(他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていましたが、コロンブスは地球の大きさを勘違いしていたので冒険に乗り出すことができました。)
・印刷術により科学知識や地理情報が普及します。また、正確な地図や海図も登場します。船乗りに必要な科学的知識も本から知ることができます。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものでした。写本によって知識を伝えるには、コストがかかりすぎました。印刷術は知識の伝達範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高めます。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須です。知識は力となります。情報を得る決定的な手段として、リテラシーの獲得がとても重要になります。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違いは、大雑把には「神父/牧師」や「教会/聖書」の重要性の違いにあります。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提になります。
・ルターとヤン・フスの運命を比べてみると、印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさが分かります。印刷術があると、自分の意見を大量かつ広範囲に伝えることができるようになります。リツイートができることも大きな要素です。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要です。情報発信の決定的な手段として、リテラシーを持っていることがとても重要になります。

ルネサンス(15世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための手段となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明されるまでは、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ねることで、人々は「自分自身」について考えるようになります。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

個人主義の誕生

・ヨーロッパに強大な力をもたらした新大陸発見、宗教改革、ルネサンスには、印刷術という新しい技術とリテラシーという新しい経験が共通して前提されています。
・それは同時に人間の欲望を積極的に肯定していくことになります。
(1)大航海時代:リテラシーは、個人的な欲望や野心を達成するためには絶対に欠かせない技術となります。
(2)宗教改革:リテラシーは、自分の理想的な世界を実現するための手段として決定的に重要なものとなります。
(3)ルネサンス:リテラシーは、個人の欲求を充実させるために絶対に欠かせない前提となります。
→富を獲得し、天国を目指し、新たな娯楽に接触し、自己実現するためには、リテラシーを獲得しなければならりません。個人的な欲望を満足させるためにリテラシーを獲得しようとし、リテラシーの獲得が個人の欲望をさらに膨張させていきます。

リテラシーの獲得と、モラトリアム

・生活をしていく上で、なにをするにもリテラシーが必要な世の中へと変化します。リテラシーを身につけることが、人間として生きていく上での必須の条件と見なされるようになっていきます。
・リテラシーを身につける場として学校が大きな意味を持つようになります。リテラシーを身につけるために、モラトリアムと呼ばれる時間が必要とされるようになります。

モラトリアム:執行猶予。労働から免除されている期間を意味します。思春期・青年期が拡張して、大人と子供の距離が広がっていきます。

復習

・印刷術の普及によってリテラシーの有効性が高まり、人々が自発的に勉強を始める動機を持つ経緯を確認しておこう。
・リテラシーを獲得するために、それまでにはなかった特別な修行の時間=モラトリアムが用意されるようになる経緯を押さえておこう。
・学校や教育が、民衆の自発性に任せられていた時期から、強制的に与えられる時代への変化を押さえておこう。

予習

「民主主義」の仕組について調べておこう。