教育概論Ⅰ(保育)-12

短大保育科 7/12、7/14

前回のおさらい

・義務教育の思想。コンドルセとオーエン。

資本主義と「学校」

・はたして「教育」には意味があるでしょうか? 子供たちはなぜ「勉強」しなければいけないのでしょうか? 「学校」にはどんな存在意義があるのでしょうか?
・「学校」が資本主義の世界でどう機能しているかを見えやすくするために、思考実験をしてみましょう。

【思考実験】ジャイアン・スネ夫・のび太のうち、「学校」の成績が人生を左右するのは誰でしょうか?

▼答え:のび太

▼理由:(1)ジャイアンの家は「自営業」で、ジャイアンは跡継ぎです。学校のテストの点が良かろうと悪かろうと、ジャイアンの将来の職業は変わりません。
(自営業は、誰かから給料がもらえるわけではないので、自分自身の活動によって商品価値のある物や情報やサービスを生み出さなければなりません。しかしその活動をうまく行うための具体的・実践的・高度に専門的なスキルを「学校」で教えてもらえることはあまり期待できません。)

(2)スネ夫の家は「資本家」で、自分自身が労働する必要はありません。スネ夫は出来杉くんのような才能ある人材に投資するだけで儲かるので、自分自身が高学歴である必要はあまりないわけです。スネ夫にとって「学校」とは、自分が投資するに値する有能な人間を生産してくれる場所です。スネ夫が出来杉くんにはラジコンを貸すのに、のび太には貸さない理由を考えてみてください。

(3)のび太の家は「労働者」で、自分自身が労働する必要があります。生涯賃金を上げようと思ったら、良い企業に雇用される必要があります。そのためには良い大学を出なければならないし、そのためには良い高校を出なければなりません。学校のテストの点は、のび太の人生をダイレクトに左右します。
(ちなみに、自営業は自分の活動で生み出した物や情報やサービスを売ってお金を稼いでいますが、労働者が売っているものは労働力でしたね。)

(4)オマケ:しずかちゃんの生き方には「専業主婦」という選択肢が色濃く反映されています。彼女はどうしていつもお風呂に入っているのでしょうか? 「ジェンダー論」等で学んだ知見を活用して考えると、いろいろ見えてきます。

選抜

・資本主義世界の立場によって、「学校」への期待のかけかたの重点が異なります。
・「実家の商店の跡継ぎ」になるジャイアンにとって、「学校」の試験の結果は人生にとってあまり重要なものではありません。しかし「労働者」のキャリアは、少なくとも就職先は学校でのテストの結果が大きく左右します。
選抜:学校が現実に果たしている機能を指す言葉です。学校では試験を繰り返して各人の才能と個性を測定し、進学時の配分によって才能を選り分け、社会に出る際には個性と能力に合った持ち場に適切に配置します。

・我々の現実の目から見える教育の姿は、これまで勉強してきた「人格の完成」を目指す教育や、すべての子どもたちの学習権を保障する「義務教育」の考え方とは、大きくズレているようです。どうしてこうなっているのでしょうか?

隠れたカリキュラム

・学校の勉強で本当に身についているものは何でしょうか? あるいは、学校で身につけるべきだと子どもたちに期待されているものは何でしょうか?

カリキュラム:教育目的を達成するために、計画的に配列された、教育内容のことです。
・正式のカリキュラム:学校や教師が教えていると公式に表明されている教育内容です。学生や保護者や世間にとって、学生が学校で身につけることを期待している学習内容です。
・正式のカリキュラムは、完璧に身についているわけではありません。が、まったく人生で困らないのは何故でしょうか?

隠れたカリキュラム:教師は教えていると思っていないし、保護者や世間も学校でそれを教えているとは思っていないにもかかわらず、いつのまにか学生たちが身につけている暗黙の内容のことです。
・たとえば、勉強はつまらないし人生で役に立たない。→役に立たないものでもガマンして努力しなければならない。→つまらないし役に立たないものをガマンして身につける習慣がつきます。
・学校で時間を過ごすうちに、知識や考え方、行動様式が、意図されないまま、いつのまにか身についています。このような習慣形成の方が、正式なカリキュラムで学ぶ知識よりも、優秀な労働者になる上で決定的に重要かもしれません。
・たとえば。遅刻しない、早退しない、無断欠席しない、授業中は席を立たない、先生の命令には無条件に従う、無意味に思えることでもとりあえずやる、相互監視する、競争する、出る杭を打つ、密告する。
・学校で身につける意識と行動様式は、すなわち、労働者として必要な意識と行動様式となります。
・隠れたカリキュラムとして、他に性別役割分業に関する意識等があると考えられています。

モニトリアル・システム

ベル・ランカスター法:助教法と翻訳されます。大勢の生徒に対する一斉授業方法です。教師はまず成績優秀な学生に教え、優秀な学生(モニター・助教)が一般学生に教えます。
・安価に、大量に、早く、労働者を作ることができます。「人格の完成」を目指すというよりも、工場労働で必要となる必要最低限のリテラシーとモラルを身につけることを目指す教育です。
・ベル・ランカスター方式の学校で子供たちが身につける能力とは、実際はどういうものでしょうか?

学歴主義

メリトクラシー:能力主義と翻訳されます。もともとは身分や血筋の高い者が社会を統治する体制を否定して、出自に関係なく個人の持っている能力によって地位が決まり、能力の高い個人が社会を統治する体制を指しました。一転して、能力によって人間を序列化する世の中を意味するようになります。←しかしこれは正式なカリキュラムの考え方です。
学歴主義:学校の勉強に高い適応能力を示した個人が、きっと社会一般でも高い能力を発揮するだろうと期待する態度です。しかし、学校の勉強に高い適応能力を示す個人が、一般社会で高い適応能力を示すとは限らないということは、広く気がつかれています。それにも関わらず、どうして学歴主義が説得力を持つのでしょうか?←隠れたカリキュラムを考慮に入れるとカラクリが見えてくるかもしれません。

文化的再生産

・学歴の高い親の子どもの学歴も高くなりやすいのはなぜでしょうか?
・遺伝=生物的再生産でしょうか、環境=文化的再生産でしょうか?
文化資本:支配階級の習慣や考え方を教育システムでも高く評価することにより、もともとそういう習慣を身につけていた層が高い学歴を得て、結局は高い階級へと再生産されます。
・労働者にとってはつまらないし役に立たないように見えるものも、文化資本を独占する人々にとっては極めて優れた意味があるように見えます(音楽や美術に対する興味・関心を比べてみよう。あるいは文化資本が高い家庭と低い家庭では、見るテレビ番組をにどういう違いがでるか、考えてみよう)。
・文化資本が高ければ高いほど学校文化に親和的な人間になり、そういう人間ほど高い学歴になる傾向がありますが、それは必ずしも人間としての能力が高いことを意味しないかもしれません。
→しかし、いったん文化資本を独占した人々(つまり学校文化に親和的な人々)が大きな力を持ったとき、その権力を他の人間に渡さない理屈として、学歴主義は十分に機能します。

復習

・立場によって「学校」の機能の見え方が異なる理屈を押さえておこう。
・「隠れたカリキュラム」について様々な例を調べてみよう。

予習

・「新教育」について調べておこう。