教育概論Ⅰ(栄養)-7

▼短大栄養科 5/29(火)

前回のおさらい

・ヨーロッパが強くなった理由は、欲望を解放した個人主義に加えて、民主主義の仕組みを発明したからです。
・民主主義の世の中を実際に作ったのは市民革命で、その理論的根拠として社会契約論が考えられました。ホッブズ→ロック→ルソーと発展します。
・新しい社会(個人を契約によって結ぶ)を作るためには、新しい人間(独立した自由で平等で理性的な個人)を作る教育が必要となります。
・普遍的な人間を作るための教育とは「人格の完成」を目指す教育です。

憲法と教育の自由

・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、知識を注入したり偏差値を上げるような教育ではなく、または特定の職業を目指すような教育ではありません。性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。
・Instruction=専門教育(特殊性)とEducation=普通教育(普遍性)の違いを考えてみましょう。
・「人間の権利」を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:憲法がないとどうなるでしょうか?

・もしも多数決だけで世の中がきまるどうなるでしょうか?
・「多数の専制」とは何でしょうか。
・誰がリーダーになったとしても「これだけは絶対にやってはいけない」という、リーダーの暴走を防ぐ禁じ手をあらかじめ定めておく必要があります。
・憲法の原理=一般意志 人間性に関する普遍的な原則から導き出すことができるような合理的かつ普遍的なルールに基づいて、国家を運営する必要があります。
・たとえば、どんな人にとっても命は大切であったり、理由なく財産を奪われることは嫌だったり、奴隷にされることは嫌だったりしますし、全ての人は自分が幸福であることを望むはずです。それには男か女か、金持ちか貧乏か、才能があるかないかなどという特殊性にはいっさい関係がない、あらゆる人間に共通すること(普遍)です。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。→社会契約論で議論された、自然状態の人間が持っていた平等な自由を思い出してみましょう。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。

教育の自由。自由権としての教育

・自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由 どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。
・Education(教育)とInstruction(教授)の違いを思い出しましょう。国家はEducationには直接関与することができなくとも、Instructionに関与することは必ずしも制限されていないかもしれません。

近代初期の教育思想

・特定の職業や身分のための人間形成を超えるような、普遍的な人間を作ることを目指す教育思想は、近代から始まります。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・宗教改革、プロテスタント。
・1592年~1670年。モラヴィア出身。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・教育学的愛称:近代教授学の父
・キャッチフレーズ:全ての人に全ての事柄を教授する

ロック John Locke

・市民革命、経験主義。
・1632年~1704年。イングランド出身。
・主著『市民政府論』(政治思想)、『人間悟性論』(認識論)、『教育論』あるいは『教育に関する一考察』(教育思想:翻訳が異なるだけです)
・キャッチフレーズ:紳士教育タブラ・ラサ(白紙説)
・名言:健全なる精神は健全なる身体に宿る。←まず体育(食物、睡眠、居住環境など)の重要性を強調しました。
・新しい市民社会を担う紳士(ジェントルマン)を作ることを目指す教育です。子供期の独自性を認めるというより、理性ある大人になることを重視する教育です。詰め込み教育を否定し、大人になってから役に立つ習慣形成を重く見ました。

復習

・時代背景を考慮しながら、各教育思想の本質を押さえよう。

予習

・ペスタロッチー、ヘルバルト、フレーベルの仕事について確認しておこう。