【要約】権力者たちは戦争ばかりします。権力者たちは、自分の欲望を満足させれば、いくら人が死んでも平気です。狂っています。平和を愛する一般民衆が力を合わせて、権力者たちの横暴を止めましょう。それがキリスト教本来の精神ってもんでしょう。
【感想】本書が出版されたのは西暦1517年。ルターが宗教改革の口火を切る「九十五箇条の提題」を掲げた年でもあるが、今からもう505年も前のことだ。しかし言っていることは、今でも通じる。というか、ロシアがウクライナに侵攻してから10日経ち、戦火が広がる今だからか、むしろ迫力がある。
500年経っても人間が進歩していないというのは、とても悲しいことだ。
【研究のための備忘録】ナショナリズム
ナショナリズムに関する興味深い言質を得た。
16世紀初頭の段階で、現代に通じるナショナルな感覚が定着していたことを伺うことができる。が、こういうナショナルな感覚は、12世紀の段階ではまだ成熟していなかったはずだ。13世紀~16世紀の間に何が起こったかを理解することは、ナショナリズム(あるいは近代国家の成立)を考える上で極めて重要だ。そしてエラスムスが、そういうナショナリズムの感覚を人文主義的な立場から軽蔑しているのも印象的だ。
【研究のための備忘録】人間の平等
さすが人文主義の王エラスムスだけあって、「人間」というものに対する洞察が簡潔に示されている。
ここでは形式的にはキリスト教における平等が説かれているのだが、本質的にはあらゆる人間の平等が説かれている。性別も国籍も関係なく、「みんな同じ人間」であることが強調されている。これは古代ギリシアやローマにはあり得なかった考え方だし、中世キリスト教に萌芽はあるものの、全面的に展開するのは16世紀人文主義以降のことだ。この「みんな同じ人間」という意識を打ち出したことこそが人文主義の決定的な成果であり、近代化への大きな一歩だ。こう、「同じ人間」だと思えば、鉄砲の引き金は引けない。