【要約と感想】宮谷宣史『人と思想 アウグスティヌス』

【要約】アウグスティヌスの生涯と思想を、「愛」というキーワードを中心に解説しています。類書と異なる本書の特徴は、著作の全体像について目配せが効いているところ、その後のヨーロッパへの影響と日本における研究史が簡潔にまとめられているところになります。

【感想】著者の誠実な研究姿勢が行間から滲み出ているような感じがして、味わいながら読める良い本だった。アウグスティヌスのキャッチフレーズが「愛の思想家」だということは知識としては知っていても、それが具体的にどういうことかは、愛に溢れる著述に実際に触れないと、本当のところは分からないものかもしれない。個人的には、彼の言う「愛」がどういうものか、その一端を垣間見たような気がしたのだった。世界が「愛」で成り立っていることを心の底から信じられたら、それは確かに掛け値なく「幸福」と呼んでいいものだろう。少なくとも「金」とか「力」で世界が成立していると思っているよりは、ずっと。

【今後の研究のための備忘録】
 教育に関して見逃すことのできない記述があった。

「若い教会の指導者から、初心者を教え導く時に、どのようにしたらいいか、何が大切か、という質問を受けたアウグスティヌスは、自分の考えをまとめて書いて、『教えの手ほどき』(400年)という本の形にしてそれを返事として送った。この文書のなかで、彼は教育において、指導するさいに、大切なのは、愛である、と繰り返し述べている。つまり、話す場合も、聞く場合も、愛が基本で、また愛が人を養い育てることを確信していた。」p.126

 文庫本の形で簡単に手に入る代表的著作『告白』と『神の国』は読了したものの、その他の膨大な著作に目を通す時間は確保できないなと思っていたが。この『教えの手ほどき』は読んでおかないとまずいような気がする。確かに教育で一番大切なものは「愛」ですよ。

宮谷宣史『人と思想 アウグスティヌス』清水書院、2013年