【要約と感想】堀裕嗣『スクールカーストの正体―キレイゴト抜きのいじめ対応』

【要約】1980年代の高度消費社会化を経てオレ様化した子どもたちが、21世紀に入って自己責任圧力を背負わされ、さらに加速度的に変化しています。その変化を象徴的に表現するキーワードが「スクールカースト」です。いま、コミュニケーション能力の三要素(自己主張力・共感力・同調力)の有り様によって、学級内の人間関係が形成されています。現代のいじめを理解する決定的なポイントは、スクールカーストの構造に基づいてクラスの人間関係を把握することです。
そして教師もまたカーストに巻き込まれる一方、「職員室カースト」によって人間関係を形成しています。カーストに巻き込まれた教師が単独でいじめに立ち向かうことは、もはや不可能です。複数の教師のキャラクターを相互補完的に強化して教員全体を「チーム」として機能させると、いじめを解決する道筋が見えてくるはずです。

【感想】結論が「個性的で多様な教師集団と、それをまとめるチーム学校」であって、中央教育審議会が2015年末に出した答申とシンクロしているのは、けっこう面白い。ただ、中教審が「少子高齢化やAI化」といったマクロな時代趨勢から結論を導いているのに対し、本書は教室内のミクロな権力構造から結論を導いている。思考の経過が異なっているのに着地点が同じというところが興味深いわけだ。

ちなみに森口朗が作ったという「スクールカーストの決定要因のマトリクス」は、なかなか興味深い。コミュニケーション能力を3つの要素(自己主張力・共感力・同調力)に分析し、その有無の組み合わせによって「典型的なキャラクター」を8タイプ提出し、その相互権力作用を解析しようとするものだ。なかなか切れ味が鋭く、本書はこのマトリクスだけであらゆる事例を分析し、ぐいぐいと結論を導き出していく。生産性が高い論理枠組だ。なかなか感心した。
このマトリクス、単に教室内権力構造だけでなく、おそらくマンガやアニメなど現代作品の物語構造分析にも応用できてしまう。具体的には、戦隊ものの「レッド・ブルー・イエロー・グリーン・ピンク」のチーム内関係などは、このマトリクスで説明がついてしまいそうだ。著者自身はお笑いバラエティの構造分析に応用していた。そして逆に考えれば、アニメやマンガなどのキャラクター配置論が現実の認識枠組に影響を及ぼしているとも推測できるところではあるが、このあたりの相関関係と因果関係は慎重に考慮する必要がある。

【今後の研究のための個人的メモ】
教師のキャラクター配置論に言及した文章は、フィクションのキャラ配置分析にも応用が利きそうで、なかなか興味深く読める。

「それぞれの独立したキャラクターの教師が独立した仕事をしているのではなく、それぞれのキャラクターの教師が相互補完をしながら生徒たちの教育に当たっているというのが実態なのである。」(200-201頁)

まさに戦隊ヒーローが複数人でチームを組んで一人の怪人を倒す構造と被る気がするわけだ。あるいは単独アイドルが成立せず、グループアイドルが目立つ傾向。「個人プレー」に期待するのではなく「チームプレー」を求める流れは、21世紀以降のOECDの教育関連文書にも顕著な傾向であることを、さて、どう考えるか。

堀裕嗣『スクールカーストの正体―キレイゴト抜きのいじめ対応』小学館新書、2015年