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教育原論(保育)-9

前回のおさらい

・ニセモノの自由からホンモノの自由へ。カントの教育論。
・憲法の意義。教育基本法の性格。

今回の目標

・「人格」について深めよう!

人格の完成

・教育基本法第一条に、教育の目的は「人格の完成」であると書いてありました。
人格とは何でしょうか? 目に見えないし、触ることができないし、科学的に存在を確かめることもできません。
・「好き」と「愛してる」という言葉の意味の違いをヒントに考えてみましょう。

 好き愛してる
個性代わりがある代わりがない
タイプ言える言えない
数値化表せる表せない
アイデンティティ変わる変わらない
様相主観的な感情存在のあり方
対象モノ(純粋理性)人格(実践理性)

・人格とは、代わりがなく(個性)、変わらない(アイデンティティ)ような何かのようです。

個性

・個性=Individualityの翻訳語です。
・長所とか特徴とか持ち味などという言葉とはニュアンスが異なります。
・「個々の性質」ではなく「個であることの性質」と考えます。
・たとえば眼鏡はどうして眼鏡なのでしょうか?←「はたらき」でまとまりがあります。
・「人間のはたらき」とは何でしょうか?
・「私のはたらき」とは何でしょうか?

アイデンティティ

・日本語では「自我同一性」や「存在証明」などと訳されることがあります。「あの私」と「この私」が一致していることを証明したいときなどに用いられます。「IDカード」=Identity card。
・自同律(principle of Identity):「A=A」「わたし は わたし」
・この世に変化しないものなどあるでしょうか? 「A→A’」
・私は常に変化し続けている(新陳代謝)にも関わらず、どうして常に「わたしはわたし」と言うことができるのでしょうか?
・わたしの属性について考えてみましょう。A=X、A=Y、A=Z・・・・。常に一致しているのは何でしょうか? 主語と述語の関係に注目してみましょう。
・常に主語である何かにはアイデンティティが成立していそうです。
・述語に重点を置くか、主語に重点を置くかで、同じ文章でも世界の見え方や関わり方が異なってきます。
・たとえばソクラテスは、本当の幸せとは「わたしが常にわたしであること」と言っています。

自己実現

・どのように人格は完成へと向かうのでしょうか。
・自己実現≒ほんとうのわたしデビュー、わたしらしいわたし。本物の幸せ。社会的な成功とは基本的にはあまり関係がありません。
・弁証法的発展:自己耽溺(自己中心主義)と自己疎外(世間中心主義)の葛藤から、自由で主体的な決断を経て、責任を引き受けて、自己実現へ向かいます。
・直線的な発達ではなく、矛盾と葛藤が連続する、ジグザグの成長です。
・「自分こわし」と「自分つくり」の連続によって、人格が完成へと向かいます。

人格形成の基礎を培う

(幼児期の教育)
第十一条 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって、その振興に努めなければならない。

・人格:否定しない。主語を否定するのではなく、述語を叱る。たとえば叱る時は「行動」を叱る。「嫌い」と「愛してる」は両立する。
・個性:一人の人間として相対する。
・アイデンティティ:自主自律の精神を重んじる。述語ではなく主語をほめる。
・自己実現:夢を大事にする。チャレンジ精神を応援する。
・自由:できることを増やす。自分たちでルールを作る。

復習

・「人格」や「個性」、「アイデンティティ」、「自己実現」という言葉について考えを深めよう。

予習

・「義務教育」について調べておこう。

発展的な学習の参考

人格とは何か?
個性とは何か?
アイデンティティとは何か?

教育原論(保育)-8

前回のおさらい

・コメニウスの教育思想。
・市民革命の経緯と理屈。人格の完成を目指す教育。

今回の目標

・自由とルールの関係について理解し、モラトリアムという言葉の意味を理解しよう!
・カントの教育思想を知ろう!
・憲法の役割と存在意義を再確認しよう!

自由とルール

・個人主義(ワガママで自分勝手=みせかけの自由:自然権)から個人主義(自主・自律=ほんものの自由:自然法)へ。資本主義(経済原理)に民主主義(政治原理)を追加します。
・教育とは、自由でないようなもの(子ども)を、自由にする(大人)ための営みです。
・子供は不自由で、大人が自由? →子供は生理現象に無条件に従わざるを得ませんが、大人は同じ生理現象に対しても様々な選択肢を持っています。
・モノは物理法則(生理現象)に従わざるを得ませんが、人格を持つ者は自分でルールを作ってそれに従うことができます。
立法能力:自分でルールを作って、自分で守ることができるような力のことです。他人の作ったルールに従う(他律)のではなく、自らの意志でルールに従う(自律)ことができる力のことです。

カント Immanuel Kant

・1724年~1804年。ドイツ出身。
・著書『教育学講義』『純粋理性批判』『実践理性批判』
・名言「人間は教育によってのみ人間となる。」「人間は教育されなければならない唯一の被造物である。

理性

*理性:人間だけが持っている(つまり他の動植物は持っていない)であろう、ルール(法則)を発見する力です。カントによれば、モノについてのルールを発見する力(純粋理性)と、人格についてのルールを発見する力(実践理性)は、別のものです。
*科学(純粋理性):モノに関するルール(法則)を発見し、利用する手続きのことです。個物の観察から普遍的ルールの洞察に至ります。
*法と道徳(実践理性):人格に関するルールを発見し、従います。
→人間に固有の「理性」を育むことが、「人格の完成」への第一歩です。

モラトリアム

モラトリアム:執行猶予。労働や義務や責任から免除されている期間を意味します。責任を追及されず、失敗が許される代わりに、自分でルールを作ることは許されず、大人から管理・拘束され、理性を獲得するために、指導・教化を受けなければなりません。
現代では、思春期・青年期が拡張して、大人と子供の距離が広ががり、モラトリアム期間が延びたといわれています。

憲法と教育の自由

・人間の権利と自由を保障するために、憲法というものが存在しています。

思考実験:法律を破ったことはありますか?

・市民は、リーダーが作った法律は従う義務があります。法律を破ったときには、ペナルティが課されます。
・法律は、それぞれの市民が平和かつ幸福に暮らすことができるよう、選ばれたリーダーによって定められます。
・市民は、法律を破ることはできますが、憲法を破ることはできません。法律と憲法は、どこがどう違っているのでしょうか?
・そもそも憲法を守る義務があるのは誰でしょうか?→日本国憲法第99条。
・憲法は市民に何を期待しているのでしょうか?→日本国憲法第97条と第98条。

『日本国憲法』第十章 最高法規
〔基本的人権の由来特質〕
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

基本的人権

基本的人権:誰がリーダーになったとしても、絶対に人々から奪うことができない生まれながらの人間の権利です。性別や身分や才能などの特殊性に関係なく、あらゆる人が平等に持っている普遍的なものです。*確認:多数の専制の怖さ。
自由権:国家が侵害することができない、個人が持つ権利です。「国家からの自由」のことです。具体的には、身体の自由、財産の自由、居住の自由、職業選択の自由、教育の自由などなどがあります。
教育の自由:自分の子供をどのように教育するかは、国家から関与されることではありません。←信仰の自由:どのような思想信条を持つかについて、国家が個人に命令することはできません。

教育基本法と日本国憲法

・教育基本法は、1947年に日本国憲法と一体のものとして制定され、準憲法的性格を持つと考えられています。→つまり、教育基本法を守らなければいけないのはリーダーの側であって、一般国民は守らせる側ということになります。

復習

・「自由」とは何か、自分なりに深めておこう。
・「憲法」の役割と意義について、しっかり理解しよう。

予習

・「人格」「個性」「アイデンティティ」「自己実現」という言葉について調べよう。

発展的な学習の参考

ジョン・ロック『教育に関する考察』:新しい時代にふさわしい紳士教育の形が示されています。
ジャン・ジャック・ルソー『エミール』:普遍的な「人間」をつくるという、まったく新しい教育の姿が描かれています。

教育原論(保育)-7

短大保育科 5/30・6/1

前回のおさらい

・ヨーロッパが強くなった経緯=大航海時代・宗教改革・ルネサンス←印刷術

今回の目標

・コメニウスの教育思想を知ろう!
・市民革命の経緯と理屈を踏まえて、「人格の完成」を目指すようになった理由を理解しよう!

リテラシーと学校の広がり

・印刷術の発明によって進んだのは、「知識の民主化」でした。それまで「知識」は王様や貴族や僧侶が独占するものでしたが、書物によって一般民衆がアクセス可能なものに変わりました。
・それまでは「身分」によって人生が固定していましたが、これからは「知識」によって人生が変わるようになります。
・人々は書物を通じて知識にアクセスするため、リテラシーを獲得しようとします。学校が自然に増加していきます。

*現代の知識の民主化:インターネットの普及によって「知識」を簡単に入手できるようになり、それまで「知識」を一方的に独占・発信していた学校や報道機関に対する不信感が高まります。
→もちろん16世紀ヨーロッパでも、新しい知識を獲得した人々は、それまで知識(そして権威)を独占していた王様・貴族や僧侶に対する不信感を高めていきました。
→不登校の増加やテレビ離れ、学校へのスマホ持ち込み等をどう考えるか。
*格差の拡大:新しい知識を持っているか持っていないかで、格差が拡大していきます。デジタル・ディバイド。

コメニウス Johannes Amos Comenius

・1592年~1670年。モラヴィア(チェコ)出身。プロテスタント(ヤン・フスのボヘミア兄弟団)。
・主著『大教授学』、『世界図絵』(世界初の絵本)
・キャッチフレーズ:近代教授学の父
・名言:全ての人に全ての事柄を教授する

小テスト

市民革命と社会契約論(17~18世紀)

市民社会:欲望の解放と制御

市民社会:身分社会を否定し、個人主義(欲望にまみれた利己的人間)を満足させることを優先して組み立てられた世の中のことです。
・経済的発展は「欲望の解放」によって促進されます。「欲望の制御」を厳しくしすぎると、世界は停滞してしまいます。
・しかし人間の欲望には際限というものがありません。解放された欲望は、そのままでは世界そのものを破壊してしまいます。実際に、ヨーロッパの16世紀と17世紀は宗教戦争や侵略戦争が続いて荒れ狂った時代となりました。
・人間の欲望を解放して、自分勝手な利己的人間だらけになって、なおかつ世界を破滅させないような方法はあるでしょうか? →民主主義

市民革命と社会契約論

・ヨーロッパの政治体制を決定的に変えた事件をまとめて市民革命と呼びます。王様や貴族などが倒され、僧侶の権威が低くなり、身分制がなくなりました。
*市民:農村の生産者ではなく、都市に暮らし、市場でお金を使う人々を指します。基本的にお金持ちです。
*革命:「一揆」と勘違いする日本人が多いですが、いわゆる一揆は支配者の交代を伴いません。支配階級が覆る事態を革命と呼びます。
*市民革命:ヨーロッパでは様々な地域と時期に革命が発生しましたが、全て共通して「市民」が支配者になる革命だったので、「市民革命」と呼びます。

市民革命重要人物政治思想書教育思想書
清教徒革命1642トマス・ホッブズ『リヴァイアサン』
名誉革命1688ジョン・ロック『市民政府論』『教育論』
アメリカ独立戦争1776トマス・ペイン『コモン・センス』
フランス革命1789ジャン・ジャック・ルソー『社会契約論』『エミール』

・市民革命には、それぞれ理論的指導者と代表的な政治思想書が関わっています。市民革命の理論的根拠となったのが、社会契約論と呼ばれる考え方です。ホッブズ『リヴァイアサン』→ロック『市民政府論』→ルソー『社会契約論』というように展開します。

社会契約の「社会」とは?

社会:もともと日本語には存在せず、sociaeyやassociationの翻訳語として普及しました。ヨーロッパで成熟した「個人」を土台として組み立てられた世の中を指します。
・伝統的な「共同体」と新しい「社会」では、集団優先か個人優先かで世の中の形が決定的に違ってきます。共同体では身分が固定して人々の役割が決まっていましたが、社会では個人の力によって役割や組み合わせを変えることができます。
*たとえば「日本は集団主義」と言う人がいますが、本当でしょうか? 「集団」の質の違いを押さえずに言って大丈夫でしょうか?

社会契約の「契約」とは?

・自由で平等な個人同士が合理的な判断を下した結果として成立する合意と約束のことです。自由や平等が損なわれ、合理的な意志と判断が存在しない場合には、契約は成立しません。
・身分や性別などの「属性」によって条件が変わるものは契約と呼べません。契約とは、属性に関係なく、自立した個人の意志と判断によって成立します。←「属性」とは関係ない、「自立した個人」を作らなければいけません。

新しい社会にふさわしい新しい教育

・個人を作る:「個人」とは、身分や性別等の特殊性にはまったく関係がなく、何の特殊な属性も持たない、普遍的な人間のことです。
・新しい社会を作ることは、必然的に、新しい社会にふさわしい新しい「個人」を作ることを意味します。だから新しい社会について考えた思想家は、それにふさわしい新しい「個人」についても考えるし、それにふさわしい教育の形についても構想することになります。

人格の完成をめざす教育

・人格の完成:普遍的な教育とは、人間を作る=人格の完成を目的とする教育です。
・自発的に広がったリテラシーの教育(日本の江戸時代や印刷術発明後のヨーロッパ)と、普遍的な人間を作るための教育(市民革命後のヨーロッパ)の違いを考えてみましょう。教育を受ける人や、教育の内容や、教育への国家の関与などが、どのように異なるでしょうか? →決定的な違いは、教育が「人間の権利」であると考えられるようになったことです。
・「人間の権利」としての教育とは、性別や才能や財産や地位などの特殊性に関係なく、あらゆる人間に共通する資質を育てることを目指す普遍的な教育です。知識を注入したり偏差値を上げるような教育でもなければ、または特定の職業を目指すような教育でもありません。

復習

・コメニウスの思想を時代背景とともに押さえよう。
・民主主義に必要な教育が、リテラシーの教育と決定的に異なることを押さえておこう。

予習

・「憲法」とは何かについて、「法律」との違いを中心に調べておこう。

教育原論(保育)-6

短大保育科 5/23・5/25

前回のおさらい

・日本での近代教育の始まり。江戸時代中期頃から生産力が向上したために子供に対する見方が変化し、寺子屋で読み書きや算盤の勉強をするようになりました。また、長期間にわたる平和のおかげで学問も大きく発展しました。
・明治時代に入って、現在のような学校教育が始まりました。

今回の目標

・「学制」の特徴を理解しよう!
・ヨーロッパが強くなった経緯を、印刷術と「リテラシー」という観点から理解しよう!

近代教育制度のはじまり(つづき)

学制

・明治5(1872)年、「学制」が発布されました。フランスの教育制度を参考にしたり、福沢諭吉(学問のすすめ)に影響を受けたりしていると考えられています。
(1)国民皆学:身分に関わらず同じ内容の教育を受けられます。
(2)立身出世主義:教育は個人の利益のために行なわれます。
(3)実学主義:実際に役に立つ学問を行ないます。
(4)受益者負担:授業料は各家庭の負担となります。
(5)中央集権:文部省の方針が日本全国で貫徹されます。

▼しかしそもそもどうしてヨーロッパの真似をする必要があったのでしょうか?

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎませんでした。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にありました。
・西暦1500年あたりから逆転が始まります。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢を踏まえて、ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

・日本では福沢諭吉が西欧列強の強さの秘密を理解します。
・表面上の物質的繁栄が重要なのではなく、人間に対する根本的な理解や社会制度の仕組みが重要だと気がつきます。
→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたことは何でしょうか?
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
*そして「印刷術」が、これらの共通の土台となっています。
*さらに「欲望の爆発」が、続きます。

印刷術とリテラシー

印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明し、急速にヨーロッパ全体に広がりました。高価で希少であった本というものが、安価で身近なものへと変化します。印刷物を通じて知識や情報の伝達が行われるようになり、それまでと比べて圧倒的に早く広範囲に情報が届けられるようになります。
リテラシー:前回説明済み。ヨーロッパでも、かつてはリテラシーを持っている人はほとんどいませんでしたし、リテラシーが役に立つ技能だとも認識されていませんでした。しかし印刷術の普及を転換点として、リテラシーが極めて重要な技能として理解されるようになります。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのでしょうか?→本に書いてあるから。
・コロンブスも含めて、当時の知識人は地球が丸いことを知っていました。(他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていましたが、コロンブスは地球の大きさを勘違いしていたので冒険に乗り出すことができました。)
・印刷術により科学知識や地理情報が普及します。また、正確な地図や海図も登場します。船乗りに必要な科学的知識も本から知ることができます。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものでした。写本によって知識を伝えるには、コストがかかりすぎました。印刷術は知識の伝達範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高めます。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須です。知識は力となります。情報を得る決定的な手段として、リテラシーの獲得がとても重要になります。

ルターの宗教改革(1517年)

・カトリックとプロテスタントの違いは、大雑把には「神父/牧師」や「教会/聖書」の重要性の違いにあります。
・「聖書を読む」という行為を可能にするためには、聖書というモノそのものを低価格で供給する印刷術の存在が前提になります。
・ルターとヤン・フスの運命を比べてみると、印刷術が存在しない世界での情報発信の難しさが分かります。印刷術があると、自分の意見を大量かつ広範囲に伝えることができるようになります。リツイートができることも大きな要素です。
・世界を変革するためには、自分の意見を無差別かつ広範囲に、そして正確に発信することが必要です。情報発信の決定的な手段として、リテラシーを持っていることがとても重要になります。

ルネサンス(15~16世紀)

・音楽や絵画の意味が大きく変わり、芸術家が誕生します。神に捧げるための技術から人間を楽しませるための芸術へ転回します。音楽や絵画は教会に納入するものではなく、一般民衆に売って儲けるための手段となっていきます。
・印刷術の普及によって、一人で本を読むことが人々の日常生活の中に入ってきます。印刷術が発明されるまでは、本は音読して大勢の人で楽しむものでした。本の読み方が、音読から黙読へと変化します。
・孤独に読書する体験を重ねることで、人々は「自分自身」について考えるようになります。リテラシーは、自己実現の決定的な条件となります。

復習

・明治時代全体の特徴を踏まえて「学制」の特徴を説明してみよう。
・印刷術の普及によってリテラシーの有効性が高まり、人々が自発的に勉強を始める動機を持つ経緯を確認しておこう。

予習

市民社会の仕組みと社会契約論の論理について調べておこう。

発展的な学習の参考

宮崎正勝『海図の世界史』
印刷術の普及によってプトレマイオス『地理学』が大量に出回っており、コロンブス以前から地球が丸いことが人々の間で常識となっていたことがわかります。

ジャック・アタリ『1492西欧文明の世界支配』
貧弱な辺境に過ぎなかったヨーロッパが1492年を境にして世界の頂点に立つ過程を描いた本。コロンブスの識字能力や、印刷術と大航海時代の関連について言及しています。また宗教改革における印刷術の重要性も説かれています。

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト『1492コロンブス逆転の世界史』
辺境ヨーロッパが1492年をきっかけに逆転して世界を制覇した過程が描かれています。コロンブスが読んでいた本や識字能力の程度について記述されています。

ミシェル・ルケーヌ『コロンブス 聖者か、破壊者か』
印刷術という技術が背景にあったことを考慮しないと、コロンブスの業績を理解できないことが分かります。

徳善義和『マルティン・ルター』
ルターが印刷術を極めて有効に活用しながら宗教改革を成功に導いていったかが分かります。

アンドリュー・ペティグリー『印刷という革命』
印刷術が宗教改革や新大陸発見と密接に絡みながら展開していったことが分かります。また印刷術の普及によって教育が急成長をとげることにも触れられています。

アレッサンドロ・マルツォ・マーニョ『そのとき、本が生まれた』
印刷術の普及によってルネサンスが加速していく様子がよく分かります。

上尾信也『音楽のヨーロッパ史』
印刷術とルネサンスが、宗教改革にも大きな影響を与えていたことが分かります。

教育原論(保育)-5

短大保育科 5/16・5/18

前回のおさらい

・イニシエーション:「大人になる」ことの意味と過程が現在とはまったく異なっていました。
・リテラシー:大昔に大半の人が学校に行っていなかったのは、リテラシーが必要なかったからでした。
・大昔の学校:リテラシーを学ぶ必要のある人たちは学校に行きました。

今回の目標

・江戸時代の学校と教育者について理解しよう!
・近代学校教育の始まりと「学制」の意義について理解しよう!

江戸時代の学校と教育者

長期間にわたる平和と繁栄によって、学問が独自に発達を遂げていました。
*儒学:中国発祥の学問ですが、徳川家が推奨したのをきっかけとして、江戸時代の日本で独特の発展を遂げます。基本的には支配者階級のための学問で、主に武士が学んでいました。

昌平坂学問所:林羅山の私塾(1630年)を起源として、1790年に正式に幕府の直轄学校となりました。1871年に閉鎖された後、現在では建物が湯島聖堂として残っています。

藩校:全国に260ほどあった藩が、それぞれ作っていた教育機関です。水戸藩の弘道館長州藩の明倫館薩摩藩の造士館会津藩の日新館が有名です。

郷校:例外的に武士ではない人々も学ぶことができた教育機関です。岡山藩の閑谷学校が有名です。

私塾:学問サークルが発展して、個性的な塾が運営されていました。
伊藤仁斎の古義堂:独自の方法論(古義学)で朱子学を乗り越えました。
広瀬淡窓の咸宜園:身分制に縛られないで学問をするために、実力主義(三奪法)を採用しました。
吉田松陰の松下村塾:個性を尊重する教育方針で、数々の志士を育てました。

▼蘭学:日本は外国との交流を避けていましたが、長崎などを通じて入ってくる海外情報を元に、ヨーロッパの学問が研究されていました。
シーボルトの鳴滝塾:西洋医学や植物学等の自然科学を教えました。
緒方洪庵の適塾:ゼミナール形式の勉強で福沢諭吉などを輩出しました。

▼国学:中国とは異なる日本独自の文化を特に尊重して研究する姿勢が生まれていました。
本居宣長の鈴屋:学校というよりは勉強サークルの集会所でした。

▼学者:出版が発達し、学者たちが活躍しました。
貝原益軒:『和俗童子訓』。朱子学者として、体系的な教育書を初めて著しました。
中江藤樹:『翁問答』。朱子学を批判する陽明学の立場で知行合一を唱えました。
荻生徂徠:『政談』。朱子学を批判して現実的な実力主義を唱えました。
石田梅岩:『都鄙問答』。儒教を独自に解釈し、商人を中心とした石門心学を打ち立てました。

小テスト

▼日本の昔の学校地図へのリンク

近代教育制度のはじまり

・1868年、江戸幕府が倒れて明治時代に入り、近代教育が開始されます。

明治時代の基礎知識

*四民平等:身分制度をなくしました。→江戸時代のように身分によって通う学校が異なるということがなくなります。
*廃藩置県:中央集権的な世の中になりました。→江戸時代のように藩によって教育が異なるということがなくなります。
*文明開化:日本の旧来の物や考え方を否定し、西洋の物や考え方を取り入れました。→教育の理念や方法をヨーロッパから学びます。

学制

・明治5(1872)年、「学制」が発布されました。フランスの教育制度を参考にしたり、福沢諭吉(学問のすすめ)に影響を受けたりしていると考えられています。
(1)国民皆学:身分に関わらず同じ内容の教育を受けられます。
(2)立身出世主義:教育は個人の利益のために行なわれます。
(3)実学主義:実際に役に立つ学問を行ないます。
(4)受益者負担:授業料は各家庭の負担となります。
(5)中央集権:文部省の方針が日本全国で貫徹されます。

復習

・江戸時代の教育機関と学者の名前、その特徴について深めておこう。
・「学制」の特徴の理解を深めておこう。

予習

・ヨーロッパの歴史をおさらいしておこう。