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教育概論Ⅱ(栄養)-3

▼10/2

前回のおさらい

・前近代にはナショナリズムがありませんでした。
・country、state、nationそれぞれニュアンスが違います。国民国家とは、stateとnationの境界線が一致することを理想とする国家です。
・フランス革命の展開に伴って、ナショナリズムが発生しました(発明されました)。

国旗・国歌・国語・歴史・地理

・nationとstateを一致させるため、「教育」に期待がかかります。
・国旗:「旗」に期待される統一への働き。
・国歌:「歌」に期待される統一への働き。
・国語:「ことば」に期待される統一への働き。
・歴史:「物語」に期待される統一への働き。
・地理:「風景」「風土」に期待される統一への働き。

各国の国歌

・それぞれ国民統合の象徴として働く一方で、同時に何かしらの問題を抱えているのはどういうことでしょうか?

フランスの国歌

・「ラ・マルセイエーズ」
・国民統合=国民全員で祖国を守ったときの記憶。
・歌詞に対する疑問。

イングランドの国歌

・「God Save the Queen」
・国民統合=英国王室の賛歌。
・6番の歌詞に対する疑問。イングランドとスコットランドの関係。

ドイツの国歌

・「ドイツ国民の歌」
・国民統合=国家統合の象徴。
・1番と2番が封印。

スペインの国歌

・「国王行進曲」
・歌詞のない国歌。スペインとカタルーニャの関係。

国語による国民統合

・フランスの言語状況。フランス革命当時、フランス人が話していたのは何語でしょうか?
・「国語」と「方言」は、どこがどう違っているのでしょうか・←「方言札」による方言撲滅運動。
・東ティモール:2002年にインドネシアから独立しました。

東ティモールが実際に国語に選んだのは何語でしょうか?(ヒント:インドネシアから独立)
(1)インドネシア語:90%
(2)テトゥン語:40%
(3)英語:10%
(4)ポルトガル語:5%

・言葉は単なるコミュニケーション・ツールではなく、国家のアイデンティティとなるものです。
・しかし、言葉はコミュニケーション・ツールでもあります。科学や社会に必要なボキャブラリーも大切です。

日本語廃止論

・森有礼(もりありのり)が明治初期に日本語廃止を主張しました。
・どうして後に初代文部大臣にまでなる森が日本語廃止を主張したのでしょうか?
・明治初頭では、方言(身分と地域)が多様すぎて、お互いに言葉が通じませんでした。また、科学や社会に関する語彙が貧弱でした。

方言矯正と標準語

・第一期国定国語教科書:1904年、いわゆる「イエスシ読本」。
・東北方言と関東方言の矯正。
・方言札。
・「標準語」の開発。「お父さん」「お母さん」。
・新しい日本語を作っていくのは、文学者の役割かもしれません。

復習

・国歌や国語が国民統合に果たす役割について押さえておこう。

予習

・「教育勅語」について調べておこう。

教育概論Ⅱ(栄養)-2

▼9/25

前回のおさらい

・ナショナリズムとは、国家の構成員が「私は○○人である」という自覚を持っている状態です。

ナショナリズム(つづき)

前近代:封建国家の自己認識(日本)

・たとえば江戸時代、日本人の多くは「私は日本人である」という自覚を持っていなかったし、持つ必要もありませんでした。
←身分制社会では、自己認識は身分に依拠していました。たとえば「私は侍である」とか「私は農民である」など。そうでなければ、身分制を基礎とした社会秩序が保てません。「侍と農民で身分が違おうが、同じ日本人だ」とはならないし、なってはいけないわけです。
←あるいは幕藩体制においては、自己認識は主従関係に依拠し、日本という単位は視野に入ってきませんでした。たとえば「私は赤穂藩士である」とか「私の殿様は吉良だ」などとなります。主従関係が強固に結ばれることによって、社会秩序が保たれました。「主人が異なっていようが、同じ日本人だ」とはならないし、なってはいけないわけです。
・このように、前近代=封建国家においては、身分地域によって自己認識が分裂していました。
・逆に言えば、身分制が廃止され、地域間格差がなくならないと、「同じ○○人である」と思える条件ができません。
・国家の構成員が「私は日本人である」という自覚を強烈に持つ条件が整うのは、身分制が廃止(四民平等)され、中央集権国家(廃藩置県)ができる近代以降のことになります。
・明治維新によって日本に誕生したのが、国民国家(nation-state)です。

前近代の自己認識(ヨーロッパ)

・中世は、国家というよりも、家が拡大したものとしての国「家」でした。
←百年戦争(1337年~1453年)の推移を参考のこと。現代の国家間同士での戦争とはかなり様相が異なっています。
・具体的には、ブルボン家やハプスブルグ家など領邦君主による封建制。「家政学(Oikonomicos)」とは、もともとこのような「国-家」を運営するための学でした。もともと「家政」を行っていたのは「家長=男性」です。
・絶対王政(貴族の没落によって王権に主権が一極集中する)を経て封建制が崩れ、市民革命(国民に主権が集中する)に伴って国民国家が完成します。典型例は、フランス革命(1789年)です。

国民国家と教育

*「国家」を英語に翻訳すると?
(1)country:国土。田舎。ふるさと。
(2)state:一定の領土を有し政治的に組織され主権を有するもの。法律的・理念的な意味での統一体としての国家。
(3)nation:共通の文化言語などを有する国民が作る国家。

国民国家

・stateとnationは同じものでしょうか? 韓国、スイス、中国等の例を考えてみましょう。
→韓国:state=2、nation=1
→スイス:state=22、nation=4
→中国:state=1、nation=56
・日本はどうでしょうか?
国民国家:nation(国家の文化的側面)とstate(国家の政治的側面)が一致している状態です。
民族自決:一つのnation(民族)はそれぞれ一つのstate(政治的に組織された主権)を持つべきという考えです。
・nationとstateを一致させるには、どうしたらよいでしょうか? たとえば1つのstateの中に3つのnationがあったら→
(1)3つのnationそれぞれに対応する新しいstateを作る=分離独立
(2)3つのnationを1つのnationに統合してstateに合わせる=国民統合
・どうやって?←教育で。

フランス革命と国民国家形成

・フランス革命の具体的展開。反革命からヨーロッパ全体を巻き込んだ戦乱へ。
・対仏大同盟v.s.ナポレオン。フランス大勝利。どうしてフランスは強かったのでしょうか?
・騎士+傭兵v.s.国民軍。国家総動員体制。
・名誉と金v.s.愛国心。「散兵戦術」のような戦い方。
・身分制v.s.自由と平等。ベートーベン交響曲第3番「英雄」。
・中世国家よりも国民国家のほうが強いことが誰の目にも明らかとなります。国民国家の強さの源はなんでしょう?
・ナショナリズムは、愛国心の根拠であると同時に、自由と平等の根拠ともなります。
・フランスのナショナリズムはヨーロッパ全土へ輸出され、各地域でナショナリズムが勃興します。
・その後、教育によってナショナリズムが創出、維持されます。

復習

・封建国家と国民国家の違いを押さえておこう。それを踏まえて、具体的に江戸時代と明治時代の違いを説明できるようにしよう。
・nationとstateの違いについて押さえておこう。

予習

・国歌の働きについて考えてみよう。

教育概論Ⅱ(栄養)-1

▼9/18

授業の目的と評価

・この授業の最終的な目的は、「教育課程」とは何か?を理解することです。
・前半は「ナショナリズム」について考え、国家が教育に果たす役割について理解します。
・評価は、期末テストによって行います。出席が足りていない者には受験を認めません。

教科書

中学校学習指導要領(平成29年告示)』および『中学校学習指導要領解説 総則編』を手に入れておいてください。
文部科学省のWEBサイトから無料で手に入れることもできますし、本として購入することもできます。

教育概論Ⅰのおさらいと反省

・教育概論Ⅰでは、近代教育が形成される歴史と理論について学びました。具体的には、(1)リテラシーの教育、(2)人格形成の教育、(3)義務教育、(4)産業が必要とする教育について学びました。
・しかし現在、教育には様々な矛盾が噴出しています。その背景にあるのは、「近代」から「現代」への変化に伴って、教育に期待される働きや機能が変化したからだと思われます。ひょっとしたら、近代教育は賞味期限切れなのかもしれません。
・近代と現代の境界線については様々な議論がありますが、ある特定の年代を想定するわけではありません。近代という時代の特徴(市民社会・資本主義・民主主義等)を踏まえた上で、その有効性が崩れてきている新たな時代を「現代」と捉えることにします。

(1)メディアと教育

・いま、リテラシーの在りようが根本的に変化しています。その結果、教育も大きく変わらなければいけません。
・ポストマン『子どもはもういない』1985年。子供のような大人、大人のような子供。秘密のないメディア。大人と子供の境界性の崩壊。
・インターネットの急速な展開。コミュニケーション様式の根底からの変貌。「1×1」→「1×n」→「n×n」。タテマエとホンネの境界線の崩壊。
・そもそも教育にとって学校という形は絶対に必要なものなのでしょうか?

(2)自己実現のワナ

・いま、近代的な「人格の完成」の有り様が根本的に変化しています。
・「自由」は本当にすべての人々を幸せにするのでしょうか?
・すべてを自分で決めなければいけないことのつらさ。「夢を持つ」ことの難しさ。「やりたいこと」や「なりたい自分」が見つからないとき。
・たとえば「自由に作文を書け」と言われた時の子供たちの困惑。「内面」の強制的な捏造。むりやりに「やりたいこと」や「なりたい自分」を捏造しなければならない圧力。
・一方で、肥大化する自己愛と自己顕示欲。リア充アピール。もう一方で、承認の欠如。自分探しの旅と自己啓発セミナー。ひきこもり。
・個人主義の限界。そもそも「何が幸せ」なのか、わかっているのでしょうか?
・かといって「絆」とか「愛は地球を救う」などという言葉に信頼を置けるでしょうか?

(3)権利としての教育?

・義務教育の有り様が根本的に変化しています。
・貧困の再生産。権利を保障されない子供たち。
・単なる再配分機関としての学校。偏差値至上主義。権利を権利と思えない子供たち。学校に期待を寄せるどころか、学校によって希望を奪われる。
・もう一方で、学校化する社会。マンガ家養成校、アイドル養成校等。あらゆる専門知識が学校知に分解・再編成され、パッケージ化され、商品化・市場化される。学校に行けば(金を払えば)必要な知識が手に入る。
・教育は市場化されたサービス(消費財)の一種に過ぎないのでしょうか?→「教育と市場」に関わる問題は、本講義後半で検討します。

(4)労働と教育

・産業構造が根本的に変化しています。
・分業体制によって、「働く」ということの意味が拡散。生活することと働くことの乖離=疎外。生活することが「消費すること=お金を使うこと」と同じ意味になってしまうと、働くことは生きることではなく単に「お金を稼ぐこと」になってしまう。
・生活の全体性(生きる意味)を取り戻すことはできるのでしょうか?
・AI(人工知能)への恐怖と期待。仕事を奪われるのか、それとも人間が働くことの意味を取り戻すのか?
・人間だからこそやれることとは、何でしょうか?

(5)国家と教育

・国家が教育に果たす役割が大きく変化しています。
・内的事項と外的事項の区別は実際に成立しているでしょうか?
・個人の人格形成と国家が求める人材養成との関係はどうなっていますか?
・国家の教育への関与の実際→学習指導要領、教科書検定。

ナショナリズム

ナショナリズム:国家の構成員が「私は○○人である」という自覚を持っている状態。
・どうして私たちは、日本が勝つと(たとえばスポーツやノーベル賞など)嬉しくなるのでしょうか。会ったこともなければ話したこともない赤の他人が受賞したとしても、なぜ誇りに思えるのでしょうか。→「同じ日本人だから」。
・しかし、同じ血液型や同じ身長や同じ足のサイズの人が受賞したとしても、特に嬉しいとは思いません。「同じ日本人」と「同じ血液型」との違いは何でしょうか?

復習

・近代になって成立した「教育」の形を総合的に捉えよう。
・近代教育が崩れかけて様々な問題が生じていることを認識し、これからの教育の姿を構想してみよう。

予習

・「国家」とは何か、「国家が教育に果たすべき役割」とは何かについて、考えておこう。