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教育概論Ⅰ(中高)-4

▼栄養・環教 5/12
▼語学・心カ・教服・服美・表現 5/13

前回のおさらい

・かつて「教育」は行われていなかった。「教育」とは異なる形による発達や成長への働きかけを「形成」と呼ぶ。
・「成人式」の形は、いまと昔はまったく異なっていた。「死」と「再生」を象徴する儀式を突破して共同体の正式メンバーに加入することを「イニシエーション」と呼ぶ。
・人々は、学校や教育がなくとも、知恵と経験を後の世代に継承し、生活を続けていた。

日本での近代教育の始まり

・西暦1750年あたり、江戸時代中期頃から子供に対する意識は変わり始めていた。
←生産力の向上、遺産相続への関心、家意識の形成
←商品経済の展開、識字能力の有効性の拡大、寺子屋の増加

寺子屋

・庶民のための教育機関。
・庶民の生活に密着して、そろばんや習字を教えた。
・一般民衆が自分たちのために必要とした教育機関。幕府や藩など支配者層が上から押しつけたのではなく、下からの自発的な要求によって自然発生的に増加していった。

・学問水準も向上していた。儒学、蘭学、国学の展開。←長期間にわたる平和と繁栄。
・日本は独自に近代化への準備を始めていた。が、決定的な転換点はヨーロッパとの接触に刺激を受けた明治維新(1868年)。
文明開化=日本を文明化から遅れた後進国であると自覚し、多くの日本の伝統的な習慣や仕来りを野蛮な習俗として否定し、西洋由来のモノや制度や考え方を崇拝した。
・明治維新≒西欧列強に由来する国民国家システムと市民社会の学習と模倣。教育制度に関しては、明治5年(西暦1872年)の学制

世界史のなかの明治維新

・かつて、ヨーロッパは貧乏な辺境地域に過ぎなかった。世界の中心は中華帝国とイスラム帝国にあった。
・西暦1500年あたりから逆転が始まる。
・ペリー来航時(1853年)の世界情勢。ヨーロッパの手が及んでいない地域がどれくらい残されているか考えてみよう。

>1828年:オーストラリア全土植民地化
>1840年:アヘン戦争(中華帝国)
>1853年:クリミア戦争(イスラム帝国)
>1857年:インド大反乱(インド亜大陸)
>1882年:エジプト保護国化(アフリカ大陸)
>1890年:フロンティアの消滅(アメリカ大陸)
>19世紀末:東南アジア、タイ以外植民地化

福沢諭吉の見た西欧列強の強さの秘密。『学問ノススメ』『文明論之概略』。表面上の物質的繁栄が重要なのか?

→資本主義
→民主主義
→国民国家

ヨーロッパはどうして強くなったのか?

・ヨーロッパが急激に強くなり始めた西暦1500前後に、ヨーロッパで起こっていたこと。
(1)大航海時代
(2)宗教改革
(3)ルネサンス
・これらを共通に可能にする技術としての印刷術。

印刷術とリテラシー

リテラシー:文字を読んだり書いたりすることができる能力。文字を使って情報を得たり発信したりすることができる能力。
*印刷術:1450年前後にグーテンベルクが発明。

コロンブスの大西洋横断(1492年)

・どうして我々は自分の目で確かめたことがないにもかかわらず、「地球が丸い」ということを知っているのか? →本に書いてあるから。
・実際は、コロンブス以外の知識人も地球が丸いことを知っていた。他の知識人は地球の正確な大きさも把握していたから大西洋横断は不可能だと思っていたが、コロンブスは無知で無謀だったために冒険に乗り出した。
・印刷術による科学知識の普及。地理情報の伝播。正確な地図や海図。船乗りに必要な科学的知識。
・かつて手写しで作られていた本は、高価で稀少なものだった。これによって知識が伝播するには、コストがかかりすぎた。印刷術は知識の伝播範囲を格段に拡大し、速度を飛躍的に高める。
・冒険に出るためには、本を読んで知識を得ることが必須。知識は力。情報を得る決定的な手段としてのリテラシー。
・個人的な欲望や野心を達成するための技術。

復習

・日本の教育が近代化する前提を押さえておこう。
・1492年以降、ヨーロッパが世界の中心に躍り出る世界史的な過程を押さえておこう。
・「リテラシー」という言葉の意味と、それが教育に対して持つ意義を押さえよう。

予習

・宗教改革について調べておこう。
・「ルネサンス」という言葉の意味について調べておこう。
・民主主義とは何か、自分なりに調べておこう。

教育概論Ⅰ(中高)-3

▼栄養・環教 4/28
▼語学・心カ・教服・服美・表現 4/29

前回のおさらいと補足

・立場によって「学校」に期待する機能が異なる。自営業/資本家/労働者
・「子供/大人」の境界線が、今と昔では異なっていた。

生理的早産

・人間以外の高等哺乳類は、誕生してからすぐに親と同じような行動をとることができる。しかし人間の赤ん坊は「能なし」で生まれてくる。高等哺乳類の例に習うなら、人間はあともう一年は母親の胎内にいる必要がある。
・この一年早く生まれてくることを「生理的早産」と呼ぶ。この現象こそが、人間を人間たらしめているという仮説。
・生物学的・自然科学的な過程によって必然的に成長が決められるのではなく、歴史的・文化的な過程によって選択的に成長が決まる。ここに人間らしい「個性」が生まれる。
【参考文献】ポルトマン『人間はどこまで動物か』

人間はどこから人間か?

・「7歳」という境界線。埋葬、捨て子、マビキ。
・妊娠中絶は殺人か? →昔と今とでは、「なかったことにする」という意味で、やっていること自体は変わらない。単に「どこから人間か」という境界線が移動している。

「形成」と「教育」の違い

・「教育」はなかった。
・「学校」がなかったころも人々は人間形成を行っていた。「教育」と異なる形態の人間形成のことを専門用語で「形成」と呼ぶ。

形成と教育の違い
カテゴリー形成(前近代)教育(近代)
【何を習得するか】カンとコツ知識と教養
【どこに修めるか】身体
【どうやって伝えるか】行動文字
【規範意識】恥じ・しつけ公共性・道徳
【根拠】経験と仕来り科学と合理性
【指導する人】村落共同体資格を持った教師
【見える光景】背中
【労働との関係】労働と一体労働と分離
【祭祀との関係】祭祀と連続祭祀と分離
【遊びとの関係】遊びと連続遊びを排除
【カリキュラム】実践的・偶然的意図的・計画的
【行政】自治中央集権
【大人の条件】一人前人格の完成
【人間像】身分・地域の特殊性普遍的人間

・徒弟制。ギルド。親方-弟子の関係。疑似親子関係。
・昔の子どもは活き活きしていた? →子どもが変わったわけではない。子どもを取り巻く環境のほうが変化したと考えれば、理解できる。
・昔のお父さんは尊敬されていた? →お父さんが変わったわけでも、子どもが変わったわけでもない。労働と教育のあり方が変わったことを考慮すれば、理解できる。
・どうして「形成」ではなく「教育」が必要となったのか? →お父さんと一緒の職業に就くなら「形成」で問題ないが、別の職業に就く場合には「形成」はむしろ意味がなくなる。

イニシエーション

・日本語では「成人式」や「通過儀礼」とも呼ばれる。
・大人の仲間入りをするために、全ての若者が突破しなければならない試練。日本だけではなく、世界全体に共通して見られる。
・「死」と「再生」。

若者組……学校のない世界での人間形成

・家族との分離(親離れ、子離れ)と、年齢別集団への加入。女性の場合は「娘宿」など。
・「家族」でも「学校」でもない場所における人間形成のかたち。
・集団労働力の提供、祭礼や村芝居の執行、消防・警察、性や結婚の管理。
・「死」と「生=性」。

復習

・前近代の人間形成の特徴を、学校の教育と比較してまとめておこう。
・「学校」で行われる教育の特徴をまとめておこう。
・「イニシエーション」について、具体的な例を調べよう。
・現代の「成人式」との違いを考えてみよう。

予習

・西ヨーロッパの歴史について、高校までに習った世界史の知識をおさらいしておくこと。

教育概論Ⅰ(中高)-2

▼栄養・環教 4/21
▼語学・心カ・教服・服美・表現 4/22

「学校」の存在意義

・いま我々は「学校」というものの存在を当り前に思っているが、日本史や人類史の全体を視野に入れると、「学校」というものが例外的な存在であることがわかる。我々の祖先の大多数は「学校」に通っていなかったし、それでも世の中は回っていた。
・「すべての子供たちが学校に通うのが当り前」という感覚を、いちど立ち止まって疑ってみよう。ここから「学校」や「教育」が持つ意味が浮かび上がってくる。
・はたして「教育」には意味があるだろうか? 子供たちはなぜ「勉強」しなければいけないのだろうか? 「学校」にはどんな存在意義があるのだろうか?

・まず「学校」が現実に果たしている機能を見えやすくするために、思考実験をしてみよう。

【思考実験】ジャイアン・スネ夫・のび太のうち、「学校」の成績が人生を左右するのは誰か?

▼答え:のび太

▼理由:(1)ジャイアンの家は「自営業」であり、ジャイアンは跡継ぎである。学校のテストの点が良かろうと悪かろうと、ジャイアンの将来の職業は変わらない。
(自営業は、誰かから給料がもらえるわけではないので、自分自身の活動によって商品価値のある物や情報やサービスを生み出さなければならない。しかしその活動をうまく行うための具体的で実践的なスキルを「学校」で教えてもらえることはあまり期待できない。)

(2)スネ夫の家は「資本家」であり、自分自身が労働する必要はない。スネ夫は出来杉くんのような才能ある人材に投資するだけで儲かるのであって、自分自身が高学歴である必要はあまりない。スネ夫にとって「学校」とは、自分が投資するに値する有能な人間を生産してくれる場所である。スネ夫が出来杉くんにはラジコンを貸すのに、のび太には貸さない理由を考えよ。

(3)のび太の家は「労働者」であって、自分自身が労働する必要がある。生涯賃金を上げようと思ったら、良い企業に雇用される必要がある。そのためには良い大学を出なければならないし、そのためには良い高校を出なければならない。学校のテストの点は、のび太の人生をダイレクトに左右する。
(ちなみに、自営業は自分の活動で生み出した物や情報やサービスを売ってお金を稼いでいるが、労働者が売っているものは何か?)

(4)オマケ:しずかちゃんの生き方には「専業主婦」という選択肢が色濃く反映されている。彼女はどうしていつもお風呂に入っているのか? 「ジェンダー論」等で学んだ知見を活用して考えること。

※この見解は特定の観点(功利主義)からの価値観に基づいており、後の講義で「人格の完成」という観点から相対化される。

「家族」の教育戦略によって「学校」の見え方が異なる

・「家族」の性格によって、「学校」への期待のかけかたの重点が異なる。
・「労働者」のキャリアは、少なくとも就職先は学校でのテストの結果が大きく左右する。
・しかし「実家の商店の跡継ぎ」になるジャイアンにとって、「学校」の勉強にはどういう意味があるだろうか?
・「家族」が必要としている教育内容は、はたして「学校」が提供している教育内容で満足させられるだろうか?

大人と子供の境界線

・「人格の完成」とは、日常的なことばで簡単に言い換えれば、「大人になる」ということである。
・「教育」とは、「子供」だった存在を「大人」へと成長させる手助けと言うこともできる。

【思考実験】「子供」と「大人」の違いとは?

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、生活を振り返って考えてみよう。
・「大人」の条件とは何か、考えてみよう。

・現在は、様々な基準で大人と子供の間に境界線が引かれている。
・たとえば、労働(働いているのが大人、働いていないのが子供)、経済的自立、年齢制限(酒や煙草を許されるのが大人、許されないのが子供)、選挙権、結婚、子供を持つなどという基準が考えられる。

・いっぽうの子供は……かわいい・守ってあげたい・将来の世の中のために大切・初々しい・無邪気・純粋・天真爛漫

・しかし実は、日本でもヨーロッパでも、「子供」をこのように考え始めたのはそう昔の話ではない。
・かつて、「大人」と「子供」の間には、現在のような明確な境界線は存在しなかった。

子供はいなかった?

・かつての世界では、「7歳」という年齢が大きな境界線となっていた。
・7歳以後、人々は労働に従事していた。つまり大人の世界の一員として世界に参入していた。子供の仕事としては、日本では芝刈りや馬引、水汲みなどに従事している姿が絵の中に残されている。
・同様に、遊びは子供だけの特権ではなく、大人も一緒に楽しむものだった。労働や遊びという点で、大人と子供に明確な区別はなかった。

・いっぽう、7歳以下は、社会全体の無関心に晒されていた。
・乳幼児死亡率の高さ。
・「生理的早産」→ポルトマン『人間はどこまで動物か』参照。
・埋葬、捨て子、マビキなどの具体的事例。

昔の「家族」の生活を考えてみよう

・「家族」は子育てしていたか?
・生産力の低さ。子供も労働しなければ、家族が生きていけない世界。父親も母親も、生きるための労働で精一杯であって、子育ての優先順位は下がっていく。
・社会(ムラ)と家族との関係。現在は家族が独立した島宇宙のようになって社会から隔絶しているが、かつては家族と社会(ムラ)の間の境界線は曖昧だった。家族が子育てをできなければ、社会全体でそれを担う。

参考文献

フィリップ・アリエス『<子供>の誕生』
主にフランスにおいて「子供期」がどのように生じてきたかを分析した社会史研究書。中世まで人々は子供に無関心だったが、17世紀から子供と大人の間の境界線が厚くなっていったという見解。

カニンガム『概説子ども観の社会史』
ヨーロッパと北米において、子どもの実際と観念がどのように変化したかを概観した社会史研究書。20世紀における急激な変化を強調するとともに、子供期の形成にとって「学校」の持つ決定的な重要性を指摘している。

柴田純『日本幼児史』
日本において7歳という境界線がどのように生じたかを分析した歴史学の本。古代・中世の人々は子供に対して無関心だったが、江戸中期以降に子供に対する心性が大きく転回したという見解。

復習

・「学校」の勉強にどのような意味があるのか、考えをまとめておこう。特に自分が免許を取る教科の存在意義については、しっかり意見を持とう。
・「子供」が「大人」になるとはどういう意味なのか、自分の生活を振り返って考えてみよう。
・「家族」の変化によって「子供」へのまなざしが変化する理屈をまとめておこう。

予習

・「イニシエーション」という言葉の意味を調べておこう。

教育概論Ⅰ(中高)-1

栄養・環教 4/14
語学・心カ・教服・服美・表現 4/15

半年間の予定

・本講義は教員免許(中学・高校)取得に関わる授業であり、特に「教育」の原理・哲学・思想・歴史に関わる領域を扱う。
・中でも「教育基本法」の精神を理解することに重点を置く。
・「教育基本法」を本質的に理解するために、教育の思想と歴史を学ぶことが必要となる。

今回の内容

教育基本法の概要を知る

・「教育基本法」には、日本の教育が目指す根本的な理念が示されている。
・日本の教育の目的は「人格の完成」である。
・「人格の完成」とはどういう状態か?
・そもそも「人格」とは何か?

教育の現在について考える

・文部科学省と内閣の教育への姿勢。
・グローバル化、情報化、少子高齢化。
・「教育振興基本計画(第2期)」の内容。

「教師」に必要な資質・能力を把握する

・「不易」と「流行」。
・不易=時代や地域によって変わらないもの。熱意や使命感、教育的愛情。
・流行=時代によって変わるもの。情報通信技術への対応、グローバル化への対応等。

復習

・「教育基本法」を熟読吟味しよう。
・「教育振興基本計画(第2期)」が示していることについて考えよう。
・「教師」に必要な資質・能力を確認しよう。

予習

・自分が「子供」なのか「大人」なのか、考えておくこと。
・どうしてそう考えたのか、判断の根拠や理由についてもまとめておくことが望ましい。