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【要約と感想】桃井治郎『海賊の世界史―古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』

【要約】古代ギリシアの時代から19世紀初頭まで、世界史を背後で動かしていたのは海賊です。古代ではローマ帝国の支配に反抗する海賊たちが地中海で活躍し、中世ではキリスト教とムスリムの海賊が地中海を席巻し、大航海時代には大西洋やカリブ海で国家の覇権をかけて海賊たちが活躍しました。しかし19世紀前半に地中海北アフリカ沿岸の海賊たちの根拠地が欧米主権国家に制圧されるに至って、海賊の活躍に終止符が打たれます。
海賊はローマ時代から国際秩序を乱す人類共通の敵と見なされる一方、秩序や管理や束縛から自由な英雄として祭り上げられ、憧れの対象となりました。

【感想】バイキングの事績や大航海時代の大西洋やカリブ海域の海賊については類書で読んである程度知っていたつもりだけれども、古代ギリシアやローマの海賊、そして近代以降の地中海域の海賊については新たな知見を得られた。バルバリア海賊に関する具体的な記述は、とても面白かった。
個人的に、自分のご先祖様が熊野の海賊だったと勝手に思い込んでいるので、「海賊」というものに対してそこそこ思い入れがあったりする。秩序や管理や束縛から逃れ、自由な個人としての生き方である「海賊的人生」に憧れるというのも、個人的にはよく分かる。
そして今、海賊的人生の在処(主権国家の具体的権力が及ばない私的空間)は「インターネット」の彼方にあったりするのかなとも思ったりする。そしてそこは、まさに主権国家が権力を及ぼそうとする最前線になりつつある。主権国家がバルバリア海賊たちに突きつけた最終通告と同じような通告が、インターネット界隈に対しても発せられつつあるのだった。

桃井治郎『海賊の世界史―古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』中公新書、2017年