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【要約と感想】牟田武生『オンラインチルドレン―ネット社会の若者たち』

【要約】インターネットは、テレビとは異次元の影響を子どもに与えます。テレビは受動的なので飽きることがありますが、インターネットの相互方向性コミュニケーションは依存性を加速させます。その結果、ネット依存をこじらせて、ひきこもる若者が増加しています。
しかし、ネット社会を否定することは不可能です。もう後戻りできません。子どもたちをネット依存にさせないためには、現実世界で充実感を味わわせることが一番です。

【感想】単にネット社会を否定するのではなく、まずは現実を受け容れた上で、これからどう対処していくかを具体的に考えていく姿勢には、好感を持つ。
まあ、処方箋である「リアルで充実することを促進する」のは、その通りではあるが、それが難しいから現状がこうなっているわけでもある。10年以上前の本ではあるが、現状はますます渾沌としつつあるように思える(パソコンに加えてスマホによるソシャゲが一般化したことによって)。
とはいえ、やはり具体的にできることは「リアルで充実することを促進する」こと以外にはない気もするのであった。

牟田武生『オンラインチルドレン―ネット社会の若者たち』オクムラ書店、2007年

【要約と感想】荻上チキ『ネットいじめ―ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』

【要約】ネットいじめを問題にする人たちは、現代社会の特徴を何も理解していません。ネット上のいじめは、単に現実の人間関係を反映しているに過ぎません。学校自体のいじめ体質を改善しないのに、ネット上のいじめだけなくなるわけがありません。
本質的な問題は、中間集団におけるコミュニケーションのあり方にあります。「キャラ戦争」です。コミュニケーションのあり方が変わったのは、これまで有効に機能していた「近代」が終わりつつあるからです。表層的な現象に目を奪われず、時代の本質的な変化を理解した上で、メディアとつきあう力をどうつけるか考えていきましょう。

【感想】11年前に書かれた本なわけだが、この間にネット上の環境と状況が劇的に変化していることに唖然とする。本書では掲示板やプロフの現状が分析されている。しかし周知の通り、スマホの普及によってケータイのプロフ文化は崩壊し、各種掲示板は衰退の一途を辿っている。いまやネット上のコミュニケーションはlineとtwitterとインスタに移り、コミュニケーションのあり方も大きく変貌した。それらの天下も長くは続かないだろう。時代の変化が、早すぎる。

ま、大きな目で見れば、「近代が終了するのに伴って人間関係やコミュニケーションのあり方が変わる」という命題自体は有効なようにも思われる。どんなに新しいツールが登場しても、近代の「1×n」コミュニケーションの有効性が低下して、「n×n」コミュニケーションへ移行するという本質そのものは変わらない。教育や学校は、この時代の変化を真剣に考えなければ、必ず滅びるのであった。

荻上チキ『ネットいじめ―ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』PHP新書、2008年

【要約と感想】『情報社会のいじめ問題―解決に向けた地域からのアプローチ』

【要約】いじめ研究は日本が最も進んでいるので、海外の研究を参照するのは愚かです。諸外国のbullyingは課題のある特定の子どもが行なう身体的な暴力を念頭に置いていますが、日本の「いじめ」は相手を精神的に追い詰めることが目的で、だれでも加害者や被害者になり得るところが決定的に異なります。
日本的ないじめは、情報社会(匿名性や常時性や島宇宙化)に親和的な特徴をもっており、加速度的に進化しています。教師や保護者は知識をアップデートして、プロバイダや関連諸機関と連携しながら対処を進めていきましょう。

【感想】スマホが普及する前の「iモード」が話の前提となっていて、2019年現在から見ると情報そのものはかなり古く、現状に対して直接的には参考にならない。モバイル黎明期の状況と対応を知るための古文書的な史料となっている感じはある。
とはいえ、ネットいじめに対する基本的な対処そのものは当時から変わっていない気もする。フィルタリング、啓蒙された親の積極的な関与、業者も含めた関係諸機関との連携、技術を逆手に取った人間関係の可視化だ。
私も技術革新に乗り遅れないよう、しっかり対応していきたい。

『情報社会のいじめ問題―解決に向けた地域からのアプローチ』ブックレット群馬大学、上毛新聞社、2011年