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【要約と感想】田村学『学習評価』

【要約】「知識の構造化」を踏まえて、学習指導要領の理念に基づき、カリキュラム・マネジメントの一環として、妥当性と信頼性の高い学習評価を実現し、丁寧に子どもを見とって、質の高い授業改善に繋げていきましょう。
 いつでも・どこでも・だれにでも簡単に評価規準が作れるよう、特に分かりにくい「思考力・判断力・表現力」と「学びに向かう力」について評価規準を作成する際のフォーマットを示しました。フォームに具体的な文言を流し込むだけで、簡単に評価規準が完成します。

【感想】文部科学省の意図を丁寧に解説した上で、著者独自の「知識の構造化」の議論を展開し、さらにご丁寧にもフォーマットを用意して、誰にでも簡単に学習評価の評価規準を作成することができるようになっている。まさに、手取り足取り、懇切丁寧、という印象だ。学習評価に関して途方に暮れている現場の先生方にとっては、一縷の光明が見えるような本になっているのではないだろうか。

 ちなみに田村学『深い学び』と姉妹編のような関係にある本で、そちらを先に読んでおくとさらに理解が進むだろうと思う。
 で、やはり教育の理念とか授業の展開などについてはヘルバルトやデューイからそんなに進歩していないように見える一方、学習評価の技法に関してはものすごく進んだように思ったのだった。

■田村学『学習評価』東洋館出版社、2021年

【紹介と感想】田村知子編著『実践・カリキュラムマネジメント』

【紹介】2011年に出版されたということで、現行学習指導要領(2017年改定)に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が登場する前の本です。一般の教育現場がカリキュラムマネジメントという言葉すら知らない時期に、先見的な理論を打ち立て、先進的な実践を行なった記録です。
具体的な実践記録としては、読解力の向上、外国語活動、道徳教育、キャリア教育、体力向上、総合的な学習の時間の構築、小中一貫の取り組み、特別支援教育、不登校対策などが並んでいます。そしてそれらの取り組み全てが「学校運営」の在り方そのものと密接に関わっていることが、本書(あるいはカリキュラムマネジメントそのもの)の特徴です。校務分掌や校内研修、あるいは情報集約の在り方をマネジメントすることによって、学校が扱う全ての領域で顕著な改善を進めることができます。全てに共通して重要なのは、校長の信念とリーダーシップ、全ての教員の協働性に基づいた「教科等の連関性」です。

【感想】実践報告者たちが、口を揃えて「効果が上がった」と手応えを実感しているところが、掛け値なしに、まず凄い。熟練教師のカンとコツに頼った従来の学校運営では、人員の入れ替えがあるとたちまちにして機能不全に陥る。が、マネジメントの知識と技術を用いて組織を作り上げると、知恵が引き継がれ、さらによいものへと改善されていく。逆に言えば、これまでよく「マネジメント」の概念なしに学校運営なんかやってたなあ、という感じでもある。(まあ、マネジメントの概念が欠落しているのは、学校だけでなく、日本の民間企業もなのだが。)

本書は学習指導要領に「カリキュラム・マネジメント」という言葉が登場する前に出版されているので、学習指導要領の記述そのものと厳密に合致するわけではない。表記の揺れなども含めて、詰め切れていないところもある。しかしそれが幸いしているのだろう。上意下達でやらされるのではなく主体的に取り組みを始め、新しい概念とツールを具体的な実践に活用し、確かな手応えを実感する報告は、若々しい感動に満ちている。草創期に特有の熱量を帯びた感動なのかもしれない。同じ熱量は、最近では「STEM教育学会」にも感じたものだ。
仮に理論的・実践的には多少古くなったとしても、元気を受け取って意欲を沸き立たせるには、実はとてもいい本なのかもしれない。

田村知子編著『実践・カリキュラムマネジメント』ぎょうせい、2011年

【紹介と感想】長田徹監修『カリキュラム・マネジメントに挑む』

【紹介】カリキュラム・マネジメントの具体的な実践例が紹介されています。他の類書にない本書の特徴は、一人一人の生徒の現状を的確につかんで全教員で情報を共有する「アセスメント」のツール開発とシステム化が前面に打ち出されている点です。この的確なアセスメントを出発点として、初めて「エビデンス」に基づいた改善が可能となるわけです。PDCAサイクルのうち「Check」と「Action」を可視化したことにより、学級経営を土台として全教員が一丸となって学力向上を実現する取り組みが実現しました。

【感想】カリキュラム・マネジメントのPDCAサイクルを実効化するためには「Check」と「Action」の質が決定的に重要であることは、私が指摘するまでもなくすぐに分かることではある。が、実際には「Plan」と「Do」ばかりに熱中して、「C」と「A」は後回しになっている例を散見する。まあ、「P」は机上の空論でも形になってしまうので、とりあえず口を出しやすいという事情はあるだろう。しかし現実の子供を目の前にした「C」は、机上の空論では如何ともしがたい。現実を適切に切り取って可視化する実効的なツールが必要となる。この「C」には文部科学省が行なう「全国学力・学習状況調査」を活用することが期待されていたわけだが、しかしこの調査に関して静岡とか大阪の愚かな政治家たちが間抜けな発言をしているのを見ると、PDCAの初歩すら分かっていないシロウトが教育に安易に口を差し挟むための口実にしかならないんだなと、暗澹たる気分になる。
本書で紹介された取り組みは、民間で開発された検査をそのまま用いているものの、「全国学力・学習状況調査」などに頼らずに、独自に目の前の子どもたちの状況をつかみ取ろうとする「アセスメント」への努力が印象に残る。検査をやりっぱなしで放置するのではなく、現われた結果を校内研修で検討の素材とし、全教員が議論に参加する過程で情報を共有しているところが肝要なのだと思う。的確に現状を把握することが、効果的な介入の前提となる。当たり前のことだが、この当たり前の「Check」→「Action」のサイクルを具体的に実現するためには、組織を組織として機能させるための不断のメンテナンスが必要となり、これが難しいのであった。これを可能にするのはやはり校長先生のリーダーシップと人間性なのだなと、本書を読んで改めて感じた。

まあ、しかし、大前提の大前提として、こうやって人間の能力のみならず性格をも数値化・可視化することで実効的な管理実績が挙がることに対しては、ある種の気味悪さも感じざるを得ない。パラメーターを操作してキャラクターを成長させる一種の「ゲーム」と似たような世界になっているような感じも受ける。が、これは大前提の大前提の問題なのであって、本書で紹介されたような頑張っている学校や先生たちの問題ではない。学校が学校として機能するためにPDCAサイクルが役に立つことは間違いない。「学校が学校として機能する」ことの本質的な意味を問いなおすのが私の仕事というだけのことだ。

長田徹監修『カリキュラム・マネジメントに挑む―教科を横断するキャリア教育、教科と往還する特別活動を柱にPDCAを!』図書文化、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―

【紹介と感想】髙木展郎監修・矢ノ浦勝之著『「カリキュラム・マネジメント」の進め方』

【紹介】実践例が豊富な小学校カリキュラム・マネジメント指南本です。5つのステップに沿って、ワークシートを埋めていけば、どの学校でもカリキュラム・マネジメントが進められるように工夫されています。
5つのステップは以下の通りです。
(1)グランドデザインづくり
(2)教科等を超えて育む資質・能力の整理
(3)各学年のグランドデザインと年間指導計画の作成
(4)教科ごとの単元計画の作成
(5)授業実体からグランドデザインを見直す
「学校づくり」と「授業づくり」が一体となって構想されており、カリキュラム・マネジメントの前提となる学校経営の方向性についても大きな示唆が得られます。

【感想】本書で繰り返し強調されるのは、「学校目標」の抜本的な見直しの必要性だ。カリキュラム・マネジメントを成功させるには、大前提として旧来型の学校目標をやめて、「育成したい資質・能力」を柱にした学校目標への転換が求められる。が、数十年(あるいは百年以上)も続いてきた学校目標を変更することは、とても勇気がいることだ。ここに手をつけられるかどうかで、学習指導要領の理念が貫徹するかしないかが決まる。先に読んだ『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』では、伝統的な学校目標との衝突を妥協的に回避する案を提出していたが、本書には妥協がない。現実に全国の学校目標がコンピンテンシーベースに変化するか(あるいはしないか)は、今後の日本の教育実践の行く末を見極める上で興味深いところだ。

もうひとつ印象に残ったのは、「資質・能力」を中心に学校づくりを進めることで、特に意識するまでもなく自ずと「教科等横断的」なカリキュラム編成へと落とし込まれていることだ。様々な教育雑誌を見ていると、各学校が苦労しながらテクニカルに教科等横断的なカリキュラムを作ろうとしている姿を見ることができるけれども、実はそんな苦労をするまでもなく、カリキュラム編成の基礎・基本を踏まえれば自然と教科等横断的な編成に組み上がり、「主体的・対話的で深い学び」へと向かって行くものだ。またそれは「単元」というまとまりを重視した授業づくりへと自然と結びつく。

総合的に見て、小学校の管理職の方々にとっては実践的にかなり役に立つ本であるように思った。とはいえ、やはり個人的には新学習指導要領の目指す方向と教育基本法との捻れに対してますます疑念が深まるのであった。まあそれは私個人の研究課題であって、本書の価値が下がるというものではない。

髙木展郎監修・矢ノ浦勝之著『学習指導要領2020「カリキュラム・マネジメント」の進め方: 全国先進小学校実践レポート』小学館教育技術MOOK、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―

【紹介と感想】澤井陽介編著・横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校著『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』

【紹介】新学習指導要領の理念を実際の教育活動に落とし込んだ小学校の実践が報告された本です。学校全体で理論的なVISIONを共有した上で、具体的に各教科それぞれの「本質」や「見方・考え方」を構成しているので、全体的な統一感があります。従来の各教科指導案の羅列では見えてこなかったような「教科等横断的な資質・能力の育成」や「プロセスを重視した指導」の具体的な姿が、この取り組みではとても見えやすくなっています。学校の「重点目標」の策定から、それを踏まえた具体的な「カリキュラム・デザイン」までを考える際に、実践的に練り込まれた例として参考になるのではないでしょうか。

【感想】「カリキュラム・デザイン」というPDCAサイクルの「P」および「プロセスを重視した指導=深い学び」という「D」の部分に集中した実践報告として、とても興味深く読んだ。(逆に言えば「C」と「A」は主要テーマとして扱われていないので、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」が全般的にカバーされているわけではないけれども。)
「校内研修」でボトムアップ式に積み上げてきただけあって、個性的で独創的な取り組みに発展してきているように見える。印象に残るのは、多様性や協働性を実践に落とし込む際の「ズレ」という言葉の使い方や、「賢いからだ」という独特の表現だ。文科省や教育委員会の文書から言葉を借りるのではなく、日々の経験を校内研修を通じて積み上げていく姿勢が感じられる。独創的な実践を作り上げていく際に、見習うべきところが多いように思った。
また、「学校目標」の実際的な作り方に関しては、一つの事例として興味深く読んだ。従来の小中学校の教育目標は、著者も言うように「知・徳・体」をキャッチフレーズ的にまとめたものが多かった。明治期に輸入したスペンサーの三育主義以来、140年間変わっていないわけだ。新学習指導要領では、この旧来型学校目標の見直しを強く求めてきている。文科省が想定している新しい学校目標とは、おそらく学校教育法に定められた「学力の三要素」をベースとしたものだ。しかし旧型目標と新型目標の整合性をどう取るかは、なかなか厄介な実践的な課題となる。その厄介な課題に対して本書が示した解決法は、なかなか実践的だと思った。

気になったのは、「社会に開かれた教育課程」という概念が論理的に矮小化されていたところだ。が、まあ、ボトムアップ式の取り組みという点から考えれば、別に文科省の言う概念を無批判に取り入れる必要はなく、目の前の子どもの姿から徐々に課題が立ち現われていくものであるだろうとは思う。

澤井陽介編著・横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校著『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』東洋館出版社、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―