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【紹介と感想】竹内薫『「プログラミングができる子」の育て方』

【紹介】世界は第四次産業革命に突入し、将来はコンピュータが使えない人から滅びていきますし、プログラミングができる人ほどお金儲けができますので、小学生に入る前からプログラミング教育を始めましょう。暗記型のドリル計算などやっても無意味だし、後から追い抜かれるだけなので、すぐにやめて、本物の数学的思考を身につけるような主体的学習を始めましょう。学校にはまるで期待できないので、指導はコンピュータのプロにまかせましょう。

【感想】少々危機感を煽りすぎているような感じがしなくもないが、まあ、守旧的な人たちに対してはこれくらい煽っておいてちょうどいいということなのかもしれない。
あと学校や教師に対して絶望している感じがありありと出ている(というか、この本の冒頭が「自分の娘を通わせたい学校がない!」という一文から始まる)のは、教職課程に携わる身としてはとても残念なことなので、個人的に発憤材料としたいところだ。

【学校や教師に絶望している文章を逆にエネルギーに変えよう】

「なぜ日本の英語教育が失敗してしまったかといえば、ネイティブ並みの英語が聞けない、話せないにもかかわらず、ただ単に教員免許を持っているだけの先生に教えられてしまったからです。これと同じようなことが、プログラミングでも起こってしまう可能性があるのです。」37頁
「誤解を恐れずにいえば、学校の先生ではなくプロから学ぶのがベストだということです。」58-59頁

文科省や教育委員会も手をこまねいて眺めているわけではなく、いろいろ手は打っているんですけどね…、まあ、ね…。まあ、人のことはともかく、私は私にできることを誠実に実行していくしかないのだった。

竹内薫『知識ゼロのパパ・ママでも大丈夫!「プログラミングができる子」の育て方』日本実業出版社、2018年

【紹介と感想】石戸奈々子『プログラミング教育ってなに? 親が知りたい45のギモン』

【紹介】主に保護者向けに書かれたプログラミング教育の案内書です。右も左も分からない超初心者にお薦めの本です。プログラミング教育がどうして必要なのか、何を学ぶのかなど、保護者が抱きがちな疑問に対して簡潔に答えています。よくある疑問や不安は、この一冊で解消しそうです。またプログラミング教育の初歩の初歩を知りたい現場の教師にとってもおそらく有益で、「社会に開かれた教育課程」とか「教科等横断的」など新学習指導要領のキーワードと絡めながら理解することができます。
逆に言えば、初心者を脱している人には特に必要がない本ではあります。まずは入口に立つための本であって、プログラミング教育の扉をくぐる段階の本ではありません。

【感想】分かりやすく書かれているけれども、全方位でかゆいところに手が届く、偏りなく行き届いた良心的な案内本であるように思う。本当に右も左も分からない保護者は安心できるのではないか。
特にプログラミング教育の意義には不安がなく、実際に子供に経験させてみたいと思っている場合は、本書は必要ないのでスキップして、同じ著者の『プログラミング教育がよくわかる本』を手に取るのをお薦め。

石戸奈々子『プログラミング教育ってなに? 親が知りたい45のギモン』Jam House、2018年

道徳教育指導論-6

第6回=11/2

前回のおさらい

・道徳科の評価の特徴=生徒を比べるのではなく、個人的な成長に注目します。進学資料には使用しません。

道徳教育の歴史(日本編)

教育勅語(1890-1945)

・1891年渙発、1948年失効確認(衆議院、参議院)。
・元田永孚(もとだながざね)と井上毅(いのうえこわし)が中心となって作成します。儒学主義と近代主義がミックスされた内容になっています。

教育勅語の構造

・3つのパートに分けると、理解しやすくなります。
・教育勅語には「いいことも書かれている」とか「普遍的なことも書かれている」と主張する人々は、第二パートにしか注目していません。しかし、もし単に「いいことも書かれている」だけで良いとしたら、聖書でもコーランでも論語でも良くなってしまいます。なぜ、聖書でもコーランでも論語でもなく「教育勅語」である必要があったのでしょうか。
・教育勅語の性格を理解する上で決定的に重要なのは、第一パートと第三パートです。第一パートの理解を抜きにして第二パートを語ることはできませんし、語る意味がありません。
・第一パートを理解するためには、日本神話(とくに天孫降臨)に対する知識が不可欠です。
・第二パートの徳目は、「儒教」の伝統的徳目に近代主義を混ぜたものです。そもそも、教育勅語は本当に日本の伝統に合致していたのでしょうか?

教育勅語の失効

・1948年、衆議院と参議院での決議。何が問題だったのでしょうか?
・問題は「主権在君」と「神話的国体観」にありそうです。

学習指導要領(1947年版と1958年版)

・1947年版学習指導要領には道徳科がありませんでしたが、1958年版学習指導要領には「特設道徳」が登場します。

逆コース

・中国(1949年)と朝鮮半島(1950年)の情勢が変化し、冷戦体制によって、GHQの方針が転回しました。
サンフランシスコ平和条約(1951年)。
池田ロバートソン会談(1953年)
・教育二法(1954年)。「教育公務員特例法の一部を改正する法律」と「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」。
・地方教育行政の組織及び運営に関する法律(1956年)。教育委員選出を公選制から首長による任命制に転換。

試験のためのチェックポイント

道徳教育の目的

□教育基本法が目指す教育の目的「人格の完成」に道徳教育がどのように関わっているか理解し、説明できる。
□学習指導要領が掲げる「生きる力」を実現するために道徳教育が果たすべき役割について理解し、説明できる。
□学習指導要領に示されている「豊かな心」と道徳教育の関係について理解し、説明できる。

道徳教育と道徳科の関係

□「道徳教育」と「道徳科」の違いと関係について、説明できる。
□学校教育全体の中で道徳科が果たすべき役割と意義について、説明できる。
□国語や理科等の「教科」が道徳教育にどのように関係するか、学習指導要領に即して理解し、具体的に説明することができる。
□道徳が教科化されたことで、何がどのように変わったか説明できる。

道徳科の内容と方法

□道徳科で何を教えるのか、領域が4つに区分されていることなど、学習指導要領に則って内容を理解している。
□「考え、議論する道徳」への転換の意義について理解し、授業のあり方を具体的にどう変えていかなければならないか、説明できる。
□「自己を見つめる」「物事を広い視野から多面的・多角的に考える」「人間としての生き方についての考えを深める」という道徳科の方法が、具体的にどういうことか説明できる。

道徳科の評価

□道徳科における評価の役割と意義を理解している。
□道徳科の評価について、他の教科等とは異なる特徴を理解している。

教育学Ⅱ-7

■新松戸キャンパス 11/2(金)
■龍ケ崎キャンパス 11/19(月)

学習指導要領の変化

学習指導要領(1958・60年版)・(1968・69・70年版)

・法的拘束力ありとなりました。
・特設道徳が登場しました。
・家庭科/技術が男女別学となりました。
・学習内容が大幅に増加し、受験競争が激化しました。→詰め込み

逆コース

・中国(1949年)と朝鮮半島(1950年)の情勢が変化し、冷戦体制によって、GHQの方針が転回しました。
サンフランシスコ平和条約(1951年)。
池田ロバートソン会談(1953年)
・教育二法(1954年)。「教育公務員特例法の一部を改正する法律」と「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」。
・地方教育行政の組織及び運営に関する法律(1956年)。教育委員選出を公選制から首長による任命制に転換。
スプートニク・ショック:1957年、ソ連が人工衛星スプートニクの打ち上げに成功します。
*教育の現代化:ブルーナー『教育の過程』。発見学習。「どの教科でも、知的性格をそのままに保って、発達のどの段階の子供にも効果的に教えることができる。」→1968年の学習指導要領改訂に多大な影響を与えます。

高度経済成長

・1955年~1973年にかけて日本は圧倒的な経済成長を遂げます。1964年=東京オリンピック、1970年=大阪万博。
・日常生活が急激に変化しました。三種の神器(白黒テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機)
・大卒初任給が急激に増えました。貧乏→豊か。
・産業構造が転換しました。農業→工業。3チャン農業。出稼ぎ。
・進学率が上昇しました(高校:50%→90%、大学:10%→30%)。半分しか高校進学できなかった時代から、ほとんど高校進学する時代へ変化します。
・親の権威の低下します(親が子供に教えてやれることは何もない)→教師の権威が増大します(高校進学・大学進学の実態について知っているのは教師だけ)。
・教育に関して親が頼れるのは学校と教師しかないという状況になり、学校と教育の黄金時代を迎えます(見かけ上)。
・実態は、「でもしか先生」でした。教師に「でも」なるか。教師に「しか」なれない。
・受験競争が激化し、詰め込み教育が横行します。
・親が子供にかける期待が増大します。マンガの事例。
・「ムラを育てる教育」から「ムラを捨てる教育」へと変わりました。

復習

・冷戦構造と高度経済成長によって教育が大きく変化する理屈を把握しておこう。

予習

・オイルショックと「臨時教育審議会」について調べておこう。

【紹介と感想】澤井陽介編著・横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校著『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』

【紹介】新学習指導要領の理念を実際の教育活動に落とし込んだ小学校の実践が報告された本です。学校全体で理論的なVISIONを共有した上で、具体的に各教科それぞれの「本質」や「見方・考え方」を構成しているので、全体的な統一感があります。従来の各教科指導案の羅列では見えてこなかったような「教科等横断的な資質・能力の育成」や「プロセスを重視した指導」の具体的な姿が、この取り組みではとても見えやすくなっています。学校の「重点目標」の策定から、それを踏まえた具体的な「カリキュラム・デザイン」までを考える際に、実践的に練り込まれた例として参考になるのではないでしょうか。

【感想】「カリキュラム・デザイン」というPDCAサイクルの「P」および「プロセスを重視した指導=深い学び」という「D」の部分に集中した実践報告として、とても興味深く読んだ。(逆に言えば「C」と「A」は主要テーマとして扱われていないので、いわゆる「カリキュラム・マネジメント」が全般的にカバーされているわけではないけれども。)
「校内研修」でボトムアップ式に積み上げてきただけあって、個性的で独創的な取り組みに発展してきているように見える。印象に残るのは、多様性や協働性を実践に落とし込む際の「ズレ」という言葉の使い方や、「賢いからだ」という独特の表現だ。文科省や教育委員会の文書から言葉を借りるのではなく、日々の経験を校内研修を通じて積み上げていく姿勢が感じられる。独創的な実践を作り上げていく際に、見習うべきところが多いように思った。
また、「学校目標」の実際的な作り方に関しては、一つの事例として興味深く読んだ。従来の小中学校の教育目標は、著者も言うように「知・徳・体」をキャッチフレーズ的にまとめたものが多かった。明治期に輸入したスペンサーの三育主義以来、140年間変わっていないわけだ。新学習指導要領では、この旧来型学校目標の見直しを強く求めてきている。文科省が想定している新しい学校目標とは、おそらく学校教育法に定められた「学力の三要素」をベースとしたものだ。しかし旧型目標と新型目標の整合性をどう取るかは、なかなか厄介な実践的な課題となる。その厄介な課題に対して本書が示した解決法は、なかなか実践的だと思った。

気になったのは、「社会に開かれた教育課程」という概念が論理的に矮小化されていたところだ。が、まあ、ボトムアップ式の取り組みという点から考えれば、別に文科省の言う概念を無批判に取り入れる必要はなく、目の前の子どもの姿から徐々に課題が立ち現われていくものであるだろうとは思う。

澤井陽介編著・横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校著『鎌倉発「深い学び」のカリキュラム・デザイン』東洋館出版社、2018年

■参考記事:「カリキュラム・マネジメントとは―3つの指針と学校運営の要点―