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【要約と感想】高田康成『キケロ―ヨーロッパの知的伝統―』

【要約】キケロを知ることは、ヨーロッパ文化の基底を知ることです。明治以来の日本の知的枠組では、ヨーロッパを国ごとに分割して理解しているため、歪みと偏りが酷く、統一的にヨーロッパを理解することができません。特にラテン文化に対する無理解が酷すぎるのですが、今こそギリシャ中心主義史観から脱却してキケロ等ローマ文化を評価し直し、西欧文化を土台から理解しましょう。
ちなみにプラトン(ギリシャ文化)とキケロ(ローマ文化)を比較したとき、顕著な違いは、(1)普遍主義と文化主義(2)個人中心思考と国家中心思考(3)理論志向と実際志向に見出せるでしょう。

【感想】キケロの生涯と人となりをさくっとインプットしようと思って手に取ったけれども、まったくそんな趣旨の本ではなかった。が、それ故におもしろく読んだ。

本書を読む前に岩波文庫で読めるキケロを3冊(『老年について』『友情について』『キケロー書簡集』)読んで、キケロの人となりについては極めて悪印象を持っていたわけだが、本書を読んでもその悪印象は弱まらなかった。というかむしろ、ペトラルカやモムゼンなど先哲たちも私と同じような感想を抱いていたことを確認できて、意を強くしたくらいだった。まあ、キケロの手紙をちゃんと読めば、誰でも同じ感想を抱くはずだと思ってしまうんだけれど。

とはいえ、心情的な悪印象は別にして、キケロが歴史的文化的に極めて重要な位置を占めることについては認識を改めた。古代末期から中世初期にかけて大きな影響力を持ったことや、ルネサンス期の広範囲にわたる影響については勉強になった。また、ヨーロッパでギリシア古典が実際に読まれるようになったのが250年ほど前のことに過ぎないことについては『グランドツアー』等で読んで知っていたつもりではあったけれども、イタリア・ラテンとの絡みで比較すると、また新たな角度から光が当たる。ヨーロッパの歴史と文化を理解するうえでイタリア・ラテンの評価が極めて不当になされているという筆者の歎きは、なるほど、よく分かった。(まあ、とはいえ、だとしたらビザンツはどうなるの?とか、イスラムの扱いはどうするの?とか、話は広がっていってしまうけれど。)

本書が出てから約20年、その間に岩波からキケロー選集が刊行され、代表作が文庫でも読めるようになり、塩野七生の流行もあったりして、ラテン文化への不当な扱いは改まったのか、どうか。

高田康成『キケロ―ヨーロッパの知的伝統―』岩波新書、1999年

【要約と感想】『キケロー書簡集』

【要約】ローマ時代の文人政治家キケローが遺した書簡のうち、重要と思われるものを抜粋しています。キケロー39歳から63歳で暗殺されるまでの書簡が収録されており、ローマでのキャリア絶頂期→政敵に追放される不遇期→再びローマに戻って復活→やりたくなかった辺境の仕事で活躍→カエサルの台頭によって失脚→カエサルに赦されて復帰→哲学的な著作に邁進→愛娘の死→カエサル暗殺後の内乱勃発に伴いアントーニウス弾劾→暗殺、といった具合の波瀾万丈の人生が伺えます。手紙にはポンペーイウスやカエサル、アントーニウスやオクターウィアーヌスといった大物が登場し、当時のローマ帝国が陥った逼迫した情勢の一端を窺い知ることができます。

【感想】キケローの人となりは、まあ率直に言って、手紙を読むかぎり、尊敬に値しない。自己賛美が激しすぎるのと、二枚舌が眼について、見てらんない。節操がない。まあ当時のローマ帝国内の生き馬の目を抜くような権力闘争の渦中にあってはもちろん情状酌量の余地は極めて広いのだけれども、それでも一方で立派な綺麗事を述べている人物が、もう一方で自分の言っていることをまるで実践していないわけだから、読者が白けてしまうのもまた当然だろう。小カトーのように信念に殉じることができずに権力闘争に明け暮れ保身に走るのだったら、綺麗事なんか並べず、マキアベッリみたいに開き直ってくれた方が、ナンボかマシだと思う。いやほんと、口は達者だがやることはチンケな、いちばん厭なタイプの人間に見えてしまう。残された手紙を読むかぎりでは。
ちなみにキケローの人格が褒められたものでないことについては、古代末期最大の神学者との呼び声が高いアウグスティヌスも指摘しているし、17世紀の人文主義者モンテーニュもエピクロスとセネカと比較しながら小物っぷりにあきれている。

「この人の心のほうはそれほどでもないが、その人の言語はほとんどすべての人が感嘆している。」アウグスティヌス『告白』第3巻第4章7
「キケロについては、彼が心のうちに、学問以外に大してすぐれたものをもっていなかったという一般の意見に、私は賛成する。(中略)正直なところ、惰弱と野心的な虚栄を多分にもっていた。」モンテーニュ『エセー』第2巻第10章。
「雄弁の父であるキケロに死の蔑視について語らせ、セネカにも同じことを語らせてみるがよい。前者の言葉は力なくだらけているし、自分でも決心のできないことを読者に決心させようとしていることがわかるだろうから。彼が読者に少しも勇気を与えないのは彼に勇気がないからである。」モンテーニュ『エセー』第2巻第31章

ほかにもモンテーニュ『エセー』はキケロに対する悪口で満たされている。本当に心から軽蔑しているようだ。まあ、その気持ちはよく分かる。
まあ、私の印象に残るキケローの人となりは脇に置いておいて、客観的に見たとき、極めて重要な歴史的証言が並び、かつ人生の教訓に満ちているのは間違いない。歴史的には、ローマの共和制が崩壊して帝政に遷り変わっていく過程が非常によく分かる内容になっている。この変化の過程でもキケローは相変わらず保守的な考えにしがみついて、カエサルのビジョンをまったく理解していないように見える。貧富の差が激しい格差社会において底辺の人々が抱く不満について、何も理解していないように見える。小さな規模の国家では上手く回っていた法律や道徳律が、グローバル社会では上手く機能しないということを何も分かっていないように見える。時代の転換点では、こういう保守的な人間が結局は社会を崩壊に導くということが見える。そしてその人間と社会の本質は、二千年の時を超えた現在でも変わっていないように見えてしまうことが、なかなかに恐ろしい。そういう意味では、キケローを読み返す価値は充分にあると思ってしまったのだった。

あと、心では嫌いな相手に対しても礼儀正しい文章を書きたいとき、本書はお手本として極めて役に立つ。実際に使える言い回しが満載だ。使おう。

『キケロー書簡集』高橋宏幸訳、岩波文庫、2006年

教育概論Ⅱ(中高)-12

▼語学・心カ・教福・服美・表現 12/22
▼栄養・環教 12/4

前回のおさらい

・主体的、対話的で深い学び。見方・考え方。
・学習評価の充実。

教育課程編成のルール:教科と時間数

・どの各教科をどれだけ教えるかは、法律に定められています。各学校が勝手に時間割を組めるわけではありません。

学校教育法施行規則

第72条 中学校の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語の各教科(以下本章及び第七章中「各教科」という。)、道徳、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。
第73条 中学校(併設型中学校、第74条の二第二項に規定する小学校連携型中学校、第75条第二項に規定する連携型中学校及び第79条の九第二項に規定する小学校併設型中学校を除く。)の各学年における各教科、道徳、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの授業時数並びに各学年におけるこれらの総授業時数は、別表第二に定める授業時数を標準とする。
第74条 中学校の教育課程については、この章に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する中学校学習指導要領によるものとする。

別表第二(第73条関係)
区分
第一学年
第二学年
第三学年
各教科の授業時数
国語
140
140
105
社会
105
105
140
数学
140
105
140
理科
105
140
140
音楽
45
35
35
美術
45
35
35
保健体育
105
105
105
技術・家庭
70
70
35
外国語
140
140
140
道徳の授業時数
35
35
35
総合的な学習の時間の授業時数
50
70
70
特別活動の授業時数
35
35
35
総授業時数
1015
1015
1015

備考
一 この表の授業時数の一単位時間は、五十分とする。
二 特別活動の授業時数は、中学校学習指導要領で定める学級活動(学校給食に係るものを除く。)に充てるものとする。

学校教育法

第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成18年法律第120号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

教育基本法

第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
第二条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

学習指導要領(前文)

社会に開かれた教育課程

教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実現していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる。(2頁)

・「これからの時代に求められる教育」とは何だろう?
・「よりよい学校教育」とは何だろう?
・「よりよい社会」とは何だろう?
・「資質・能力」とは何だろう?
・「社会との連携及び協働」はどう実現するのだろう?

大綱的な基準

学習指導要領とは、こうした理念の実現に向けて必要となる教育課程の基準を大綱的に定めるものである。学習指導要領が果たす役割の一つは、公の性質を有する学校における教育水準を全国的に確保することである。また、各学校がその特色を生かして創意工夫を重ね、長年にわたり積み重ねられてきた教育実践や学術研究の蓄積を生かしながら、生徒や地域の現状や課題を捉え、家庭や地域社会と協力して、学習指導要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図っていくことも重要である。(2頁)

・大綱的な基準であって、細かいところまですべて決められているわけではありません。→教育課程とは、各学校が、生徒や地域の実態を踏まえた上で、特色を生かして創意工夫を重ねて作るものです。
・ただし、すべてが自由であるわけでもありません。→全国的な教育水準の確保をしなければいけません。

生涯学習、学校間連携

幼児期の教育及び小学校教育の基礎の上に、高等学校以降の教育や生涯にわたる学習とのつながりを見通しながら、生徒の学習の在り方を展望していくために広く活用されるものとなることを期待して、ここに中学校学習指導要領を定める。(2頁)

・「生涯学習」の理念と現実。知識の賞味期限切れが早くなったとき、どうしなければいけないでしょうか?
・これからの教育に必要なことは、単に「何かを学ぶ」のではなく、「学び方を学ぶ」ことです。

教育課程の編成における共通的事項

(1)内容について
・書いてあることは全部扱う。
・書いていないことも、付け加えて扱ってよい。ただし目標をはみ出したり、生徒の負担過重になってはいけない。
・教える順序は決まっていない。
・複式学級の場合は、学年別の順序は臨機応変に対応。
・生徒や地域の実態に合わせて、選択教科を開設してよい。
・道徳教育の内容に関する事項。

(2)時間数について
・各教科の授業は年間35週以上。
・特別活動(生徒会活動・学校行事)は、適切に考える。
・時間割について
(ア)「1単位時間」は、各学校が適切に定める。
(イ)10分や15分の短い時間の活用ルール。
(ウ)給食や休憩については、各学校が適切に定める。
(エ)創意工夫を活かして弾力的に編成する。
・「総合的な学習の時間」と「特別活動」の内容がカブっている場合の特別ルール。

(3)配慮事項
各学校においては、次の事項に配慮しながら、学校の創意工夫を生かし、全体として、調和のとれた具体的な指導計画を作成するものとする。

復習

・教育基本法→学校教育法→学校教育法施行規則→学習指導要領の流れを確認しよう。

予習

・生徒指導について調べておこう。

課題

【栄養・環教】

締切り:2019年1/15(火)
形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容(環教)「STEM教育あるいはSTEAM教育について調べ、これからの理科教育に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考「日本STEM教育学会 第一回年次大会」「シンポジウム「イノベーションを創出する次世代人材育成のための創造性教育」)
・内容(栄養)「男女共同参画社会について調べ、これからの家庭科教育に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:内閣府「男女共同参画社会って何だろう?」)

【語学・心カ・教福・服美・造形】

締切り:2019年1/26(土)
形式:800字程度。手書きOK、コンピュータOK。用紙サイズなど、日本語で読めれば何でも可。
・内容(語学)「グローバル化に対応した英語教育改革に向けて、これからの英語教育に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:文部科学省「今後の英語教育の改善・充実方策について報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」)
・内容(心カ)「「特別な配慮を必要とする児童生徒」について調べ、これからの生徒指導に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:文部科学省「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」)
・内容(教福)「主権者教育について調べ、今後の社会科に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:文部科学省「主権者教育の推進プロジェクト」)
・内容(服美)「男女共同参画社会について調べ、これからの家庭科教育に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:内閣府「男女共同参画社会って何だろう?」)
・内容(造形)「創造性を育む教育が必要とされる今日、これからの美術科教育に何が期待され、どのように変化するか考えて下さい。」(参考:「シンポジウム「イノベーションを創出する次世代人材育成のための創造性教育」」)

教育の基礎理論-12

前回のおさらい

・資本主義の世界の教育。ドラえもん構造。
・隠れたカリキュラム。

新教育

・20世紀初頭から世界的に広まった教育運動のことです。様々な人が活躍しますが、ほぼ共通して、主知主義的な教育を批判し、子供の自発性や能動性、創造性を重視します。日本では大正期(1912年~1926年)に流行し、大正新教育運動と呼ばれます。

人間の範囲の拡大

・「白人+男性+キリスト教徒+中産階級」のみを人間とした市民社会から、様々な人々の努力により、徐々に人間(人格を持ち、自由と権利を行使できる者)の範囲が拡大していきます。たとえば、労働者、女性、異教徒(無神論者)、子供、障害者。→動物?
・具体的な権利の拡大過程として、男子普通選挙権(労働者への公民権拡大)。女性参政権、フェミニズム(女権拡大論)。植民地の独立。公民権運動。
児童の権利に関する宣言(1959年)。児童の権利条約(1989年)。児童を、保護の対象から、権利の主体へと捉え直します。
障害者権利条約(2006年)→障害者基本法改正、障害者差別解消法(2013年)へと繋がっていきます。

児童中心主義

児童中心主義:子供を「客体」として扱うのではなく、子供が「主体」となります。「教育する=教師や学校が主語」のではなく「学習する=子供が主語」へと転換します。

ジョン・デューイ John Dewey

・アメリカ出身。1859年~1952年。
・著書:『学校と社会』『民主主義と教育』
・キーワード:コペルニクス的転回。実験学校。問題解決学習。
・名言:「なすことによって学ぶ。」

エレン・ケイ Ellen Karolina Sofia Key

・スウェーデン出身。女性。1849年~1926年。
・著書:『児童の世紀』
・名言:「教育の最大の秘訣は、教育しないことにある。」←ルソーの消極教育の影響が指摘されています。

モンテッソーリ Maria Montessori

・イタリア出身。女性。1870年~1952年。
・著書:『幼児の秘密』『子どもの発見』
・キーワード:子供の家。感覚教育法。教具。自発性。整えられた環境。

特別支援教育

・平成19年の学校教育法改正により、すべての学校(幼稚園含む)で特別支援教育を推進することが明確となりました。
・「特別支援教育の推進について(通知)」2007年。
・「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」2012年。

特別支援教育の理念

共生社会:障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ、様々な人々が活き活きと活躍できる社会です。誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様なあり方を相互に認め合える全員参加型の社会です。
インクルーシブ教育:障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするためにも、障害のある子供が障害のない子供と共に教育を受けられる仕組みです。
教育的ニーズ:子供が必要としている支援です。
合理的配慮:障害のある子供が、他の子供と平等に教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子供にたいし、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるものです。体制面・財政面において、均衡を失した過度の負担は課しません。
ユニヴァーサル・デザイン:あらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方です。

発達障害

発達障害:これまでの特殊教育の対象とはなっていなかった、知的な遅れのない障害のことです。
→LD(学習障害):知的発達に遅れはありませんが、聞く・話す・読む・書く・計算するなどの能力のうち、特定の分野に極端に苦手な側面が見られます。
→ADHD(注意欠如・多動症):注意力や衝動性、多動性などが年齢や発達に不釣り合いで、社会的な活動や学業に支障をきたすことがあります。
→自閉症スペクトラム:他者の気持ちを察することや周りの状況に合わせたりする行動が苦手だったり、特定のものにこだわる傾向が見られます。

学校の仕事

校内委員会:校長のリーダーシップの下、全校的な支援体制を確立し、実態把握や支援方策の検討等を行うために設けなければならない組織です。
特別支援教育コーディネーター:各学校における特別支援教育の推進のために、情報収集、校内委員会・校内研修の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口となります。
個別の教育支援計画:特別支援学校では、ひとりひとりの教育的ニーズに応じた支援を効果的に実施するため、乳幼児期から学校卒業後までの一貫した長期的な計画を作成しなければなりません。作成にあたり、医療・福祉・労働などの関係機関と連携し、保護者の参画や意見を聞きます。
個別の指導計画:特別支援学校では、障害のある子供ひとりひとりの教育的ニーズに対応して工夫され、学校における指導内容・方法を盛り込んだ指導計画を作成しなければなりません。

復習

・新教育にかかわる人物を、著作やキーワードとともに押さえておこう。
・「特別支援教育」の理念と、学校や先生が携わる具体的な仕事について理解しよう。

【要約と感想】キケロー『友情について』

【要約】友情は、お金や権力や名誉などよりも遙かに素晴らしいものです。なぜならお金や権力や名誉等は別の何かの役に立つことで初めて意味を持つものですが、友情はそれだけで意味のあるものだからです。
しかし徳と愛に基づいた友情でなければ、結ぶ意味はありません。利益や打算に基づいた友情は、必ず破綻します。友達だからといって、なんでも相手の要求を聞けばいいというものではありません。くだらない人間とは友情を結ばないようにしましょう。

【感想】実践的に言えば、「ともだち100人できるかな?」なんて言っている人に読ませるべき本ではある。100人も必要ないことが、よくわかる。

学術的には、アリストテレスの友情論(友愛=フィリア)との比較が課題になるようだ。細かい点で相違があるのは確かだが、友情の本質が「非功利性」にあると見ている点では、相通じるものがある。

とはいえ、『キケロー書簡集』を読むと、本人の言っていることとやっていることがまったく連動しておらず、本書の内容が所詮は綺麗事の言葉に過ぎないことが伺える。残念なことだ。

キケロー『友情について』中務哲郎訳、岩波文庫、2004年