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【要約と感想】高野義郎『古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて―』

【要約】小アジア→バルカン半島→ペロポネソス半島→イタリア南部と主要なギリシアのポリスを巡りながら、碁盤目型都市構造や聖数としての10、あるいは時計回りの理由といった普遍的な文化史に思いを巡らせます。通奏低音的なモチーフとして、ギリシア神話では何かと悪者にされる女神ヘラーの復権を試みる一方で、哲学的にはソフィスト等の活動を無視して自然科学的精神の発達に着目して記述しています。

【感想】本書の基本構想は、ヘラーやアテナ、アルテミス等のギリシア神話の女神たちがもともとは土着の地母神であったという直感に基づいている。その直感を保証する文字史料はまったくないので、エビデンスは考古学的な知見に求めるしかない。筆者は、神殿の柱の数や部屋の構成比率にピュータゴラース学派の聖数10の起源を見出したり、女神たちの神殿がもともとは低湿地に位置していたことなどを根拠に、かつての地母神たちに思いを馳せる。客観的な根拠は確かに薄いのだろうけれども、その直感に何らかの可能性を認めることに対して吝かではない。ギリシア文化に魅せられて熱心に現地に通った人だけが感じとることができる何かが、客観的には素直に認めがたい仮説の説得力を増していたのではないかと思う。静かな語り口の奥底に熱い情熱を感じる一冊だった。

高野義郎『古代ギリシアの旅―創造の源をたずねて―』岩波新書、2002年

教育概論Ⅱ(栄養)-14

ナショナリズムと教育

(1)国民国家と教育の原理(1~3)

伝統的な身分制秩序を基にした封建国家を破壊して、バラバラだった地域を一つにまとめ、市民が中心となる新しい国家体制を作り上げようとするとき、「全ての国民が平等」であると考えるナショナリズムが大きな力を持ちました。全ての国民が平等になるためには、身分や地域によって様々な自己認識を持っては都合が悪いので、皆が等しく「私は○○人である」という自覚を持たなければなりません。
近代の国家は、nationとstateが一致するような国民国家を目指します。国民国家を形成するために、教育に大きな期待がかけられます。具体的には、国旗や国歌、国語というアイテムによって、均一な国民を作り出すための工夫が行われます。しかし様々な国の国歌に見られるように、ナショナリズムは一方では確かに国民を一つにまとめていく働きがありますが、もう一方では異質なものを排除して対立を煽るという働きも見られます。

□「国家」というものに対する考え方が、前近代(身分制)と近代(国民国家)では大きく異なっていることを、説明できる。
□「国民国家」が、前近代の国家とは違って、どのような特徴を持った国家なのか、説明できる。
□「国歌」の働きについて、国民を積極的に統合する側面と異質なものを排除する側面があることが説明できる。
□「国語」と「方言」の違いを踏まえて、「国語」が国民を統合して国家のアイデンティティを作り上げる働きをすることを説明できる。

(2)日本のナショナリズム(4~5)

日本においても、明治維新(1868年)の後、近代的な国民国家を作り上げることとなりました。しかし国民国家形成のためには日本人のアイデンティティの中核に座る理念が必要となります。その役割を果たしたのが、国民統合の象徴としての「天皇」です。天皇を中心とした国づくりを進めるために、教育においても天皇中心の教育が構想され、「教育勅語」が制定されることとなりました。それは一方で富国強兵にも寄与しましたが、最終的には悲惨な戦争を推進するものともなりました。

□他の国とは異なる日本独特のナショナリズムの在り方について説明できる。
□教育勅語が実際の教育に与えた影響や、日本の歴史の中で果たした役割について説明できる。
□教育勅語の限界がどこにあったか、説明することができる。

学習指導要領

(3)学習指導要領の変遷(6~8)

(1945年~1958年)戦争が終わり、新しい日本の国作りが始まりました。日本国憲法が目指す理想の国作りのために、教育に大きな期待がかけられ、教育基本法が制定されました。教育基本法を具体化するため、学校教育法や学習指導要領(試案)が作られました。学習指導要領(試案)の特徴は、形式的には法的拘束力がなく、内容的には道徳をなくして社会科を新設したところ等にありました。
(1958年~1977年)しかし冷戦体制に巻き込まれる中で、日本に対するアメリカの姿勢が変化し、戦後教育は大きく修正されます。また高度経済成長の進展により、人々の教育に対する期待も決定的に転換し、学習指導要領は詰め込み教育へと方針を変えました。1958年の改訂で学習指導要領には法的拘束力があるとされ、道徳が復活しました。
(1977年~2003年)しかし、オイルショックを契機とする世界的な不況の下、産業構造の転換に対応し、個性的な人材を作るために、詰め込み教育を否定し、「ゆとり教育」が開始されました。臨時教育審議会が、教育の自由化・民営化・規制緩和・構造改革の方針を示し、この方針は2018年現在まで教育改革の基本的な柱となっています。
(2003年~2017年)自由化・民営化・規制緩和・構造改革という大きな流れ自体に変化はないものの、PISAショックなど学力低下が起きているという認識の下、学習指導要領は「学力重視」を打ち出すこととなりました。

□教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法の意義を説明することができる。
□1947年度版の学習指導要領(試案)の特徴について説明することができる。
□1958年の学習指導要領が「詰め込み教育」に転換したことについて、その政治的・社会的背景を説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」への転換が、どのような社会的背景の下で行われたか、説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」は個性的な人材育成を目指すが、臨時教育審議会が示した自由化・民営化・規制緩和・構造改革がどうして個性的な人材育成につながるのか、その理屈を説明できる。
□ゆとり教育のデメリットについて、説明できる。
□PISAショックと、それに刺激された学習指導要領改訂について説明できる。

(4)最新版の学習指導要領(9~13)

最新版の学習指導要領(2017年3月公示)では、「生きる力」の育成という従来の「ゆとり教育」の方針を引き継ぎながら、さらに現代社会に対応した「資質・能力」を身につけさせるために、大規模な改訂が行われました。
大きなキーワードは3つあります。一つは「社会に開かれた教育課程」です。ただ受験にだけ役に立つ知識ではなく、社会に出て実際に活用できる本物の力を育成することが求められています。そのためには学校自体が変わらなければならず、「チーム学校」や「コミュニティ・スクール」という新しい学校の姿が示されました。
2つ目は「カリキュラム・マネジメント」です。変化の激しい社会で生き抜くためには、これまでの教科別の教育では対応できず、教科を横断する普遍的な能力(キー・コンピテンシー)を身につけなければなりません。そのために教科横断的なカリキュラム編成を行う必要があります。さらにPDCAサイクルを構築し、限りある資源(人・物・金・時間)を有効活用するなど、学校運営自体を効率化することによって、よりよい教育を実現していくことが学校に求められます。
3つ目は「主体的・対話的で深い学び」です。知識基盤社会で必要となる資質・能力を身につけるためには、新しい学びの形を工夫することが求められます。そのためには、単に知識を与えるのではなく、教科の本質を踏まえた「見方・考え方」を身につけさせる必要があります。
これらを実現するためにも、「評価」に対する理解や、「生徒指導」に対する理解が求められます。

□「育成を目指す資質・能力」について説明できる。
□「学力の三要素」について説明できる。
□「社会に開かれた教育課程」について説明できる。
□「カリキュラム・マネジメント」について説明できる。
□「主体的・対話的で深い学び」について説明できる。
□教育課程編成を行なう上でのルールについて理解している。
□「評価」の機能と、様々な評価の在り方について説明できる。
□「生徒指導」について、説明できる。

発展的に学習したい学生向け

教員採用試験にも関わるので、今期の授業だけに関わらず、学習を発展的に進めたい人は参照して下さい。一次試験のペーパーテストでは、学習指導要領本文や解説編から穴埋め問題や間違い探しが出題されると予想されます。二次試験の面接や論文では、それぞれの概念を理解しているかどうかが聞かれると予想されます。あるいは、教員になってから、何度も研修で聞かされるはずです。

学力とは何か
育成を目指す資質・能力
社会に開かれた教育課程
カリキュラム・マネジメント
主体的・対話的で深い学び
教科等横断的な視点

教育概論Ⅱ(栄養)-12

前回のおさらい

・主体的対話的で深い学び。
・学習評価の充実。

教育課程編成のルール:教科と時間数

・どの各教科をどれだけ教えるかは、法律に定められています。各学校が勝手に時間割を組めるわけではありません。

学校教育法施行規則

第72条 中学校の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語の各教科(以下本章及び第七章中「各教科」という。)、道徳、総合的な学習の時間並びに特別活動によつて編成するものとする。
第73条 中学校(併設型中学校、第74条の二第二項に規定する小学校連携型中学校、第75条第二項に規定する連携型中学校及び第79条の九第二項に規定する小学校併設型中学校を除く。)の各学年における各教科、道徳、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの授業時数並びに各学年におけるこれらの総授業時数は、別表第二に定める授業時数を標準とする。
第74条 中学校の教育課程については、この章に定めるもののほか、教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する中学校学習指導要領によるものとする。

別表第二(第73条関係)
区分
第一学年
第二学年
第三学年
各教科の授業時数
国語
140
140
105
社会
105
105
140
数学
140
105
140
理科
105
140
140
音楽
45
35
35
美術
45
35
35
保健体育
105
105
105
技術・家庭
70
70
35
外国語
140
140
140
道徳の授業時数
35
35
35
総合的な学習の時間の授業時数
50
70
70
特別活動の授業時数
35
35
35
総授業時数
1015
1015
1015

備考
一 この表の授業時数の一単位時間は、五十分とする。
二 特別活動の授業時数は、中学校学習指導要領で定める学級活動(学校給食に係るものを除く。)に充てるものとする。

学校教育法

第21条 義務教育として行われる普通教育は、教育基本法(平成18年法律第120号)第五条第二項に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
二 学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
四 家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業その他の事項について基礎的な理解と技能を養うこと。
五 読書に親しませ、生活に必要な国語を正しく理解し、使用する基礎的な能力を養うこと。
六 生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
七 生活にかかわる自然現象について、観察及び実験を通じて、科学的に理解し、処理する基礎的な能力を養うこと。
八 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに、運動を通じて体力を養い、心身の調和的発達を図ること。
九 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。
十 職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。

教育基本法

第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
第二条 教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。
一 幅広い知識と教養を身に付け、真理を求める態度を養い、豊かな情操と道徳心を培うとともに、健やかな身体を養うこと。
二 個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと。
三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
四 生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと。
五 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

学習指導要領

大綱的な基準

学習指導要領とは、こうした理念の実現に向けて必要となる教育課程の基準を大綱的に定めるものである。学習指導要領が果たす役割の一つは、公の性質を有する学校における教育水準を全国的に確保することである。また、各学校がその特色を生かして創意工夫を重ね、長年にわたり積み重ねられてきた教育実践や学術研究の蓄積を生かしながら、生徒や地域の現状や課題を捉え、家庭や地域社会と協力して、学習指導要領を踏まえた教育活動の更なる充実を図っていくことも重要である。(2頁)

・大綱的な基準であって、細かいところまですべて決められているわけではありません。→教育課程とは、各学校が、生徒や地域の実態を踏まえた上で、特色を生かして創意工夫を重ねて作るものです。
・ただし、すべてが自由であるわけでもありません。→全国的な教育水準の確保をしなければいけません。

教育課程の編成における共通的事項

(1)内容について
・書いてあることは全部扱う。
・書いていないことも、付け加えて扱ってよい。ただし目標をはみ出したり、生徒の負担過重になってはいけない。
・教える順序は決まっていない。
・複式学級の場合は、学年別の順序は臨機応変に対応。
・生徒や地域の実態に合わせて、選択教科を開設してよい。
・道徳教育の内容に関する事項。

(2)時間数について
・各教科の授業は年間35週以上。
・特別活動(生徒会活動・学校行事)は、適切に考える。
・時間割について
(ア)「1単位時間」は、各学校が適切に定める。
(イ)10分や15分の短い時間の活用ルール。
(ウ)給食や休憩については、各学校が適切に定める。
(エ)創意工夫を活かして弾力的に編成する。
・「総合的な学習の時間」と「特別活動」の内容がカブっている場合の特別ルール。

(3)配慮事項
各学校においては、次の事項に配慮しながら、学校の創意工夫を生かし、全体として、調和のとれた具体的な指導計画を作成するものとする。

生徒の発達の支援

・従来は『生徒指導提要』等に書かれてきた内容が、今時改定から学習指導要領本文に記載されるようになりました。

1 生徒の発達を支える指導の充実

教育課程の編成及び実施に当たっては、次の事項に配慮するものとする。
(1) 学習や生活の基盤として、教師と生徒との信頼関係及び生徒相互のよりよい人間関係を育てるため、日頃から学級経営の充実を図ること。また、主に集団の場面で必要な指導や援助を行うガイダンスと、個々の生徒の多様な実態を踏まえ、一人一人が抱える課題に個別に対応した指導を行うカウンセリングの双方により、生徒の発達を支援すること。(9頁)

*学級経営の充実。信頼関係と人間関係。
・ガイダンスの機能。
・カウンセリングの機能。

(2) 生徒が、自己の存在感を実感しながら、よりよい人間関係を形成し、有意義で充実した学校生活を送る中で、現在及び将来における自己実現を図っていくことができるよう、生徒理解を深め、学習指導と関連付けながら、生徒指導の充実を図ること。(9頁)

・自己実現。
・生徒理解。

(3) 生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。その中で、生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。(9頁)

*キャリア教育:特別活動を要としつつ、各教科等で行う。
・各教科で行う「キャリア教育」とは?
*進路指導。

(4) 生徒が、基礎的・基本的な知識及び技能の習得も含め、学習内容を確実に身に付けることができるよう、生徒や学校の実態に応じ、個別学習やグループ別学習、繰り返し学習、学習内容の習熟の程度に応じた学習、生徒の興味・関心等に応じた課題学習、補充的な学習や発展的な学習などの学習活動を取り入れることや、教師間の協力による指導体制を確保することなど、指導方法や指導体制の工夫改善により、個に応じた指導の充実を図ること。その際、第3の1の(3)に示す情報手段や教材・教具の活用を図ること。(9頁)

*個に応じた指導=(1)個別学習(2)グループ別学習(3)習熟度別学集(4)課題学習(5)補充学習(6)発展学習

2 特別な配慮を必要とする生徒への指導

(1)障害のある生徒などへの指導:特別支援学級や通級による指導などの具体的な在り方。自立活動。「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」の活用。
(2)海外から帰国した生徒などの学校生活への適応や、日本語の習得に困難のある生徒に対する日本語指導。指導についての計画を個別に作成する。
(3)不登校生徒への配慮:保護者や関係機関との連携、心理や福祉の専門家の助言や援助。文部科学大臣が認める特別の教育課程の編成。
(4)学齢を経過した者への配慮。(9-11頁)

部活動(学校運営上の留意事項)

・従来の学習指導要領では部活動についての規定が明確になっていませんでしたが、今時改定で教育課程と明確に関連付けた記述が登場しました。

1-ウ 教育課程外の学校教育活動と教育課程の関連が図られるように留意するものとする。特に、生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化、科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等、学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。その際、学校や地域の実態に応じ、地域の人々の協力、社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い、持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする。

復習

・教育基本法→学校教育法→学校教育法施行規則→学習指導要領の流れを確認しよう。
・『生徒指導提要』の内容と関連付けながら、学習指導要領の記述を熟読しておこう。

【要約と感想】河島英昭『ローマ散策』

【要約】ローマはどうして永遠の都となったのか。その理由をイタリア文学者の河島さんがブラブラ歩きながら、解き明かします。

【感想】豊富な知識と教養に裏打ちされた歴史・地理・文学の描写が有機的・立体的に織り合わさり、精緻でありながらダイナミックな文体が交響曲のように迫ってくる、なかなかの怪書だと思う。立体的に厚みを感じさせる文体になっているのは、複合的なモチーフが相互に重なりながら繰り返されつつ、全体的な統一感を織りなしていくからだろう。通奏低音を構成するのは、ローマ市街を構成する7つの丘、地下に張り巡らされた地下道と地上に現われる数々の噴水、14のオベリスクとそれらを繋ぐ街路だ。これら通奏低音が代わる代わる現われながら次第に統一されていく過程で主旋律を構成するのが、古代・ルネサンス・バロックを代表する建築・芸術と文学作品だ。そこに20世紀の著者の想いが幾重にも積み重なって、交響曲的な文体ができあがる。よく一つにまとまったなあと。ローマ2500年の歴史と著者の人生がソナタ形式(あるいは弁証法)のように止揚された著作だと見るのは、あまりにもドイツ的に図式的で、失礼な見方であろうか。

河島英昭『ローマ散策』岩波新書、2000年

教育概論Ⅱ(中高)-14

ナショナリズムと教育

(1)国民国家と教育の原理(1~3)

伝統的な身分制秩序を基にした封建国家を破壊して、バラバラだった地域を一つにまとめ、市民が中心となる新しい国家体制を作り上げようとするとき、「全ての国民が平等」であると考えるナショナリズムが大きな力を持ちました。全ての国民が平等になるためには、身分や地域によって様々な自己認識を持っては都合が悪いので、皆が等しく「私は○○人である」という自覚を持たなければなりません。
近代の国家は、nationとstateが一致するような国民国家を目指します。国民国家を形成するために、教育に大きな期待がかけられます。具体的には、国旗や国歌、国語というアイテムによって、均一な国民を作り出すための工夫が行われます。しかし様々な国の国歌に見られるように、ナショナリズムは一方では確かに国民を一つにまとめていく働きがありますが、もう一方では異質なものを排除して対立を煽るという働きも見られます。

□「国家」というものに対する考え方が、前近代(身分制)と近代(国民国家)では大きく異なっていることを、説明できる。
□「国民国家」が、前近代の国家とは違って、どのような特徴を持った国家なのか、説明できる。
□「国歌」の働きについて、国民を積極的に統合する側面と異質なものを排除する側面があることが説明できる。
□「国語」と「方言」の違いを踏まえて、「国語」が国民を統合して国家のアイデンティティを作り上げる働きをすることを説明できる。

(2)日本のナショナリズム(4~5)

日本においても、明治維新(1868年)の後、近代的な国民国家を作り上げることとなりました。しかし国民国家形成のためには日本人のアイデンティティの中核に座る理念が必要となります。その役割を果たしたのが、国民統合の象徴としての「天皇」です。天皇を中心とした国づくりを進めるために、教育においても天皇中心の教育が構想され、「教育勅語」が制定されることとなりました。それは一方で富国強兵にも寄与しましたが、最終的には悲惨な戦争を推進するものともなりました。

□他の国とは異なる日本独特のナショナリズムの在り方について説明できる。
□教育勅語が実際の教育に与えた影響や、日本の歴史の中で果たした役割について説明できる。
□教育勅語の限界がどこにあったか、説明することができる。

学習指導要領

(3)学習指導要領の変遷(6~8)

(1945年~1958年)戦争が終わり、新しい日本の国作りが始まりました。日本国憲法が目指す理想の国作りのために、教育に大きな期待がかけられ、教育基本法が制定されました。教育基本法を具体化するため、学校教育法や学習指導要領(試案)が作られました。学習指導要領(試案)の特徴は、形式的には法的拘束力がなく、内容的には道徳をなくして社会科を新設したところ等にありました。
(1958年~1977年)しかし冷戦体制に巻き込まれる中で、日本に対するアメリカの姿勢が変化し、戦後教育は大きく修正されます。また高度経済成長の進展により、人々の教育に対する期待も決定的に転換し、学習指導要領は詰め込み教育へと方針を変えました。1958年の改訂で学習指導要領には法的拘束力があるとされ、道徳が復活しました。
(1977年~2003年)しかし、オイルショックを契機とする世界的な不況の下、産業構造の転換に対応し、個性的な人材を作るために、詰め込み教育を否定し、「ゆとり教育」が開始されました。臨時教育審議会が、教育の自由化・民営化・規制緩和・構造改革の方針を示し、この方針は2018年現在まで教育改革の基本的な柱となっています。
(2003年~2017年)自由化・民営化・規制緩和・構造改革という大きな流れ自体に変化はないものの、PISAショックなど学力低下が起きているという認識の下、学習指導要領は「学力重視」を打ち出すこととなりました。

□教育基本法の理念を踏まえ、学校教育法の意義を説明することができる。
□1947年度版の学習指導要領(試案)の特徴について説明することができる。
□1958年の学習指導要領が「詰め込み教育」に転換したことについて、その政治的・社会的背景を説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」への転換が、どのような社会的背景の下で行われたか、説明できる。
□1977年以降の「ゆとり教育」は個性的な人材育成を目指すが、臨時教育審議会が示した自由化・民営化・規制緩和・構造改革がどうして個性的な人材育成につながるのか、その理屈を説明できる。
□ゆとり教育のデメリットについて、説明できる。
□PISAショックと、それに刺激された学習指導要領改訂について説明できる。

(4)最新版の学習指導要領(9~13)

最新版の学習指導要領(2017年3月公示)では、「生きる力」の育成という従来の「ゆとり教育」の方針を引き継ぎながら、さらに現代社会に対応した「資質・能力」を身につけさせるために、大規模な改訂が行われました。
大きなキーワードは3つあります。一つは「社会に開かれた教育課程」です。ただ受験にだけ役に立つ知識ではなく、社会に出て実際に活用できる本物の力を育成することが求められています。そのためには学校自体が変わらなければならず、「チーム学校」や「コミュニティ・スクール」という新しい学校の姿が示されました。
2つ目は「カリキュラム・マネジメント」です。変化の激しい社会で生き抜くためには、これまでの教科別の教育では対応できず、教科を横断する普遍的な能力(キー・コンピテンシー)を身につけなければなりません。そのために教科横断的なカリキュラム編成を行う必要があります。さらにPDCAサイクルを構築し、限りある資源(人・物・金・時間)を有効活用するなど、学校運営自体を効率化することによって、よりよい教育を実現していくことが学校に求められます。
3つ目は「主体的・対話的で深い学び」です。知識基盤社会で必要となる資質・能力を身につけるためには、新しい学びの形を工夫することが求められます。そのためには、単に知識を与えるのではなく、教科の本質を踏まえた「見方・考え方」を身につけさせる必要があります。
これらを実現するためにも、「評価」に対する理解や、「生徒指導」に対する理解が求められます。

□「育成を目指す資質・能力」について説明できる。
□「学力の三要素」について説明できる。
□「社会に開かれた教育課程」について説明できる。
□「カリキュラム・マネジメント」について説明できる。
□「主体的・対話的で深い学び」について説明できる。
□教育課程編成を行なう上でのルールについて理解している。
□「評価」の機能と、様々な評価の在り方について説明できる。
□「生徒指導」について、説明できる。

発展的に学習したい学生向け

教員採用試験にも関わるので、今期の授業だけに関わらず、学習を発展的に進めたい人は参照して下さい。一次試験のペーパーテストでは、学習指導要領本文や解説編から穴埋め問題や間違い探しが出題されると予想されます。二次試験の面接や論文では、それぞれの概念を理解しているかどうかが聞かれると予想されます。あるいは、教員になってから、何度も研修で聞かされるはずです。

学力とは何か
育成を目指す資質・能力
社会に開かれた教育課程
カリキュラム・マネジメント
主体的・対話的で深い学び
教科等横断的な視点